第3話 リンドブルムにて
父である前王が急逝し、エリオットが王位を継いだのはまだ20代後半の時だった。国王の突然の死で国の情勢も落ち着かない中、30年に1度といわれるレベルの天候不良が国を襲った。
農作物の凶作で、各地で暴動が生じていた。
そこに援助を申し出てくれたのが、隣国グラシアス帝国の皇帝グラースⅢ世だった。
しかし、無償というわけにはいかない。
彼は代わりにユーフェミアを正妃としてよこせと言ってきたのだ。
当時、グラースⅢは60代、ユーフェミアは20歳になったばかりだった。
グラースⅢの正妃は数年前に亡くなり、二人の間に子供はいなかった。
しかし、側妃3人と愛妾4人との間に20人近い子が誕生しており
側妃も愛妾も、みなユーフェミアはの親世代だ。
前年にリンドブルムで行われた会議で、グラースⅢがユーフェミアを見初めたとのことだった。
そんなところに可愛い妹を嫁に出すなんてありえない話だ。
しかし、当時のリンドブルムの情勢が厳しかったことは事実だった。
ユーフェミアは”王族に生まれたからには、国のために役に立つ覚悟は出来ています”と言って、グラシアスに了承の意を伝えてしまったのだ。
そんな中、以前から決まっていた公務で地方への慰問に出かけた先で、ユーフェミアはアルノーの男爵の青年と運命的な出会いをしてしまった。
身分を隠し出会った二人は、短期間で激しい恋におちた。
務めを果さなければと、泣く泣く王都に戻って来たもののユーフェミアはすっかり憔悴してしまった。
エリオットは当時ユーフェミアの護衛騎士をしていたロイス・ローゼンハイムと画策し、次の慰問先で湖に落ちユーフェミアが亡くなったことにして国外に逃がすという案を実行することにしたのだ。
他国へ嫁ぐ予定の姫君が亡くなったわけだから、背格好が姫に似た女性の遺体を代わりに国を挙げての国葬まで取り行った。
そしてユーフェミアはリンドブルムの地方貴族の娘ということにしてアルノーの男爵家に嫁いだのだ。
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