第4話 リンドブルムにて

ジークフェルドは茫然とその話を聞いていた。

「叔母上とは連絡を取っていたのですか?」

「グラースⅢ世をあざむいている手前、決してばれるわけにはいかないだろう。お互い跡の残る方法では連絡は取ってない。ロイが時おり訪れ、その報告を聞いていただけだ。リアが生まれたのも彼から聞いたよ。」


「なぜ、今になってその子のことを?」

17年も経つのだ。機会は今まででもあったはずだ。


「もともとグラースⅢ世は高齢だったし、彼が亡くなれば、なにか理由をつけてユーフェミアを呼び戻そうと思っていたんだ。湖に落ち記憶喪失になり、助けてくれた青年と結婚し子供も生まれたが、その後記憶がもどり連絡してきたということにすればどうにか出来ると思っていた。」


ユーフェミアの国葬に出席してくれたグラシアスの皇太子は話の通じる人で、

葬儀が偽装ではないかということも、うすうす気づいているようだった。

”この度は残念なことでしたが、姫がうちに嫁がれたら、姫にとってもグラシアスにとっても地獄が待っていたでしょうから良かったかもしれませんね。”

エリオットは彼からそう言われたのだ。


ユーフェミアがグラースⅢ世の男児を生むようなことがあれば、泥沼の皇位継承争いが起こっただろう。

他国から嫁いできた王女で正妃である女性が生んだ皇子と側妃たちの生んだ皇子たち。陰謀渦巻く王宮で母子ともに暗殺される可能性すらある。


「グラースⅢ世さえ亡くなれば、Ⅳ世は話のわかる方だから、その事を蒸し返したりしないと思っていたのに・・・」

「叔母上の方が、先に亡くなったのですね。」

グラースⅢ世が亡くなったと発表されたのは、ほんの少し前だ。

「そう。冬に風邪をこじらせて、あっという間だったみたいだ。」


エリオットは悲しそうに目をふせた。

「田舎の男爵領ではなく王都にいたら良い医師にかかれて、そんなことにならなかったかもしれないとか、どうしようもないことを考えてしまってね。せめてユーフェミアが残した娘が幸せに暮らせるようにしてやりたいと思ったんだよ。」

ジークは悔恨の表情を浮かべる父を見つめた。


「アルノーで幸せでないようなら、うちに引き取って幸せにしてやりたいと思っている。」

父は妹に出来なかったことを、姪にしてやりたいのだろう。

「わかりました。なんとかしてリアと接触してみます。」

「ロイによると、リアは母親の身分を全く知らないらしい。男爵令嬢として幸せに暮らせそうなら、真実を知らないままの方がいいだろう。本人に事実を知らせるかどうかは私に相談してくれ。」

「わかりました。」


あの妖精のような絵の少女の娘か・・・。

どんな子なんだろう。


ジークは密かに胸をおどらせながら自室へと戻って行ったのだった。




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