第2話 重力


 俺が転生してから二週間が経った。

 結論から言おう。この日本は俺の死んだ日本そのままで、なんなら俺は死んだ日に今の身体に転生した。


 何故それが断言できるのかと言うと。


『三日前、山田真人さんの死体が見つかりました。警察は殺人事件と・・・』



 ――俺の前世の死亡報道がされているからである。



 まさか自分の殺人事件を知ることになるとは、生きている時は想像もしなかった。


 殺されてたら普通は知る機会はないだろうからな。

 ただこの日本が並行世界でないならおかしなことになる。


「えぅ(えい)」


 俺は近くに置いてある折り紙の鶴に、潰れろと念じてみる。


 すると折り紙の鶴はペシャンコになった。


 ――触った物を潰す魔法みたいな力なんて、日本にはなかったはずだぞ?


 俺の知ってる日本には魔法なんて摩訶不思議な力はない。

 テレビのニュースを見ても魔法の魔の字も出てこない。なんなら「まるで魔法みたいー」なんて言ってる奴もいた。


 そんな表現をするということは、この日本に魔法みたいな力は存在しない。

 これはあまりにも謎過ぎる。


 でもとりあえず俺に謎の超パワーがあるのは確定なので、色々と試してみることにしよう。

 謎を気にしてもすぐに分かるものでもない。チートパワーを得たとプラスに考えよう。


「あう」


 俺はおしゃぶりを口から外して念じてみる。

 するとおしゃぶりのしゃぶる部分(柔らかい)が軽く凹んだ。


 やはり潰すというか、上から圧力を加えたような感じだな。

 次は遠距離でも出来るか試してみよう。


 部屋のベッドから少し離れたところで、ハンガーにネクタイが干されている。

 あれなら少しの力で落とせそうだ。


 落ちろ、落ちろ、落ちろぉ!

 ロボットアニメみたいに念じてみると、スルッとネクタイが床に落ちた。


 ネクタイ自体が潰れた様子はない。

 次の獲物を探してみたら、窓の外から木が見えた。今日は風が強いのか葉が大きく揺れて、木からとれた葉が吹き飛ばされた。


 さっそく木についた葉に対して念じてみる。

 すると葉は木から離れると、地面に真っすぐに落ちていった。


 ……んん?

 なんか落ち方がおかしくないか?


 強い風が吹いてるなら葉っぱは吹き飛ぶはずだ。

 なのに重りでもついたかのように、葉は真っすぐ地面に向かって落ちたのだ。


 試しにさらに他の葉で試してみると、やはりストンと地面に落ちる。

 ふと物理学者ニュートンの逸話を思い出した。


 彼は木から落ちたリンゴから、重力という存在に気づいたのだ。

 そして俺もなんとなく思ったのだが。



 ――これを操ってるんじゃないか?



 折り紙の鶴やクマの人形の顔を潰したのも、重力で力が加わったからではないか。


 ネクタイが落ちたのも重力が増したからであればしっくりくる。

 仮説が正しければ、俺は重力を操れるようになったのだ。

 

「あうー!」


 よっしゃあ! と叫ぼうとして、赤ちゃん言葉になってしまった。

 重力。それは間違いなく最強クラスの能力だ。


 ゲームやアニメでも重力を操るのはだいたい強キャラ。

 そしてなによりも多い。

 

 つまり俺もチートキャラになれる可能性が高い!

 そしてなによりも素晴らしいのは、火などではなく重力を操れることだ。


 重力は他のモノに比べて別格の力がある。

 試しに俺は


 ズシンと身体に負荷が来る。だが耐えられる程度でいけそうだ。

 重力が別格な理由は、修行においてすごく便利な力だからだ。


 よく普段から重いモノを身に着けて修行とかあるだろう。

 重力ならそれが無理なく可能だ。


 赤ちゃんの身体なので少し心配だったが、軽い重力程度なら耐えられそう。

 これから常に重力を纏い続けて、身体をバキバキに鍛えていこう。


 そうすれば俺はきっと凄い身体能力を得て、無双やチートが可能になるはずだ!!!

 将来はスポーツ選手で無双とか出来るかも! 盛り上がってきたぞ!


「アキトちゃーん。大人しくていい子でちゅねー」


 するといつの間にか母親が近づいていた。

 彼女は俺を抱きかかえようとして。


「あ、あれ? アキトちゃん太った? なんか重くなったような……」


 不思議そうに首をひねる母親。

 重力の分だけ重くなっているのだろう。マズいな、俺が変に思われたら困るしここは重力を切って……。


「……赤ちゃんの頃から太れるなんて天才ね! 将来は横綱の力士さんよ!」


 俺の母親がポジティブすぎる件について。

 とりあえずこれ以上は重力を強くせずに、身体を鍛えていくことにしよう。


 そうして一週間後。


「あう!?」

「べ、ベッドの底が抜けた!? アキトちゃん大丈夫!?」


 重力を強めてしまって、ベッドの底が抜けてしまったのだった。

 赤ちゃんベッドの耐久力低すぎ……。

 

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