異能あふれる日本に転生したので、世界唯一の多重異能で無双する ~無双大好き男は無双を極めるようです~

純クロン@『努力家な転生第六王子』発売中

第1話 転生


 俺は負けず嫌いで勝つのが好きだ。


 そんな俺が負けないチート無双作品や俺TUEE作品にハマるのは運命だった。

 ラノベも漫画もチート無双物を読み漁り、ゲームでも主人公をレベリングしまくってラスボスに無双していた。

 

 相手を圧倒する勝利が好きだ。余裕をもって勝つのは素晴らしい。

 敵を絶望させて勝つなんて心が躍る。現実でもやってみたかった。


 だが俺は現実では無双できなかった。勉強に運動に色々と頑張ってみたが、どれもそれなり六十点くらいの評価だった。


 会社の帰り道、いつもと変わらない道を歩く。

 なにか他人よりも優れたモノが欲しいよなあ。そんなことを考えていると、マントを羽織った金髪の男がこちらに歩いてくる。


 ……マント? コスプレっぽいが普通の道でしてるのはおかしい。

 関わり合いにならないように、でも目がつけられないようになるべく距離を取って……。


「すまないね。君に恨みはないのだけれど」

 

 ――俺の胸辺りに腕が生えていた。

 違う。マントを羽織った男の手が、俺の心臓を貫いている。


 血が身体から噴き出していく。

 でも痛くない。なにがなんだか分からないうちに、気が遠くなってきた。


 ダメだ、もう意識が保てない。現実でも無双したかったなあ……。





◇ ◇ ◇





 気が付くと俺はベッドで寝かされていた。

 どうやら助けられたのか? いやでも心臓を貫かれたのに……?


 困惑していたがそもそも自分の身体がおかしい。


 赤ちゃんの身体になっていた。

 こ、これは転生じゃないか!? 俺は異世界に転生したのでは!?


 と思ったが違う。

 俺がいるのは普通の現代日本の一室だ。テレビやクーラーがあるので間違いない。


「アキトちゃん起きたのねー。よしよし」


 母親らしき女性が俺を抱きかかえている。

 彼女は洋服を着ていて黒髪でどう見ても日本人。


 誠に残念ながらここは日本のようだ。

 俺はしばらくあやされた後、また赤ちゃんベッドの中に寝かされた。


 母親はリモコンでテレビをつけると。


『8月17日。今日の大阪の天気です。この後、雨が降るでしょう』

「え!? 雨が降るの!? 洗濯物!」


 母親はテレビの天気予報を見て、すごい勢いで部屋から出て行った。

 ものすごーく家庭を感じさせる一幕だ。あと俺が死んだのは8月16日……これ死んだ翌日じゃん。


 異世界転生して魔法無双とか期待したのになあ……はあ。

 ――と思ったのだが身体が妙だ。


 なにか不思議な力を身体から出せそうな気がしている。

 まるでツバを吐いたり腕を動かすのが当たり前のように、触れているモノになにかを放出できそうだ。


 試しに俺の横に置いてある折り紙の鶴を触り、なんとなく念じてみた。

 

 グシャッ。

 折り紙の鶴がなにもしてないのに潰れた。


「……あう?(あれ?)」


 思わず声が出てしまったが、どうやら俺はまだロクに喋れないらしい。

 でも今のはなんだ? 折り紙の鶴が勝手に潰れたぞ?


 まるで重いモノに潰されたみたいに、ペシャンコになっている。

 次にクマの人形があったので試してみた。ちょっとクマの顔が潰れて変形したが、すぐに元に戻ってしまった。


 どうやら力が足りないようだ。

 ……こんな魔法みたいな力が使えるならば、ここは俺のいた日本とは違うのかもしれない。


 ほら並行世界とかあるじゃん。似てるけど違う日本みたいな。

 すると部屋のドアが開いて母親が戻って来る。


「アキトちゃんお利口でちゅねー。よしよしー」


 母親は俺を抱きかかえてあやす。

 そうだ。さっき潰した鶴を見てもらおう。


 そしたら俺が魔法を使えると知られて、すごいって騒がれるかも!


「あうー」

「あら? 折り紙の鶴が潰れてる?」


 俺は頑張って潰した折り紙の鶴に指を向けた。

 すると母親は鶴に気づいた。ふふふ、これで俺の魔法の力が気づかれて……。


「アキトちゃん。折り紙の鶴を手で潰しちゃったのねー。あれは潰すものじゃないのよー」


 そりゃそうだ。普通は手で潰したとしか思わない。

 そうして俺はあやされ続けた後、ようやくベッドに戻されるのだった。


 結局、不思議な力には気づいてもらえなかった。まあいいさ。

 それよりも俺に力があることが重要だ。


 ……俺は前世では平凡な人間だった。

 でも今世こそは人より優れた人間になりたい。


 そして無双したい。俺TUEEしたい、チートしたい。

 魔力検知の水晶玉を多すぎる魔力で割ったり、Eランク冒険者でSランクの魔物を討伐したり、そういうのを現実でもやりたいのだ!


 数多くの人から称賛されるような、世界で唯一の特別な人間になりたい!

 よし。まずはこの不思議な力を使いこなせるようになろう!


 そういや俺を殺してきた奴はなんだったのだろう?

 まあもう転生したから関係ないか。前世の俺は両親も亡くなってたし、正直未練はまったくない。


 あ、会社にはちょっと迷惑かけるな。でも仕方ない。


 そんな将来のことを漠然と考えている俺には、まだ考えが及ぶべくもなかった。






 ――いずれ世界最強となってしまうことを。

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