episode.0 第三話:『レイダース』
さっきまでの青空が暗く厚い雲に覆われていく。
“リィナ・クレイン”はカフェの大きな窓から屋外へと視線を送る。
その目には大粒の涙が浮かび、そのひと雫が頬を垂れる…
「お父さんは生きている…」
その安堵からリィナはセオドアの両肩を掴むと、堰を切ったように涙が溢れ出るのだった。
“セオドア・ライト”と“エンド・リヒト”はリィナが落ち着くまで優しく見つめる。
落ち着きを取り戻したリィナは、再びエンドに問いかける。
「さっき、その時点では…って、あれどういう意味ですか?」
「やはり、その先を知りたいよな?」
「まだ、“ホライゾン・レイド”は生きてるってことでしょうか?」
セオドアが気になった様子で口を挟む。
「いや、そういう意味じゃないんだが…」
エンドは喋りにくそうにドリンクを口に運ぶ。
「エンドさん。私、これまで色んな人の話を聞きました。でも、あなたは…あなたが話す言葉は信じられる。そんな気がします」
「リィナさん。ここからは少し…いやかなり辛い話になるかも知れない。それでも君は知りたいと言うんだね?」
「はい!お願いします!」
(私は知りたい。お父さんのことも、そのお父さんに何があったのかも…)
心ではそう決意しても、身体が…手が震える。
セオドアはリィナの震える手を重ねる様に握るとエンドに視線を向ける。
「僕からもお願いします!」
「そうか。わかった、君たち2人が真剣に考えて、決意したんなら、俺も逃げる訳にはいかないな」
エンドはそう言うと軽く目を瞑り、深く考えるような仕草から、ポツリ、ポツリと言葉を選ぶ様に語り始めた。
「今から話す部分は、“レムナント少佐”から聞いた部分だ。まずは、レムナント少佐がジャミールさんの
── レムナント少佐とジャミールさんが所属する軍事施設での出来事だ。
ホライゾン・レイドとの戦いが佳境に入った頃、レムナント少佐はジャミールのシンクロブースター《機体》にシェル・ユニットとは違うシステムの搭載を提案する。後からわかったことだが、その装置は精神汚染を観測、記録を兼ねたUI《ユーザーインターフェース》を搭載していたそうだ。
「ジャミール。あなたの機体には、この“零点護殻”を搭載します」
「零点護殻?なんだそれ。見た目、あんまり変わらねぇ気がするけどな?」
「えぇ…見た目だけですけどね」
「パイロットの中に精神異常を起こさない者がいることはあなたも知ってますよね?」
「そうだな。俺の知り合いにもいたな、そんなヤツ」
「私からしたら、あなたも充分、素質はあると思いますよ。それで、そちらの可能性も含めてこの
──英雄。
のちにそう呼ばれた、ジャミール・クレインは、シンクロブースターに搭載された
「はははッ!コイツなら、ヤツにも一泡吹かせられるかぁ?」
「危険ですよ。ジャミル」
「どーってことねぇよ!それに俺の名前はジャミールだ!“J・a・m・e・e・l”ジャミール!」
「そんなことよりも、もうすぐ、敵の識別圏内と思われます」
「だぁーはっは!俺の名前は、そんなこと扱いかよ。ツレねぇな、ゼロ!だが、このままヤツのとこまで一気に行くぞ!」
「私はそのまま爆散しないことを祈ります」
「機械が神に祈るのか!やっぱ、お前おもしれーな」
「ジャミル、面白がってばかりはいられません。そろそろ敵の攻撃が来る頃です」
「そうか?今んとこ大丈夫そうだけどな。しっかし、この辺は
「ジャミル。私が少しばかり新しいからって、センパイ型を悪く言うものではありませんよ?」
「んなこたわかってるよ!……っと、やっと出て来やがったか!」
バシュッ!
「っと!いきなりおっ始めんのかい?敵さんもせっかちだねぇ」
「ジャミル。少しカスリましたが?」
「だぁい丈夫だって。ただのかすり傷だよ」
ジャミールの機体は、急接近する敵の砲弾をコンマの差で躱す。そして、そのまま敵機に接近すると標準装備のマシンガンを正面に構え、すれ違い様にそのトリガーを引く。
バババババッ!
銃口から火花と共に爆音が轟く!
その直後、ホライゾン・レイド側の戦闘兵器の装甲を銃弾が貫くと、その一部が膨張し爆発する。
その炎で溶かされた装甲が、連鎖的に剥がれていく…
ジャミールはそのまま、距離をとらず、振り向き様に更に追い討ちをかける。
「終わりだよ…」
ジャミールはそう呟くと冷たくトリガーを引いた。
──のちに『レイダース(異質者)』と呼ばれる存在となる、彼ら極一部のパイロットたちは、精神異常を克服した存在として畏怖される様になる。
それは、ギルド・ユニオン上層部においても同様であった…
ここは、ジャミールが贔屓にしているバー。
いつも通り、軽快なジャズの音楽と店内は賑わいを見せている。
いつものカウンター《指定席》で1人でウィスキーグラスを傾けるジャミール。
レムナントによって幾分か状況が変わったが、未だ決定打に欠ける戦況に苛立ちを滲ませる。
「ふぅ…今日は何とか生きて帰れたが、敵の攻勢は強まる一方だ。新型のシンクロブースターも増産に入ったって聞いちゃあいるが、乗るヤツぁだんだん居なくなってんだぜ?もっと身の振り方考えるかぁ…」
そこへ、1つの影が現れ、彼ジャミールを見つけると声を掛ける…
「……やったな。ジャミール!一杯奢らせろ!」
「なんだぁ。こっちは1人でしんみりやってんのに…」
「まぁいいじゃねぇか!
今日もかなり、
お前の機体かなりヤバいって噂だぜ?
いや、機体だけじゃねぇ…オメェさんもな!ジャミール!」
「ホライゾン・レイドが侵略する先っぽをやっつけただけだぜ?」
「まぁまぁ…いいじゃねぇか?ほらよ!冷えたエールだぜ。」
「良かねぇよ!
それに俺が凄ぇんじゃねぇよ…相棒がいいだけさ」
「……相棒?」
「古い友人さ…気にすんな。
と、連れが来たようだ。エールは遠慮せず頂戴するぜ。ありがとう」
ガサツな男と入れ替わって如何にも紳士という風貌の人物がジャミールに話しかける。
「今日は来てもらってすみません。ジャミール」
「いいよ、気にすんな。レオ…いや、『レムナント』少佐と言わなきゃな」
「今日は友人として来ましたので『レオ』で構いませんよ」
「で、レオがここに呼び出すってことは、重要な要件なんだろ?」
「いえ、大したことではありません。あなたの機体を少し調整と言うか、強化しようと思ったまでです。あなたのことなので、決定打が足りないとか思ってそうですからね」
「うッ…レオは、いや何でもない。強化してくれんのはありがたいが…いちいちそんな事、俺に報告しなくてもいいぞ。元はと言えば、お前のモンでもあるしな」
「いえ、貴方の方が上手に使ってくれますし、貴方用のセッティングになってますからね」
「…そこなんだよな!周りじゃ俺が作ったって雰囲気つーか、本気で思ってるヤツらも居るしな。
だから、お前が基本設計したんだ!つっても誰も信じやがらねぇ」
ジャミルは頭を掻きながら困り果てた顔をする。
「良いんですよ。僕はね。元々あまり目立たない方ですし、貴方とはキャラクターが正反対ですからね」
「そうか?俺からしたら、お前もジューブン目立ってると思うけどな?」
「ヘンな意味ででしょ?知ってますよ。僕が周りから何て言われてるか。それでも貴方は僕に昔と変わらずに接してくれている。感謝してるんですよ?」
「…俺は……そうはそうぃぅ…意味で、言ってねぇょ…」
「でも…ありがとな……」
ジャミルは照れくさそうに背中を向ける。
(えぇ……本当に感謝してますよ………)
「で、具体的に何をするんだ?武装を強化するとか、か?」
「そうではありません。既存の装備品はこの子に合わせるの大変なんですよ。それにこの情勢ですから。
装備品より、こちらの方があなた好みじゃないでしょうか?」
「……だな。だせぇーもん付けられるよか全然良ぃーし。
それに無い物をグタグタ言っても始まんねーからな。
でも、
「それに関しては、ちょっと難しいですね。データログを探しても中々見つからないんですよ?
次の調整でも一応は確認しますけど」
「それにあの性格?どーにかならんのかねぇ…どーも掴みづらいって言うか、レオみたいな雰囲気で喋るからな」
「それって私への当てつけですか?」
「そーゆー意味じゃねーよ。何か、レオと一緒に戦ってるつーか…だから、コイツに被弾し《あて》ないよーにって、気ぃつかうんだよ!」
「ありがとう、ジャミール。大事に使ってくれてるんですね」
「……ッたく、オメーには敵わねーな」
──次の出撃がジャミルとホライゾン・レイドとの運命を決定付けることになった。
それから数日後、
ジャミルは敵機の真っ只中にいた。
以前にも、増してシンクロブースターの反応が良くなっている。
敵からの攻撃をシャープな動きで躱していく。
「やっぱ、レオはスゲーな」
「ジャミル。お褒め頂きありがとうございます」
「オメーじゃねーよ」
「しかし、私の性能があればこそ、ではありませんか?」
いつもに比べ、敵の攻撃が激しく感じたが、機体の性能に酔いしれたジャミールは、ゼロの反応それすらも無視して、更に突っ込んでいく…
「ちぃとばかし、ヤバいかな…?」
「ジャミル。その割にはまだ余裕があるように見えますが?」
ガガガッ!バババッ!
四方八方から攻撃が飛び交い、反撃する余裕すら無い。
ジャミールも次第に口数が減り、操縦に集中する。
「ジャミル。もう少しで、ホライゾン・レイド本体です」
「そうだな、もうちょい粘れよ…ゼロ」
その直後、死角から射撃を受け警報音が鳴り響く!
「ジャミル。第二波来ます上からです」
咄嗟の判断だった。自分の直感を信じ、ゼロの反応を無視した…
その結果…敵の攻撃を最小の被害に押し留めることが出来たのだ。
(…さっきの、ゼロの反応が初めて違った?いや、それだけ敵の攻撃が激しいだけだ!」
「おい、ゼロ被害状況は?」
「ジャミル!左腕が損傷しました。誘爆防止による処置を行います」
左腕を肩からパージする。
その間も執拗な攻撃を捌きながら、ホライゾン・レイドに喰らいつくため接近する。
「大丈夫…だろ?もう少しだ…粘ってくれよ」
ホライゾン・レイドまで、もう少しで届く…そう思われた瞬間、機体は謎の輝く光に包まれる…
それがシンクロブースターに起因したものか、ホライゾン・レイドの影響によるものか?は、わからない…
ジャミールは無意識に機体が重いことを感じとる…
「ゼロ!何があった?」
返事は無く、虚空にジャミルの声が木霊する…
(いつもなら饒舌に喋るヤツが沈黙している?)
そこへ、一つの巨大な影が忍び寄る。
「……ッ!?ホライゾン・レイド!!」
ジャミルがその存在に気付くと同時にホライゾン・レイドは虚空に消え、その直後、ジャミルは光に包まれていく…
──ここまでが、レムナント少佐から聞いたホライゾン・レイドの
「これだけ聞くと、英雄とは思えない話だろ?」
「そう…ですか?私は充分英雄だと思います」
リィナはしっかりとした瞳でエンドを見つめる。
「ちょっと、質問しても良いですか?」
「ん?どうしたセオドア君」
「…何故、レムナント少佐はそこまで詳細な情報を持っていたんですか?ジャミールさんに聞いたって言われたら…」
「そうだな、俺もその点は気になった。少佐が何故こんな最前線の情報を詳細に把握出来ていたか?それは、シェル・ユニットの代わりに搭載された
「そういうことなんですね。僕、てっきりレムナント少佐がその装置を使って何かやったのかなって」
「…!?」
エンドは一瞬、ギョッとした。
どうして今まで、その考えに至らなかったのかを少し思い返す。
「そんなことある訳ないでしょ?ミステリー小説の読み過ぎじゃない?」
「リィナ、ひどいなあ。でも、ちょっと話が飛躍し過ぎたかも、今のは忘れて下さい。エンドさん」
「あ、あぁ…それじゃ、話を戻すぞ。
それで、ここからが本題となる…
次は、名前は忘れてしまったが、ジャミールさんの教え子という人物から聞いた話も交えていくからな」
──ホライゾン・レイドが
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