episode.0 第四話:『陰謀』
カフェの外はどんよりとしている。人通りもまばらで、足早に去っていく…
今にも泣き出しそうな空模様とは裏腹に、カフェのテーブルではピンとした空気が張り詰める。
その空気を察知したのか、“エンド”は“リィナ”、“セオドア”の2人にドリンクを勧める。
リィナはじっとりと汗をかいているグラスを、握りストローを口に運ぶ。
口の中で炭酸が弾ける。やや気の抜けた風味を残して…
そのまま、エンドは深く息を吸い込むと、話しを続ける。
──ギルド・ユニオン側が事態の把握に動き出したのは、“ホライゾン・レイド”の消失(ロスト)が確認されて直ぐだった。
「その時のユニオン本部の混乱は凄まじかったらしい…
レムナント少佐も混乱した状況で何かを察知したらしく、1人最前線へ飛び出して行き、その時、ジャミールさんのシンクロブースターを発見、救出したって話だ」
「レムナント少佐がそう言ったんですか?」
セオドアが質問する。
「そうだな。で、ジャミールさんが意識を取り戻したのは、ホライゾン・レイドが消失してから随分後だったらしい。その間、ギルド・ユニオンは早々に討伐宣言とその英雄譚を俺たちに依頼して来た」
「じゃ、その英雄譚はエンドさんが手掛けられたんですか?」
リィナがマジマジと見つめる。
「いや、そうじゃないよ。そんな大仕事、うちだけでは無理だ。俺たちの業界全部って感じかな?でも、俺も少しは手伝ったんだぜ」
「皆さんで作られたんですね?」
セオドアが確認の意図を込めた質問を放つ
「そうだ。ただ、その時は英雄が誰なのか、それを知る人物は居なかったんじゃないか?」
「そうですね。みんな英雄って言うけど“名前”は知らない…?でもどうして、リィナは知っていたんだ?英雄がお父さんだって」
「お母さんに聞いたの。お母さんが亡くなる直前に…」
「ごめん、辛いこと思い出させちゃったね。あの時は大変だったもんね。リィナんち片親だったから…」
「…?それ以前に、君…いや、リィナさんのご両親はどんな方だったんだい」
「父は、私が物心ついた頃には、もう居ませんでした。母もその事は一切話してくれませんでした。でも、母が亡くなる直、前…」
エンドは慌ててリィナを慰める。セオドアはリィナの肩を抱き、ゆっくりと話し始める…
「ここからは、僕が代わりに話します。おじさん、つまりリィナのお父さんは、リィナが生まれて直ぐ、だから15年くらい前になるかな?その時蒸発?したって聞きましたけど、僕も詳しいことは知りません。でも、リィナんちに軍人さんの様な人?が来てることは知ってました」
「それで、どうしてリィナさんのお父さんを探そうと?」
「さっきも言ったと思いますが、おばさんが亡くなって、リィナは1人ぼっちになって…
僕んちにも、年が離れた兄が居たんですけど、ユニオンに入隊するって、僕が幼い頃に出て行ったのを思い出して、だから…」
「わかった。あと1つだけ確認して良いか?セオドア君」
「はい。何でしょう?」
「君は、リィナさんのお父さんが英雄=ジャミール・クレインだと知っていたのか?」
「…?いえ、知りません。リィナから話しを聞いて、リィナんちも軍人さんが来てたし、それに、リィナ学校とかでも1人雰囲気が違うんです。だから、そうなのかなって」
「そう。優しいんだな君は…」
「べっ別に、そ、そんな事ありませんよ!
で、英雄。ジャミールさんはどうなったんですか?」
「フフフ、そうだったな。じゃ続きを話していこうか」
エンドは再び、息を吸いゆっくりと吐き出す。
それから、やや笑みを浮かべて語りだした…
──意識を取り戻した、ジャミールさんは暫くは身体の検査や調査が続いた。
そして全てが終わると、ユニオンの士官学校“アカディミアユニオン”の教官として赴任したらしい。
「…教官は前の戦闘で英雄と呼ばれる活躍をされた、パイロットなんですか?」
「誰から聞いた?そんな与太話…昔、パイロットだったことは認めるがな。ただただ…必死に、死なねーようにもがいていただけだ」
「アカデミーの先輩からです。先輩は更に先輩から聞いたって言ってましたけど?」
「勝手に英雄譚のドラマと結びつけられても困る。
俺は大したことはしてねーよ。
だから話は終わりだ。気ー付けて帰れよ」
──講義でも、実践派のジャミールは生徒たちからの評判は良くなかった。
「教官、もうホライゾン・レイドみたいな過去の遺物なんていないんでしょ?」
「俺の講義聞いてなかったのか?
消失(ロスト)しただけだ!
また、いつ現れるかわからないんだぞ!
“シンクロブースター”は、お前らのおもちゃじゃない!そのために必要なモノだ!」
──ある夜のこと、いつものバーにて。
軽快なジャズと店内の雰囲気。カウンター《指定席》で1人でウィスキーグラスを握る男の背後からに1つの影が近づく…
「やぁ、やはりここに居ましたね。ジャミール」
「…あぁ、やはりお前かレオ」
「どうです。教官は慣れましたか?」
「ダメだ、どーも人にモノを教えるのは苦手だ。それに、アイツら俺の話を聞いちゃいねぇ…」
「フフ…かつての英雄も若者にはタジタジですか?」
「そんなんじゃねーけど、てか、お前も冷やかすのヤメロ、俺はそんな大層なモンじゃねーよ。それに英雄ってのは、生き残ったヤツに後付けされた渾名だろ」
「そうですね。上層部も貴方のことは煙たがってますし、そうでなければこんな閑職に追いやったりしません。
しかし今日はそれを話に来たのではありません。
どうも、上層部で不穏な動きがあると耳にしたのであなたにも伝えておく必要があるだろうと予測しましたので」
「上層部の不穏な動きねぇ…俺も身の振り方、考えるかぁ…」
「フフ。あなたは、そんなに器用じゃないでしょう?
昔のあなたなら、言うことを聞かない者には、無理矢理でも聞かせてたじゃありませんか」
「そうだっけ?もう覚えてねーよ」
「あれ?あなたはホライゾン・レイドに記憶いじられてはないでしょう?」
「だぁから、揶揄うなって。だが、“レイダース?”と上は言ってたかな?意味は“異質者”だとかなんとか…って。小難しいことは知らん。そっち系はお前に任せる」
「…で、ホライゾン・レイドの最後は何かわかったのか?」
「“ゼロ”のログも隅々調べてましたが、判別がつきませんでした。上層部はそれを上手く利用した様ですがね」
「それで、ここに来た本当の理由があるんだろ?」
「鋭いですね」
「何年付き合ってると思ってんだ?お前の考えなんてお見通しだよ。で、さっきのお偉いさんの話と、どんな関係があるんだ?」
「近々、あなたには辞令が出るそうです」
「また、パイロットに戻れるのか?」
「そう言うことになりそうですが、どうかしましたか?少し浮かなそうですが?」
「いや、さっき話したろ?先生も悪くないなって」
「そう言っている様には受け取れませんでしたけど?」
「まぁどっちでもいいだろ?別の生き方も少し覚えたいってことだよ」
「…そうでしたか。でも安心して下さい。そのパイロット候補生たちも一緒に辞令が出るようです。上層部は少しでも戦力が欲しいのかも知れません…」
「まだヒヨッコだぞ?誰がそのお守りをするんだ?」
「あなたしかいないでしょう?後方で理論を教えるより、前線で実践を通して伝える方があなた向きでは、ありませんか?」
「ヒヨッコが居る部隊が最前線ってこた無いと思うが、少しばかり気ぃつけた方が良いな?」
「それに、まだ調査中の段階ですが、ギルド・ユニオンに加盟する惑星連合の1つに不穏な動き…つまり、独立しようとする勢力があるとの情報を掴みました」
「別に独立自体は良いんじゃないか?」
「いえ、それが1番の問題でして。レイダースに関係する事です」
「嫌な渾名だがな…」
「そのレイダースを独自の研究で再現しようしている組織が独立を画策、更にその研究を進めようとしている場合ならば…?」
「…!?世間に忌み嫌われる存在を増やすってことか?」
「建前は、今のあなたの様に、レイダースに対する不当な人権侵害の解放を目的としているようですが、実際には…」
「それを俺に、調査させようって訳か?」
「そういうことになります」
──その3日後、ジャミール・クレインに辞令が交付される。表向きは新兵部隊を率い、ギルド・ユニオンに所属する勢力の監察官として。しかし、その権限には、全ての惑星に対する調査権が付与されていた。
──ギルド・ユニオン本部の
ジャミールは、レムナントから託された“ZIAS《ジーアス》”という言葉を手掛かりに、新兵と共に旅立って行った…
──ZIAS《ジーアス》。表向きはレイダースを含む、ホライゾン・レイドとの戦争で傷付いた人々を慰撫するための政治団体。だが、その実態はホライゾン・レイドが消えたとはいえ、その“残渣”《レゾナンス》として残された物質を調査・解析する研究組織であるとの調査結果が報告される。
「その調査した人物、部隊名は公式記録からは削除されたらしい…」
「それが父だったってことでしょうか?」
「わからん。だが、断片的な情報だか、その可能性は高いと思う」
「でも、レムナントさんは…この事で何か言って無かったんですか?」
「この頃は、ZIAS《ジーアス》の件もあって、お互い会う機会が全く無かったらしい」
「でも、そのZIAS《ジーアス》はギルド・ユニオンと戦争をしたんでしょ?」
セオドアが更に踏み込んでくる。
「そうだな。ZIAS《ジーアス》は、自分たちの
「そうです。ただ、休戦協定を結んだとしか…知らない」
「それって、ZIAS《ジーアス》は目的を達成したから、休戦したってことですか?」
「…?どうしてそう思うんだ、セオドア君」
「えッ、だって独立自体が目的ならもっと世論操作とか情報がもっと多くなると思うんです」
「君の観察眼には驚かされるな!」
「リィナ。エンドさんに褒められたよ」
「違うって、セオドアがミステリーの読み過ぎなだけだよ。でも、エンドさん。父はその戦争に参加したんですか?それに、さっきなんか知ってる雰囲気でしたけど?」
「はは…君たち2人には驚かされるばかりだ、結論から先に言う。ジャミールさんはその戦争で行方不明になったと聞いた」
「えッ!?」
「俺は、さっき英雄譚の作成に携わったと言ったよな。そん時、俺は英雄=ジャミールさんとは知らなかった。だから、ホライゾン・レイドとの戦いで、英雄は消えたと思い込んでいた。
しかし、今は知ってしまった。英雄のその後を…」
「あと、エンドさん。もう1個聞いても良いですか?」
「なんだ?リィナさん」
「ホライゾン・レイドで検索すると流れてくる映像、あれもエンドさんたちがやったんですか?」
「あぁ、あれか。ZIAS《ジーアス》の戦争の前後から増えてきたかな?ひょっとしたらレイダース向けの何かかも知れんな。で、はっきりしてることは、俺は知らんということだけだな」
「もったいぶった言い方しなくても…」
「そうですよ?でも、ありがとうございました。父の話聞けて良かったです。
私、父を探すためアカデミーに入るつもりです」
「えッ?そうなの。僕知らないけど?」
「うん。今決めたから」
「こんな事言うのは、変に期待持たせるかも知れないけど…お父さん、いつか出会えると良いな!」
「はい!頑張ります!」
「リィナ・クレインとセオドア・ライトか…」
未来に向けて歩く2人を姿が見えなくなるまで見送ると、エンドは1つ気になることに気付く…
(ライト…何か聞き覚えが?…!ヨシュア・ライトだ)
さっき、名前が出て来なかった人物を思い出した。
「たまたま…だよな?ライトなんて何処にでもある名前だ」
しかし、知ってしまった以上、あの2人の力になってやりたい。そんな思いに駆られたエンドは、無意識のうちに走りだす。
そして物語は、新たな歴史を紡いでいく…
episode.0 ─完─
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