episode.0 第二話:『思惑と真実』

少し、客足が遠のいた時間帯のカフェに1人の人物が飛び込んで来る。


丸い眼鏡をかけた、少し頼りない大学生くらいの男性。

その人物は、店内に入るなり辺りを見渡すと、1人の少女を見つけ、手を大きく振る。


「リィナ!遅くなってゴメン」

「良いよ。そんなに待ってない」


「えーと…彼が君の連れかな?」

「はい!“ユニオンハイスクール”に通ってます。“セオドア・ライト”と言います!」

「はは、元気が良いな。俺は、エンド・リヒトだ。よろしく」


「張り切らなくて良いから、もぉ…」

「だって、知らない大人に会うんだよ?気合い入れとかないと」

「でも、その知らない大人に名前も学校も喋ったらダメじゃない」


「それ、リィナに言われたく無いよ?いつもは僕が止めないと、こうやって1人で突っ走っちゃうでしょ?」

「うぅ…それ今言うこと?」


「はははッ、仲が良いんだな?」

「はい!幼馴染みってヤツです!」

「だから、張り切らないでって…もぉ」


「そうだ、何か飲むかい?」


「僕は炭酸の入ったヤツでお願いします」

「わかった。リィナさんもおかわりいるだろ?」

「はい。それでは彼と同じモノを」


エンドは、店員にドリンクをオーダーする。


「で、どこまで話たっけ?」

「シンクロ・ブースターが完成したところまででした」


「おぉ、そうだった。じゃ続きを話していくぞ。

だが、俺は、君のお父さんがどんな人物だったか、詳しくは知らない。だから、こっからはシンクロブースター、つまり君のお父さんが操縦していたマシンについて話していく」


「はい。父が最後に操縦していたマシン…

よろしくお願いします」

リィナは力強く答える。



──俺は、再び記憶を呼び覚ますように目を閉じる。


結局、その厄介事を引き受けるハメになった…

しかも、俺を責任者にしてな。理由は最初に対応しただけでだ…


依頼人と再び会うため、とあるバーでの待ち合わせる。

軽快なジャズの音楽と店内の賑わいが、俺の重く暗い仕事への熱量を少し緩和させてくれる…


「へぇ、なかなかおしゃれな店ですね。これで仕事じゃなかったら最高だけど?」

フィオナが店に入るなり口を開く。


「依頼人からの指定なんでな。俺にゃこんなセンスはねぇ…」

「あら?拗ねちゃって、しょうがないですよ?主任は身の丈にあったとこしか行かないから」


(…それは褒めてんのか?けなしてるのか?と、口に出さないのが大人マナーだ)

「少し、早く着いたようだ、席に座って待とう。ちょうどあの席が空いてるみたいだ」


2人は隅のボックスに腰を下ろす。

そして、その人物を待つ間バーの雰囲気を確かめるように、エンドは周囲を見渡すとある人物に目線が引かれる…


カウンターで1人でウィスキーグラスを握りこれからの戦いの趨勢を案じる男“ジャミール・クレイン”に。


すると、1人の人物が彼に近づき、軽く挨拶を交わす。

そして俺に気付くと、2人でこっちの席にやって来た…


「今日は来てもらってすみません。エンドさん」

「いえ、大丈夫です。お気になさらずに。えーと、そちらの方は?」


「あぁ、すみません。紹介が遅くなって、彼は“ジャミール・クレイン”古くからの友人です」

「そうでしたか。初めまして、私はGUPI《ギルドユニオン映像社》のエンド・リヒトと申します。それと部下の…」

「“フィオナ・オーガ”です。お初にお目にかかります。素敵なお店をご存知なんですね?」


「ははは。素敵なレディにお褒めいただいたところ、恐縮なんだが、この店ツケがきくから重宝してんだよ」

ジャミールは少し照れくさそうに俯く。


「しかし、あなたが来てるとは知りませんでした」

「あぁ、たまたま座ってただけだ。で、俺も入った方が良いって何だ?レオ…いや、“レムナント”少佐と呼ぶべきだな」


「…今まで通り、で大丈夫です。と言いたい所ですが、本日はお客様も居ることですし、ね。

しかし、階級はあなたの方が上でしょう?」

「んな。固ぇこと言うなよ」


「いや、言い出したのはあなたの方ですよ?」

「…んんッ、俺とお前の仲だろ?てか、いい加減直んねーのか?その喋り方」


「仲が良さそうですね?主任」

「あぁ、そうだな。少しデコボコだけどな」

「言えてます。でもあんな関係って素敵だな…」


「それでは、今回の依頼の資料“シンクロブースター”について、少し説明しますので資料をご覧下さい」

「ん?人型なんだな?」

ジャミールが何かに気付き質問する。


「えぇ…精神を守るのにこれが1番適した形状でした」

「精神を守る?どう言うことですか?」

フィオナがこっそり耳打ちする。

「俺に聞いてもわからん」


「それと…レオ、コイツはなんだ?新装備か?」

「そうです。それが、精神汚染を緩和する装置“シェル・ユニット”です」


「そうか、やっとお偉いさんもやる気になったってことか?レムナント」

「ジャミールもそう思いますか」


「精神…それにお偉方のやる気って、どう言う意味ですか?レムナント少佐?」

「情報が早いあなたなら、既に知っていると思ってましたが、まだこの情報は掴んで無かったようですね」


「主任って、そんな仕事出来ましたっけ?」

「しッ!で、少佐。情報とは?」


「“ホライゾン・レイド”の1番の恐ろしさは、人の精神を侵食することです」

「侵食ですか?」

(フィオナがキョトンとした表情でレムナントを見る)


「この点に関しては、ジャミールの方が詳しいと思いますよ」

「ん?あぁ、あんた達は知らんみたいだから、はっきり言うぞ。さっきレムナントが言った、精神を侵食するというのは概念的なものだ。

俺が感じた雰囲気では、人の記憶が書き換えられる。そう言う類のモノと思えば分かり易いかな?」


「人の記憶を改竄…?」

(フィオナは相変わらずキョトンとしているが、俺は、何かヤバい空気を感じ、レムナント少佐を見る。その表情に正直ゾクッとした)


「その、シェル・ユニットとは具体的にどんな装置なんです?記憶のバックアップをとるとかでしょうか?」

(少佐の表情には驚いたが、気になる部分だ)


「バックアップとは少し違います。具体的にはヘルメットをイメージして貰えば良いと思います。

物理的ではありませんが、脳へのアクセスを遮断する装置です」


「…で、コイツをその“シンクロブースター”に搭載することでパイロット全員が耐性を持つ。って訳か?レムナント」

「そう言うことになりますね」


「…じゃ、これからコイツがこのジャミール様の新しい相棒って訳か」

「そうですね。機体シンクロブースターだけになりますが。そして、その機体にはシェル・ユニットは搭載しません」

「…何故だ?」


(そうだ…何故ジャミールさんの精神を守ろうとしない?レムナント少佐には、何か別の目的があるのか?)


「ジャミール。その理由は今度違う機会で説明しますよ。今回は、このシンクロブースターをエンドさんの腕で、ギルド・ユニオン軍の全てに情報を共有…広く知らしめて欲しい。それが今回の依頼となります」


「何故、そのように回りくどいことをされるのです?」

「それはギルド・ユニオンが、一枚岩で無い。つまり寄せ集めの組織であることはご存知ですよね?」


「そうですね。ホライゾン・レイドに対して、惑星間で協力体制をとった。と言われている様ですが実際は

逆だったってことですよね?」

「主任、逆ってどう言うことですか?」


「ギルド・ユニオンを作るために纏まった訳じゃ無いってことさ」

「ちょっと待って下さい!それじゃ、ギルド・ユニオンのやり方に納得してない人たちが居るっていうことですか?」


「そう言う意味じゃ無いが…少なくとも、その思惑をシェル・ユニットで、現場の損失を減らすことでまとめようとしてる。ってことで合ってますよね?レムナント少佐」


「流石にあなたは理解が早い。あなたを名指しした甲斐があったと言うものです」

(…あんたの仕業か。うちの部長がニヤニヤしてた訳だ)


「それでは、私からもお願いを聞いて頂けるでしょうか?」

「…?どんな願いでしょうか?」

レムナントが不可解な表情を示す。


「私たちは、シンクロブースターについて今のお話しで理解出来たとは言えません。

それにホライゾン・レイドについても、詳しく存じ上げません。

ですので、あなた方2人にこのプロモーションビデオの主役になって頂きたいと思います」


「そう言うことでしたら、協力は惜しみませんよ。ですよねジャミール?」

「はぁ?俺も協力すんのか!い、いやぁ俺は…あ!おー、久しぶりだな!」


ジャミールはあからさまに、知り合いを見つけた体でその場を去っていく…

エンドは、レムナントに目配せすると、フィオナを送ると言い残しその場を離れた。


──後日、シンクロブースターのプロモーションビデオはジャミール・クレイン主演で順調に執り行われる。

その内容は新型機シンクロブースターの性能の高さが中心となっており、精神を防御する点は“秘匿事項”と《オミット》された…

俺としてはスポンサーに食ってかかったが、結論から言えば一般人を不安がらせる必要はない。との政治的判断であった。



──俺は当時、彼が英雄とは知らなかった…

しかし、知っていたところで、どうなるものではない…それに、その程度で止まる様な男ではない。

何度かプロモーションで会った時に感じた感覚だけどね。

彼が英雄だったって、後から知って驚いたよ。

ましてや、君のお父さんだったなんてね…


「父は、その所為で精神を…記憶を無くして行方不明になったってことですか?」

「違う。公式には、ホライゾン・レイドは英雄によって倒された。

しかし、実際には消失ロストしたって話しだ」


「ロスト…ですか?ホライゾン・レイドは父が倒した訳では無い」

「そうですよ!じゃ、どうして倒したなんて嘘…」

セオドアは一瞬動揺して、手元の空になったドリンクのグラスを倒すと、慌ててグラスを立て直し、辺りをキョロキョロする。


「それは知らん。だが、英雄は言っていた“消えた”ってな…」

リィナは、テーブルを拭く手を一瞬止める。


「父が言ってた…?それじゃ!父は生きてるってことですか?」

「その時点では…という意味ではな」


(俺はリィナの真っ直ぐな視線を避けるように目を逸らす)

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