第15話

 メビウスの大丈夫という発言を聞き

ほっとした様子で、椅子に座りなおしたレミエルの

耳に、言葉が入る。


「1人にしたくない、か。」


 小さな声だった。

 メビウスの声と思えないほど、柔らかで。

 そして、なにかを懐かしむような、そんな

少し悲しそうな声だった。


「ね、メビウス。

私からも一つ質問、いい?

、、、なんで、そんなに必死に戦ってるの?」


 レミエルが唐突に、メビウスに

そう言葉を投げかける。


 メビウスは、口を堅く閉ざし

そのメビウスの様子に応じるように、空気は重々しくなる。

 メビウスだけを照明の光が避けているように

少し、暗く見えたその中で

メビウスは、悲しそうにこう言った。


「いつか。

、、、いつか。

自分を人と定義したいからだ。」


 半ば、諦めているかのように

光の無い目でそう言うメビウスに、ふわりとした

金色の影が覆いかぶさる。


「大丈夫。

私が、君を人だっていうから。

メビウス。」


 金色の影は、影ではなく。

 悲しそうに立ちすくんでいたメビウスに

そっと優しく抱き着いていたレミエルの

稲妻のような金色の髪だった。


 そのレミエルの唐突で、唐突過ぎる行動に

メビウスは完全に脳の思考回路を停止したように

固まり、動かなくなる。


「、、、?」


「おーい、大丈夫か

 お前さん。」


 サンライトがレミエルに抱き着かれ、硬直している

メビウスに問いかける。


 すると、冷や水を頭からかぶったかのように

いきなりメビウスは意識が戻ったのか、するりと

レミエルのハグから抜けると考えうる限り、一番長く距離を取る。


「ぷっ、、、ははははは!」


 そのあまりにも挙動不審過ぎる様子を見て

サンライトは笑いだす。


「あの青の死神様が、

女の子に抱き着かれて逃げるとは、、、ははははは!」


 ゲラゲラと笑うサンライトに釣られ

レミエルもクスリと笑いだす。


 その様子をみて、手が付けられないと悟ったのか

メビウスは2人が笑っている間に

難しそうな顔をして、下がっていった。


「あ、逃げた!

メビウス追いかけなきゃいけないから

またね、サンライト!」


「おう、またな。」


 どたばたとした二人、いやどたばたとした一人と

物静かなもう一人が消えたのを見送り

サンライトはこう呟いた。


「あの時から、まだ、、、動けてないのか。

あいつは。」

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