その夜。


 アパートには段ボールでつくったくまの胴体から頭だけ出したはうの姿があった。


「ふゆさんは、てきれんきまでにけっこうできない女性ではありません!」


 ぱぱがよほどかっこよく見えたらしくあれからはうのなかでモノマネブームが到来してしまった。


「はう。……そろそろご飯だぞ」

「やだ。まだやるー」

「ぱぱもだなその。ずっと真似されるのは恥ずかしいから……」


「むりもないって」


 照れながら頬をかく聖さんの背中にそっと手を添える。


「ほんとうに、素敵だった。今日の聖さん」


「ふゆさん……」



 くちをぱくぱくさせたあと、聖さんはわたしを見た。


「その、たしかに契約結婚ではありましたが」


「昼間言ったことは、俺の本心です」


「あ……」


「あなたは素晴らしい方です。かつての家族の声がどんなにあなたを責めてもそれは変わりません」


「……」

 これは、言うタイミングかもしれない。


「あの……聖さん……」


「ふゆさん。……一つ、お願いがあるのですが」


 お互い身を寄せて。


 わたしたちは同時に尋ねた。


「「キスしても……?」」


 ひょいっと間に小さな頭が割って入った。


「ぱぱままらぶらぶら~」


 聖さんの腕にぶらさがって足をぶらぶらさせながら。台無し。


「らが一つ多いぞ……」


 だけど、響いた笑い声で帳消しだった。

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