第3話 食べちゃ、だめ?

「おいしーいっ」


 はうの口周りがてろてろに輝く。


 正月三がにち後。


 昼頃起きてたっぷりしたブランチ。

 ウィンナーやビーンズをトマトで煮込んだ、イングリッシュブレックファーストをがっつり。

 目玉焼きを添えて。


「おいひいねぇ、まま」


 傍らの息子とともに。


「もうランチはよしとして、夕飯どうしよっか。カレーにでもする?」


「わーーい! ボクカレーだいすきーー‼」


「ちょっと、待ってください」


「聖さん?」


「はう」


 聖さんははうの頬を両手で挟み込む。


「さいきんほっぺがますますぷっくりしてきてないか……? なんというか、全体的に、丸い……」


 もぐもぐとウインナーを頬張りながら、わたしが応じる。


「やだなぁ聖さん。はうは幼児だよ? いいのいいの、ちょっとくらいぽちゃっとしてたって」


「ですが。あまり太ってしまうのも健康的に心配ですからね。このところの食生活、少し振り返ったほうがいいかもしれません」


「——んー?」


 わたしの思考は、ここ一カ月くらいの過去に飛んでいく。



 ――クリスマス。


「チキンとケーキだよ~! はう、聖さん、メリークリスマス」

「どぉぉぉおっきいケーキ!」



 ――大晦日


「わー! ごちそう!」

「はう、お肉すきでしょ?」

「おにくいっぱい!」

「おでんも奮発~!」



 ――正月


「おせちいっぱいつくろう」

「ボクくりとんとんつくるー!」

「お雑煮とおもちもいっぱい買ったもんね!」

「ボクおもちさん食べるー! きのことしょおゆで食べるーー」

「きなこ、な」


「……」


 そろ~り、重さをはかる役割のある、四角い悪魔の乗り物に載ってみる。


 わたしは、悪魔の雄たけびをあげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る