「あのすみません、ここ禁煙……」


「は? ちっ」

 その場をどきながら、いかにもぱぱは言う。


「子ども産めない女がえらそうな面してんじゃねーよ」


 瞬間、頭が真っ白になる。

 なぜそれを?


 ああそうか。よくここには顔を出すし。

 小さな地元のコミュニティーだから話が回って……?



 力ががくっと抜ける感覚はしたが。


 まぁ、よかった、と自分に言い聞かせる。

 煙草を吸う人がいなくなっただけでも。


「ってぇ……おい、なにすんだ」


 はっとして見ると、はうが、いかにもぱぱの足にがぶっと噛みついていた。


「ままをいじめるな!」


「あー、赤くなってる……ほんと勘弁してくれよ」


 小さな歯をぎしぎしするはうを、とにかく抱き留めて引き寄せる。

 いかにもぱぱは勢いがついたように言った。



「失礼ですけど、オタク本当の家族じゃないんですよね? 適齢期までに結婚できなくて寂しいのかもしれませんけど、どこの骨ともわからない子をひきとってきて。こっちは迷惑なんですから。ちゃんと責任とってくださいよ」


 ああ。どうしよう。


 お話会は中断どころか、みんなの注目を集めてしまっている。

 これじゃ本末転倒だ。


「あの、お客様……」

 

 たまりかねておねえさんがいかにもぱぱに注意しようとして、言葉を探すように口を閉ざしたとき。



 いかにもぱぱが、宙に舞い上がったと思ったら制止した。


キャラクターのくまくんが、いかにもパパのえりをつかみ高々とあげる。


「ふゆさんは、適齢期までに結婚できない寂しい女性ではありません。過酷な環境の中、誰にも頼らずに生きて――その果てに、作品を生み出すことで、人々の光となっている女性です」


 わたしは頭をかかえた。


 着ぐるみ、しゃべっていいのかよ……!



「てめえ、なにすんだ!」


 力いっぱいいかにもぱぱがなぐると、着ぐるみの頭がもげる。



 お母さんたちから悲鳴が響き、子どもたちが親元へひっこんで。


 はうの瞳が、輝いた。


「ぱぱーー‼」


 くまの胴体の夫は、真顔で続ける。


「はうは、どこの骨ともわからない子ではない。優しくて強くて純粋な、俺たちの宝です」



「聖、さん……!」


「ふんっ。おい、行くぞ」


 いかにもぱぱは、そのお子さんを連れて、逃げてしまった。

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