④
「あのすみません、ここ禁煙……」
「は? ちっ」
その場をどきながら、いかにもぱぱは言う。
「子ども産めない女がえらそうな面してんじゃねーよ」
瞬間、頭が真っ白になる。
なぜそれを?
ああそうか。よくここには顔を出すし。
小さな地元のコミュニティーだから話が回って……?
力ががくっと抜ける感覚はしたが。
まぁ、よかった、と自分に言い聞かせる。
煙草を吸う人がいなくなっただけでも。
「ってぇ……おい、なにすんだ」
はっとして見ると、はうが、いかにもぱぱの足にがぶっと噛みついていた。
「ままをいじめるな!」
「あー、赤くなってる……ほんと勘弁してくれよ」
小さな歯をぎしぎしするはうを、とにかく抱き留めて引き寄せる。
いかにもぱぱは勢いがついたように言った。
「失礼ですけど、オタク本当の家族じゃないんですよね? 適齢期までに結婚できなくて寂しいのかもしれませんけど、どこの骨ともわからない子をひきとってきて。こっちは迷惑なんですから。ちゃんと責任とってくださいよ」
ああ。どうしよう。
お話会は中断どころか、みんなの注目を集めてしまっている。
これじゃ本末転倒だ。
「あの、お客様……」
たまりかねておねえさんがいかにもぱぱに注意しようとして、言葉を探すように口を閉ざしたとき。
いかにもぱぱが、宙に舞い上がったと思ったら制止した。
キャラクターのくまくんが、いかにもパパのえりをつかみ高々とあげる。
「ふゆさんは、適齢期までに結婚できない寂しい女性ではありません。過酷な環境の中、誰にも頼らずに生きて――その果てに、作品を生み出すことで、人々の光となっている女性です」
わたしは頭をかかえた。
着ぐるみ、しゃべっていいのかよ……!
「てめえ、なにすんだ!」
力いっぱいいかにもぱぱがなぐると、着ぐるみの頭がもげる。
お母さんたちから悲鳴が響き、子どもたちが親元へひっこんで。
はうの瞳が、輝いた。
「ぱぱーー‼」
くまの胴体の夫は、真顔で続ける。
「はうは、どこの骨ともわからない子ではない。優しくて強くて純粋な、俺たちの宝です」
「聖、さん……!」
「ふんっ。おい、行くぞ」
いかにもぱぱは、そのお子さんを連れて、逃げてしまった。
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