1-09 はじめての釈放

 国王への不敬は国家反逆に通ずるものだ。ゆえに不敬罪で捕らえた者は原則として斬首とする。安定した政治を続けるためにも不穏分子は徹底的に排除するそうだ。


 どうにか死刑を免れたとしても、真っ当な人生は送れないらしい。王国所有の奴隷として、鉱山で穴掘りをするか、戦地で首狩りをするか。


 いずれにしても、その身に自由などはなく、長く生きることも難しい。


 それに比べ、俺への処分は前代未聞の甘さである。


 所詮は道理を知らぬ子供のやったこと。誤解もあったようだし、取り調べにも協力的だった。とてもではないが、王国への翻意は見られない。そもそも、王家への忠誠心があったからこそ、王子の身を案じたのだ。その点を熟慮すべきではないか。


 みたいなことをカイルが上役に力説してくれたらしい。その上で、俺を生かすことのメリットも説明した結果、無事に監視付きの釈放を勝ち取れたとのこと。


 監視の期間は三カ月。監視役はカイルだ。それが済めば晴れて自由の身となる。


 そうして収容施設を出た頃には、もう朝日が昇っていた。さすがに眠い。


「馬車の手配をするか。十分ほど待つことになると思うが」


 ルビーを負ぶったカイルが有難い提案をしてくれたものの、


「それだと歩くのと変わらないよ」


 俺は勝手に歩き出した。カイルも小さく息を吐き、俺の隣に来る。歩幅を合わせてくれるあたり、本当に貴族らしくない。紳士ではあるけどね。


「所要時間はな。けどお前さん、かなり疲れているだろ?」


「お腹は空いてるね」


「すまんな。死刑囚への差し入れは禁止なんだ」


「……処刑までに獄死したらどうするの」


 人間が食料補給なしで生きられるのは三週間。水分補給なしで生きられるのは三日だけだ。俺は【水源】ウォーターを習得していたから大して問題にならなかったが、魔術というものは誰しもが使える訳でもない。


「どうもしないだろう。執行人の手間が省けるだけだ」


 この世界に居ると人権の尊さをつくづく理解させられるわ。


「そうだ。言い忘れていたことがある」


「なんすか」


「監視の期間中にお前さんが新たな罪を犯したら即日で斬首。オレも連帯責任で処刑となる。だから言動にはくれぐれも気を付けてくれ」


「……それは軽々しく話す内容じゃないでしょ」


 話が重すぎて胃が重くなるレベルだよ。脱獄とトンネルの件は絶対に言えないな。


「パン屋が開いているな。買っていくか?」


「パンなら孤児院にあるよ」


 今はちょっと食べる気にならない。カイルはよく平気でいられるものだ。


「あっ」


 パンで思い出した。貯金箱を食糧庫に置きっぱなしだ。


「どうした?」


「……高くついたなと思って」


「そうだな。何気ない一言が身を滅ぼすこともある」


 そうじゃない。けど発端はそれだから素直に頷くとする。


「カイルはパンを買わなくていいの?」


「オレも孤児院のものをいただこう」


「貴族の口には合わないと思うけど」


「……まずいのか?」


「とにかく硬い」


「……先が思いやられるな」


「ん? 先って?」


「オレはお前さんの監視役だ。向こう三カ月は孤児院で暮らすことになる」


「おおぅ」


 事実上の左遷か。公爵家の令息だから騎士団から除籍されることはないと思うが、出世街道からは確実に外れたな。申し訳ない。


「この恩はいつか返すよ」


大魔導アークメイジの手綱の握り方を教えてくれ」


「さっき大魔導は国の剣だって言わなかった?」


 王国に牙をむく気か? やるなら手伝うぞ。ここまで来たら一蓮托生だ。


「言い方は悪いが、手柄になると思ってな」


 出世街道に戻るための手土産ということか。承知した。


「ならジャンケンを教えよう」


「なんだそれは」


「ルビーがこよなく愛する遊びだよ」


「大人と子供でやっても成立する遊びなのか?」


「たぶんコツを掴むまでに百連敗くらいするんじゃない?」


「これでもオレは騎士団の中で指折りの人材だぞ?」


 それは分かっている。なんせAAAクラスの魔力保有者だからね。


「監視が終わるまでに一回でも勝てたら御の字。そのくらいの気軽さで挑まないと騎士としてのプライドを保てないと思うよ」


「お前さん、オレを舐めているだろ。どんな遊びかは知らないが、今日中に勝ってみせるさ。大人の威厳というものを見せつけてやろう」


「もはやフラグとしか思えない件」


「ふらぐ? どういう意味だ?」


「それもまた説明するよ」


 しかし助かるね。カイルがルビーの子守をしてくれるのなら、俺は勉強に集中することができる。本格的な夏が来る前にぜひとも【氷結アイス】を習得したい。


「ああ、そうだ。もう一つ言い忘れていたことがある」


 楽観していた俺に、カイルは先程よりも重要なことを言う。


「アレックス王子とセニア王女。両殿下が明日の昼過ぎにお越しくださるそうだ」


「え」


「それでお前さんには王子殿下の胸元を診て貰うことになる。絶対に余計なことを言うなよ?」


 一難去ってまた一難か。そうなる可能性は取り調べの際に示唆されていたが、俺のメンタルのためにも三日くらいは自由にさせて欲しかったなぁ。


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謎を解けない名探偵、今日もトリックの解説に失敗する。~これがあやしいのはスキルで分かるのになぁ~ かがみ @kagamigusa

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