1-04 はじめての投獄

「という流れだったんだけど」


 一応はカイルに一部始終を伝えてみた。


「それは斬首だな」


 にべもない。俺は国王陛下の悪口なんて言っていないのによぉ。


「だから誤解なんだってば。俺はね、陛下が暗殺者だなんて一言も言ってないんだ。ただ暗殺者だと推理した相手が偶然にも陛下だっただけなんだよ」


「同じだろ」


「分からず屋だなぁ。結果的にそうなっちゃったってだけで、陛下を貶める意図なんてこれっぽっちもなかったって言ってんの」


「その結果とやらがすべてな訳だが」


「けど俺って子供だよ? この世の道理も知らなければ礼節も弁えてないクソガキなんだよ? 情状酌量の余地はあるんじゃないの?」


「……子供の立場を全力で使い倒そうとしている詐欺師に見えて仕方ない」


「人聞きの悪いことを言うね」


 それは孤児院でもよく言われていたけどね。


「そもそもの話、陛下だってこんな矮小な存在なんか気にしないって。それどころか子供の命を無為に奪ったことを後悔するって」


「一般的な子供はそういう遠回しな脅しみたいなことを言わないんだよ」


「いいの? 国民の反感を買うよ? 慈悲深い王様から一転して、残虐な王様って評価になっちゃうよ? 王家の支持率もめっちゃ下がるよ? もしかしたらドラゴンのブレスに匹敵する大規模魔術が王城に直撃するかもしれないよ?」


「今度は直の脅しか。言っておくが、今のも不敬罪になるぞ?」


「前言を撤回し、心よりお詫び申し上げます」


「誠意をまったく感じない謝罪だな」


「わかる」


「……なんで言った本人が共感するんだ」


 日本国民の九割以上がそう感じているからだよ。


「そういや、王子さまって今もあの首飾りを付けてるの?」


「あー、今はしていないみたいだ。胸の苦しみに関しては王子殿下もお認めになっていることだし、あの首飾りは宮廷魔術師団で調査することになった」


「これ、ワンチャンで王子の命を救った栄誉で処刑がチャラになったりしない?」


「日程的に無理だな。調査結果が出るのは早くても一カ月は先らしい。三日後に処刑される予定のお前さんがそれで助かることは万が一にもない」


「いやいや、そこはさすがに待ちなよ。処刑後に、実は俺が王子さまの命の恩人だったって判明したら困るでしょ? 暗愚な王として歴史に名を刻むことになるよ?」


「そこは問題ない。もしそうなったら処刑の件は闇に葬られる」


 まじかよ。異世界の倫理観やばくね。


「けど王子さまは気にするんじゃないの? 王女さまもそうじゃない?」


「……本当にお前さんは舌も頭も回るな」


「よく言われる。正直、俺を失うことは王国にとって損失だと思いますぜ?」


「お前さんを生かすと同等以上のリスクがあるようにも思えるけどな」


「何を根拠に」


「根拠はない。ただの取調官としての勘だよ。なんせ九才でこれだからな。将来は国家転覆を狙うテロ組織の長になるって言われても疑問を持てないぞ」


「いやいや、ないない。十年後も二十年後も国王陛下バンザイってやる所存だよ」


「王城に大規模魔術を直撃させるすべも持ってそうだしな」


 さっきスルーしたくせにわざわざ拾い上げるんじゃないよ。


「俺は恩を仇で返す奴じゃない。できたとしてもそんなことはしない」


「そう信じたいところではあるが」


 カイルは小さく息を吐き、

 

「実はな、こうして長々と取り調べを行っているのも、両殿下の嘆願があったからなんだ」


「なんと!」


「それでお前さんのマナセンサー? について聞きたい」


「なんなりと」


「対象の魔力量を測定できるというのは本当か?」


「数値化は無理だよ。冒険者ランクみたいな十段階評価ならできるけど」


「じゃあオレは?」


 そういや、調べていなかったな。


「……AAAだ。お兄さん、なんでこんな雑務みたいなことをやらされてるの。騎士団でもエース級の実力者なんじゃないの?」


 王子や王女に付いていた護衛よりも遥かに優秀じゃん。


「両殿下に泣きつかれたからだよ」


「王族と顔見知りなの? 実は偉い人?」


「偉いのは公爵である父上だ。オレはそのコネみたいなものだな」


 貴族にしては珍しい思考の持ち主だ。


 王侯貴族の血は尊い。ゆえに貴族の子も尊い。


 そうやって自身の力では大したことを成していないくせに、親の七光りというスポットライトを浴びて壇上で好き勝手に動く貴族が多いって聞くのにな。さながら前世の世襲議員みたいにさ。


「王子殿下の左胸に魔力が溜まっているように見えたとの話だが」


「正しくは、詰まってるような印象だったね。魔力が上手く循環してなかった」


「その魔力の循環というのがよく分からないんだが」


「さっきも言ったけど、たぶん魔力は血液に含まれるんだ」


「血中魔素というやつだよな。あれはドラゴンなどの高位の存在に限った話だろ?」


「一般常識で言えばそうなるけど、僕の目にはそう映ってない。魔力は血液と同じで心臓を中心にして全身を駆け巡ってる。お兄さんだってそうだよ」


「そうは言うがな」


 常識外の話を簡単に信じられないのは分かる。俺も前世ではそうだったよ。


 霊感があるから幽霊が見える。水晶玉の力を借りれば未来を見通せる。他にも前世が分かったり、守護霊が見えたりと信じられない話はいくらでもあったからね。


 世界人口の三割もの人々が信仰していた宗教でさえ、どうしてあんなものを信じるんだと冷めた目で見ていた。だから信じてくれなくても仕方ないと思ってもいる。


 だがしかし! ここは異世界! ロールとかスキルとか魔術とか! 訳の分からん不思議パワーがいくらでもあるだろ! 


 ちょっとは信じてくれたっていいじゃんか! この異世界人めぇ!


「少し試してもいいか?」


 カイルはペンを置き、両手を差し出してきた。やがて右手に魔力が収束し、薄い緑色で発光し始める。


「こういうのでも分かるのか?」


「右手で風属性魔術の初動に入ってるとかそういうの?」


「……本当に分かるのか」


「分かったところで発動を止めたりはできないから意味ないけどね」


「いや、そうでもない」


 カイルが右手の魔力を引っ込め、腕組みをする。


「王子殿下の左胸に魔力が溜まっているのは間違いない訳だな?」


「首飾りを外した後にどうなったかは知らんけど」


「そこを利用すればどうにかなる可能性がある」


「と言うと?」


「王子殿下の魔力が正常に戻ったかどうかを把握できるのはお前さんだけだ。そこを交渉材料にして、処刑を延期して貰う」


「中止は無理っすか」


「異常の証明も正常の証明もできないからな。そんなあやふやなもので恩赦を得るのは難しいと思うぞ」


「それもそうか」


 あなたの運勢は最悪です。しかしこの壺を部屋に置けば改善されます。みたいなのと同じだもんな。仮にそれで幸運が訪れたとしても、壺のお陰だと証明することはできないし、そんなので「ありがとうございます」とは俺でもならないわ。


「聞き分けが良くて助かる」


「よく言われる」


「では牢屋に案内する」


「そこは確定なんかい!」


「聞き分けが良いってよく言われるんだろ?」


 えぇ? これはちょっと違くない?


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