第8話 冒険者迷宮第一層④

「どうしようかな……」


 ユウは相も変わらずこの状況に頭を悩ませていた。帰路につきたくて仕方ないが、どの道中では推定レベル40後半のモンスターと遭遇する確率が高い。もちろん、遭遇しない可能性もあるのだろうが、遭遇したら勝ち目はない。


「ここって、いつまでいられそうかな?」


 ユウの中に浮かんでいた案の一つとして、モンスターが消えるまで待つという事だった。勝ち目がない戦いに行くより、遭遇しない可能性を上げたいというのがユウの本音だった。


「うーん、食料の備蓄的に三日間くらいならいけると思うけど。でも、モンスターが立ち去る保証はないよ」

「そうだよねぇ……」


 その辺はユウも分かっていた。というか、それがその案で行こうと思えなかった理由だった。待つのは良いが、モンスターが立ち去る保証はない。三日間でモンスターが立ち去らない可能性もある以上、無駄足にしかならないこともあり得る作戦なのだ。


「どうしよ……」

「とりあえず、もう少し待ったら確認しに行くのはどうかな?」

「いたら戻る、いなかったらそのまま行くってこと?」

「えぇ。とりあえずの案だけど、どうかな?」

「悪くないと思う」


 もちろん、それ以外のモンスターと出会う可能性もあるが、それ自体は仕方ないと思う。ユウ自身、高レベルのモンスターと遭遇しなければ最悪いいというのが正直な感想だった。


「じゃあ、とりあえずもう少し待とうかな」

「そうだね」


 フウアの言う通り、ユウは待つことにした。何分も待ちながら、ユウは少しでも状況がいい方に行くことを願う。そして、15分が立とうとした時だった。


 パタン。


「足音?」


 ユウは違和感を覚え、耳を澄ませる。足音はこちらに近づいてきており、明らかに人の足音がではない。


「モンスターは近づいてきてるかもしれない」

「本当だ」


 フウアも耳を澄ませて、そう呟く。とはいえ、そこに動揺はなかった。いつものように微笑みながら、ユウに話しかける。


「大丈夫よ。ここに来ないようにしたし。しばらく、やり過ごせばいいだけよ」

「そうかな……」


 そう言われても、ユウはなお不安げだった。別にユウはフウアの魔法を信頼していないわけではない。むしろ、これとないレベルで頼りにしている。でも、それでも不安だったのだ。だって、どんなにやっても絶対はないのだから。


 ユウは警戒し続ける。いつでも、逃げれるようにしつつ、慎重に足音を聞く。モンスターと思わしき音は、だんだんと近づいている。

 これ、本当に気づいていないのか? ユウはそう不安になった。フウアは大丈夫と言ったが、どんどん不安は増していく。


 そして、ほぼ近くに来た時だった。


「逃げよう」


 ユウは不安が頂点に達した。フウアの手を掴み、勢いのまま、モンスターが来ている方向とは別の方へと逃げる。


「どうしたの⁉」


 フウアは突然の行動に驚いたようにした。強引だったことに申し訳ないなと思いつつも、ユウは逃げながら話す。


「たぶん、きっと俺たちの場所が分かってる」

「そんなこと……」


 フウアがそう言いかけたときだった。後ろから獣の声が聞こえる。そして、あの足音が聞こえた。走りつつも、ユウは後ろを振り返る。

 そこには、惨状を引き起こした張本人である狼犬(ウォーフ・ドック)がこちらを睨んでいた。このモンスターがいた場所はさっきまでユウとフウアがいた場所である。


「ウソ……」


 フウアがその姿を見て、悲鳴染みた声を上げる。ユウの予想した通り、明らかにモンスターはいたのが分かっていた様子だった。


「とりあえず、もう帰路まで行こう!」


 ショックを受けた様子のフウアをユウは再び引っ張っていく。今は生き延びるのが先だ。後悔はとりあえず、生き延びてからでいい。そう思いながら、ユウはフウアの手を引きつつ、迷宮を出ることを目指して行く。


*****


 ユウとフウアは走っていく。後ろから狼犬(ルア・ドック)は物凄い雄たけびを上げて、追いかけてくる。正直、まけそうにないなとユウは思う。さっき、一つユウは魔法を使ったがそれも効果は無かった。


「どうしよう」

「一瞬でも動きを止められればいんだけど……」


 フウアは走りながら、何か考えている。とりあえず、立ち直れたかは分からないが今は、生き残ることを考えているようだ。そのことに安心しつつ、ユウも考える。どうすればこのピンチを乗り切れるか。そう思っていると、ユウはふとあることが思い立った。


「そういえば、フウア。確か、小巨人(ジャイアント・ゴリラ)に穴開けられるような魔法使ってたよな⁉」

「えぇ……」

「それ、使えないか⁉」


 小巨人ジャイアント・ゴリラ狼犬ルア・ドックのレベルは絶対的な格差があるわけではないとユウは思う。だから、小巨人ジャイアント・ゴリラに効くなら、狼犬ルア・ドックにもある程度は効くんじゃないかと。倒せなくても、動きを止めることくらいなら出来るのではないか。ユウは思い、フウアに聞いた。フウアはその言葉に少し考えた後、喋りだす。


「出来ると思う。ただ、あれ魔力消費が激しいの」


 そういえば、そうだったなとユウは思い出した。光る三輪の矛ネヴィ・ハルバスはレベルが高い相手にも通じはするのだが、その分魔力消費が激しい。しかも、状態次第では身体がボロボロになる。後者は今のフウアには当てはまらないが、前者は当てはまる。


「魔力消費が激しいとどうなるんだ?」

「消費次第だけど、その場から動けなくなったり異様な疲れを感じたりするわ」

「……それはまずいな」


 ユウとしては魔力消費の激しさを感じたことがないのでよく分からなかったが、それは結構ハンデがあるなと思う。この魔法がどのくらいの消費なのか分からないが、下手に動けなくなるのはマズい。


「私が囮になれば……」

「それは駄目だ」


 どんなことがあっても、それは出来ない。フウアを囮にしていくなど絶対に出来ない。だから、ユウはそれを防ぐ方法を考える。その時だった。


「olololololololo」


 後ろから、狼犬ルア・ドックとはまた違った奇声が響く。ユウは後ろを振り向くと、そこには別のモンスターがいた。それは、オークである。もっとも、先の子供ではなく、しっかり成人している。


「あれ、たぶん気配を感じた奴……!」

狼犬ルア・ドックと同レベルのかよ……」


 どうやら、見つかったらしい。今まで逃げていた時にはいなかったが、ちょうど別の所にいたのだろうか。そう思いつつも、ユウは舌打ちしたくなる。なんで、今までいなかったのに追いかけてくるんだと。


「最悪だ……」

「やっぱり私を置いていっても……」

「しない!」


 フウアの自己犠牲っぷりにもユウは舌打ちしたくなった。とはいえ、そう言う奴だとは分かっているのでもう今更であるが。

 この状況を何とか出来る方法をユウはひたすら考える。そして、ふと思いついた。


「んじゃあ、俺が担いでお前が魔法打つってのはどう?」

「それなら、たぶん行けると思う。けど……」

「けど?」

「ユウ君は大丈夫なの?」

「俺は大丈夫」


 正直、フウアのことを担いだことがないので分からないというのがユウの本音だった。でも、2人で助かる方法は現状これしか思いついていない。可能そうなら、やってみたほうがいいとユウは思う。


「…………なら、お願いしようかな」

「よし。じゃあ、担ぐよ」


 ユウはそう言い、フウアを担ぐ。不安だったが、案外すんなりと担げた。というか、こいつ軽すぎないかとユウは思う。身長はそこまで低い方ではないはずなのに、異様に軽い。別の意味で不安になりつつ、ユウは走りながらもフウアが魔法を打ちやすいようにする。


「どう⁉」

「大丈夫!」


 フウアは後ろを向き、杖を構えていた。おそらく、いつでも魔法を打てるようにしている。ユウはちょうどいいタイミングになるまで走り続ける。そして、冒険者迷宮の入り口が見えてきた。

 モンスターたちは追ってきている。正直、いつ体力が尽きるか分からない。だから、入口が見えた今がベストタイミングだ。そう判断したユウはフウアに声をかけた。


「打って!」

光る三輪の矛ネヴィ・ハルバス


 その瞬間、フウアは魔法名を叫ぶ。刹那、杖から凄まじい光量が放たれた。その矛先は、一番近くにいた狼犬ルア・ドック。突然の事に、避けることも出来ず直撃する。その瞬間、悍ましいような悲鳴が迷宮を響いた。

 そして、悲鳴によってほかのモンスターたちの足がひるむ。


「今だ!」


 ユウはそれを後ろで感じ、今まで以上のスピードを出した。フウアは魔力の消費でおそらくまだまともに走れない。なら、自分が全力で走るしかない。


 走る、走る、必死で走る。後ろでモンスター共の声が聞こえるが、そんなことは気にしていられない。ユウはとにかく必死で走った。そして、ようやく目の前に来た入口の扉を開け、迷宮の外へと出た。


 そして、扉を閉めて、ユウとフウアはようやく外に出ることが出来た。

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Fantasia the Wizard~ある臆病な青年が魔王を倒すに至るまで~ 蒼林檎 @callall

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