第7話 冒険者迷宮第一層③
「なっ……、なんだ、これ……」
部屋の惨状を見て、ユウは思わずそう呟く。部屋の全てに、肉片、血が飛び散っている。そこらじゅうにある死体は全て原型を留めていない。
体の奥底から吐き気がこみ上げてくる。ユウはそれを何とか抑えつつ、フウアの方を見た。フウアは顔を真っ青にしながら、震えている。その様子を見て、ユウは思わず声をかけた。
「大丈夫?」
「うっ……うん、大丈夫よ」
とはいえ、それで素直に駄目という奴じゃないのはユウも分かっていた。明らかに、あまり良く無さそうではあるが、それで大丈夫という性格なのだ。ユウはフウアに心配を向けつつも、部屋の様子を見る。
夥しい死体の数。おそらく、その全てが冒険者であることが何となくだかわかる。何で、こうなった。そう思いながら、見ているとふと見慣れたものがあった。ボロボロのローブ、どこかで見たことのある杖と欠けた顔。マエである。
「マエさん……」
昨日、会ったばかりの人が死んだ。そう言う世界なのは、ユウも分かっている。だけれども、それを慣れろというのは無理だった。
優しい人だった。せいぜい、任務に同行させてもらっただけの自分に対して、親身になってくれた。いつか死ぬかもしれないけども、少なくともこういう死に方をしていい人じゃなかった。
どうしようもない悲しみと、やるせない怒りがこみ上げる。だが、それをユウは一旦は抑えた。まずは、自分達もこうならないようにすることが先だからだ。
何が原因なんだ。そう思いながら、ユウは死体を見渡す。見渡していく中でコオルやアーキの死体もあった。その事にやるせない憤りと悲しさを感じつつも、ユウはよく観察する。
観察している中で、ユウは気づいた。死体のどれもが、まるで獣に噛み千切られたようになっていることに。
「モンスターに殺られたのか……?」
ユウは惨状を見て、そう呟く。迷宮内はモンスターが大量にいる。あり得ない話ではない。が、問題はここが休息の部屋だということだ。フウアの説明によると、ここはモンスターが寄り付かない場所。つまり、モンスターに襲われるはずがない。だというのに、ここの死体は明らかに、この場所で殺されていた。
どういうことだろう。ユウがそう考えていた時、フウアが驚いたような声を上げた。
「結界が割れている……?」
「結界?」
「休息の部屋の仕組みは迷宮によって違うんだけど、この迷宮では結界によるものなの。つまり、元からモンスター避けの結界によって、安全が保たれていたの」
「つまり、その結界が割れていったってことは」
「たぶん、モンスターが入れるんだと思う。ただ、割れてると言ってもまだ完全に失われているわけじゃないから、低レベルのモンスターはここに来れないのよ」
なら、高レベルのモンスターなら入ってくる可能性があるってことか。つまり、ここの人達はそのモンスターに殺られたのだろうか。ユウがそう考えていた時だった。目の前に何かが現れた。
狼にも、犬にも見える見た目。日本の犬より少し大きいくらい、だが、その瞳には間違いなく殺意があった。
「
フウアがモンスターの名を叫ぶ。その瞬間、明らかに血の匂いがする獣はユウとフウアに襲い掛かる。
「
それと同時にフウアが火の壁を繰り出す。それに一瞬だけ、怯えたのか
来た道を必死でユウは駆けだしていく。そして、そのまま中盤を抜けて、一層の序盤に出ようとした時だった。突如、フウアに腕を掴まれ、来た道とは別の方向へと引っ張られていく。
「どっ、どうしたんだ?」
「あっちにモンスターの気配がするの。たぶん、あの
それはマズいなとユウは思い、急いで走る。さすがに、冒険者をたくさん殺した奴と同じくらいのレベルと一緒のを戦うのはユウとしてもごめんだった。
「どのくらいまで行くの?」
「とりあえず、今まで歩いていた本道よりもかなり離れたいかな」
「わかった。あと、どのくらい?」
「もう数十分は走るね」
マジかぁ、と思いつつもユウは死にたくないので走る。そうして、しばらく走ったのち2人は小さな壁の間に入り込んだ。
「とりあえず、気配がばれないようにするね」
フウアはそう言うと何か魔法をかけた。残念ながら、もう容量は埋まっており、その魔法を保存することは出来ない。残念がりつつ、ユウは辺りにモンスターがいないか確かめる。そして、追ってきているモンスターがいないことを確認すると、少し力を抜いた。
「出来たわ」
「ありがとう」
フウアもどうやら、終わったらしい。とりあえず、2人は一旦休憩しつつ、この状況を話し合うことにした。
「あのモンスター、この迷宮に元々いたの?」
「いや、いないわ。そもそも、ここら辺の地域じゃ見かけないの」
「そうなのか」
「うん。もっと、南方にいるわね」
そもそもここら辺の地域に生息したモンスターではないらしい。そう思うと、ますます初心の森で起きたあの出来事と似てくる。やっぱり同じ案件なのだろうか。ユウはそう考えると、憂鬱になってくる。
「やっぱり、あのモンスターがあの惨状を?」
「たぶん、殺したのはそう。でも、どうやったんだろう……?」
「どういうこと?」
「結界って、あのレベルのモンスターが敗れるわけないと思うの……」
「つまり、別の誰がやったと?」
「うん」
確かにとユウは思う。元々とモンスターが寄り付かないようにされていたのに、最近になって急に入れるようになったのは変な話だ。モンスターがやるというのも無理そうなので、誰か人がやったと思うのが普通だろう。
「それって、大問題じゃ……」
「もちろんよ。だってようは、意図的に冒険者を殺そうとしているのだし」
「これ、もう冒険者ギルドに戻った方がいいよね」
「そうね。ちょっと、依頼どころじゃないかも……」
とはいえ、問題は来た道にいるであろうモンスターだった。冒険者を大量に殺せるであろう
「あの道以外で帰れないかな?」
「無理かな。どんなに迂回しても、最終的にはあの道に出るの。それにモンスターは一体だけじゃないし……」
「そっかぁ……」
気の遠くなる話だとユウは思う。どのみち、モンスターと戦う可能性は高いらしい。しかも、元からいるモンスターとも相対する可能性だってあるのだ。どう考えても、戦闘は不可避。
あぁ、やりたくない。そう思いつつ、ユウは
「あの
「……甘く見積もっても、レベル40後半はあると思う」
そう思ってため息をついていると、フウアが申し訳なさそうな顔で口を開く。
「ごめんね」
「別にフウアのせいじゃないよ」
たぶん、依頼を提案したことを気に病んでいるのだろう。フウアらしいなと思いつつも、ユウとしてはフウアのせいとは思っていない。実際、突然のことだしどうしようもない。悪いのは、この状況にした人である。
とはいえ、この状況をどうしよう。ユウはどうしようもない状況で、どうやって帰還するかを考えることにした。
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