第6話 冒険者迷宮第一層②
冒険者ギルド本部。その中でもギルド職員たちが集まる部屋がある。普段は休憩所とかしているこの場所だが、今日はいつもよりも騒がしかった。
「そういえば、まだ帰ってきてないんですか?」
「えぇ、まだよ。もう、三日目なのに」
女性の職員がそう答える。彼女が見ているのはある依頼書だった。ある冒険者パーティーが冒険者迷宮に依頼で入って以降、帰ってこないのだ。彼らが向かったのは迷宮の一層。彼らのレベルを考えても、そろそろ帰ってもいい時期。が、帰ってこない。
「そっちもね」
そして、それは彼らだけじゃなかった。ここ最近、冒険者迷宮に行った冒険者パーティーが相次いで戻ってきていないのである。依頼の期限を過ぎてなお、戻ってきていないパーティーすらいる。
「どうしましょうか、主任」
「行方不明の冒険者の最高レベルは?」
「レベル44です」
「じゃあ、レベル50以降の冒険者、空いているので誰かいる?」
「いません……。みんな、出払っています」
レベル44よりも低い冒険者はたとえいても、捜索に行かせるわけにいかない。行かせたら、同じように行方不明になる可能性が高いからだ。が、それ以上もいない。どうしようか。主任は考え、あることを口に出す。
「最後に冒険者迷宮に行ったのは?」
「レベル27の冒険者とレベル12の冒険者です。ほら、あの小巨人(ジャイアント・ゴリラ)を倒した……」
「彼らね……」
ひと月前、冒険者ギルドを騒がせたことがあった。それは、まだ冒険者見習いだった者がレベル40のモンスターを倒したことである。前代未聞の出来事であり、当時かなり話題になった。
その張本人が迷宮内にいる。
「彼らの依頼は? どのくらいで終わりそう?」
「一日あれば十分ですね。今日、行きました」
「なら、今日中は待ちましょう。おそらく、出てきたら何か見てるはずよ」
お願いだから、出てきてほしい。そう思いつつ、彼らの帰還を待つことにした。
*****
そんなことは知らずに、ユウとフウアは迷宮内を歩いていた。襲ってくるモンスターを次々と倒しつつ、目的地へと目指していた。
「今は中盤だっけ」
「ええ。ここら辺から少しモンスターのレベルも上がるの」
フウアはそう言いながら、少し困惑したようにあたりを見渡す。その様子を見たユウは、何だろうと思う。
「どうしたんだ?」
「いや、ちょっと……」
「?」
「ほかの冒険者、見ないなって……」
確かに。ユウはそう思った。今までの道を思い出しても、ユウは冒険者パーティーに出会っていない。少なくとも、マエさんたちが来ているはずだ。なのに、彼らにも会っていない。
二層にいるかもしれない。そう思いつつ、ユウはフウアに聞く。
「ここ、冒険者がよく来るの?」
「えぇ。依頼でも定番の場所だし。何より、レベル上げをするために来ている人もいるわ。完全攻略された迷宮に行く目的ってほぼそこらへんくらいだからね。ただ、ここはほかの完全攻略された迷宮よりは安全だから色んな人が来るの。少なくとも、ここまでいないってのはないと思うんだけど……」
「なるほど……」
確かに、それなら冒険者を見かけてないのは不自然になる。とはいえ、ほかの冒険者たちは二層や三層に行っている可能性もある。正直、まだ判断できないというのがユウの本音だった。
「どうする? とりあえず、進んでみる?」
「そうね……。もしかしたら、奥の方に誰かいるかもしれないし……」
フウアもどうやら同じことを考えたらしい。まだここは一層の中間。もう少し行ったら、いるかもしれない。そう思い、ユウとフウアは進んで行く。
*****
「つ、つかれた……。なんで、あんな出てくるんだ……」
「そろそろ、冒険者迷宮の終盤だからね」
襲って来たモンスターを倒した後、ユウとフウアは再び息をついた。終盤、つまり目的地に近づいているから異様にモンスターが増えたのである。最初の方はユウだけでも何とかなったが、最後の方はフウアが何とかしていた。そのくらいやばかったのである。
「でも、オークの子供が結構いたわね……」
「確か、ここにはいなんだっけ?」
「うん、本来は」
ユウは倒したモンスターを思い出す。そういえば、確かにいた。しかも、結構。確かに、あの数はたまたま紛れ込んだとは言えないだろう。
「やっぱり、生態系変わってるのかしら……」
「そう言う話、冒険者ギルドから聞いた?」
「そこなのよね……。さすがに、冒険者ギルドが知らないってことは無いと思うんだけど。だって、一日で変わるわけがないし」
「あの、これって初心の森の件と関係あるんじゃないか」
初心の森の時もそうだった。あの件も本来いるはずのないモンスターがいて、冒険者たちも犠牲を出した。どちらも、本来はいるはずのないモンスターがいるという点で同じ。しかも、あの件の原因は分かっていない。
「そうね……」
フウアも似たような事を考えているようだった。あの件の原因が不明な以上、今回も同じの可能性はある。このまま進むべきか、ユウは迷っていた。正直な所、そんな場所に行きたくはない。早く安全な場所に戻りたい。が、依頼をすっぽかすのはなとも思うのが本音であった。
「どうする?」
「とりあえず、休息の部屋で考えようかな。そこなら、冒険者もいる可能性があるし。情報収集も出来る」
「休息の部屋?」
「迷宮内にある安全地帯。そこで、冒険者達は一夜過ごしたり、休んだりするの。この迷宮には各層内に一部屋あって、一層のがそろそろあるの。確か、ここを右に行けば……」
そんな便利な所があるのかとユウは思う。迷宮はどこも安心できないからこそ、そういう所があるのは有難い話だった。
ユウはフウアの案内で右に曲がり、進んで行く。確かに、そちらに進んでいくとモンスターの気配が無くなっている。どうやら、安全地帯というのは本当らしい。
どんどん進んでいくと、ドアがそこにあった。何の変哲もないドア。フウアが何のためらいもなく、開けてる。
「えっ……」
最初に中を見たフウアがそう呟いた。声の音が、恐怖と困惑が入り混じっている。嫌な予感がして、ユウは覗き込む。その瞬間、目には赤が映る。次には、引き裂かれたような身体の一部、頭が無い身体。おびただしい数の冒険者達の死体の山があった。
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