第18話 いただきます
ユウは病院を出た。あの後、医者が来て、色々見てもらった。怪我はもう完全に治りきっていて、退院していいということになったのである。
「天気いいですね」
「そうね」
フウアも一緒に出た。アーキが出た後もずっと気分が晴れなそうにしている。アーキは彼女を励ますつもりで言ったかもしれない。だけど、フウアの性格的にもそう簡単には気が晴れないだろう。
「この後、どうしましょう」
「あぁ、そうだ」
「?」
「今日の夜、もし起きたら酒場の喰いどころに来てって言われてるの。行く?」
「酒場の喰いどころ?」
フウア曰く、冒険者の街でも一番デカい酒場だそうだ。千年以上も前から代々やっている酒場だそうで、冒険者達が一番よく通う所だそうだ。そこでは、冒険者が討伐したモンスターを積極的に入れ、料理として売っているそうだ。
「……モンスターって食べれるんですか?」
今まで出会った数々のモンスターを思い出しながら、ユウはそう呟く。どうにも、食べれそうなイメージが無かった。
「一部は食べれないけどあるけど、基本は食べれるのよ。というか、冒険者で旅とかしているとほとんどそうなると思うわ」
「そうなんですか……」
「大丈夫よ、あそこの料理、美味しいから」
まぁ、食べたことある様子のフウアがそう言うなら美味しいんだろう。とはいえ、モンスターを食べるというのをユウは些か躊躇していた。
「今回は
「なるほど……。というか、
「えぇ、そうみたい」
さすがに
「俺は行きます。フウアさんも行きますか?」
「私も呼ばれてるから」
それもそうかとユウは思った。フウアも
「ただ、私、用事があって遅れるかも。先に行ってて」
「分かりました。時刻はどのくらいですか?」
「確か、21時だったと思う。じゃあ、私はちょっと用事があるからこれで。ユウ君、むちゃしたら駄目だからね」
それはこっちのセリフだ。ユウはそう言いたくなるのを何とか抑える。そして、分かったと了承し、別れた。
*****
「ここかぁ……」
フウアに言われた時刻より5分前。ユウは酒場「喰いどころ」の前にいた。やや年季を感じさせる建物の中からは騒がしい声が聞こえた。
何と言うか、すっごい酒場らしい所だなと思いつつ、ユウは扉を開けた。
「おっ、今日の主役じゃねーか!」
「はよ入れ! 酒あるぞ!」
中にいる冒険者達に急かされ、ユウは入る。中も事前にイメージにした通りだった。カウンターに四人くらいが座れるテーブルが店内にいくつもある。ユウは適当に空いている席に座った。
「あんた18いってんだってな」
「はい」
「なら、酒飲むか?」
「あー」
どうやら、この世界では18は既に酒が飲める年齢のようだ。どうしようかとユウは迷う。日本では飲めなかったので、もちろん飲んだことない。とはいえ、興味があるのも事実だ。
「酒はうまいぞー」
「パーッといっき!」
「黙りな! 酒カス共!」
酒飲みコールを女性の店主が一括する。その横でユウは悩んでいた。初めてだからこそ、慎重にならなくちゃいけない。しばらく考えた後、女性の店主に声をかけた。
「すみません、度数が低めのお願いします」
「度数が低め? 飲んだことは?」
「酒自体がないです」
「了解したよ。初心者でも楽しめるの持ってくるさ。あと、今日は何がいいかい?」
「ありがとうございます。何がおススメですか?」
「
そういうので、ユウはとりあえずそれにした。正直、この店は始めてだし何がいいのか分からなかった。
「酒、今日が初なのか~?」
「はい」
「酒はいいぞ~。疲れがぱーっと吹き飛ぶ」
中年と思わしき冒険者が絡んでくる。呂律はまだ大丈夫だが、相当酔っているようにも見えた。
「そうなんですか」
「あぁ、そうさ。そういえば、兄ちゃん、あのデカブツを倒したんだって?」
デカブツ。たぶん、
「はい、倒しました。フウアさんと2人で」
「すっげぇーな。俺、一回あいつに遭遇したことあるんだよ。あの時はなんとか逃げ切れたけど。いやぁ、もう出会いたくないな」
「それは同じです」
そこは同意だった。ほとんどギリギリで勝てたようなものだ。あんな賭け染みた戦い二度とごめんだ。ユウはそう思いつつ、置かれた酒を飲む。割と結構すっきりしている味だった。
「そういや、兄ちゃん」
「なんでしょうか」
別のテーブルにいる冒険者らしき男性が突然話しかけて来た。こっちはかなり頬を赤く染めている。おそらく、この男性も同じように酒に酔っているのだろう。
「フウアちゃんと一緒にパーティー組むんだって」
「冒険者になったらですが……」
「いいよなぁ~」
まだ冒険者になれるかは分からないが、なったらそうなので一応頷く。ユウがそうすると、男性というかこの酒場にいる男性冒険者がいっせいに羨ましそうにした。
モテているのだろうか、フウアは。少し気になり、ユウは聞いてみることにした。s
「フウアさんってモテるんですか?」
「そりゃ当たり前だろ!」
「お前なぁ、見て分からんのか」
「いや、分かりますよ」
さすがに、ユウもモテないとは思っていない。まず、フウアはかなり顔も整っている。日本だったら、芸能界スカウト確定ぐらいには。本当にびっくりするほど整っている。
あとは、こういうのもアレかもしれないが体つきも男性にモテそうなのも分かるくらいには豊満だ。そして、性格もいい。ユウ個人としてはどうかと思うくらい、誰にでも優しい。
うん、まぁそりゃモテるだろうな。
「男でソロの冒険者はみんなパーティー組みたそうにしているんだぜ」
「……んっ? 誰も誘わなかったんですか?」
「誘ったさ。冒険者ってのは結構ずけずけ行く奴らが多いんだぜ。でも、全員断られたんだよ」
「ちっくしょー!」
「そりゃ、アンタの顔じゃ無理よ」
悔しそうにそう叫ぶ男性に対し、仲間らしく女性がそう突っ込む。その光景を苦笑いで見つつ、ユウはふと考えた。誰ともパーティーを組まなかったのに、どうして組もうと言ってくれたのだろうと。一応、ある程度面倒だけ見て別れるでも済んだのに。
まぁ、よっぽど頼りなさげに見えたのかな。ユウはそう思うことにした。どんな理由だろうと、フウアがパーティーを組もうと言ってくれたのは嬉しかった。だから、それ以上はまぁいいや。そう思った。
「失礼します」
そんな時、ちょうど話題の人物が入って来た。フウアは遅れたことを申し訳なさそうにしていた。そして、ユウと同じテーブルに座る。
「大丈夫ですか?」
「うん、色々終わったから」
「そうなんですか」
正規の冒険者だし、なんかの手続きでもしていたのだろうか。まぁ、無事に終わって良かったとユウは思う。フウアが席に座ったのを見た女性の店主がこちらへ来た。
「おっ、アンタも来たか。飲み物は……アンタは酒駄目なんだったな。いつものハチミツ入りのミルクでいいかい?」
「すみません」
「そう、いつも謝るんじゃないよ」
女性の店主とフウアの会話を聞いて、ユウは驚いた。酒、駄目なのかと。何となく、そんなイメージが無かったから少し驚いたのだ。
「で、何が食べたい?」
女性の店主の問いにフウアはどこか困ったような顔をした。まるで、何を食べればいいか分からないように。ユウはその姿を見て、フウアに言う。
「
「じゃあ、それでお願いします」
「はいはい」
フウアはユウと同じのを頼んだ。大丈夫かなと思ったが、特に嫌そうな顔はしていないのでまぁいいかとユウは思う。
しばらくしたら、2人の分が同時に来た。ドンと目の前に置かれたのは、物凄く乗っていた。腸詰めに、ステーキ、骨付き肉、フライ、そして添え物としてジャガイモ。それが山盛りのように乗っていたのだ。
「めちゃくちゃありますね……」
「大丈夫?」
「あぁ、全然」
お腹自体はかなりすいていた。食べれるか食べれないかで言えば、たぶん食べれる範疇だ。ただ、特盛とは言われてあったとはいえここまで来るかとユウは思ったのである。
「フウアさんは大丈夫ですか?」
あと、ユウはフウアのことも心配だった。彼女に対し、あまり大食いのイメージはない。このレベルの量を食べきれるのか不安になったのだ。
ユウの心配そうな表情に対し、フウアはいつものように微笑んだ。
「うん、大丈夫」
「そうですか……」
そう言うフウアにユウは変わらず心配そうにした。というのも、自分が大丈夫だじゃなかろうがそう言うのがフウアだ。たぶん、相手を心配させないために。
そう思いつつ、ユウは食べることにした。どうしても、駄目そうだったら一声かけよう。そう思い、フォークを出そうとする。その時、酒場に声が響いた。
「準備するから、料理は一旦休止だからな! 食べたい奴・おかわりはしばし待つように!」
おそらく、この宴に来る人が多いからある程度は準備していたのだろう。が、それが無くなったので、再度やるようだ。
間に合って良かったなとユウは思う。たぶん、もう少し遅かったらかなりの時間、待つことになっていただろう。
「マジかよ……」
酒場の奥の方から悲鳴染みた声が聞こえた。ユウがちらりと見ると、四人組の冒険者達がテーブルに伏せていた。ユウとフウアの料理が来た瞬間に酒場に来ていた。だから、頼むのが間に合わなかったのだろう。
どうしようかとユウは思う。自分も食べたいが、彼らのことが少し可哀そうだった。お腹が空いているのに、長時間待つのは苦痛なのは分かるからだ。
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いばらく悩んでいた時、フウアが立ち上がる。そして、女性の店主の所へと向かった。何か聞いているように見えたが、酒場がうるさくなり聞こえない。どうしたんだと思い、ユウはその様子を見つめる。
一言、二言話してきてフウアは戻って来た。が、席には座らずに自分が頼んだ料理を持ち、どこかへ行く。
何してんだ、あの人。
そう思い、ユウはフウアの方を見つめる。フウアが行ったのは、さっきに悲鳴染みた声を上げていたテーブルだった。フウアは女性の店主と同じように一言、二言喋っている。が、その内容は聞こえない。
ユウが分かるのは、料理を四人組に渡していることと、そして四人組がフウアに対しお礼をしているくらいだった。
フウアは会話を終えたのか、席に戻って来た。いく時に持ってきた料理は持っていない。何をしてきたか、ユウは何となく察した。が、それでも聞く事にした。聞かなければならない。何となく、そう思った。
「料理は、どうしたんですか?」
「あげたの」
「何でですか?」
そう聞くが、ユウには理由はある程度の検討はついている。というか、この理由以外に見当たらない。が、衝動的に聞いた。
どこか必死そうなユウにフウアは不思議そうな顔をする。
「だって、お腹空いてそうにしていたから」
「でも、待てば来るでしょう」
「それまで、辛いじゃない」
彼らの事を重んじながら、フウアはそう言う。その理由はユウも分かる。確かに、待てば出来るとはいえ、いつになるか分からない。待つのがつらいことは想像につく。
確かに、フウアはあの四人組の事を心配しての行動だったのだろう。誰かのために行動する。それ自体は全然悪いことじゃない、むしろ良いことだ。誰かに親切にする。これも良いことだ。
フウアがまぎれもない良い奴なのは、ユウはよく分かっている。少なくとも、まぁいいかと食べようとした自分よりも。ただ、だ。
「貴方も同じじゃないですか」
それは、フウアも同じだった。フウアだって、お腹を空かせてやってきたのだ。四人組に飲み物以外の全ての料理を与えた今、彼女が待つことになるのだ。
「うん、それがどうしたの?」
フウアはユウの問いに対し、不思議そうな顔をした。まるで、当たり前のことを言われているような顔をして。ユウはそれに対し、息をのむ。
「せめて、全部じゃないくても良いじゃないですか……」
「でも、四人ともお腹空かしてたし」
「これから、かなりの時間待つことになるんですよ……!」
いつ料理が来るか分からない以上、フウアは料理が頼めるようになるまでずっと待つことになる。さすがに、ミルクだけではどうにもならない。親切にした結果、彼女だけが得をしていないのだ。
その事に何とも言えない顔をしているのに対し、フウアは安心づけるように笑みを浮かべながら言う。
「大丈夫。私はもう食べないから」
「はぁ?」
思わず、そう出た。予想していない言葉が出た。ユウは一旦深呼吸し、話を聞く。
「どういうことですか?」
「女性の店主に聞いてみたら、今料理している分はそこまでないみたい。ほら、ここもう結構いるでしょう?」
ユウはフウアの言葉にちらりと酒場にはかなりの人が集まっていた。酒を飲んでいる人もいれば、料理を手に喋っている人もいる。小巨人(ジャイアント・ゴリラ)はデカかったが、全ての部位は取れなかったのか、結構使ってしまったのか詳しくは分からないが、どうやら全員に行きわたる量は作れないようだ。
「でも、みんな食べたいじゃない。ユウだって、そうでしょう?」
「…………だから、みんなに少しでも行き渡るようにするために自分は食べないんですか」
「えぇ。本当はもう少し早くやればよかった」
どこか少し後悔したようにしながら、フウアはそう言う。その言葉にユウはさらに神妙な顔つきになった。
「お腹、空いてないんですか?」
「大丈夫」
そうフウアが言った瞬間、お腹から音が鳴り響く。その音に対して、なおフウアは笑みを浮かべる。
「お腹、」
「大丈夫」
大丈夫じゃないだろう。ユウはそう叫びたくなる。だって、あれは明らかにお腹が空いている音じゃないか。あの四人組と同じように、お前だってお腹を空かしているじゃないか。なのに、お前は我慢するのか。
ユウはそう叫びたくなるのをぐっとこらえる。そして、ユウは立ち上がり、カウンターまで行く。フウアはその姿を困惑したように見送った。
「ほらよ」
「ありがとうございます」
ユウは目的を済ませ、女性の店主にお礼を言った後、席に戻る。テーブルにはオロオロとしたようにしているフウアがいた。
「ごめんなさい、私、何か嫌なことしたかしら……?」
何も分からないようにそう言うフウアに対し、ユウは首を振った。別にフウアが嫌な事をしたわけではない。ただ、自分自身が納得できないだけだった。
「違いますよ」
「そう……?」
「ただ、俺が納得できないんです」
そう不思議そうにしているフウアを見ながら、ユウは女性の店主から渡された皿を置く。そして、自分の分の料理をそこに移していく。ちょうど半分にずつになるまで移し終えた後、片方の皿をフウアに渡した。
「あの、これ……?」
「半分ずつです。これなら、貴方も食べれるでしょう」
「でも、ユウ君が満足に食べれないじゃない」
確かに、そうかもしれないとユウは思う。でも、これなら少なくともフウアと自分は平等だ。フウアだけが何も食べれないということは無い。
「これなら俺も同じですから。フウアさんもお腹、空いているじゃないですか」
「私はお腹空いても……」
ユウの言葉にフウアはなお、申し訳なさそうにした。きっと、ユウが満足に食べれないかもしれないのが心配なのだろう。
だけども、ユウは自分だけ食べたくないのだ。
「一緒に食べましょうよ、フウアさん」
1人で食べるより、何百倍も良いとユウは思う。1人だけ食べたらお腹はしっかりするだろうけど、それ以上に満足はしない。フウアだけが食べないというのは、納得が出来ない。それに何より、食事は楽しむものだ。自分だけでは楽しめない。
「どうして、私と食べたいの?」
「そりゃ、貴方と食べる方が1人で食べるより楽しいからです」
「私と食べるのが?」
「そうです」
そうしっかりと、心からユウは頷いた。その言葉にフウアは料理をじっと見つめ、何か考えたようにする。そして、何を思ったかは分からないが、静かに頷いた。
「なら、食べてもいいかな?」
「えぇ、むしろ食べてほしいです」
どうやら、納得したらしい。色々思うことはあるが、とりあえずその事にユウはホッとした。ユウはそのまま手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます?」
おそらく、この世界ではないのだろう。キョトンとよく分からないようにしながらも、フウアはユウと同じように手を合わせる。そして、2人で食べ始めた。
「美味しい……」
一口食べて、そう呟くフウアにユウは安心した。フウアも食べれることが出来て良かった。そう思いながら、ユウも食べ進めていく。
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