第17話 戦いの後の話

 誰かの声が聞こえた。たぶん、知っている声だ。誰だっけなと思いつつ、ユウは目を開けていく。最初に映ったのは、清潔感ある天井だった。


「あっ、起きったっす」


 特徴のある言い方。誰だっけなと考え、あぁとユウは思い出す。アーキさん。レベル上げの際にお世話になった人だ。何で、ここにいるんだ、というかここどこだ? ユウはそう疑問に思う。


「大丈夫っすか?」

「とりあえず、意識はあります」

「おー、受け答えは出来るっすね。フウア殿、起きましたっすよ」


 その声の後、奥の方から急いで駆けてくる音が聞こえた。そして、すぐにフウアの姿が見えた。今にも泣きそうな顔しながら、ユウの方へと駆け寄ってくる。


「大丈夫⁉」

「うん、大丈夫です。特に痛みとかはありません」


 本当だった。しかも、今までと同じように動かせる。正直、両腕、両足を破裂させたんだから動きにくくなるとかを覚悟していたが、そういうわけはなかった。というか、よく死ななかったなぁ。この世界の医療技術って案外高いんだろうかとユウは呑気に思う。


「そりゃっすね、フウア殿の治癒がレベル高かったからっすね。いやぁ、凄いっすよね」

「そうなんですか? フウアさん、ありがとうございます」

「そうっすよ、しっかり感謝しないと」


 フウアの治癒が無かったら、自分はどうやら元の世界に帰る時に両腕両足が不自由なまま帰るところだった。本当に危なかった。そう思うと、フウアには感謝しきれない。

 対するフウアは俯いていた。そして、ぼそりと小さく喋りだす。


「私のせいなのに……」

「いや、俺が勝手にやっただけですよ」


 結局のところそうなのだ。フウアが死ぬのを納得が出来なかった。だから、レベル差がある化け物と戦った。ユウにとってはただそれだけだ。そこにフウアが責任を感じることは無かった。


「でも…………」

「本当です。むしろ、ありがとうございます。フウアさんがいなければ、本当に死んでましたから」


 フウアが魔法で攻撃しなければ、あの化け物はヤバイままだった。少なくとも、自分は歯が立たなかった。ユウは死ぬのだけは嫌だった。そして、今回死ぬのを防げたのは間違いなく、フウアのおかげである。その彼女が謝る理由などないのだ。


「それより、ここどこなんです?」


 まぁ、これ以上話しても進展はないので別の話題に切り替えることにした。というより、こっちの方がユウにとって知りたかったことである。


「えっと、ここは冒険者の街にある病院なの」

「病院、あるんですか?」

「そりゃ当たり前っすよ。冒険者も風邪ひくっす」


 当たり前じゃないっすか、そう言わんばかりの顔をアーキはする。その表情を見つつ、言われてみればそうかとユウは思った。冒険者となると、今のユウのように大けがをする人も大量にいるだろう。そういう意味でも、必要だ。


「ここは冒険者ギルド、直属ですしね。まぁ、ほぼほぼ冒険者が集まるっす」

「なるほど。えっと、それであの後、俺ここに運ばれたんですか?」


 ユウの問いにフウアが説明した。ユウが倒れた後、フウアが治癒系の魔法を施し、何とか両腕と両足を治したらしい。どうやら、かなり強力な魔法だが行使の時間がかかる奴だそうだ。まぁ、それはいいとして。

 とにかく直したが、一向に目覚める気配がしない。そこで、冒険者の街の病院、つまりここに運ぼうとした時、アーキ達と出会ったそうだ。事情を説明し、アーキ達と病院に運んだらしい。


「そうだったんですか、ありがとうございます」

「いやー、色んな意味でびっくりしたっすよ。俺もコオル達も。別れた後、ユウ殿がレベル差が35あるモンスターに挑んで、勝ったとか。そりゃ仰天したっす」

 まぁ、そうだろうなとユウは思う。ユウ自身、勝つつもりで挑んだが最後の方まで勝ち筋は見えなかった。というか、最後の奴もほぼほぼ賭けだった。普通は勝てないし、勝つとも考えないだろう。改めて、よく勝てたなとユウは思う。


「救助隊もびっくりしてたっすね」

「救助隊……、逃げた人たちが呼んだ奴ですか?」

「そうっす。病院に行く途中であったっす」


 ということは、あの人達も無事に逃げれたのか。ユウはその事を聞き、安心した。フウアの事を置いて逃げたことに何か思うことは無い。ただ、死ななくて良かったということだけである。


「そういえば、あの時調査にいた冒険者って……」

「救助隊を呼んだ人達以外は死んでいたよ」

「そうですか……」


 その言葉を聞き、ユウは複雑な顔になる。もちろん、フウアが助かり、自分も助かった。そこだけ見ればいいのだが、それでも人が死んだとなるとやはりいい気分にはならない。


 そう思いつつ、ユウはちらりとフウアの事を見る。出会ってまだまだだが、それでもユウはフウアの事を少し分かって来た。だから、心配になる。フウアがこのことを聞いて、気を病まないわけがない。


 フウアはやはり悲痛そうな表情をしていた。まるで、彼らを助けることが出来なかった自分自身責めるように。

その表情を見て、ユウは何て言おうか迷う。少なくとも、ユウは彼女が責める必要なんてないと思う。彼女のおかげで、少なくとも四人は生きれた。だが、それは自分を囮にして逃がしたことだ。自分の命を厭わない行動をユウとしてはあまり賛美したくなかった。


「そんなに気に病まない方がいいっすよ」


 ユウの代わりに、アーキはそう言う。


「冒険者って言うのは常に死が付きまとう職業っす。だから、同じ任務を受けた人が死ぬって言うのはよくあること。もちろん、死を悼むなとは言いませんよ? それは必要なことっす。でも、必要以上なのは良く無いっす。そんなの心が持たないっすよ」


 普段、変わった口調の男にしては珍しいくらい真面目な物言いだった。その言葉を聞いてフウアが何を思ったかは分からない。ただ、ずっと俯いてた。


「あぁ、そうだっす。俺はそろそろいくっすけど、ユウ殿はしっかり病院の人に声かけるっすよ。じゃあ、しっかり身体を休めるっす」


 アーキはそう言うと、病室を出て行った。フウアに言っていたことではあるが、ユウの心にも少し刺さった。

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