第15話 臆病者が戦う理由
ユウが森の道を歩いている時の話である。夜の20時。この時間帯において、初心の森にいた冒険者は十数人くらいだった。彼らのレベルは高くて35、低くて17といった感じである。
魔法剣士クラスの冒険者、ハウェイもまたその1人だった。
彼のレベルは19。冒険者になって一年たつくらいである。ソロというわけではなく、パーティーを組んでいた。ほかのメンバーも似たり寄ったりのレベル。冒険者見習いの時にたまたま話が合ったことで組み、それなりに、ほどほどにやっていた。
今回の依頼もいつものノリだった。冒険者ギルドからの依頼。内容は初心の森の調査。どうにも、初心の森で本来出るのはずないレベルのモンスターが出たらしい。ハウェイは仲間達と共に行った。
依頼は時刻で分かれており、午前の部と午後の部だった。午前の部は彼らが行ったときにはほかの冒険者達に取られており、彼らは仕方なく午後の部を取った。
「昼の方が良かったよね~」
「仕方ないだろ、取れなかったんだから」
「まぁ、あと少しで終わりですから……」
仲間達のそんな声が聞こえる。ハウェイは仲間の愚痴に同意だった。彼自身も昼の方が良かった。なにせ、夜はモンスターも活発しやすく、おまけに見えづらい。一応は魔道具による灯はあったのだが、オンボロだったのかすぐに壊れてしまった。路頭に迷っていた所をある冒険者によって救われたのである。
あれが無かったら、きっと自分たちは依頼を放棄していただろう。
「でも、良い人だよね~、フウアさん」
「だな。しかも、めちゃくちゃ見えやすい」
フウア。年齢はよく分からないエルフの魔法使い。同じ冒険者であり、親しいかといえばそう言うわけではないのだが何度か喋ったことくらいあった。
綺麗な銀の髪、整い過ぎている顔立ち、としてよく発達した体つきというか、胸。ハウェイが見た中で、最上級とも言えるくらいの美人。正直、ワンチャンあったらなーと思ったことは何回かある。
誰にでも優しく、そして穏やか。冒険者の中ではびっくりするほど良い人。ハウェイの印象としてはそれだった。そして、それは今回も変わらない。
ハウェイとその仲間が灯を失い、どうしようかとしているとフウアと出会った。
「大丈夫ですか?」
綺麗な声だった。暗闇で顔は分からなかったが、声ですぐに分かった。そして、リーダーが持っていた壊れた魔道具を見て、何かを察したのか詠唱を唱え、彼らの周囲に光の球を浮かべた。
「光の球です。魔法で浮かべたものですが、大丈夫ですか?」
ほとんど見えなかったのが、一気に見えるようになる。そのまま、仲間と一緒にお礼を言った後、彼女は何もないように微笑んだ後、また奥へ行った。
「知ってる? 彼女、午前の方も出たらしいよ」
「マジかよ。すげぇ、熱心だな」
「確か、彼女とパーティー組もうとしてる奴が冒険者見習いらしくて、そいつのためじゃないかって噂だぜ」
なんだ、そいつ。なんて、羨ましい。ハウェイは調査しながらも、そう思った。もちろん、今の仲間達のことも嫌いじゃない。だけど、あんな身体も顔も性格も最高の子が来てくれたら、もっといい。
誰かと組もうとしていなかった彼女が組もうとしているとか、どういうことだよ。ハウェイは見知らぬ冒険者見習いの顔を適当に妄想し、苛立った。
「くそ、羨ましい」
ハウェイはそう呟く。その言葉に仲間達は大爆笑した。
「諦めろ。お前の顔じゃ無理だって」
「あんた選ぶくらいなら、彼女ほかの人にするでしょ」
「ちょっとは夢見させろよ」
ハウェイも分かっている。誰にでも平等に優しく、美しい。そんな彼女に相応しい人物など山ほどいる。そちら側ではないのは分かっている。が、少しでも夢は見たいのだ。
「くっそー」
そう言いつつ、ハウェイはモンスターがいないか見ていく。あと少しでこれも終わる。そう思っていた時だった。
ハウェイの身体が飛んだ。何かとてつもないパワーに跳ね返されたように。そのまま吹き飛んでいく。そして、同時に全身をきしむような痛みが襲う。
「いぎぃああぁぁあぁぁ」
そして、奥で声が聞こえた。ハウェイがいた場所と近くからだった。その声には聞き覚えがあった。仲間の1人の声だった。
*****
ユウの目に飛び込んできたのは満身創痍の冒険者達だった。人数は4人。女性以外はみんな怪我をしている。そして、どの人達も顔に恐怖が浮かんでいた。
「つ、ついた……」
最初に飛び込んだ冒険者であろう男性がそう言う。身体を鎧で包んでおり、頭からは血を流している。
「大丈夫ですか?」
ただ事ではない雰囲気をユウは感じた。何があったかは分からないが、彼らの様子を見れば何かが起きたことくらいは分かる。
「きっ、君は……、冒険者ではないか……」
「すみません……」
鎧の男性はユウを見た途端、どこか残念そうに呟いた。その言葉にどこか申し訳ないなとユウは思う。
「いや、大丈夫だ……。それより、俺たちは急いで冒険者の街に行く。君も急いだほうがいい」
「何があったんですか?」
「化け物が現れた……」
「化け物? もっ、モンスターですか?」
若干、声を震わせながらユウは言う。自分より上のレベルの人達がこうなるモンスターってどんなんだよ。そう思うと、まだ会っていないのに恐怖がこみ上げてくる。
「……あぁ、たぶんそうだろう。とりあえず、走りながら話そう。ミニエ、ハウェイの様子はどうだ⁉」
「何とか! でも、医療所に突っ込んだ方が絶対に良いね!」
ミニエと言われた女性の背には、茶色の青年がいた。頭からは血を流しており、ぐったりしている。明らかに、重症だった。
ユウは彼らとともに走り出していく。正直、こんな所には居たくない。
「俺たちが冒険者ギルドの依頼で来ていることは知っているな?」
「はい」
「そうか。それで調査をしていたんだが、突然モンスターが襲ってきた。モンスターは
その話を聞きながら、ユウはさらに恐ろしくなる。遥かに格上の人や仲間たちを殺したってどんなモンスターなんだと。絶対に会いたくない、対峙もしたくない。心の底からそう思う。
「皆さんは……」
「何とか生き残ったんだよ。それぞれみんな別のパーティーさ」
「それは良かったですね。…………ちなみに、その
「…………」
ユウの問いに鎧の男性は目を逸らした。まるで、自分自身の罪を聞かれたように。その姿に一瞬、ユウは戸惑う。ほかの人達を見てみても、意識がないハウェイ以外は同じ様子だった。
「どうしたんです?」
正直、そのヤバいやつが追ってくる可能性がありえる。それを確認するために聞いておきたかった。しばらくの間を置いた後、まるで懺悔するようにミニエが口を開く。
「囮になったの……、フウアさんが」
「はっ?」
その言葉にユウは頭の中が真っ白になる。そして気がつけば、そんな言葉が出た。
*****
仕方がないことだったのだ。ミニエは何度も自分自身にそう言い聞かせていた。
あの時、彼女はフウアと一緒にいた。というのも、ほかのパーティーメンバーと離れてしまったのである。しかも、灯になりそうな物はろくに持っていない。闇に1人取り残され、しゃがみ込むしかなかった彼女に声をかけてくれたのはフウアだった。
「大丈夫ですか?」
心配そうな声だった。しゃがんでいたミニエに目線を合わせ、もう一度どうしたんですかと心配そうに聞いてきた。パーティーメンバーではないとはいえ、冒険者に会ったことにほっとし、彼女に事情を喋った。
「そうだったんですか。なら、パーティーメンバーを一緒に探しましょう」
その話を聞いたフウアはそう優しく提案した。有難い話であったが、少し申し訳なかった。彼女は熱心に調査をしていると聞いた。そんな調査を止めてしまうことは何より申し訳ない。ミニエがそう思っていると、フウアはなおもやさしく言う。
「大丈夫です。今は貴方の方が大事ですから」
微笑みながらそう言う彼女が救世主に見えた。だから、ミニエはその言葉に甘えることにした。フウアにお願いしますと言い、探しに行こう。そうしようと時だった。
「GOOOOOOOOOOOOOOOOOO」
人ではない雄たけびが聞こえた。今まで、聞いたことない威圧にミニエは思わず震える。そして、聞こえた方から人が飛び出してきた。鎧の冒険者と槍を持った冒険者、彼の肩にはぐったりとしている青年がいた。
「2人とも逃げろ‼ ヤバいのがいた、ほかの奴らは全員やられた‼」
鎧の冒険者がそう叫ぶ。その声と共に、雄たけびの主が姿を現した。背丈は2m以上。がっしりとした体つきに正気ではない表情。灰色の身体に人間のような姿。
「
フウアが隣でそう呟く。ミニエもその言葉は聞いたことがあった。遥か南方に生息する最低レベルで30の凶悪なモンスター。この場には絶対にいないであろう怪物。
怪物は2人の姿を見た。そして、勢いよく彼女たちに拳を振り下ろす。あぁ、駄目だ。ミニエはそう思い、目をつぶる。これから来るであろう死を覚悟するために。
が、いつまでたってもそれは来なかった。
おそるおそる目を開けると、ミニエは誰かに運ばれていた。
「歩けるか⁉」
「はっ、はい……」
「すまん。出来るなら、こいつを背負ってくれ」
意識がない青年をしょっていたは槍の冒険者はそう言う。どうやら、怪我で限界だったようだ。彼女自身、とくに何ともなかったのでそれに了承しようとし、ふと気づいた。鎧の男性はいる。槍の冒険者もいる。が、フウアがどこにもいない。
「フウアさんは……⁉」
その言葉に2人はちらりと後ろ見た。ミニエも思わずつられて、そちらを見る。そこにはいた。
「急にフウアを追い出したんだ。あのモンスター……。だから、その隙をついて」
「逃げたんですか⁉」
「出ないと、全員死ぬんだぞ‼」
鎧の男性の叫びにミニエはぐっとこらえる。彼らは満身創痍だった。自分もあれと戦うのは無理だ。逃げないと死ぬ。それはよくわかる。
このまま逃げてもたぶんあのモンスターは追いかけてこない。それは分かる。でも、とミニエは思う。囮にするのか? あんなに優しかった彼女を。
死にたくない。今すぐにでも逃げ出したい。でも、フウアは老いていくのは……。そんな思いがミニエの中を渦巻く。その時だった。
「大丈夫です」
声が聞こえた。あの時、声をかけてくれた時と同じように。
「私は大丈夫です」
優しい声だった。囮にするミニエ達を咎めることも、怒ることもなく、ただただ優しい声で当たり前のように彼女はそう言う。
「だから、行ってください」
それがミニエ達の背中を押した。振り返ることもなく、フウアに声をかけることもなく、彼らはただただ走っていく。
仕方ない、仕方ないのだ。ミニエはそう思わないと走ることが出来なかった。
*****
「仕方が無かったのよ……」
今にも泣きだしたそうにしながらミニエはそう言う。その後を続ける槍を持った男性が罪から目を逸らすようにこういう。
「これから冒険者ギルドに行って救援を呼びに行く。でも、たぶん間に合わないだろうが……」
フウアのレベル22。それ以上はある槍の男性にはそれが嫌ほどわかる。そのレベルではどうあがいても救援は間に合わないと。
その話を聞いたユウは、至極冷静にこう聞く。
「彼女と別れたのはどのくらいですか?」
「まだあまり時間は経ってないが……」
「そうですか」
ユウはそう静かに呟く。そして、走るのを辞めた。何かとがめようとする鎧の男性。それを無視して、ユウは走り出した。ただし、冒険者の街とは逆。彼らが来た方向へと。
「おいっ‼」
何をしようとするか察した鎧の冒険者が止めようと叫ぶ。が、彼は止まるつもりは一切無い。ただ、逆に彼らに向かってこう叫んだ。
「救援をお願いします‼」
「無謀だぞ‼」
「お願いします‼」
人生で初めてといえるくらいに腹の底からの声。その圧に押された冒険者達は戸惑いつつも、走っていく。ユウはその姿を見る間でもなく初心の森を駆けていく。
無謀。それはユウが一番分かっている。レベルは足りない。場数も足りない。ゆえに、小巨人に勝てる可能性は限りなく低い。そんなのはユウが一番分かっている。怖いかと言われれば、怖い。今にも震えたくなるくらいには怖い。だが、今はそれでも行かなければならない。
フウアの事を思い浮かべる。彼女は誰にでも優しかった。どんな状況でも誰かのために動いている。
仲間と逸れた人がいたら迷わず手を差し出し、異世界から来たと普通なら取り合わないことを言うユウにすら一切の躊躇なく手を差し出した。
きっと彼女にとって同じなのだろう。迷い人に手を差し出す事とみんなのために命を厭わず囮になることは。
だから、彼女は彼らに対し特に咎めることなく、行くように促した。彼らを助けるために、自分が囮になることを何の躊躇いもなく受け入れた。
他者は彼女の事を聖女と評すだろう。だれかをたすけるためなら、自分を囮すらさせてしまう精神。まさに聖女というべき善性だ。
だからこそ、納得出来ない。
フウアが囮になることはあの場において最善だったのかもしれない。レベルも足りず、満身創痍だった彼らの判断はしょうがないことだったかもしれない。
あの場において、彼らにとっての最善はフウアを囮にし、救援を呼ぶことのみだった。それは分かる。
フウアが犠牲になることがあの場にとって、多くの人が生き残る上での最善だった。それも分かる。
それでも、納得出来ない。
誰にでも手を差し伸べて、路頭に迷いそうだった自分を助けてくれた彼女だけが犠牲になる。そんなこと、納得できるない。
自分を囮にしてまでも誰かを助けようとしてしまう。そんな奴だけが死ぬなんて受け入れるわけがない。
フウア自身がどう言おうが関係ない。彼女はユウにとって大切な人間であり、生きて幸せになるべき人間なのだ。
怖い、死ぬかもしれない。ユウは今でもそう思う。だが、それ以上に彼女が死ぬことは納得が出来ない。
「GeAAAAAAAAAAAAAAA」
うるさい声が聞こえた。ユウは声のする方へ全力へ駆けていく。そして、彼は見つけた。フウアはそこにいた。自身より遥か大きい巨人の前で彼女はしゃがみながら、震えていた。まるで、迷子になっている幼い子供のように。
刹那、ユウは駆け出した。
怖くてたまらない。だが、それでも戦わなければならない。
臆病な青年はそうして遥か格上へと挑む。その姿をまるで世界が称えるかのように、彼
へと告げる。
スキルが新たに付与されました。
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