第2話 最初の出会い
誰かの声が聞こえた。まるで心配するような声にユウは目を開けていく。すると、そこには人がいた。
白銀の長髪に、黄色の瞳。美人と称してもおかしくはない顔立ち。そして、特徴的な長く尖った耳。身長は普通より少し高く、胸がデカい。
年齢不詳のエルフの少女。そんな彼女をユウは驚いたまま見つめていた。
「あっ、良かった。目覚めた」
ユウが目覚めたのを見た少女はほっとしたように息をつく。そんな少女を見ながら、ふとあることにユウは気づいた。痛みがない。あの猪に似た何かに負わされた傷がなくなっている。
「痛みとか大丈夫? 治したけど、まだ痛かったら言ってね」
「いや、大丈夫です。ありがとうございます」
見知らぬ少女に対し、つい敬語になってしまう。たぶん、緊張しているんだろう。そう思いつつ、ユウはとあることに気づく。少女の顔がやけに近いことに。
何で、こんなに近いんだ? そう考え、あっと気づいた。膝枕をされていることに。
「うわぁぁぁぁぁっ⁉」
ユウは驚きのあまり、飛び跳ねた。もの凄く、飛び跳ねた。彼は生涯において、女子とここまで近い距離になったことが無かった。しかも、膝枕。自分は見知らぬ女の子と膝枕をした。そのことに動揺する。
「あっ、急に起きたら駄目よ」
「すっ、すみません……」
少女の言葉にユウは少し落ち着いた。ただ、膝枕は申し訳なかったし、心臓も持たないので近くに座ることにした。
ユウは改めて少女を見る。服は白いローブを羽織り、あまり露出は少ない。少女の隣りに置かれていた杖を見つつ、何と言うか魔法使いみたいだとユウは思う。
「ところで、貴方、何でこんな所にいるのかしら?」
「えっ、いや、何ででしょうね……」
本当になんでこんな所にいるんだろう。そんなこと言われても、ユウにはよく分からない。たぶん、異世界転移だろうが何でこんな場所だったのかは分からない。
ユウの曖昧な様子に、少女は驚いたような顔をした。
「貴方、自分で入ったじゃないの?」
「いや、気づいたらここにいまして……」
「気づいたら?」
その言葉に少女は不思議そうな顔をする。うん、俺も不思議だと思うよとユウは思う。もちろん、最初は無双できるかもとか、ハーレムとか浮かれていたがよくよく考えたら変だ。何で、急に異世界転移しているんだ。
「不思議な話ね……。でも、少し納得がいった」
「納得?」
「レベル1の貴方がこの森にいたこと」
レベル1? 何のことだ? 少女が納得したようにしている中、ユウはさらに疑問が生まれた。ゲームにあるようなのが、この世界にあるのか? よく分からないまま、ユウは少女に質問する。
「あの……、レベルって何ですか?」
「えっ」
ユウの言葉に少女はひどく驚いたような顔をした。あっ、この反応的にこの世界では常識的なことなんだなとユウは少女の反応を見ながらそう判断した。ますます、自分といた世界とは違うんだな、そう改めて思い知らされる。
「知らないの?」
「はい」
「そんなことあるのね……。じゃあ、そうだね。能力開示(ステータス・オープン)って言ってみて」
「能力開示(ステータス・オープン)」
ユウは少女に言われるがまま、そう唱える。ステータスってゲームにあるようなものかと思っていると、実際にゲーム画面のようなのが目の前に現れる。
*****
・ユウ・ハヤマ
レベル:1
クラス:魔法剣士
基礎ステータス
HP:19 耐久:10 力:2 速さ:5 魔力:?
クラスステータス
剣術:4 火魔法:0 水魔法:0 土魔法:0 風魔法:0 光魔法:0 闇魔法:30
スキル
・■■接続
レベル:100
スキル概要
■■に接続していることにより、魔法行使に対する妨害が効かなくなる。
魔法
なし
補正
・魔法剣士補正
補正概要
魔法と剣術が使えるようになり、力と速さ、魔力に補正で+の数値がつき、剣術と魔法のクラスステータスが生える。
・闇魔法補正
補正概要
闇魔法が得意になり、数値も高く補正がつく。また、その他にも以下の制約がある。
・■■■■■■■■■■■■■
・■■■■■■■■■■■■■
・■■補正
補正概要
■■と接続しているため、クラスステータスの魔法の数値を闇魔法以外を吸収する。今回はかなり深く接続しているため、ほかの魔法の数値は0になるまで吸収される。その分、闇魔法を使った場合は経験値がかなり高くつく。
・■■汚染
補正概要
■■に深く接続しているとつく補正。■■に汚染され、一部の文字が自他ともに文字化けする。ただし、本人のレベル90が上がればこの補正は無くなる。
・□□□□補正
補正概要
□□によって授けられた補正。主に、HP・耐久の初期数値が上がり、ほかよりも死ににくくなる。□□は秘匿されている。
初期装備
・学ラン
概要
普通の服。特殊な効果はない
・マフラー
概要
普通のマフラー。特殊な効果はない
・ヘッドフォン
概要
特に特殊な効果はない
・普通の剣
概要
初期装備。特殊な効果は無し。
・白いシューズ
概要
特に特殊な効果はない
*****
何と言うか、もの凄く低いなとユウは思う。なんか、一部文字化けしているし。この世界のステータスってこんな感じなんだろうかと思って、少女を見る。少女はユウのステータスを不思議そうに見つつ、何か考えていた。
「…………本当になんだろう、これ」
「あのー」
「あっ、ごめんね」
ユウの事に気づいた少女は慌てて、向き直る。どうやら、よっぽど何か考えていたらしい。仕切り直すように咳払いした後、少女は説明を始める。
「ここのレベルあるじゃない? これが、その人の総合的な強さを表すの」
「総合的な強さ……。つまり、レベル1ってことは……、一番下ってこと……」
いやまぁ、現代日本でろくに鍛えていなかったし? やったことあるのは体育の授業だけだし。当たり前だけどさぁ、もっと夢見たかったじゃん。チートスキルとか、チート魔法とか。それこそライトノベルの主人公のように。
ユウはそう思いながら、項垂れる。やっぱり、物語の中だけなんだなぁ、無双って。そう落ち込んでいると、少女の励ますような声が聞こえた。
「大丈夫だよ! レベルはこれから上がるし、それにステータスとか一部はレベルにしては高いから!」
「本当?」
「えぇ。レベルは敵を倒したり、困難を乗り越えたりすれば経験値が溜まって上がるの。だから、これから経験を積んでいけば、きっと上がるよ」
少女の説明を聞いて、ますますゲームの世界っぽいなと思い、ユウはふと気づく。そういえば、この世界に来る前、やろうとしていたゲーム『fantaia the witch』もそんな感じでレベルを上げる感じだった……。
ユウはもしやと思いかけ、首を振る。いや、まさかそんなわけないだろうと。
「大丈夫?」
「うん。でも、レベル1がこの森にいたらマズいんですか?」
さっきの少女の言い方的にここにレベル1が入ったらマズいような感じだった。まさか、ここなんかの私有地なのか。
ユウの質問に少女はあぁと思い出したように言う。どうやら、ステータスを見ていたばかりに忘れていたみたいだ。
「別に入ったら駄目というわけじゃないの」
「そうなんですか」
「だけど、ここの森、えっと『駆け出しの森』とも言われてるんだけどだいたいレベル10以上から入ったほうがいいのよ」
「レベル10以上?」
「そう。さっきのモンスター、いたでしょう? この森にいるはモンスター低くて、レベル11、一番高くて21なの。だから、最低でレベル10はないとほぼ死ぬからね。それ以下は基本入ることを止められるわ」
少女の説明を聞き、ユウはひぇっとなる。さっき見たが、俺のレベル1。あの猪みたいなモンスターの突進で死ななかったのが奇跡だろう。いやな予感しつつ、少女に魔物のレベルを聞いてみる。
「さっきのモンスターのレベル? あの風猪はレベル12だよ」
やっぱり、奇跡だったなとユウは改めて思う。とにかく、こんな調子でモンスターに遭遇していたらいつ死ぬか分かったもんじゃない。自分はライトノベルの主人公のように無双は出来ない。ただの凡人なのだ。この世界ではただの無力な人間なのだ。
そりゃ、最初は調子に乗った。異世界転移なんて、二次元の話だと思っていた。実際にあるとは思っていなかった。だから、浮かれていた。ライトノベルのようなことが起きたのだから、同じように自分も何か出来るかと思った。
でも、違った。
ここはライトノベルの世界じゃない。自分はライトノベルの主人公じゃない。だから、自分はライトノベルの一般人のようにすぐに死ぬ。そんな、ただの凡人だ。
どうしてとユウは思う。この世界か、神様だから誰かは知らないがどうして異世界転移させたんだと。
こんなんだったら、異世界に来たくなかった。だって、こんな所で死にたくない。自分にはやりたい事があった。夢もあった。学校も楽しかった。友達だっていっぱいいた。自分には今までの生活で十分だった。だから、そこに戻りたい。
死ぬのが怖い。死にたくない、死にたくない。日本に帰りたい。帰って、いつもの日々を送りたい。友達に会いたい、家族に会いたい。家に帰りたい。
「あのさ、なんか異世界に行けそうな道具ってないでしょうか?」
俯きながらも、ユウはぼそりとそう聞く。ほぼほぼ衝動的な問いだった。早く元の世界に帰りたかったから。
「異世界?」
その問いに、目の前の少女は不思議そうにする。当たり前だよなとユウは思う。異世界なんて言われても訳が分からないよな。そう思った後、慌てて事情を説明することにする。
「実は俺、ここの世界の人間じゃないんです」
「えっ」
「気づいたらこの世界にいたんです。何でかは、正直自分でも分からないんですが。すみません、何か帰れる方法って少しでも知りませんか……?」
そう言いつつ、ユウはふと思う。こんなこと言っても信じてもらえるだろうかと。現状のユウには、別の世界から来たという事を証明する術がない。ただの妄想と思われても仕方がなかった。
自分が言っている事を信じてもらえないことに怯えながら、ユウは少女の言葉を待つ。そして、少女は口を開いた。
「なるほど、だから貴方色々知らなかったのね」
なるほどと納得した様子で少女は喋る。その様子にユウは驚いた。だって、こんなに簡単に信じてもらえるとは思っていなかったから。
「本当に申し訳ないんだけど、私、そういうのは聞いたことないの。でも、古代の遺跡とかならもしかしたらだけど、あるかもしれない……」
ぼそぼそと少女は呟く。そして、しばらく考えているようにした後に、何か思いついたような顔をした。
「そうだ。もし、貴方が良いならだけど私と一緒にパーティーを組まない?」
「パーティー?」
「あっ、パーティーって言うのは冒険者の仲間になろうってことね。一緒に旅や任務していたら、そういうの何か見つかるかもしれないし、どうかしら?」
少女の提案にユウは確かにいいなと思う。冒険は怖いが、確かに家に帰りたいから多少の事は我慢するしかない。だから、その提案は良いなと思う。でも、不安があった。
「あの……」
「どうしたの?」
「何で、信じてくれたんですか?」
異世界から来た。この言葉を信じられる要素が少女にはない。少なくとも、嘘と言われてもおかしくはない。だから、ユウは信じてくれないと思っていた。なのに、簡単に信じた。その理由が気になったのだ。
少女はその言葉にキョトンとした顔になる。そして、何でもないように笑みを浮かべてこう言う。
「だって、嘘を言っているようには見えなかったもの」
その言葉にユウはポカーンとする。そんなこと言われるとは思ってなかったから。何か詰まっていたものが解けていくのを感じながら、ユウは思う。
あぁ、良かったなと。
異世界で最初に会ったのがこの少女で良かったなと。そう思いながら、ユウは少女の方を向く。
「すみません、一緒にお願いしてもいいですか?」
「もちろん。そうだ、まずは名前を言わないと。貴方、ユウ・ハヤマって名前よね。ユウで呼び方で大丈夫?」
「大丈夫です」
「良かった、私はフウア。よろしくね」
「よろしくお願いします、フウアさん」
フウアは笑顔を浮かべながら、手を差し出す。差し出された手を握りながら、ユウは思う。あぁ、温かいなと。その温かさに救われながら、ユウはフウアに向かって同じように笑顔を浮かべた。
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