第1話 異世界での目覚め
どこなんだろう、ここは。びっくりするほど晴れている空を見ながら、ユウはそう思う。空をきょろきょろと眺めていると、強烈な光が襲った。
「うわっ、まぶしっ」
ユウは眩しさのあまりに思わず、目をつぶる。そして、今何時だっけと近くにあるであろう目覚まし時計を探そうとし、
「⁉」
違和感を持った。あるであろうと適当に何かを掴んだ。それが、触感からして明らかに植物だったからだ。部屋に植物を置いていた覚えはない。
ユウはおもむろにもう一度目を開ける。そこに広がるのは清々しいほどの緑、そして木。今いる場所が森であることだけはユウは分かった。
「えっ?」
が、それ以外が分からない。ユウは自分が自室から出て森に出た覚えはない。というか、そんな趣味はない。
おかしいな。さっきまで自室でゲームをしようとしていたのに。確か、ヘッドフォンから音楽が聞こえてきて……。そこで、あれとユウは思う。そこからどうしたっけ。そこから……、何をしたんだ。
記憶がない。まさか、夢遊病にでも患ったんだろうか。いや、あれそんないきなりなるものなのか。ユウは混乱する頭を押さえる。そして、もう一度記憶を探る。
ずっと楽しみにしていたゲームを開いて、ゲームがOPが聞こえて……、駄目だそれ以降が思い出せない。
どこなんだ、ここは。ユウはそれを確かめるために、周囲を確認する。
最初はただの森にしか見えなかったが、よく見れば少しおかしい。周囲の木は日本にあるような木じゃない。だいたい、近所にこんな森ない。それこそこんな森、日本だと山奥に行かないと無理だぞ。
ここまで考えて、ユウはようやくある疑問が出て来た。ここは、日本なのだろうか?
見知らぬ土地。自分でもよく分からない状態にユウは動揺する。なんでこんな所に自分はいるんだろう。家に帰りたい。
そう思い、ユウは自分の持ち物を確認する。スマホさえあれば、家に帰れるかもしれない。そう淡い期待があったからだ。が、残念ながらない。手には何も持ってなく、衣服のポケットには何もない。
唯一の持ち物らしきものは、そばにあった剣だった。マジでわけわからない状態である。
そして、自分の衣服も何かがおかしかった。ユウが着ているのは、黒の学ラン、地味なマフラー、白いヘッドフォン、それに運動用のスニーカーである。
「?」
ユウは再び違和感を持つ。何で、自分は学ランとマフラーを着ているんだろうと。何せ、どちらもさっきまで身に着けていなかったからだ。
当たり前だ。だって、休日の家だ。そんな時に、マフラーと学ランつける奴がどこいる。
「日本は夏間近だったはず……」
マフラーは当たり前として、学ランは冬用の。日本の季節は夏。いくら血迷って外に出ようとも、そこにどうあがいても暑いに決まっているのを着ようとは思わない。
唯一、記憶の中と合致しているのはヘッドフォンくらい。
「音楽……、出ないよなぁ……」
儚い望みをかけて、ヘッドフォンを付けてみたがなにも聞こえてこない。音が聞こえないヘッドフォンとか何の価値があるんだとユウは愚痴りたくなる。
「マジでここどこだよ……」
スマホなどの連絡手段はない、財布もない、身分を証明できる類のは一切無い。連絡取れる手段なし、お金なし、ここがどこだかも分からない。
なるほど、詰みか!
ユウは現状を整理して、そう思う。使えそうなのは、なんか知らないけど傍にあった剣くらい。たぶん、自分の護身にはなる。ただ、ユウに剣の使い方など分からない。なにせ、人生で持ったことすらないのだから。
「竹刀なら一応あるんだけど……」
学校の体育の授業で剣道をやったことがあった。その際に竹刀は握ったことある。が、それ役に立つだろうかとユウは思う。
「これたぶん、西洋の剣っぽいしな……」
ユウが何故か持っている剣は、日本の刀とはまた違った。銀色の持ち手に銀色の刃。たぶん、西洋の剣に近い。どこかで読んだであろう本の挿絵をユウは思い出す。が、問題は何でこんな物持ってるんだって話だ。
「ウチに実は剣が……」
そう考えて、いや絶対にないなとユウは思う。両親は割と真面目な方だった。こんな銃刀法違反一直線のような代物、持っているわけがない。
「じゃあ、これ何なんだよ……」
大真面目に心当たりがない代物に、ユウは頭を抱える。まさか、無自覚に盗んだとかはないよなと不安になった時、ふとあることが思いついた。
「もしかして、異世界転移って奴か……?」
異世界転移。ユウの頭に浮かんだのは、そんな文字だった。
ユウはライトノベルが好きだった。文字が多い本がそこまで好きではなかったが、ライトノベルは読めた。文字もそこまで多くなく、挿絵もあった。そのおかげですいすいと読めた。
そんなライトノベルの中でちょくちょく見かけた文字、それが異世界転移。日本にいた青年や少女が突如異世界に来て、様々なことをしていく。ほかにも異世界転生とかもあるが、さすがに死んだ記憶はない。少なくとも、日本にいた時はぴんぴんしていた。
「もっ、もう一回状況を見よう」
周りとは現代日本とは思えない風景、一切の心当たりない剣、なんか来ていた学ランとマフラー。異世界転移の状況としては、割と一致する。元々は現実逃避に近いような形であったが、あり得なくもない状況である。
「あっ、マジで異世界転移か、これ?」
その可能性を見出し、ユウは嬉しくなった。ユウにとって、異世界転移って言ったら、主人公がチート能力を使って異世界で無双する。そんな印象だった。
本来ありえない状況が自分の身に降りかかっているかもしれない。つまり、自分はライトノベルの主人公に近い体験をできるかもしれない。
そう思うと、ユウは今までの不安が軽く吹っ飛んだ。ライトノベルに出てくる数多の主人公は様々な異能力や魔法、それにチートスキルで敵を倒したり、無双したりする。そして、助けたヒロインたちとハーレムする。自分もそれが出来るかもしれない。
ライトノベル好きの友達たちと何度も話したのを思い出す。現実ではない物語の世界、みんなでこんなのないだろと言いつつも、心のどこかでは憧れていた。それが叶えられるかもしれないのである。
今まで絶望に落ちていたのが、途端に明るくなる。突如、目が覚めたら見知らぬ世界。異能力とか魔法、スキル、とにかく何でもいいので無双したい。そして、可愛い子に惚れられたい。俗物で結構。仕方ないじゃないかとユウは思う。だっていきなりライトノベルのような世界に来たのだから。
それに目を逸らしたかった。自分が訳も分からない世界に来てしまったという現実に。
「でも、どうしようか……」
とはいえ、ここがどこか分からない。やっぱりどう見ても、森の中。人が住んでいる街は見えない。異世界転移するならもっと街の中が良かったなとユウは思う。が、そんなこと言ってもしょうがない。
「とりあえず、どっかの街を探そう」
まずは街を探そう。ユウはそう思った。お金とかを稼ぎたいとかもあったが、それ以上にこの世界がどんな世界か知りたかった。残念ながら森の中ではそれは知れない。まぁ、細かいことは分からないかもしれないが、文明圏に出れば何かは分かるだろう。
そう思い、ユウは周りをきょろきょろする。いつ見ても周りは木と植物だらけ。正直、どの方向に行っても同じ見える。
「適当に行ったら、迷いそうだしなぁ」
しばらく考え、ふとユウは思いついた。剣を鞘から抜き、地面に×印をつける。割とこの剣重いなと思いつつも、しっかり大きく書く。
「これで良し」
地面に書いた×印を見ながら、ユウは満足げにそう言う。これから歩く道にも何らかの跡をつけていく。これなら、迷った時に役に立つ。そう思い、ユウは進むことにした。
たぶん、今はこの世界において夜なんだろうとユウは空を見ながら思う。空は暗く、星が輝いていた。たぶん、現代日本よりも空気はいい。割と都会よりの街だったので、ユウにとって星はあまり馴染みがない。
もちろん、ユウがいた世界の星ではないだろうが、それでも綺麗だと思う。
「にしても、どこまで歩いたっけ」
進んでから、体感で数時間は経った。もちろん、ぶっ通しで歩ける体力はユウにはない。所々で休憩しながらも歩いていた。が、一向に街は見えない。
「どんだけ広いんだ……、この森」
ユウは前に続く森の光景にそうぼやく。さすがに簡単につけないのは分かっていた。が、それでも疲れていた。異世界に来てから食べたり、飲んだりしていない。森にはなんか果実的な物はあったりしたが、正直食べていいのか分からない。
「駄目だ、もう一回休憩しよう」
再び疲れが来る。所々で休憩しても、疲れは取れない。それどころかどんどん疲れている。どうしようも出来ない状況でユウが取れるのは休むことのみだった。
息を切らしつつ、座ろうとする。その時だった。
「GUAAAAAAAAAAAAAA」
雄たけびと共に、何かが来た。物凄い突進。何とか避けようとするが、避けきれなかった。硬い何かが脇腹を掠める。抉られたような痛みに、ユウは顔を顰めた。が、それどころではない。
あっ、もしかしてモンスターか何か?
混乱と痛みで埋め尽くしている頭で必死でそう思いつく。とりあえず、剣を鞘から抜き、魔物らしきものがいる方向を見つめる。
そこには、いた。
おそらく成人男性と同じくらいの大きさ。茶色の体つきはがっしりしており、全身から殺気が漲っている。顔には鋭い牙が二つ。おそらく、日本で見かける猪に似たモンスターではあるだろう。が、明らかに普通の猪とは大きさが違う。
凄まじい目つきで睨んでくる猪に似た何かを視て、ユウは思わず悲鳴を上げた。
怖い、無理だ、何だあれ。
明らかに現代日本の動物とは違う凶暴な何か。それに殺意に満ちた視線を向けられすでに、ユウの心は折れかけていた。
いや、怖い。絶対に殺される。
そんな恐怖に染まりかける思考を何とか抑えようとする。ここで折れたら、間違いなく死ぬ。そう思い、ユウは剣を構える。西洋の剣の使い方なんて知らない。とりあえず、記憶にある剣道の構えを取る。何とか、間合いで斬ろうと考えていた時
風の音が聞こえる。その刹那、物凄い勢いでユウは吹っ飛ばされた。全身に衝撃が走る。ユウは何が起きたか分からず、朦朧とする景色を見ていた。
うん、やっぱり俺には無理だったか。
そんな諦めが脳裏に浮かんできた時────
「
綺麗な声が聞こえた。それと同時に光が走る。猪のようなモンスターは一瞬で焼かれた。ふと、誰かが駆け寄ってくる音が聞こえる。誰だろうなと思いつつも、ユウは意識を失っていく。
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