響律相の彼方で

「覚えてない」
彼女は、そう言った。
二人だけの大切な記憶を。

その朝、世界は濁った音で満ちていた。

汐見透には、聴こえる。
日によって変わる、世界の「響き」が。
そして、その響きに連動して――彼女が変わる。

透は記録を始めた。
法則を見つけた。
心を整えれば、世界も整う。
理想の彼女を、この手で選べる。

だが、完璧を求めた先にあったのは――
空虚な理想と、すべての音が消えた世界だった。

握りしめることと、手放すこと。
制御することと、受け入れること。

心の響きが紡ぐ、静かな再生の物語。