『小動物みたいに可愛くて、共通の趣味をたくさん持つ先輩』が大好きで幸せにしたいので、思い上がりクズ彼氏から奪うことにしました
緒方 桃
第1話 「ごめん」
大学一年の俺──
相手は同じ大学の二年生、
小城さんはいいぞ。
小動物みたいに愛らしくて、先輩だけどちょっと頼りないところが最高に萌えるんだ。
あと店内で商品を補充する時。
150にも満たない身長で背伸びして、ぴょんぴょん跳ねながら棚の最上段におにぎりを入れようとするけど、結局諦めて踏み台を使う姿も最高に可愛い。
あと跳ねるときに弾む茶髪のポニーテールもたまらん。
しかも先輩とは好きなゲームとかアニメとか、趣味までもが一緒で、とにかく話題が尽きなくて最高に楽しいんだよ。
「先輩! その……、俺、好きです!!」
だから夏のある日、別れ際。
俺は先輩に告白した。
「俺がコンビニで働き始めて、先輩が俺の面倒を見てくれた時からずっと、好きです!!」
大学一年の夏休み、バイト先からの帰り道にて。
「いつでも真面目で、だけどたまにちょっと頼りなかったりするところとか、先輩の可愛い笑顔とか、あとめっちゃ趣味が合って、それで会話が尽きなくて、それが楽しくて! そんな時に見せる先輩の笑顔が大好きです!!」
いつもお別れをするY字路で、俺は先輩に99%の思いを伝えた。
ちなみに残り1%である『ちょっぴり幼げな体型がどストライクです』という思いを出そうとしたが、わずかに残った理性がそれを食い止めた。
「だから、俺と付き合ってください!」
そして、一世一代の大勝負。
俺は先輩に手を差し伸べ、目を瞑って返事を待つ。
「……えっと。ごめん」
──しかし、フラれた。
「わたし、彼氏がいて」
「……カレシ?」
「……うん。もうすぐ付き合って半年の、ね」
彼氏がいるって言われて。
すっごく申し訳なさそうな顔を見せて。
「あっ……、へぇー、そうなんすか」
「うん、だからごめん。でも『好き』って言ってくれてすごく嬉しいよ! ありがとうね?」
虚ろな感情に、先輩の優しい声──いや、失恋した哀れな人間を気遣うテンプレートが傷ついた心にしみる。
「……いえ、こちらこそ急に呼び止めてすみません。じゃあ、俺はここで!」
やべぇ、ここにいると先輩の前で泣くかもしれねぇ。
焦った俺は先輩から逃げるように立ち去った。いや、文字通り走って逃げた。
(……はぁ、終わった)
走った先にあった公園のベンチに腰を下ろし、頭を抱える。
それからの俺は、完全に『自己嫌悪モード』に突入していた。
(あれ、絶対嫌われたよな? すっげぇ俺、迷惑かけたよな? あぁヤバい、シフト被ってる日めっちゃあるのにクソ気まずい。てか俺、なんで告白した? フラれたら気まずくなるって考えなかったのか? そもそもなんで俺みたいな何の取り柄もない、容姿も下の中くらい(想定)の人間が先輩に告白していけると思ったんだ? そもそも出会って3ヶ月か4ヶ月くらいだぞ? どうしていけると思った? えっ?? えっ??)
バカなのか? 馬鹿なのか?
あぁそうだ、馬鹿だ俺は。なんせ名前に『馬』と『鹿』が入ってるからな。
昔からそうさ、後先考えずに突っ走って失敗ばかり。勉強でも、部活でやってた野球でも──。
「……はぁ」
ここまで吐いて、冷静になった。
すると突然、虚しさと悲しさが湧き上がる。
「俺、フラれたんだ……」
誰もいない、なかなか見向きもしない公園のベンチで。
俺は滲む視界を携えて、じっと地面を見つめていた。
思い出すのは、バイト先での出来事と、その帰り道。
コンビニで働き始めた俺に優しく、時には厳しく色々と教えてくれた姿。
いつも真面目で、しっかり者で、だけど「先輩らしく」と、どこか背伸びをしているみたいな時があって。
それが可愛くて。みんなが『ロリ先輩』とか『ロリちゃん』とか言ってからかってて、それに対して頬を膨らませる姿もまた、小動物みたいに可愛くて。
そんな先輩と帰り道が一緒で、よく色々な話をしたな。
しかも俺が好きなゲームとかアニメとかが一緒で、さらにはサウナとかクレーンゲームとか、色々な趣味が一緒で、一生話題が尽きなかったな。
「……でも、もうこれで終わりなんだな」
そう、俺はフラれたのだ。しかも『彼氏がいる』と告げられて。
俺にとっての『理想』が詰まった彼女への一方的な思いは、「ごめん」の一言で崩壊したのだ。
だけど当時の俺は、知る由もなかった。
まさか俺が、先輩を彼氏から奪う事態に巻き込まれるとは──。
『小動物みたいに可愛くて、共通の趣味をたくさん持つ先輩』が大好きで幸せにしたいので、思い上がりクズ彼氏から奪うことにしました 緒方 桃 @suou_chemical
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