ガラスペンの魔法
しとえ
ガラスペンの魔法
ペンが良ければ絵が上手くなるわけじゃない。
そんなことはわかっている。
だがそのペンを買えば綺麗な絵が描ける気がした。
子供の頃の夢は漫画家。
毎日 授業中に鉛筆でキャラクターの漫画ばかりノートに書いて先生に怒られていた。随分と迷惑をかけたなと自分でも思う。
ボールペン万年筆、イラストマーカー、サインペン、鉛筆はデッサン用のものをたくさん持っていてそれこそ6BからFそして6Hまで。 子供の頃から絵を描くのが好きだった私は中学になった時、ある1本のガラスペンと出会った。
その当時はまだまだガラスペンはマイナーで、今でこそ100均に売っているぐらいメジャー だが百貨店で買ったガラスペンは中学生のお小遣いで買うにはかなり高価だった。
インク瓶にそっとつければ透明な溝を群青のインクが滴り落ちる。
それを紙にそっと降ろして線を引けば美しい線になっているような気がした。 その日から私はそのペンで絵や漫画を書くようになった。
子供心にそれは魔法のペンだった。
ガラスの中にはキラキラとした金粉が入っており それが光にきらめいて見えてとても美しく、 滴り落ちるインクは紙の上に小さな魔法をかけてくれた。
私は今までよりももっと絵が好きになった。
美術系の学校に行きたいと言ったのはちょうど中学 3年になった頃だろうか。
だが県内に美術系の学校はなくて私は市内にある普通科の高校に通うことになった。
高校3年になった時やはり美術が諦めきれなくて美術系の予備校に通った。 やっていたのは受験のためのデッサンばっかりだったのでガラスペンを取り出すことはもうなくなった。
最も残念ながら実力及ばず、 美術とは関係のない大学に行き美術とは全く縁もゆかりもない所に就職した。
それもまた私の人生。
いつか生きていく上で絵を描くことを忘れていった。
きっと私の情熱はその程度だったのだろう。
私が再びペンを取ったのは両親が亡くなり実家の整理をしなければならなくなった時。
記憶の彼方からそのペンを輝きを失わずやってきた。
ペンの柄の中の金粉が小さな魔法をかけてくれる。
滴り落ちるインクは紙の上に踊り、 私は何十年ぶりかの絵を書いていた。
あまり上手くはないかもしれないけれど ……
小さな額に入れて 玄関に飾る。
それは小さな魔法。
ガラスペンから生まれた私の心―
ガラスペンの魔法 しとえ @sitoe
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