コミック書評:『大公妃殿下は大学のカフェにいらっしゃいます』(1000夜連続18夜目)

sue1000

『大公妃殿下は大学のカフェにいらっしゃいます』

――大学のカフェから始まる領地再生ファンタジー。


本作は女性向けファンタジーの王道を踏まえながら、学園恋愛の軽やかさを織り込んだ異色作だ。主人公は、両親の突然の事故死により19歳にして貧乏な小公国の大公に即位することになった姫・リディア。とはいえ彼女は、貴族や有力商人の子弟が通う名門大学で、同級生と昼食をとり、課題を抱えて愚痴をこぼす、ごく普通の女子学生としての日常を手放す気はなく、こうして「大公」と「学生」という二重の顔を抱えたリディアの奇妙な生活が描かれる。


大学では、大公となったリディアに手のひらを返して媚びへつらう者と、従来どおり親しげに接する友人達とが登場する。学生食堂やカフェでの気楽なおしゃべりが、同時に領地政治への問題へと伏線としてつながり、コメディの軽快さと政治劇の重みが同居したまま解決していくカタルシスは他では味わえない妙がある。


また、ヒロイン像も新鮮で、よくある「シゴデキな庶民派姫」でもなく、実に19歳らしいある種ズボラな人物として描かれる。寝坊し、プリントを忘れ、甘い物には目がない。だがひとたび問題が起これば、胸を張って決断する胆力を見せる。完璧ではないが愛すべき彼女の姿に、多くの読者は共感を見出すだろう。「やるときはやる」という無理のない等身大の女性像が、典型的なファンタジーヒロイン像を刷新している。


メインヒーローは、隣国の皇子・カイル。ひとつ年上で冷静沈着だが、内面では主人公への想いを隠している。互いに惹かれ合いながらも国境と立場が二人を隔てるという構図は、古典的ながらも王道の甘美さを帯びる。大学の講義で肩を並べるささやかな場面から、領地再生の困難に共に立ち向かう大舞台まで、二人の距離が縮まったり遠のいたりする過程が丁寧に描かれ、胸をじらされる。


そして何よりこの作品に独自性を添えているのが、7歳の弟・ユリウスの存在だ。希少な魔法の才を持ち、姉を慕う彼は、ある時はコメディリリーフ、ある時はトリックスター、そして孤独な姉弟の絆というシリアスな軸をも形成する、独特な存在感を放ちストーリーに多層的なスパイスとなっている。単なる脇役にとどまらず「領地の未来」を象徴する存在として、リディアとは違った角度で「領地経営もの」を支える名キャラだといえるだろう。


『大公妃殿下は大学のカフェにいらっしゃいます』は、軽やかな学園ファンタジーに見えて、少女漫画的な胸のときめきと、領国を背負う者の戦い。その二つが同じ舞台に共存するからこそ、読後に不思議な余韻を残す。

絶妙に王道を外した設定は、現代の読者にとって身近でありながら、ファンタジーとしての非日常性も充分だ。


王道を外した先にある新たな王道、そんな予感を感じる極上のファンタジー。是非手に取ってもらいたい。








というマンガが存在するテイで書評を書いてみた。

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