あるはずのない階
しとえ
あるはずのない階
パラレルワールドというのを
あなたは信じるだろうか?
もしもあの時ああしていれば、
もしも、もしもの世界
……もしも、
目の前でエレベーターが閉まって行く。
「待っ……」
そう言いかけた時にはすでに時遅し、エレベーターは完全に閉まって別の階に。
俺は彼女に言葉をかける機会を永遠に失ってしまった。
というのも、閉まってしまい諦めて家に帰った後、彼女の住んでいたマンションの火災を知った。
煙が充満して日産から炭素中毒。
遺体は綺麗なものだった。
あの時 声をかけていれば…
また明日会えばいいなんて思わないですぐにエレベーターを押して追いかけていれば。
いくら後悔しても彼女は戻ってこない。
あの日、彼女彼女から海外赴任の話を聞いた。
彼女の将来のことを考えれば、それは反対できることではない。だけどあの日エレベーターが閉まってしまう前に話しかけていれば何かが変わったんじゃないかという気がする。
別れ話の後彼女を見送ってそのままさようならしてしまったことを今もずっと後悔している。
もしも、あの時もう少し早く動いていれば…
俺は彼女の住んでいたマンションを見上げた。
彼女の住んでいたのは上層階だ。
エレベーターは下の階までは稼働する。
ボタンを押してしばらく待つと エレベーターがやってきた。
扉が開く。
当然だが乗り込む人間は俺しかいない。
最上階の8階のボタンを押した。
扉が閉まり重力がかかる。
彼女が住んでいた階だった。
それはまるで何か違うところに引きずり込まれていくようなそんな感覚を起こした。
エレベーターの表示はどんどんと上がっていく。
8階まで上がるはずがない。
それだと言うのに、エレベーターの電子掲示板は8階を表示した。
体がふわりと浮遊感に包まれる。
重力のバランスが崩れほんの少し軽くなった体がまた重くなる。それは何とも奇妙な感覚だ。
地球において重力から逃れることはできずまた重力は 均一にかかっているはずなのにそのバランスが崩れほんの少し体が浮いたかのように軽くなる。
まるで この世界のシステムそのものがほんの少しずれを起こしたかのようだ。
扉が開く。
火災があったなんて嘘のようだ。
ここは本当に8階だろうか。
俺は彼女のマンションの一室を目指した。
チャイムを押す。
彼女が出るはずないのに……
「はーい」
彼女の声がする。
ガチャリと扉が開く。
あの日と変わらない彼女の姿。
明るい笑顔。
こんなことは起こるはずがない。
どうしたの?何かあった?
「少し話せないか…」
俺は彼女の部屋で話をした。
そしてその日彼女にプロポーズした。
今も彼女のところに俺はいる。
世界には開けてはならない扉があるという。
その扉を開いたら、もしもの世界。
パラレルワールドに行ってしまうのさ……
あるはずのない階 しとえ @sitoe
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