第7話
――9時00分00秒。
教室のテレビ画面に魔法少女Xが映った、その瞬間。
迅の耳に、
「ぷつ」
という、妙に生々しい音が届いた。
それは銃声でも爆音でもない。
濡れた紙袋を、内側から破いたような音だった。
「……っ」
迅の頬に、ぺちゃりと何かが当たった。
温かい。
粘つく。
反射的に触れると、指先にまとわりつく。
——白い——少し灰色がかっている——細かい繊維状。
(……脳)
理解した瞬間、胃がひっくり返った。
一般家庭のリビング。
ソファに腰掛けていた父親が、娘に向かって何かを言いかけ——
頭部が、内側から弾けた。
破裂音。
衝撃波。
顔面が原形を失い、白と赤が混ざったものが天井まで吹き上がる。
駅のホーム。
女性がスマホを見ている。
パンッ
首から上が、霧のように消える。
一拍遅れて、身体だけが崩れ落ちる。
血が噴水のように吹き出し、
周囲の通勤客の顔、服、広告ポスターを赤く染める。
悲鳴。
だが、悲鳴はすぐ途切れる。
なぜなら——次の瞬間、その叫んでいた口の持ち主の頭も弾けたからだ。
教室。
黒板の前に立つ教師。
「では——」
そこまで言ったところで、
頭蓋が裂け、眼球が飛び、脳漿が黒板に叩きつけられる。
チョークの白と、
脳の白が、同じ色で混ざる。
生徒の制服に、白いものが、赤いものが、べちゃべちゃと降りかかる。
迅は、もう耐えられなかった。
床に膝をつき、
胃の内容物を吐き散らす。
喉が焼ける。
視界が滲む。
それでも—―止まらない。
魔法少女Xは、拍手していた。
「中間テスト〜、お疲れさまでした〜♡」
背後で、数千万の“死のログ”が、花火のように弾けている。
「合格者は、おめでとう♡
落ちちゃった子は……」
一瞬、声が低くなる。
「——頭、使わなかったんだよね」
迅の脳が、きしむ。
(違う……これは“爆破”じゃない)
(……選別だ)
迅は、白く汚れた自分の袖を見る。
まだ、温かい。
生きている証拠の体温と、
他人の脳だったものの温度が、同じ感触で混ざっている。
震えながら、迅は呟いた。
「……テストじゃない……」
「これは…処刑だ」
だが迅の目は、
もう人間のそれではなかった。
次を止めなければ、
この白いものは、もっと増える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます