第3話 特別な報酬
喋る金色のスライムに正座させられた俺は、どうやら自分がキリ番を踏んだことで特別な報酬を獲得する権利を得たらしい。
「あの、もしかしてあなた様は、特別なスライム様なのですか」
人は、正座させられると卑屈になる、今の俺がそれだ。
「そうよ、ようやく理解ができて来たようね」
「あの、その、特別な物ってあなた様をギルドに売れば巨万の富を得られるとかそういう……」
「ブー、違いますーぅ、あんまり舐めたこと言ってると丸齧りにするわよ。ここの湖に見えるのでっかいスライムだからね」
やばっ、さっき飲んじゃったよ、俺っ!
どうやら俺を入口で呑み込んだのがそのスライムに違いない。
「ひいいいっ、そ、それでは、一体どのようなものを……このゴミ虫に」
あくまでも低姿勢を貫く、迷ったら冒険者は、死ぬのだ。
「それは、アタシにも分からないわ。あなたにあげるのはあなたに適したスキルよ。こちらで選べるモノでもないのよ」
「は……い、あ、ありがとうございます」
なんだかよく分からないが、何かのスキルがいただけるのは、損にはならないだろう。
「超初心者ダンジョンでもらえるスキルなんてあんまり期待してもしょうがないか……」
「アンタ、めちゃくちゃ心の声が漏れてるわね。逆の意味で正直者かしら」
「えへへへ」
「いえ、褒めてないから……」
スライムの体から金色の光の塊が浮かび、俺の体へと吸い込まれていく。
「さあ、ライルよ、受け取りなさい。これがあなたの新しい力よ!」
金色のスライムは、名乗ってもいない俺の名を呼びそう告げた。すべてお見通しみたいな流れだ。
外見的には、なんの変化もないが授かったスキルが俺には見えていた。おそらくその中に『鑑定』のスキルが含まれていたからだろう。
自分のステータスをあらためて確かめてみると三つのスキルが追加されていた。
ひとつは『鑑定LV1』だ。もうこれだけでサンキューフェスティバルと言っても過言じゃねえ。
あとの二つは『なりすましLV10』と『ニコイチLV1』とあるがよく分からない。詳細が不明なのは鑑定スキルのレベルが低いせいだと思う。非常に胡散臭い『なりすまし』のスキルだけレベル高けえ。
「あの、質問なんですがこの『ニコイチ』って何でしょうか? タバコに含まれているっぽいアレですか?」
「う~ん、アタシにも分からないわ。有害な呪いの類いでは無いはずだけど」
「分からんのかよ、超無責任なんだが……」
「アンタ、また心の声漏れてるわよ!」
元々の仮面師に加えて三つもスキルが増えたわけだが『鑑定』をもらえただけでもありがたい。
とにかくお礼を言ってそそくさと帰ろうとしている俺を金色のスライムは呼び止める。早く帰りたい思いでいっぱいなのだが……
「まだ何か?」
「報酬は、これだけじゃないわ。寧ろここからが本番と言っても良いかしら」
その内容を聞いた途端、あまり乗り気ではなかった俺の目は、輝いた。
経験値100倍
それがダンジョンを出るまで俺にだけに適用されると言うのだ。
「マジですか?」
「マジです」
今度は、心から感謝の言葉を口にする。
「ありがとうございます、キンスラ様!!」
「キンスラって、変な呼び方やめてよね。アタシの名は、メルシア、金色のメルシアよ。ところでさっきのスキルだけどきっとアンタの役に立つわ。だってそれは、元々のスキルを高める力みたいだから!」
そう言うと満足げにメルシアは、姿を消した。辺りにはしばらくその身と同じ金色の光の粒が舞っていた。
「どういう事なんだ? 犯罪者係数を高める可能性ならありそうだけど……?」
ダンジョンの元の場所に帰る方法は、考えるまでもなく、彼女がいた場所に青い魔法陣が出現したことで理解できた。やはりここは、特別な方法でしか入れないのだろう魔法陣は転送陣に違いなかった。
「よし、やっとスタート地点に戻れたぞ」
転送された先は、思った通りのダンジョンの入口付近だ。そしてここには、よわよわモンスターしかいない。だからこそ寂れてしまったダンジョンなのだが、今は違う。なんせ、経験値が100倍なのだから。
「鑑定っ!」
俺は、自分のステータスを確認した。どれくらいのレベルアップが可能なのか初期値を知っておきたかったのもあるがスキルは、使えば使うほど能力の向上に繋がるからだ。
[ライル・スティンガー]
LV 1
HP : 30/30
MP : 15/15
スキル
仮面師 LV10
鑑定 LV1
なりすまし LV10
ニコイチ LV1
とりあえずわかる情報は、これくらいだ。
鑑定のレベルが上がればもっと詳しいことがわかるのだろうが今はへっぽこレベルだ。
ダンジョンには、他の冒険者の姿もなく閑散としたものだ。逆に冒険者がひしめき合っていても気持ち悪い。つまり狩り放題って事だよな。不安に思うのは、魔物が100倍強くなってるなんてオチがある可能性だが……おっと、変なフラグが立ったらいけない。
「あのデカいのは、もういないよな」
最初に出会ったデカいスライムは、やはりイベント用だったに違いないと信じたい。
そんな俺の心配は、杞憂に終わりソコここに通常であろうスライムの姿が見える。メルシアの同族だからどうだろうかと思ったがお膳立てしてくれたのも彼女なのだから遠慮なく討伐させていただくことにした。鑑定してあらためて確信したが、俺はとても弱いのだ。躊躇している立場ではない。
最初のスライムに近づきアンディーソード(包丁)で切り裂く。確かな手応えとともにスライムは真っ二つになった。こんな事ならもうちょい研いでおけばよかったな……
前日に干し肉を切り過ぎたせいかイマイチな切れ味だ。この経験値まつりを前にして後の祭りもいいところだ。
経験値が入りレベルアップの手応えをヤバいくらい感じる。ヨシ、早速確認するであります。
『鑑定』
[ライル・スティンガーEX]
LV 10
HP : 120/120
MP : 100/100
スキル
仮面師 LV10
鑑定 LV1
なりすまし LV10
ニコイチ LV1
メルシアの加護
「なん……だと!?」
おかしい、おかしい、たかがと言っては申し訳ないがスライム一匹でこのレベルの上がり方は、バグってる!? 100倍は、ダテじゃない!
何故か名前にEXついてるし……
『メルシアの加護』も追加されてる!?
色々と疑問もあるが、今は経験値を稼ぐ為にこのチャンスを逃す手はない。俺は、ひたすらスライムを狩りまくった……
永遠に続けることができるなら人は、どれ程の高みに辿り着けるのだろう。しかし、突然に終わりは訪れた。
「ああああーっ、包丁がもうダメだ!!」
元々、戦闘に使う用途ではない包丁は、根本からポッキリと折れてしまった。それに体力もとっくに限界を超えていた。時間の感覚が麻痺してしまうダンジョン内では、蓄積した疲労に気が付かず命を落とす冒険者も多いと聞いたことがある。いわゆる『ダンジョン症候群』と言うやつだ。
ソロでダンジョンに入る輩は、特に気をつけなければ良くて野垂れ死に悪ければ疲れ果てて魔物の餌になる結末を迎えることになる。
「無事に帰るまでが冒険か……」
誰かが言ったそんな言葉が脳裏をかすめた。
目の前にあるのは、最下層のボス部屋の扉だ。ここまでは、経験値を得ながら楽に進むことができた。しかし初心者用ダンジョンと言えども最下層だけはダンジョンボスが存在する。万が一長期戦になれば先に体力が尽きるのは俺の方だ。
どうする? いや、考えるまでもない……
今戻れば、どうにか入口まで辿り着けるだろう、そして家に帰り空腹を満たしベッドで疲れを癒すことができる。初ダンジョンでよくやったよ俺、次からまた頑張ってやっていこう。冒険者人生は、これからなんだから……
「あれ!?」
だったらなぜ俺の足は、出口に向かっていない? 奥に進もうとしている? 武器も無いのに……なぜ?
安全な冒険なんて冒険じゃねぇ!
昔、冒険者だった爺さんの言葉だ……俺は、その時の誇らしげな顔に憧れて同じ道を目指したんだった。
「そうだよな、こんな所で立ち止まってらんないよな」
いつかまた同じ場面になった時、そこで立ち止まって、そこそこの冒険者をキープすることになるんだろうな。それで満足して……それから……
「そんなの絶対後悔するだろーーーーっ!!!!」
ボス部屋の扉を勢いよく開け放ち中へ飛び込む。
「さあ始めようか!」
基本、ボス部屋に入れば扉は閉まり決着が付くまでは外に出ることはできない。もう後戻りはできないのだ。
ボス部屋は、いくつかの柱が立ち並ぶ広いフロアで他とは明らかに造りが違っていた。例えるなら王宮の広間のような印象だ。
その中央に佇むのは、黒い甲冑の騎士だった。でっかいスライムだと思っていた俺の予想は大きく外れた。
「く、黒騎士か!? いや、もしかして……暗黒騎士……かよ!!」
黒い甲冑から溢れ出る漆黒のオーラは、俺の目でも認識できる。普通じゃねえ!
マジかよ、ぜってぇ選択肢間違えたよ!! 粋がっていたさっきの自分を殴りたい。
俺の心臓の鼓動は高鳴り、終焉までのカウントダウンを唱えているかのようだった……
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