幕間 好きで好きで、好きすぎる。
「じゃ、かのんちゃんまたね~♡」
ぼくはかのんちゃんに別れを告げて、ゆっくりと歩きだした。
紙袋の中で、おもちゃの手錠だけがじゃらじゃら音を立てる。
いやぁ、かのんちゃんのあの顔。傑作だったなぁ。
危うくほんとに襲っちゃうところだった。
――――『ごめんなさい。離して、ください』
それにしても、かのんちゃんは本当にいじっぱりだ。
あの小さな体にいったいどんなメンタルが収まっているのだろう。ぼくには到底想像がつかない。
『好きな人が他の誰かにとられてしまって、そしてその誰かが自分よりもお似合いだった』――なんて。
辛くて辛くて、仕方がないはずなのに。
ぼくは慣れてるけどね。
そりゃぼくがまだわたしだった頃はずうっと泣いてたけど。
誰だって一度くらい、失恋をするものだし。
ぼくは昔から女の子しか愛せないから、なおさらさ。
――――『私、こころちゃんに告白してきます』
しっかし、かのんちゃんも成長したものだ。
初めて見た時はあんなに小さくてかわいかったのに……いやそれは今もそうか♡
特に気付いてからの成長は、見ているこっちまでドキドキさせるものがあった。
でもやっぱりちょっとじれったい。
そういうところにイライラするというか、ムラムラするというか。
フラれたらきっと泣いちゃうだろうし、また慰めてあげよう。
次こそは本物の手錠を持っていこうかな?
こころんへの想いと決別すれば、きっと今度はぼくのことを見てくれる。だってあんなに親身になってあげたんだからね。
ぼくの『好き』なんて薄っぺらいって言う人もいるけど、ほんとのほんとに皆が大好きなだけなんだ。
それに、重いよりはちょっと軽いくらいがちょうどいい。
だってあなたしかいないなんて言われたって、嬉しいより先にちょっと困っちゃうらしいよ? ぼくはそうは思わないけど……。
まぁ、つまりいつだってぼくの愛は――――大切なひとりに受け取ってもらうには多すぎるんだよね。
「あっ……ほどけちゃった」
ふいに髪を結んでいたリボンがほどけて、ひらひらと舞って地面に落ちた。
さっき結び直した時にリボンの結び目が緩くなってしまっていたのかもしれない。
いけないいけない。
これはぼくのアイデンティティなんだぞ。
ぼくは歩道の端っこに寄って、しっかりと髪を結び直す。
「はい、ぼく完成」
――――そこから、愛があふれていかないように。
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