第12話

  半魚人と戦った位置から歩いて30分まだ十分に離れたとは言えない位置でそれなりに大きな岩を見つけそこに陣取り焚火を起こし休憩をしながら棗達はリスナーと会話をしていた。

 

「まぁさっきの戦闘でもわかった通り9mmじゃ火力不足な気がしてきた。あいつら前面に装甲ねぇから倒せたがあんな鱗が全身にあるようなモンスターいたら最低でも12GAか5.56mmはほしいな。因みにテメェらアタシら銃を持った人間のこの世界のモンスターに対する最大のアドバンテージってなにかわかるか?」

 

 : 銃っていう未知の武器を使うことか?

 : 威力じゃね?

 : 視認して避けれない弾速やろ

 : それもあるがライフル込みなら射程距離だと思うな。

 : ショットガンやハンドガンの射程距離って短いって聞くけどどんなモン?

 : 有効射程距離は50mってところ。

 : それって短いの? 銃同士ならわかるけど

 : アーチェリーとかの複合ボウは200mっていえばわかるか?

 : え? 弓より弱いん?

 : 何を持って強い弱いを基準にするかやな。

 : 対防弾チョッキなら圧倒的に弓強い。アラミド繊維固めたプレートじゃぁ矢は防げないぞ。

 : 弓は一本一本番えて構えて狙って撃たなきゃなんねぇがライフルなら構えて狙ってあとは当たるまで弾が切れるまで撃ち続けれる。

 : そしてライフルなら800mは有効射程距離 長距離狙撃用の12.7mmとかなら2kmのスナイピングとかも可能だぞ。もちろんそれ相応の腕と質の良いライフルなども必要だが。

 

  「おまいらやはり頼りになるな。 アタシはこの世界でのアドバンテージは距離だと思ってるぜ。目視できない距離からの先制攻撃そのあとに目視で避けられない弾速と予備動作の無い連続射撃と続くと思っている。威力にかんしてはこの世界の魔法を見たことねぇからな。負けてる可能性もある。因みにアタシの腕じゃぁダニエルディフェンスのAR-15で300mが限界だな。動かない的にプローンや膝撃ちならアタシより華音やマコの方が上だ。スピードも含めたら遅さでマコが華音に負ける。」

 

 : へぇ マコちゃんは狙撃系なのか。

 : ゲームじゃねぇからなんともいえんし動かず攻めないスナイパーはなぁ

 : 華音ちゃんはうごけるタイプでしょ?

 

「あ? 華音はアタシと同じストライカーだよ。 うちにスナイパーは居ねぇよ。マコは護身が出来るだけで戦闘要員じゃァねぇしな。」

 

 : あんだけ出来て戦闘要員じゃないの?

 : まぁマコちゃんの性格とか考えたら戦闘向きではないよね。

 

 盛り上がるコメントをみながら棗達は、カロリーバーを齧りインスタントコーヒーを啜り飲みすいた小腹と乾いた喉を癒していく。

 

「てなわけで、昨日のスパチャで新しい武器を2つ買おうと思う。一つは確定でアタシの1911だ。まだ街にはついてねぇが銃を隠していたいからな。銃を知らなくても散弾銃の形状をみりゃ遠距離武器持ちだとばれちまうからな。」

 

 : ならいっそ、コンシルードキャリーガンは? SIG P365とかアメリカでも人気なんでしょ?

 

「あーそれも考えたが2つも同じ銃はいらねぇだろ? 華音がSIG大好きなんだわ。アタシはもちろんSmith&WessonとCOLTだぞ? 我がアメリカの誇る歴史ある銃メーカーだ。」

 

 : 我がアメリカって棗日本人やん。

 : 育ちだけやろテキサス。

 : しかも意外と短いんよな。6年くらいじゃなかった住んでたの。

 

「こまけぇなお前ら。いいんだよアタシは日本生まれの国籍日本なアメリカ人てことにしとけ。ハーフみてぇなもんだろ親父アメリカ人だし。」

 

 : でもその親父血繋がってないどころか完全に赤の他人やで?

 : せめて母親と再婚してたら父親って言えるんだが

 

「うわっ やめてくれ。ボブがあの女と結婚するなんてゾッとするわ。ボブにゃぁもっとこういい女と結婚して幸せになってもらいてぇ。」

 

 : 棗ファザコン拗らせてるんだよなぁ。

 : しかもアメリカ育ちだから普通に再会すると棗ってボブとハグしてキスするしな。

 : ワイもしてぇな ボブと。

 : 何ここ謎のボブ推し多すぎない?

 

「まぁボブの話は良い。次はもうひとつを誰に何を渡すかだ。」

 

 : 話の流れ的に華音ちゃんにライフルじゃないの? マコちゃんは戦闘要員じゃないんでしょ?

 : カノンちゃんは動けるからハンドガンでもやれそう感はある。

 : ワイは華音ちゃんにAR-15を推すね。

 : じゃぁワイは華音ちゃんが謎のSIG推しってことでMCX

 : ワイはまこちゃんが12.7mm撃ってお乳をたゆたゆさせるのがみたい

 

 大口径の銃を撃たせ乳揺れを観測したいそんな一言が、ほんの数分前まで華音にライフル派だったものを一気にマコへ12.7mmを派に改宗させていく。

 だが、棗の一言は彼らが忘れていた前提を思い出させた。

 

「いや、マコに12.7mmってプローンでしか無理だろ? 乳揺れは見えねぇんじゃねぇのか? マコじゃ7.62mmもキツいと思うぞ? まぁ流石に反動で倒れるなんてことはねぇだろうが。」

 

 : そうか12.7mmは割と男でもスタンディングはキツいって言うもんなぁ。

 : 棗的にはどう考えてるん?

 

「アタシかぁ アタシは二人に好きな銃を買ってやりてぇ。マコの好きなマカロニ・ウェスタンの実用性のねぇ銃から華音の好きな現代的な最新モデルまでな。ま、金がねぇから無理だが多少食うもん無理すりゃマコにヘンリーのゴールデンボーイかAXEどちらかと華音にダニエルディフェンスのAR-15を買ってやれるとは思う。」

 

 : ヘンリーって調べたけどゴールデンボーイってのカッコイイな。

 : そういやぁ最近タクティカル仕様のレバーアクションて流行り始めてるって聞いたわ。

 : まぁレバーアクションてカッコイイからな。実用性は知らんが

 : どうなんレバーアクション。

 

「レバーアクションか? 悪くないぞ? 欠点はプローンが出来ねぇ事だな。あとヘンリーはアタシも好きだぜ。まぁ410であの金額は割高に思える。ゴールデンボーイも口径によっちゃありだな。アタシが撃ったことあるのは17HMRのライフルだったから17HMRにあの金額出すならもっと安いルガーの10/22 テイクダウンライフルを選ぶね。因みにアタシはルガーが大好きだぞ。ルガーマーク4 タクティカルは絶対欲しい一品だ。」

 

 : ルガー良いよねぇ ワイもあのフォルム好き。

 : 22口径というとルガーが真っ先に浮かぶよな。

 : ワルサーPPQやP-22思い浮かべたワイは異端児か。

 

「ワルサーPPQは知らねぇがP-22はやめとけ。ガキの頃ボブにねだって買ってもらったがジャムりまくりだ。P-99がかっこよく思えたから買って貰ったがかなりがっかりしたんだよなぁ。まぁWMPは欲しいがな。何気にパドル式のマガジンリリースって好きなんだわ。」

 

 : 棗って1911とかブローニングハイパワーとか好きなのにイロモノも結構好きなんだな。

 

「ケルテックみてぇなのは遠慮しておきてぇがな。VP70程度のイロモノは結構好きだぜ?キャリーなんかはしねぇがな。」


 : ケルテック好きなやつなんておるん?

 : おるでここに。あの何考えて作ったかわからんところに惹かれてまう。

 

 汐路は銃のことが全くわからないため置いてけぼりを食らっていたがリスナーと棗が楽しそうに会話をしているのを見て類友と言う奴なんだろうと考えていた。

 もちろん汐路はただボケっと話を聞いていただけではなく、先ほど入手した半魚人の鱗を水で洗い流し、乾かしそれを棗の持っていたツールナイフのヤスリなどで磨きサンプル品を作っている。

 華音もマコも偶にそれを眺めたり会話に口を挟みながら周囲の警戒などをしていた。

 

「で、どうすっかねぇ。 そういやぁどっかの会社から案件とかこねぇかなぁ。異世界にいるから商品とか受け取れねぇから商品代をすぱちゃでくれればレビューするんだけどなぁ。ちなみあたしは忖度なんか一切しねぇ。なぜならわざわざ異世界にいるアタシらにレビューを頼むくらいってんならそんな状況でも役に立つと太鼓判おしてる商品だろ? こちとら命かけてっからクソみたいな商品ならボロカス言うぜ? それでもレビューしてほしいっていうアウトドアブランドとかあったらよろだぜ。」

 

 : 何気に営業してくるよな棗。

 : まぁ異世界がガチだもんな。モンスターもいるみたいだし。

 

 そんな会話をしていると赤いスパチャが流れ始め、コメントがざわつき始める。

 

「ん? げっ 久瀬のジジイ? オイ華音。ジジィが大量のスパチャ投げてるぞ。しかもなんかアタシが誘拐犯扱いだしかなり切れてる。」

 

「ええっ!? おじいちゃんなにやってるの?」

 

 慌てて華音が駆け寄ると棗は華音にかわり周囲の警戒をすると行ってショットガンを手に取り汐路とマコのもとに向かった。

 

「あ、棗。なんか大変みたいね。」

 

「ああ、久瀬の爺がなんか喚いてやがった。華音はもうアタシの嫁だっつーの。いつまでも孫離れできねぇ死に損ないめ。」

 

「なっ なっちゃんが⋯⋯そうやって⋯⋯眼の前で⋯あお⋯⋯煽るからっ。 」

 

「まぁそう言うなあのクソジジイだって本気でキレてるわけじゃァねぇ。あのジジイが本気出してたらアタシは今頃ネットで犬相手に犯されてる動画が出回ってたり東南アジアかどこかでボロ雑巾見てぇな性奴隷でもしてる。あの爺にゃ小娘一人くらいなんとでもなる力があるからな。」

 

 いくらアメリカで特殊部隊あがりの退役軍人にしごかれ、生い立ちに寄ってやや歪み性根の腐った性格と悪辣な思考を持っていたとしても、棗は財力も権力もない一般的な女性だ。

 日本の表も裏でも顔が利き十分な財力と権力を持った男、それが華音の祖父だ。

 

「棗、そんなこと本当に⋯⋯。」

 

「お? 汐路は信じらんねぇか? 久瀬グループの会長だぜ? 出来るに決まってんだろ。まぁアイツも溺愛している孫の恋人だなんてちっぽけな存在にアメリカのマフィアみてぇなことは恥ずかしくてできねぇだろうがな。さて、リスナーはそっちのけになってる見てぇだし注意してくっかな。」

 

 棗は立ち上がると青い顔をしている汐路達の前から離れ華音のもとに戻っていった。

 

「おい。じじぃ、ここはアタシらのチャンネルだ。私的につかうんじゃぁねぇ。それともアタシらのチャンネル見てるリスナーに金さえありゃ何でも許されると思ってる老いぼれだって宣伝でもしてぇか? 華音と個人的にやりとりしてぇなら夜とかになんとかしてやっからそれまで待ってろ。」

 

「もう、おじいちゃんたらアカウントたくさん作ってスパチャしまくってコメントしてくるし。品がなくて恥ずかしいよ。」

 

「ま、そんだけあのクソじじいは華音を溺愛しているしな。なんならこの世界に繋がる方法を必死に見つけようとするだろ。今の科学でできるのかしらねぇが。っとすまねぇな。だが久瀬の爺がスパチャ投げまくったおかげで明日にはあっという間に資金不足は解消されるからな華音とマコふたりの装備を整えられる。」

 

 : チャンネル独占されたけど華音ちゃん達の装備が充実するなら我慢できる。

 : はよ試射みたい。

 

「まぁまてまて、まずは購入する銃の説明だな。アタシはロックアイランドアーモリーRIATAC ULTRA 10mmだな。別に10mmなら何でもよかったし何なら45ACPでも良かったがアタシはRIAの銃を触ったこと無かったからこの機会に触ってみる。あとスプリングフィールドのローニンやSIGのxcarryなんかより安かったってのもある。」

 

 : SIG好きなんだけど最近なんか色々聞くんだよなぁ。

 : P226あたりはすごくいい銃なんやけど。

 

 やはり銃を目的に見に来ている古参のリスナー達はSIG社のP320,M17、M18の暴発の恐れがあるという噂や新型ライフルがイマイチだという話を知っていた。

 

「どうだろうな。ボブがでたばかりの頃P320を買って毎日キャリーしてたが暴発は無かったと言ってたな。流石に今はキャリーしてねぇ。『やはり新物に飛びついちゃだめだな。やはり信頼できる1911だ。』って笑ってたが。ま、アタシが1911やブローニングハイパワーとか古い銃を好むのはそういう理由だ。」

 

  : へぇ で、棗の古い銃の定義ってどの編?

 

「んー M9あたりも古い銃とかでいいと思うぜ? グロックもまぁ古いと言っても良いぞ。まぁアタシはクソみたいなグロックのトリガー好きじゃゃねぇが。600ドル払ってGEN5買うぐらいなら300ドル程度でルガーのRXMっていうグロックGEN3のクローンを買うぞ。」

 

 : 棗ってグロック嫌いなのか。ドコの警察も軍もグロック使ってるからかなり性能いいのかと思ってた。

 : そこはシューターと本職の考え方の違いじゃないか?

 

「だろうな。警官からしたらトリガー引いたら確実に発砲してくれて暴発の危険性さえなきゃ何だっていいからな。今はストライカーファイアでポリマーフレーム、レイルとオプティックレディが主流だからわざわざグロックなんか持たなくてももっとトリガーがいいハンドガンはある。趣味でもつなら好きなの持ったほうがいいぜ? まぁグロックが好きってんならそれはそれでありだ。」

 

 : その全部が1911に当てはまらないんやが?


 リスナーが1911はポリマーフレームでもなく、レイルもなくオプティックレディでもないことに棗にツッコミを入れた。


「それこそ趣味で選んでるからな。あくまでもハンドガンはサブアームだし、町中でのセルフディフェンス用だ。そして次は華音の銃だ。」

 

 ちらりと棗が華音に顔を向けるといつも通りのニコニコした顔を向けているがその目は明らかに何かを期待し楽しみに待っている様子だ。

 

「華音はアタシが1911やショットガンっていうキャパシティ少ない部分を補うからな。ハッキリ言ってウチの主戦力は華音だ。幸い華音は最新鋭装備好きだしな。アタシやマコみてぇな変なこだわりはねぇ。だからダニエルディフェンスのクソたけぇ14.5インチバレルのARライフルV7を装備してもらうぜ。」

 

「やった。スコープやオプティック、Cグリップもつけていいよね?」

 

「お、おう。久瀬の爺のスパチャだ好きに使ってくれ。だがあんまり高いスコープは勘弁してくれよ? どうせアタシらド素人の腕じゃそこまでの距離は必要ねぇからな。そしてマコはHenryの.410AXEだ。ショットガンだがアタシとは運用目的が違う。アタシはスラグとバックショットを使うのに対しマコにはバードショットとスラグを持ってもらう。」

 

 : バードショットでモンスター相手にできるん?

 

「いや、流石にモンスターばかり相手にできんだろ? 普通に毒蛇とかに対し9mmを当てれる気はしねぇからな、害虫駆除とか小動物狩り目的だ。リトモンみてぇな電気ネズミだのいるかもしねぇだろ? 生きたままフリマに出すわけにはいかねぇだろうが。」

 

 : リトモンみたいなのも実物にしたら恐ろしいよな。


 そう言い棗は能力でダニエルディフェンスのDD4V7SLWとロックアイランドアーモリー TAC ULTLA 10mm 、henry .410 Axeを購入した。


「アタシも実銃をこんなに一気に買うのは初めてだぜ。いやまぁアメリカの国籍ねぇし買ったのはこの世界に来てからだが⋯⋯。V7が2250ドル、タック ウルトラが840ドル henry Axeが1212ドル全部で4292ドル日本円で約65万円⋯手持ちの資金は残りもう半分だ⋯⋯。」


 : 棗がAxe高いって意味がわかるわ。どう考えても.410に1212ドルは⋯⋯。

 : V7ってやつ凄い高いけどそんなに良いの?

 : 少なくとも二十歳ソコソコの日本人の女が持つようなもんじゃないとは思う。

 : それ言ったら銃全般そうだろ? 日本の二十歳位の女なんかブランドバッグとかそういうもん買うだろうし。


「あちゃー これじゃオプティックやスコープは明日以降かなぁ。」


 華音がションボリとしながらそう口にした。

 

 

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