第10話

  マコが能力を使い配信を開始すると棗と華音がカメラ代わりの眼球の前に立ち、日本にいた頃のように開始の口上を口にした。

 

「あー ガンフリークシスターズのチャンネルにようこそ。ボスの棗だ。」

 

 棗がだるそうに挨拶をしその隣に立っていた華音がいつものように元気に挨拶を始める。

 

「なっちゃんの頼れる相棒、嫁の華音です。で、いつものことだけど恥ずかしがりなマコちゃんはカメラマン。そして⋯⋯昨日見てくれる人は知ってると思うけどゲストの汐路ちゃん。まぁゲストっていうかこれから異世界で生活するにあたって協力しあうから新規メンバー扱いかな? さ、汐路ちゃん挨拶して。」

 

 急に振られカメラを向けられた汐路は慌てふためく。

 

「ああ えっと昨日からお世話になってる汐路ですよろしくお願いします。」

 

「汐路ちゃんは他のキャンパーさんたちのグループでモンスターに襲撃されてバラバラに逃げてきたところを保護したんだけどチートスキルって奴が私達と相性良かったから仲間入りしましたー。」

 

 そう言いながら進行を仕切る華音がパチパチと手をたたき始めた。

 

「てなわけであれだ。コレまでアタシらが日本にいた頃の配信と、これからの配信は少し毛色が変わってくる。つっても、大幅な路線変更はねぇアタシらのチャンネルは銃とシューティングのチャンネルだ。ただ今までエアガンで遊んでいたのが実銃メインになったり、ペーパーターゲットがゴブリンだのオークだのよくわからねぇモンスターに変わるってのと、異世界の観光滞在記になるってくらいだな。アタシや華音、マコがピアノの演奏がメインなのか際どい格好のコスプレがメインなのかわからねぇようなお色気配信見てぇなことはしねぇぞ。ワンチャン、汐路が際どい水着で腰を振ってくれるかも知らねぇが。あと今までは趣味で配信してたからスパチャなんか求めてなかったがこれからは露骨におねだりするぜ。アタシらも異世界でモンスターに食われたかねぇからな。」

 

「するわけないでしょ。」

 

「そうそうメインは銃のチャンネルだからね? 汐路ちゃんが的になってくれるだけだよ?」

 

「ええっ? 何可愛い顔して笑顔で恐ろしいこと言ってんの!? このこサイコパスか何か?」

 

「おいおい華音、サイコパスキャラはアタシの持ち味なんだから奪うなよ。まぁ茶番はここまででいいか。まぁ今日もアタシらは人の生存圏を探して探索をするが幾つか報告があるぜ。まずは昨日貰ったスパチャが既に現金化出来てる。多分マコの不思議スキルで配信してるからだとは思うがな。だから昼にあらたに銃を購入するところを配信するぞ。そしてもう一つ報告だ。アタシの異世界で銃を買ったりするのに日本円が必要なんだが⋯⋯なんと新規メンバー汐路はフリマという能力を持っている。つまり異世界の不可思議トンチキアイテムを売ることが出来るから楽しみに待っててくれ。汐路、フリマのアカウントとかはどうなってんだ? 便乗やカタリがでるかもしんねぇからなその辺は周知させておかないと。」

 

「アカウントは恥ずかしいけどsiosioって名前です。そのまんまですね。」

 

「だとよ。汐路以外にもひょっとしたらフリマスキルを持ってるヤツもいるかも知れねぇがそこはわからねぇ。汐路以外のアカウントで異世界の品が出ててもアタシらは一切関係ないからな? 騙されてゴミを掴まされても自己責任でよろ。」

 

 そう言いながら棗はいつものように胸ポケットからタバコをとりだし吸い始める。

 

「あと何か報告することあったっけ? なっちゃん?」

 

 マイペースな棗がタバコを吸い始めた為、進行を任された華音が慌てて棗に確認に入る。

 

「んーねぇだろ? あったとしても今覚えてねぇんだ大した事じゃぁねぇ。それよりも探索の続きだな。つってもこのデケェ湖を水源にしてるかも知れねぇ村を探して周囲を歩くだけだし見渡しも悪くねぇ絵面は地味で代わり映えがねぇからな? ま、こんだけ見渡しが良けりゃアタシと華音で周囲を警戒するから汐路はマコと一緒にコメントでも読み上げて質問に答えたりしていてくれ。」


 そう言いながら歩き始めていきあとをついていく二人はマコの眼の前に浮かぶ半透明なホログラムのような画面に流れるテキストを読み質問に答え、華音はソレを後ろから見舞っていた。

 

「私がなんの銃を持っているかかー。 私はまだ持ってないね。危ないから落ち着いて練習するまではもたせられないんだって。銃の知識は0だしね。」

 

「ど、どうやっていせ⋯異世界にっ 転移できるかって⋯⋯わっ私にもわ、わからない。ぐ⋯偶然? 運が⋯⋯わる⋯⋯かったから?」

 

「一緒に来たメンバーは心配じゃないかって? 全然。だって何人かは眼の前で死んじゃったし彼氏なんか私を突き飛ばして逃げていったのよ? おかげで死にそうになったんだから。」

 

 汐路が死にかけた話をすると戦闘を歩いていた棗が口を挟んできた。

 

「へぇ なかなかクズな奴じゃねぇか。もし生きて会うことがあったらアタシが始末してやろうか?」

 

「良いよ別に。 恨んでるけどおかげでこうやって棗のグループに入ることできたし。せいぜいあいつが目の前に現れたら美味しそうにコーラ飲んでハンバーガーでも食べて見せびらかしてあげるくらいだよ。」

 

「ぷっ あははは。おもしれぇ。そんときゃ腹いっぱい食ってやろうぜ。フライドチキンでもバーガーでも山ほど買ってな。あ、支払いはまぁおまえらのスパチャだよりだがな。」

 

 そんなつぶやきに意外にもコーラ代だのバーガー代だのと少額ながらスパチャが流れ始め、マコと汐路が一人ひとりにお礼を言っていく。

 

「そういえば昨日の配信で一番投げられてたのはマコだったんだが、着の身着のままでここに来てるアタシらは全部をマコに使ってやる余裕はねぇ。あまり好かれてねぇアタシのメシ代とかにもなるし新しい銃はマコじゃなく華音のライフルになる。マコは銃を扱えるがアタシみたいな攻撃的な性格じゃァねぇからな。」

 

 : 別に棗のことを嫌ってるわけじゃないぞ? ただ棗より華音ちゃんやマコちゃんが好きなだけで。

 : そうそう。見るだけなら棗も美人だしな。

 : それに何人か棗派っていうマイノリティもいる。

 : 棗派はマゾい奴か生粋の銃オタクとかだろうな。

 : ワイはボブパパ派

 : ボブたちまで入れたら多分棗の人気はもっと落ちるんじゃね?

 : ゲストのおっさんに負ける女性配信者なんかおらんよな?

 : そ、そんなやつ棗くらいだろ? そのゲストのおっさんに唯一の長所が負けるんだから。

 : 銃の腕も知識も胸のデカさも負けとるもんなぁ。

 : 棗は絶壁だもんなぁ。

 

  「あん? 乳なんざ射撃の邪魔だろ? それにアタシはAカップはある。なんならギリギリB無いくらいで限りなくBに近いAだ。」

 

 : なんだよ限りなく透明に近いブルーみたいな言い回しは。

 : 無い乳の負け惜しみか?

 : いや、棗は本気で胸を気にしてないからなぁ。

 

「ま、アタシに乳はねぇがアタシはマコのデケェ乳に顔を埋めたり吸ったり揉みしだいたりできるからな。てめぇらとは違うんだよ。なんならアタシは華音のも吸えるし揉める。乳だけじゃねぇがな。」

 

 : ど、どこを舐めたり揉んだりしてるんでしょうかねぇ?

 : うらやまけしからん。

 

「ほらほら、なっちゃんそういう事言わないの。エロ売りはしないんでしょ? みんなも下品なのはだめだよ?」

 

 歩きながらチャットの質問に答え進んでいたが棗が急に立ち止まりしゃがみ込むと即座にそれに反応した華音とマコも歩みを止めしゃがみ込み、反応が遅れた汐路はマコと華音に腕やズボンに手をかけられ身を引くさせられる。

 

 : 何気にマコちゃん反応良いな。棗がしゃがんですぐに反応してた。

 : ハンドサインも声がけもなかっただろ今。

 : 流石に汐路は無理か。

 : というか、反応できたマコちゃんと華音ちゃんがおかしいんじゃね?

 : 多分、棗がしゃがみ込む要因の何かの方に反応してるんじゃないか?

 

「ん。当たり。わ、私は前見てたから⋯⋯。」

 

「私はなっちゃんが立ち止まった瞬間からなっちゃんの動きに注意してたよ。だから反応できた。」

 

「ええ、この子達何!? こわっ 本当に一般人? どこかの特殊部隊とかじゃないの?」

 

 : まぁ それが普通の女の子の反応よな。

 : でも流石に特殊部隊の人を舐めすぎ。こんなもんじゃない。

 : ボブ「せやな。」

 : ガチの特殊部隊あがり鍛えられてはいるが流石に現役の特殊部隊と棗たちを比べたらあかんやろ。

 : 特殊部隊どころか普通の軍人の方がプロフェッショナルだしな。棗達はお遊びやし射的シューターや。

 : なおこれからは毎日実戦まみれの模様。

 : 軍人や特殊部隊との差なんかどうでもええ一体何が起きたん?

 

「マコ、ありゃなんだ? 河童ってやつか?」

 

「は、半魚人? かな。ファ⋯⋯ファンタジーゲーム風 に、言うと。サ⋯⋯サハギン?」

 

「アレって友好的だと思うか? リスナーにも見えるようにしてやれ。」

 

 マコが浮かぶ眼球の位置を動かし、湖のほとりを木製の槍か銛のようなものもって歩くサハギンの群れを映し出していく。

 

 : 見た目的に敵対モンスとみた。

 : 銛? みたいのはもってし一定の知能はありそう。

 : アレがこの世界の人類種だったらどうする? 街は全部水中とか。

 

「あー その発想はなかったな。そうかアレがこの世界の人類種って可能性もあるのか。だとしたらアタシらは村の中には入れんな。溺死しちまう。とりあえず最大10ヤードまで接近を試みるか。」

 

 : なぜヤード?

 : そりゃ棗がアメリカ育ちのシューターだからだろ?

 : 10ヤードってどんくらい?

 : ほぼ九メートル。9.14mだな。

 : ヤーポンとかわからんからな普通。

 : アメリカ人てなんで気温をファーレンハイトで表すん? なんでヤーポンやマイル表記なん?

 : しらんがな。日本だって何故か住宅にかぎりメートルやなくて何畳とかって表したり坪だの使うだろ? 建築現場じゃ未だに寸尺で話たりするしな。

 : 米もグラムやなくて一合とかだもんな。因みに1合ってどんくらい?

 : 180ml 大体150gだったはず。

 : 何気にこの中に博識な奴いるな。そんなポンと普通は出てこんやろ。

 

「因みにアタシもファーレンハイト表示は意味わからんと思うね。ヤードもポンドも日本じゃ聞かねぇもんな。さて、第一村人になるかも知れねぇ半魚人野郎に挨拶でも行ってみるか。華音、マコすぐに抜けるようにしておけよ?」

 

「もち。」

 

「う、うん。」

 

 

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