第9話
セーフハウスを出た棗は、モンスターとの遭遇時の対応を汐路に教えこんでから隊列を組み歩いていた。
先頭を歩くのはもちろん棗だがその後ろに続くのはマコ、そして汐路で最後尾を華音が歩いていた。
進行方向からのみモンスターの襲撃を受ける訳ではないため、棗の次に戦闘技術のある華音が後方からの奇襲などを警戒し、棗や華音ほどではないが銃を扱えるマコが汐路の護衛として近くに待機している。
「マコ、日本時間で10時になったら配信を開始しようぜ。そんでもって昼くらいになったらお楽しみタイムでスパチャを稼ぐ。」
「お、お楽しみタイムって? ま、まさかエッチな配信でも……す、するの?」
「んーなわけねぇだろ。なんで自己承認欲求の塊のバカ女みてぇな真似しなきゃなんねぇんだ。アタシらのチャンネルのお楽しみタイムっていったらシューティングか銃紹介に決まってんだろ? せっかくだスパチャを使って新しい銃を手に入れるところを配信するんだよ。」
棗はニヤリと笑ってみせた。
「あっ そういうことかぁ。なっちゃんあったまいいー。」
棗の思惑に気がついた華音が声を上げると汐路がどういうことなのか華音に聞いた。
「多分スパチャが手に入ったことをリスナーに報告するのと同時に新しい銃の候補とかを聞くんじゃないかな? スパチャをしたら撃って欲しい銃を選ばせてもらえるかも知れないって思わせたり。」
「まぁ いくらスパチャしようが余裕がねぇ時にubeltiのブラックパウダーのアンティークだのケルテックのイロモノだのは選ばねぇけどな。もちろんデザートイーグルだのトカレフだのもな。」
銃のことなんかは知らない汐路だったがデザートイーグルの名前は好きなアニメやゲームでも名前を聞いたことがあり俄な知識で凄い銃だと知っていたため疑問に思った。
「え? デザートイーグルって凄い銃なんじゃないの? 最強のハンドガンじゃなかった?」
「ああ? いつの話だよ。それにデザートイーグルは信頼性がねぇ。いくら威力があってもジャムりまくる銃はつかえねぇんだ。」
「じゃむ?」
「排莢不良や給弾不良のことだ。トリガーを引いたら確実に発砲できるこれが銃に求められる最大の条件だぞ? まぁ弾が原因の時もあるし銃との相性てのもあるから確実なんてのは無理なんだがアタシが1911って言う100年以上も前に設計された銃を好む理由がコレだ。天才ジョン・ブローニングの設計の1911やブローニングハイパワーは設計こそ古いが信頼性が高いんだよ。もちろん1911なんかはいろんなところから販売されてるから粗悪な1911ってのもあるがな。華音の欲しがってるM9も1985年に制式採用された古い銃だが今でも現役だしな。逆にM9に変わって正式採用が最近決まったM17やM18ってのは本当かどうか知らねぇが暴発事故の報告がされてる。アタシはP210やP226.228といったSIGの銃は好きだがM17やM18、P320は今のところ信用できねぇし使う気もねぇ。」
「よくわからないけど、古いほうが信頼できるってこと?」
「古けりゃ良いってもんじゃァねぇが、古いのに今でも人気のある銃ってのはそんだけ信頼性の高い銃だって思ってくれりゃぁ良い。あとは古い銃は構造がシンプルだってのも安心できる要因だな。セミオートのハンドガンよりリボルバーの方が確実性が高いし故障も起きねぇ。」
棗はガンフリークだしいろんな銃をコレクションしたいとは思っているが、多種多様の銃を所持しても護身用にキャリーするのは限られた銃になるだろう。
コレクションアイテムとツールは全く別物なのだ。
マコの欲しがるubeltiのmodel3などはトップブレイク式のリボルバーで南北戦争時代の銃だが実用的かと問われると疑問が残る。
それはトリガーを引けばハンマーが落ちるという単純な構造をしているリボルバーだがトップブレイク式という構造上脆いという欠点があるためだ。
それでも棗がそれを良しとしているのは、マコが戦闘要員ではないと考えているためだった。
もし戦闘要員だと考えている華音がubeltiのcolt navyあたりをメインに持ちたいといったら棗は確実に却下するだろう。もちろん資金に余裕がありお遊びに使うために購入するというならば笑顔で許可するのだが。
「なっちゃんはツールはツールだって割り切るタイプだからねぇ。一定額を超えるようなカスタムガンなんかも買わないだろうし。」
「なっ なっちゃんは、お⋯⋯お金があっても⋯⋯PIT VIPERとか買わなそうです、」
「買うわきゃねぇだろ。ハンドガンに7000ドルなんか出せるか。7倍の金額だす価値はねぇよ。多分ボブだって同じ事言うぞ? 因みに汐路にはそのうちトレーニングさせて銃をもたせるが何が良いと思う? アタシはセミならこのまま華音のXDを持たせて華音がP365だのM9だの好きなのをもちゃいいと思ってる。」
「それでいいんじゃない? 汐路ちゃんは銃に詳しくないし拘りもないでしょ? それこそなっちゃんと同じでツールでしかないんだから考え方は違うだろうけどね。」
「わっ⋯⋯わたしはリッリボルバーが良いと思う。扱い⋯心配。」
マコは棗や華音では気が付かないセミオートハンドガンの欠点を理解していた。棗や華音はある程度のことは器用にこなすことが出来る。
何でも出来すぎてしまうのだ。それに比べマコは凡人だ。
吃音症や豆腐メンタルのメンヘラだが他はごく一般的であり体力と筋力が無いと言われているがソレは野生児みたいな棗と比べたらという話で同年代のスポーツをしないインドア派の女性よりはマシなレベルではあるのだ。
日本のヤクザなどがリボルバーを愛用するのにはわけがある。
リボルバーは弾倉に弾を入れたまま保管していても何ら問題はない。それこそ10年間放置していてもトリガーを引けば発砲できるだろう。
だがセミオートのハンドガンは恐らく一発二発は出るだろうがソレ以降はマガジンのバネが弱くなってしまい給弾不良を起こしてしまう可能性が出てくる。
セミオートハンドガンは常日頃のメンテナンスを欠かさないことが必要な繊細さを持っている。棗や華音、マコは銃が好きなため苦にもならないし楽しんで行えるが興味のない汐路がきちんと出来るかと言えば怪しいところだった。
そしてジャムった場合素人は必ず何らかの予期せぬアクションを起こしがちである。それが戦闘中ならなおさらだ。
マコもビルドリルなどトレーニング中ならいざ知らず実戦でジャムを起こせば焦ってしまうこと間違いなしである。今まで銃に縁のなかった汐路は尚更だろう。
「セっせっ セミはメンテとかとかっ ジャム怖い。」
棗と華音はそんなマコの短い説明でもすぐに言いたいことを理解した。
「ああそうだな。汐路にゃハンドガンよりリボルバー持たせたほうがいいか? まぁ今直ぐってわけでもねぇ。アタシたちの装備が一通り揃って更にドコかマシな仮拠点を手に入れてからだな。」
まずはガスガンを使ってのトレーニングをさせてから実銃を撃たせそれからキャリーさせようと棗は考えていた。
「なっちゃん、それでお楽しみタイムで幾つ銃を買うの?」
華音は割と刹那的に生きる棗が百三十万という大事なリソースの大半を消費してしまわないか不安だったが意外にも棗はきちんとそのへんを考慮していた。
「金額にもよるだろ? まずは5.56mmか7.62mmでも良いからライフルは一つ欲しいな。アタシらの持つ銃のアドバンテージは威力じゃねぇ距離だからな。相手の攻撃が届かない距離から先手を打つのがアタシらのアドバンテージだそれを活かすにはやはりライフルが必須だぜ?」
「そ、そうなると かっ華音ちゃんの⋯⋯メインかな? なっ⋯⋯なっちゃんはショットガンが好きだし。」
「まぁそうなるな。マコは護身がメインで戦闘用要員じゃァねぇからな。銃を使ったことのねぇ汐路は論外だ。で、華音のメインとなるライフルの金額によっちゃぁアタシのサブウェポンのハンドガンで終了になるかそれともマコのおもちゃまで手に入るかが決まる。できりゃぁスパチャの殆どがマコの乳揺れのおかげだったからマコにたくさん買ってやりてぇがな。」
「わっ 私より⋯⋯なっちゃんに使ったほうが良い⋯⋯あっあまり得意じゃないし。」
「ダニエルディフェンスのAR-15ってありかな?」
華音はやや高額な高品質なライフルの名前を棗に言うが棗はそれをあっさりと許可した。
「まぁ、無難ちゃぁ無難だな。 ある程度の質のライフルは2000ドルは越える。それこそド素人のアタシが400から500ヤードの距離を当てるにゃぁそれなりの質のライフルが必要だろ?」
「2000ドル? 2000ドルって30万でしょ? 大丈夫なのそんなに使って。」
汐路は驚いて声を上げる。
「いや、ゲームじゃァねぇんだ死んだらコンテニューってわけにはいかねぇんだぜ? 死んじまったら金がいくらあっても無駄だ。装備に金をかけるのは当たり前だろ? もちろんここが安全な街の中ってんなら話は変わるがな。まぁ2000ドルのライフルにスコープやオプティックをつけたら3000ドル近くになるからあとはアタシのハンドガンで終了ってところか。まぁこの話は配信でもするから運がよかったらスパチャを投げてもらえるだろ。なんなら汐路が際どい水着でもきて媚びてくれてもいいぜ? アタシ達はそんな真似しねぇがな。」
「私だって嫌よ。それに私は棗たちほど美人じゃないし。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます