第8話
汐路が目を覚ますとすでに棗たちは起きているらしく部屋の中央で話し合っていた。
「おいおい、どうなってんだこりゃ? いくら何でもおかしいだろ?」
「まぁでも、配信自体ネット回線じゃないし……。」
「でっ……でも、こっこれで……よっ……余裕ができでき……。」
フローリングに直で寝ていた汐路は痛む腰を我慢しながら身体を起こすと棗達に何があったのか問いただした。
「ああ、昨日汐路に会うまでずっと配信してたろ? スパチャをそれなりの額投げられてたんだが……それがもう現金として手に入った。即日決済されるなんておかしいだろ? 動画配信サイトの収益化はしてるが今までこんな事無かったぜ?」
「それは……やはり異能で配信してるからでしょうか?」
「まぁそれしか考えれねぇな。」
汐路はフローリングの上に無造作に置かれた札束に目をやる。
汐路は小さな印刷会社で働くオペレーターだ。
そんな彼女の一体何ヶ月分の給料かわからない札束に動画の配信というのは儲かるもんだなと、羨ましくおもっていた。
日本に戻ることが出来たら自分も動画を配信しようと決意するほどの量の一万円札がそこにはあったのだ。
「一日でこの額ですか……? 一体いくらあるんです?」
「百三十万ほどだな。とはいえ、食費や装備代、日用品に家具なんかも買うこと考えたらすぐに尽きちまうぜ。配信の投げ銭なんざいつまでもして貰えると考えねぇほうが良い。安定して稼ぐなら汐路のフリマのほうが宛になると思うぞ?」
「だといいけどね。」
「フリマかぁ。クラフトしたのを売るのも面白そうだよね。なっちゃん何気に多才だもん。レザークラフトとかしたり木製グリップ作ったりと。マコちゃんも編み物や刺繍できるもんね。」
棗はテキサスで暮らしていたときボブとともにハンティング等に行くことが多くハントしたからにはその鹿の皮を鞣しレザークラフトなどに、チャレンジをしていた。
狩るからにはその生命を無駄にしないよう鹿の角を削りナイフのハンドルを作ったりとボブにいろいろと教えてもらっていた。
「ま、アタシの作るもんはマコの刺繍や編み物みてぇに店で売れそうなクオリティってわけじゃぁねぇがな。汐路はフリマなんて能力得たがハンドクラフトで販売とかしてたのか?」
「う、うん。 そんな大したものは作ってなかったけどね。陽キャに見えるかもしんないけどアニメとかゲームとか好きでオタク側だから……。」
恥ずかしそうに答えた汐路だったが昨日の昼からまともに食事をしてないためお腹が空腹を訴えかなり大きな音でなり始める。
「そういやぁ 汐路は昨日夕飯とか食ってねぇんじゃねぇか? 話は飯を食いながらにでもするか。」
棗は立ち上がり部屋の隅に置いてあった荷物の横にずらりと並んだ缶詰やカップラーメンからカレーヌードルを手に取り汐路へと放り投げた。
「持ってきたカップラのうちカレーはアタシしか食わねぇから汐路が、食っていいぞ。」
「棗さんは?」
「アタシはコイツがあるから平気だ。」
そう言いながらアメリカでは定番の甘すぎるチョコバーと日本でおなじみのフルーツ味のカロリーバーを手にとって見せた。
「カップラで足りなきゃおやつとしてもってきたドリトスもあるし缶詰とかもあるがな。マコ、華音。汐路は昨日から飯を食ってねぇから先に湯をあげてもいいよな?」
「もちろんだよ。」
鍋にペットボトルの水を注ぎ小さなガスのバーナーに火をつけると棗は鍋を折りたたみ式の五徳の上に起き湯を沸かしはじめる。
「さて金も百三十万とかなり余裕があるように見えるが……実はそんなに余裕はねぇってのはマコと華音は気がついてるよな?」
「まぁねぇ。私達現代っ子だものこの世界が遅れてても近代レベルの文明レベルじゃないと生活なんて無理だよね。井戸水だって飲んだらお腹壊しちゃうだろうし。」
「おっ……お布団でっ 寝たい……よ。」
「うんうん。キングサイズかクィーンサイズのベッドで川の字で寝ような。 まぁマコの配信の能力や、汐路のフリマで金を稼いでアタシの能力で買い物をして華音の能力で安全で快適な居住区⋯⋯とはまだいえねぇが魔石さえ手にははいればそうなる予定だ。割とアタシら4人で生活は完結できるがアタシらの配信のチャンネルって元々は女三人組っていう珍しい組み合わせの銃にかんする配信チャンネルだったからな。多分一番求められるのは銃によるモンスターとの戦闘や銃のレビューだ。つまり、飽きられねぇ為にバカスカ弾を撃ちまくらなきゃなんねぇし新しい銃をどんどん買わなきゃなんねぇ。アメリカ価格で買えるとは言え家具も着替えもねぇ生活だからな銃にばかり金をかけるわけにも行かねぇ。」
胡座をかいて座っていた棗は床においていたステンのカップにインスタントコーヒーの粉を適当に入れ湯気の立ち上がるお湯を注ぎ、手に持っていたチョコバーの封を開け一口齧った。
「でも、モンスターもいる世界だから武器は必需品だよね? 汐路ちゃんはモンスターに襲撃されたんだよね? やっぱりゴブリンぽいモンスターだった?」
「それとオークとかそんな感じのクマみたいに大きな二足歩行の豚みたいな顔のモンスターかな。豚ほど可愛い顔してなかったけど。」
「ふーん。アタシはゲームとかやらねぇから詳しくは知らねぇがマコや汐路はそういったの知ってんだろ? あとで詳しく教えてくれ。アタシらは銃を持っている分オフェンシブな方は多分かなり有利だろうが、魔法だのモンスターだのの攻撃を一発でも食らったらあの世行きの防御力だからな。それに敵対する可能性のあるのはモンスターだけじゃぁねぇ原住民や他の転移者もいる。特に転移者は同じようにチート能力ってのを貰ってるだろうしな。」
棗の言葉に無心でヌードルを啜っていた汐路がゴクリとそれを飲み込み口を挟んでくる。
「それなんだけど、人によって凄い違いがあるように思えるよ。貴女達三人はおかしすぎる。私もそうなんだけど……。マコちゃんや私なんか単体で見たらなんの役にも立たない能力だし。一緒に転移してきたウチらのグループもチートって言うほど凄いとは思えない微妙な能力が多かったんだよね。」
「そうなのか?」
「うん。まぁそりゃ魔法みたいに炎を出せたり電気出したりって人も居たけどさ。彼氏なんかは幻? 立体映像を映し出す能力だったよ?」
「まぁそいつも使い所に寄っちゃぁ凄い能力だとは思うけどな。」
「なっ……なっちゃん。 たっ……多分だけど……。て、転移してきたグループ毎に全員が協力し合えたら補える……そっそんな風にされてるのかも。わっ……私達三人は……かなり都合よく……おっお互いの欠点を……補えてるし。」
「てこたぁ、汐路のグループにもフリマの能力を補えるような能力を持っていたやつが居たってことか?」
「そういえば、車を買えるって人は居たよ。ただ車って高いしそう簡単には買えないしフリマで稼ぐなんて無理だと諦めてたけど。」
「なっちゃんも買えるんじゃない車?」
「いや、アタシは車に興味ねぇからブックマークしてなかったぞ。免許持ってねぇしな。フリマサイトで中古車なら買えるんじゃねぇか? ガソリンは手に入らねぇが。」
「そっか、ガソリンは買えないもんねぇ。でも車があれば移動も楽になるんだけど。」
「方法がなくはねぇがクソみたいに金かかるぞ。一つはスターリングエンジンを自作して蒸気で動く近世の車を作るってのと、もう一つは電気で動くEVなら魔石でこのセーフハウスから充電させるって手だな。ただEVの車の中古がフリマに出回るかが問題だから、満天やナイルで出力の高いモーターとか買ってEVを自作する形になるだろうな。」
簡単に口にするが棗も華音もマコもそんな技能を持っていないもちろん汐路もだ。
「棗はそんなことまで出来るのか凄いね。」
「出来るわけねぇだろ? そんなのはわかるやつに教えてもらいながらに決まってる。」
「この世界の人にわかるのかな?」
「は? マコの配信見てる暇人共に聞くに決まってんだろ。どうせパソコンの前でエロ動画見るしかやることねぇ奴らだ。ならソイツで色々調べてもらう。さ、飯も食い終わったしそろそろ探索するぞ。早く人里見つけて魔石を手に入れて風呂に入りてぇ。」
たった一日だがシャワーを浴びていないがモンスターの襲撃を受け森の中を走り何度も転んだりした汐路はやや薄汚れているし、ワキガという呪われた体質の華音は苦みのある香りが漂い始めていた。
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