第6話
食事を終えた棗は後片付けをしたあと、愛飲しているシガリロを吸いながら珈琲をすすっていた。
「アタシらはともかくテメーら暇人だな。もう夜だぞ?」
既に配信を開始してから9時間がたとうとしている。
: そりゃ異世界転移の配信なんて初めて見るしなぁ。
: そうそう。あのあとドラゴンと遭遇したんだとか聞いたら見てなかったこと後悔しそうだし。
: 始めは異世界転移疑ってたけど華音ちゃんが何も無いところに扉を呼び出して中に入っていったの見たら信じたくなったり
: ニュースで山梨のキャンプ場 集団失踪てやってたけどソレって棗たちの転移のやつ?
「多分な。 因みにアタシらは他のキャンパーとは別行動だからソイツらの知り合いがここに来ても答えれることはねぇ。強いて言うなら何人かはアタシらと敵対してそうだからそのうちやり合うかもしんねぇ。そんときゃ容赦なく殺す。」
: これってどうなるん? 法律的に。
: 現地の法が適用されるだろ? 日本国内じゃないから。
: 海外で殺人犯したときってどうなるんだっけ?
: 殺した相手が現地の人か日本国民かでも変わるんじゃね? 知らんけど。
: まぁ、やらなきゃやられるような殺伐とした世界だったら正当防衛になるんじゃないの? そもそも日本に戻ってこなきゃどうもこうもないだろ?
: いや、華音ちゃんの場合 久瀬グループの株価とかに影響するだろ?
: 孫って名乗ってるしねぇ。
「ま、たとえ敵対してソイツらを殺したとしても殺すところを配信しねぇし言わねぇよ。それにアタシらからアイツラに関わることはねぇよ。ま、華音みてぇな能力なきゃモンスターのいる世界でこうやって夜を過ごすなんて危険すぎるからなアタシらがどうこうする前に死ぬだろ。」
棗が正直の感想を告げる。
: その居住区ってどのくらいの広さなん?
「アタシら三人で限界だよ。6畳くらいのワンルームだ。それに見ず知らずの男は部屋の中に上げたくねぇよ。アタシらは女だぞ? かと言って女もいれたくねぇな。夜はアタシらレズりてぇもん。」
そう笑っていた棗の目が急に細くなり真剣な表情をし始め、リスナーもそれに気が付きコメントがざわつき始める。
「華音、マコ。警戒態勢。耳栓も忘れるな。」
要点を簡潔に告げ、脱いでいたジャケットを素早く羽織りチェストリグを身に着けた棗は側においてあったショットガンを手に取ると、ベルトからタクティカルライトを抜き取り周囲を照らし始める。
「誰か居るのか? キャンパーどもなら出てきな。出てこねぇならモンスターの類とみなして攻撃するぜ?」
ガサガサと揺れる草木を照らしながら、棗も華音もマコも銃を構えていた。
「ま、まって。モンスターじゃないから。」
そう行って草木をかき分け出てきたのは、一人の女だった。
それも服はボロボロになり汚れた日本人だった。
「おいおいどうしたんだ? キャンプ場の奴らは協力しあってたんじゃぁねぇのか? それとも男に襲われたか?」
「襲われたけど男じゃなくってモンスターにかな。 みんな能力を使って戦ってたんだけど数も多いしこっちは連携がめちゃくちゃだしで。」
「敗走したってか? 他の奴らは?」
棗はそうなるだろうなと予想していた。
「わかんない。みんな必死にばらばらで逃げたから。死んじゃった人も何人か見た。ね、ねぇ。助けて欲しい。せめて安全なところまででいいから。」
「安全な所か……それあるのか? 何を持って安全ていうんだ? 中世レベルの文明だったら急に来た知らない人物なんか奴隷にするかも知れねぇんだぜ? 人里に行っても安全とは言わねぇかも知れねぇ。それにアンタを連れていたら他の奴らも助けてくれってくるだろ?」
そして棗は女の言葉をまだ信用はしていない。
襲われた事自体嘘であり棗たちを襲撃したり、良いように使うための作戦かもしれないと可能性を捨てては居なかった。
「ソレに昼間にも言ったが協力ってのはコッチにも利点がなきゃなんねぇ。まずはテメェの能力を教えな。アタシらの能力はもう知ってんだろ?」
「私の能力はなんの役にも立たないと思う。フリマだよ? フリマ。フリマアプリで売る能力なの。」
ソレを聞き棗は目を大きく見開いた。
「は? フリマだと? ソレまじか?」
「そうよ。しかもろくな物持ってない今こんな能力あっても意味ないし。せめて何処かの街で商品を手に入れたりしないと……。ああでも日本円なんか手に入れても意味ないし……。」
「なっちゃん……この能力……。」
「ああ、やべぇな。今最後に必要なピースが手に入ったかもしんねぇ。おい、気が変わったテメェだけなら仲間に入れてやる。ただまだ完全に信用したわけじゃねぇがな。だがアタシらを裏切らねぇ限りテメェの安全はアタシら三人が保証してやるよ。」
棗達が急に心変わりをしたことに驚いた女に棗はゆっくりと進めと促した。
「そのままゆっくりこっちに来な。走って近寄ったら撃ち殺す止まれと行って止まらなかったら撃ち殺す。アタシらに背を向け逃げた時は放置するが次はもう敵としてみなす。」
「信用されてないかー。まぁ仕方ないね赤の他人だし。私も急に心変わりしたアンタたちを信用は出来てないけど縋るしか生き延びれそうにないからね。」
「ああ。別に100パーアタシらを信用しろなんて言わねぇよ極力守ってやるがどうにもならねぇ時、そうだなアタシの嫁のマコと華音二人とアンタを比べたらアタシは嫁たちを守ってアンタを見捨てるからな。だが、アンタの持つフリマって能力。それはアタシらが今必要としてる能力の一つだ。」
「そうなの? ああ、そういえばナイルや満天で通販できるんだっけ? だから日本円が必要だってこと?」
「ああ。日本円さえありゃアタシらは飯にも生活必需品にも困らねぇ。」
「でもフリマで何を売るの? いらないキャンプ用品?」
「んーなもん、売っても大した金になんねぇ。ソレよりも売れるもんがそこら中にあるだろ?」
そう言い棗は森の方を指さした。
「え?」
「異世界の植物。異世界のモンスターの肉や皮、骨なんかでもいいな。地球じゃ絶対に手に入らねぇレアなもんがそこら中に転がってる。」
「そりゃそうかもしれないけど、誰が異世界のなんて信じるの?」
「そりゃコイツラかな?」
そう言いながら棗はマコの肩の当たりで浮いている眼球を指さした。
「ひぃっ!? なにそれ気持ち悪い。目が浮いてる。」
: え? 目が浮いてるって何? カメラで取ってるんじゃないの?
「マコの……。こっちの胸のでかい嫁の能力は配信てやつでな。昼間から今まで異世界転移の経緯とかを動画サイトで配信してたんだぜ。あとマコの能力はなんかクソキモい目玉がカメラ代わりになってるぞ。」
: ええ。まじで? マコちゃんの肩に今クソキモい目玉乗ってるってこと?
: マコちゃんそのクソキモい目玉肩に載せて平気なのかー。
「め、目玉っていっても……生モノっぽくないです。に、匂いもないし、ネットリもして……してないです。」
: マコちゃん料理人だし目玉に慣れてる? マグロの目玉とかで。
: マグロの目玉か……始めてみた時は気持ち悪くて無理だったわ。
「おし、てめぇらそのうちこの女のフリマ能力でなんか売るぞ。ほしいもんあるか?」
: 華音ちゃんのパンツ。
: まこちゃんをくださいお義母さん。
: エリクサーとかポーションあったら買いてぇな。
: エリクサーやポーションて薬事法的にどうなん?
: 植物の種とかもヤバいかも知んないけど気になるよな。特に薬草とかその系は
: 材料工学専攻のワイはミスリルとかオリハルコンとかファンタジー金属やな。
: 民族衣装好きのワイは現地の民族衣装とか民芸品とかかな。
「華音の下着はアタシのだから売らん。あとマコもアタシのだからな? エリクサーやポーションか。名前は聞いたことある気がするな。植物の種とかかぁきちんと管理しねぇとやべぇことになる可能性あるよなぁ。」
「なんか私結構ヤバい人たちに助け求めちゃったのかなぁ。でも、この人たちより頼りになる人あの中には居なかったしなぁ。」
「因みにさっきからクソ見てぇなコメントしてる奴らは日本人でアタシら向こうに居た頃からの配信見てたリスナーと異世界がバズって来た新参者たちだ。馴れ馴れしい奴らは古参が多いぞ。ところでアンタ名前は?」
いつまでもテメェだのお前だの呼ぶわけにも行かず棗は女に名前を聞いた。
「あ、ああ。私は汐路。 片桐汐路っていうんだけどさ……。」
「わかった汐路な。 ん? 何だその顔?」
「いや、汐路って名前からかわれるかと思ってたから。」
「珍しい名前だとは思うがからかうほどか?」
: しおじ→しおじさん→おじさんとか呼ばれてたんじゃね?
: もしくはしお じーさんとかな。
「ああああっ やっぱりそうなるよね。おじさんも、じーさんよびもやめてほしかったのにっ」
「だとよ。てめぇら二度とそう言うなよ? アタシのことはボロクソ言ってても気にしねぇがな。そもそもアタシの場合8割がたテメェらの言う通り出し。」
: なにげに棗って懐に入れたあとは優しいし気遣いできるんだな。
: まぁ女限定だろうけど。
: いや、ボブ達オッサン連中にも気遣いできてるだろ?
: あれは気遣いってより敬意とか上官への対応って感じじゃね?
: なにそれ?
: 棗の昔のアーカイブ見ろ。アメリカ海兵隊あがりの養父とその仲間に囲まれてる
: で、俺達も汐路呼びで良いのか? さん付けだとアレだし。
「あー、なら汐路のことは今日からキャロラインとか呼ぶか?」
: キャロラインwww何処からでてきたんだよ。
: キャロライン良いじゃないかキャロライン。
: あーあ 棗のせいでキャロラインがキャロラインになっちまったよ。
「どうやらキャロラインになったぞ?」
「何なのコイツら? なんで勝手に改名してんの? 普通に汐路って呼び捨てでいいから。」
: 把握したぞキャロライン汐路。
: ファーwww女子プロレスラーのリングネームみてぇwww
「テメェら調子に乗んなよ? 嫌がってることはやめろ。てか、キャロラインはダサいのか? もっとメジャーなマギーとかのほうが良かったのかな。」
: いやそういう問題じゃないと思うぞ? 日本人になんでアメリカ人ぽい名前つけようとしてんだよ。
: 国籍は日本人だけど棗はアメリカ人みたいなもんだしなぁ。
: 国籍日本 思考はアメリカン 異世界在住とかやべぇな。
: マギーってマーガレットの愛称だろ? どっからでてきたんだよ。
「た……多分。偽名と言ったらジョン・ドゥやジェーン・ドゥだけど……なっ……なっちゃんの趣味だと……。マギーとかニーナだとお……おもう。」
: マギー……ニーナ。あ、わかったぞ元ネタ。コイツヤベェ名前汐路につけようとしやがった。
: 知ってるのか雷電!?
: 古いハリウッド映画が元ネタだ。ニキータのハリウッド版アサシンだな。
: マギーって偽名名乗ったあとフルネーム聞かれてマギー・フェラ◯オって名乗るシーンあるんだが……。
: 棗ぇ……お前まじかよ。
「えっ 私そんななまえつけられそうになってたの?」
「ん? ああ偽名だし何でも良いだろ。ソレにマギー、マーガレットの愛称なら普通だろ? 誰もフェラチ◯まで名乗れなんて言ってねぇよ。何ならアタシがコッチで偽名使うときそう名乗ってやろうか? マギー・フェ◯チオってなぁ。」
ゲラゲラと下品に笑い出す棗に女はやはり助けを求める人間を間違えたのかも知れないと頭を抱え、華音とマコはそんな棗を恥ずかしく思い顔を俯かせ、コメントはやっぱり棗はドコかおかしいと納得し始めていた。
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