第5話

「ていうことで、お料理の時間です。メインは私達の万能お料理人マコ先生と助手の私華音がお送りします。マコ先生今日は何を作るんですか?」

 

 急に料理番組のフリをし始めた華音が調理器具と材料の入ったバックパック2つを前に仕切り始める。

 

「か、華音ちゃん。わ、私が先生なの? 華音ちゃんも、お……お料理上手だよ……。」

 

 マコはそう言うが、華音が作れるのは簡単な料理のみであとはクッキーやケーキなどの洋菓子ばかりだ。ソレに比べマコは和食から洋食、中華までなんでも一通り作れる。

 何より色んな国の料理を知っているのだ。

 

「私も一般的なものは作れるけど、マコちゃん程色んな料理を知ってるわけじゃないからねぇ。」

 

「きょ、今日はみんなも⋯⋯しっ知ってるペッペイザンヌを作るよ。つ……作り方も……とても簡単だよ。」

 

「ペイザンヌ? フランス料理だよね? 小さい角切りの炒め物だよね?」

 

「う、うん。 人参、タマネギ、じゃがいもを……1cmくらいの角切りにして炒めるだけだよ。調味料は……塩とか胡椒とか一般的な物しか使わないから、み……みんなもお家で作ってみてね。」

 

 そういい、マコはバックパックを開け紐で縛り上げた布の包みを取り出し広げると何種類かの包丁が現れる。

 

「マコちゃん本格的だね。」

 

「ほ、包丁は安物はダメ。具材もダメにしちゃうし、危ないから。」

 

「な、なぁマコ。料理しねぇアタシが言うのもなんだがまさかソレだけじゃねぇよな? 肉は? アタシは肉食わねえと食った気にならねぇぞ?」

 

 棗はアメリカ育ちのため野菜はヴィーガンの食べる物という考えであり、肉をおかずに肉を食うタイプだった。

 フライドポテトやパンズに使われている小麦を野菜と言い張るアメリカンキッズと同レベルの食生活をしている。

 もっとも華音とマコと付き合うようになってからは二人が棗のために料理を作るためバランスの良い食生活をしているが一人するとすぐにジャンクフード塗れになるほどだ。

 

「そりゃ肉食獣のなっちゃんのためにお肉くらい用意してるよ? ね? マコちゃん。」

 

「う、うん。」

 

 クーラーボックスから肉の塊を取り出しまな板の上にソレをドンと置いたマコは大きな肉切り包丁ブッチャーナイフ手に取った。

 肉の塊はまだ調理もされてない状態だが、これは絶対に美味いやつだと棗に訴えかけておりゴクリと棗は喉を鳴らした。

 アメリカ育ちの棗好みのサシの少ない赤身肉に和牛に慣れた華音はあまり好みではないのだが料理上手なマコが作るのだからと期待する。


「な……なっちゃんは日本人好みのサシの多いお肉より筋繊維みっちりの赤身のお肉が好きなので……。」

 

 そう言いながら鍋やフライパン等をフルに活用し同時進行で料理を2品も三品もマコは作り上げていく。

 

 : いや……。各ご家庭に必ずあるような調味料って……。

 : 乾燥タイムって言うほど常備してるか?

 : ローリエもねぇよ……。

 : クミンパウダーもオレガノも普通は常備してねぇよ。

 : いや、ワイら独身男性だからやないか? 

 : ワイ既婚者 嫁に聞いたらそんなものはないと言われた。

 : マコちゃんて仕事コックさん?

 : さぁ? 棗はビアンバーのバーテンしてるってのは昔聞いたけど華音ちゃんとマコちゃんが何してるかは聞いたこと無いな。

 

「え? 私はニートですよーニート。 働きたいだけど働いたら働いたで絶対おじいちゃんが何かしらしでかして迷惑かけそうだから他所では働けないけど久瀬で働くのもねぇ。」

 

「ま、嫁は家を守る。旦那のアタシは金を稼ぐ。それで良いんだよ。それに華音がアタシら三人の中で一番貯金もあるし金持ちだったからな。」

 

 : 意外だな。一番しっかりしてそうな華音ちゃんがニートだなんて。

 : まぁ久瀬のお嬢様だからしゃぁない。

 

「わ、私……は。さ……作業……施設で……はた……働いてます。」

 

  : どういうこと?

  : 作業現場じゃなくて?

  : 多分、マコちゃんは社会復帰施設みたいな所で働いてるんじゃないかな?

  : 障害者の雇用施設みたいな所?

  : 多分、それと同系統かな。マコちゃんの話し方でわかるでしょ?

  : 吃音症って奴だよね?

  

 「そ……そう。だっ だっ だから。普通の……と、所だと……め、迷惑かけるから……。」

 

  「っても、アレだぜ? マコは吃音症なだけで他はちょっとメンタルがゼリーや豆腐より脆いってだけで普通だからな? そこで料理を作ってる。福祉施設の喫茶店てやつだな。」

 

  : 豆腐やゼリーより脆いメンタルって普通か?

  : いや、比較してるのがニッケルクロムモリブデン鋼メンタルの棗だからなぁ。

  : 棗からしたら俺達も豆腐メンタルだろ。

 

  「こらこら。みんななっちゃんだって女の子だからね? ちょっとしたことで傷ついたりすることもあるんだから。そんなこと言っちゃダメだよ。」

 

  華音はマコが作った料理を更に盛り付け、折りたたみ式のテーブルへ並べながらカメラに向かい可愛くメッと叱っていた。

 

「てか、アレだろ。コイツらアタシにやたらキツいよなぁ。別にカメラの向こうにいる何の接点もねぇ奴にどう思われようが気にしねぇしそもそも異世界に来ちまった時点で会うこともねぇが。」

 

「ほら、なっちゃんもそういう事すぐ口にするからだよ? 私たちのチャンネル見てくれるリスナーさん達だし、スパチャだってしてくれてるんだから。」

 

「あー まぁな。でもソレは華音やマコに対してだぜ?」

 

「それでもだよ? 私やマコちゃんに対してしてでも本当になっちゃんのことが嫌いなら一緒にいる私達にもしないんだから。」

 

 : そうそう。別に嫌ってるわけじゃないんだ。ただ、棗よりまこちゃんや華音ちゃんが好きなだけで。

 : 棗の銃の蘊蓄とか、射撃のトレーニングとかは見てて楽しいしな。

 : 似たようなチャンネルもたくさんあるけど日本人てなると少なくなるし女性となると棗くらいだもんなぁ。

 : しかも三人とも美人。

 : ボブお義父さんもでてくれてたしな。

 : テキサス編はマジで良かったよな退役軍人に囲まれてのスパルタトレーニングからガチでアポカリプス後の拠点造りとか。

 : しかもアレ、棗が10歳のころから始めた基地造りってんだからなぁ。

 : てか秘密基地造りって女がやるもんじゃねぇだろ。

 : それよりボブさん達退役軍人の真剣なゾンビ対策議論とかマジで面白かったな。

 

「おいおい、秘密基地づくりってのはアメリカじゃ普通だぞ? ゾンビはともかくな。つい最近だってロシアが戦争しかけたときアメリカじゃシェルターが売れまくったって話だ。」

 

 そう言いながら棗は皿の上から切り分けられたカリッとこんがり焼けたソースのついた肉を指で摘み口の中へと放り込んだ。

 

「こら、なっちゃん。つまみ食いはダメだよ?」

 

「うっ うめぇ……。アタシこんな上手いもん初めて食った。バーベキューの本場テキサスで育ったが本場はここだったのかも知れねぇ。マコの居るところが本場だわ。」

 

 : 移動する本場ってなんだろうか?

 : もうソレただマコちゃんの腕がいいだけって話だよな。

 : まぁ テキサス編でもマコちゃんと華音ちゃんが和食を作ってた時ボブ達がOMG連発してたしな。

 : ていうか、普段まこちゃんの飯食ってるのになんで棗はこんなに感動してんだよ。


「は? そりゃ バーベキューと普段の料理は別もんだろ? 上手い和食の店でジャンクフード頼んだらそれも美味かったら感動するだろ? ジャンクフードまで美味いのかよってな。」


 : 本場のバーベキュー ジャンクフード扱いか。

 : テキサスのソウルフードだろバーベキュー。それで良いのか?


「な、なっちゃん。美味しい? わ、私は料理くらいしか……取り柄……な、ないから。」


「寧ろすげえだろ? アタシなんか褒めれるところは射撃の腕だけだぞ? 日本じゃ何の役にも立たねぇし自慢にもなんねぇよ。ぶっちゃけていうと、アタシん中でアタシが一番役立たずなんだぜ?」


 : 知ってる。

 : 異世界に来てやっと輝ける女。

 : ほんとうにな。異世界転移してなかったらただの性欲の強いレズビアンだもんな。


「さ、冷めねぇうちに食おうぜ。テメェらは美味そうにマコの飯食うアタシらを見ながらカップラでも食っとけ。」

 

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