第4話

「てなわけで、そろそろ日も暮れるし人里は見つからねぇからここいらで探索を終わろうと思うぜ。」

 

 : あれ以降モンスターに遭遇しなかったね。

 

「だな。しねぇほうが良いわ。銃を撃つのは好きだが今は手持ちの金がねぇ弾だってただじゃァねぇんだぜ?」

 

 : ここでキャンプでもするん? モンスター居る所でキャンプとかぞっとするわ。

 

「華音が異空間にある居住区につながる扉を呼び出せるからその中で寝たりするぜ。魔石とかいうやつで電気ガス水道を使えるらしいが魔石ってのがなんだか知らねぇ。お前ら知ってるか?」

 

 : ラノベやアニメだとモンスターの体内からえぐり出せたりするよね

 

「まじかよ。流石に人型のゴブリンとか解体するのはキツいわ。せめて獣形とかのモンスターなら……。」

 

「流石のなっちゃんもヒューマンタイプは無理かぁ。」

 

「そりゃな。アタシはサイコパスでもなんでもないから人間を解体とか無理だぞ。あとゴブリンめっちゃ臭かったしきたねぇんだわ。吐きそうになったぞ。」

 

「そういえば、キャンパーさんたちは何処に行ったのかな? ゴブリンと戦ってた時は少し離れたところにいたけど。」

 

「さぁな。ま、アタシらの邪魔さえしなきゃどうでもいいわ。さてとアタシらはそろそろセーフハウスに入りてぇって所だが電気もガスも水道も使えねぇから真っ暗だしやることねぇんだよなぁ。寝るまでは焚火でもして外で時間でも潰すか。よし、アタシがてめぇらが異世界に来た時に役に立つサバイバル技術をおしえてやんぞ。」

 

 そう言い棗は左足につけとマチェットを引き抜くと側の植物を切りその枝を一本持ってきてカメラに向けた。

 

「こういう植物の繊維質の皮ってのはかなり便利だ。剥いで紐を作れる。紐が作れればスリングやボーラー、何だったら短弓とかも作れるからな。」

 

 棗は枝にナイフで切れ込みを入れると皮を剥ぎ内皮と外皮をわけ細いものと太いものを何本か用意すると半分におり捻りながら編んでいく。

 

「こういった木の繊維の紐をつくる時は必要な長さの倍は必要だ半分におって解けないように寄って編んでいくからな。できるだけギュッと捻っていくんだぞ? 解けちまうからな。」

 

 皮を剥いた枝を地面につきたてソレに引っ掛け半分におり捻りながら繊維の紐をあっという間に一本作り上げた棗は、今度は太い方の繊維を手に取り同じように2つに折り編んでいく。

 

「今太い方と細いやつを作ってるが細いのをたくさん作ったほうが目が細かい物が作れる。アタシらは銃って武器があるからスリングなんか使わねぇがスリングが必要で手早くつくる時は必要なところだけ細い紐で残りは太いやつで作って時短したほうが良いぞ? 手間ひまかけて時間を使えるなら細い紐をたくさん作って丈夫なスリングを作れ。石を飛ばすだけだがその威力は22口径並だぞ? 銃が生まれるまでの戦争で最も人を殺したのは弓じゃなくて投石だ。ある程度の速度で石を当てりゃぁソレだけで人は死ぬんだからよ。」

 

「なっちゃん。でもスリングでモンスターを倒せるのかなぁ?」

 

「さっきのゴブリンとかいうやつなら倒せるだろ。ドラゴンとかいたら無理だな。そもそもドラゴンとか居たら銃だって無理だわ。12.7mmも効かねぇんじゃねぇか?」

 

「なっちゃん、12.7mm……50BMGより、威力のある民間用のライフルってある?」

 

「一応あるにゃああるがアタシのブックマークしてるサイトでは扱ってねぇな。アタシらの持てる最大火力は50口径だと思っておいたほうが良いぜ。」

 

 そう言いながら編んだ木の繊維で出来た紐を使いスリングを完成させた棗は足元にあった適当な石を拾い上げると石を挟み込みスリングを振り回し始める。

 

「さて、スリングが完成したわけだがアタシもスリングで投石するのは初めてだ狙ったところに飛ばせない可能性もある。華音とマコも少し離れてくれ。」

 

 回転し遠心力で加速するスリングを手に、棗は大きく振りかぶると勢いよく前方に向け手にしたスリングの二本の紐のうち一本をリリースし石を発射した。

 

 風を切り飛んだ石は乾いた音を鳴らし木の幹に当たるが棗は納得いかない表情をしていた。

 ソレもそのハズ棗が狙ったのは前方の大きな木の幹であり、放った石が当たったのは右に1mは逸れた位置にある木の幹なのだ。

 

「ぜんぜん違うところに飛んでったわ。慣れが必要かもな。ま、9mmがあればそんな問題はねぇ。やっぱ銃は偉大だわ。あとアタシはミリガバが好きだからハンドガンはナインティーンイレブンを使うつもりだがキャパシティは正義だぞ? 単発火力なんかもとめるなよ? アタシは華音とマコっていう仲間が居るからメインをショットガンに、サブにナインティーンイレブンをなんて考えているがソロなら5+1のショットガンや8+1のハンドガンなんか正気を疑うレベルだ。もしアタシが一人だったらブローニングハイパワーと5.56mmのライフルを選ぶからな?」

 

「そういえばなっちゃんなんでブローニングハイパワーじゃなくってナインティーンイレブンなの?」

 

「あー そりゃなんだ。憧れたのが親父ボブだったからな。ボブが持ってたのがKimberの1911だった。それだけだよ。」

 

「ファザコンかな? まぁ家庭を顧みない母親と浮気男の父親よりボブおじさんのほうが立派にパパしてたもんねぇ。テキサスに行った時私達にも良くしてくれたし。」

 

「わ、私もボブおじさんはいいお父さんだと思います。カッコよかったです。」

 

「カッコイイか?」

 

 棗は首を傾げ、養父ともいえるボブの容姿を思い返してみた。

 

 退役しすっかりと太ったアメリカンサイズの大きな体にこれぞテキサスの農民というようなヒゲモジャだが優しげな顔。

 シューティングレンジでトレーナーをしているらしいが、生活は割とだらしなく未だに独り身だしアメリカ人らしくオシャレさの欠片もない年中オーバオール姿だ。

 

「あー マコ? マコって男の趣味悪いのか? いや、アタシらはビアンだからあんまり男のかっこよさってのは気にしてねぇがな。」

 

「だ、だってボブおじさんは、わ……私の話し方を……わ、笑わないし。」


 マコは吃音症だ。

 そのため吃る話し方を笑われてしまうこともあるのだが、ボブは優しくそれを受け入れくれていた。

 もっとも、いい大人がそういった吃音症を笑うなどそちらのほうがおかしいことなのだが近年はそういったおとなになりきれていない大人が増えていたためマコはつらい思いをしていた。


「ああ、見た目じゃなく中身がカッコイイってことか。ボブ見てぇなカッコイイ生き方の兵士に育てられたのにアタシはこんなチンピラやストリートチルドレンみてぇに育っちまって申し訳ねぇな。」

 

 棗は銃を手にするその意味を、重さをボフから教え込まれてはいた。

 だが、棗はその教えとは真逆であり割と軽率なタイプだ。

 

「ま、仕方ねぇか。ボブは兵士、アタシは昨日まではただの木の板やペーパーターゲット等を撃つだけのシューターだった。トリガーを引く意味も重さも全く違ったんだからよ。この世界に来て銃を扱うアタシを見て親父ボブはアタシを見限っちまうかもなぁ。」

 

 : なんか棗が真面目なこと言って黄昏とる。

 : いや、棗ってまじでおっさんの事尊敬してるからなぁ。

 : テキサス行った時のトレーニングとか厳しかったけどよー頑張ってたよな。

 : あのおっさん棗に何求めてんだよ。どう見てもアレ特殊部隊の兵士つくろうとしてるじゃねぇか。

 : 片手負傷した状態でのマガジン交換の訓練とか明らかにおかしいことやってたもんなぁ。

 

「ま、将来テキサスに行って暮らす予定だったしな。銃の扱いには慣れていたほうが良かったんだ。向こうで華音とマコとアタシそしてモフモフの大型犬に囲まれて暮らす予定だったがこんな世界に来ちまったからなぁ。」

 

 棗は時間をかけて作り上げたスリングを放り捨てると石を積み上げ枯れ枝を放り投げ焚火の用意を始めていく。

 

「さてと、随分と暗くなったな。焚火の用意するの忘れてたぜ。本当は本格的な焚火を披露してぇところだが今から作ってたら時間足りねぇ。適当に枯れ枝と枯れ葉を積み上げてオイルぶっかけファイアーの手抜きだ。良い子は真似すんなよ?」

 

 そう言いながらも棗は石を円形に並べ、枯れ枝を並べるとある程度風が吹いても大丈夫な焚き火を作り上げていた。

 

「なっちゃん、私部屋の中からインスタントコーヒーとか食べるもの持ってくるね。」

 

「ああ。華音やマコの作る飯は美味いからな。アタシのクソマズ料理とは段違いだな。」

 

「な、なっちゃんはせめて目玉焼きを作れるようになったほうがいいとおもう。いきなり強火はダメ。」

 

「そう言えばマコ。食料系はマコが買い出しに行ってまこのバックパックに詰めてたはずだが何を作る予定だったんだ?」

 

「簡単なペイザンヌとか無発酵パンだよ?」

 

「ペイザンヌ? 何だソレ? あれかオシャレ飯とかいう腹にたまらねぇヤツか?」

 

 : 棗ってほんとに女子力の欠片もねぇよな。

 : だな。ペイザンヌもしらねぇのか

 : お、おう。そうだよなペイザンヌよく駄菓子屋で食ったよ。

 

「飯なんざ最悪栄養とれて腹に溜まって愛情がありゃいいんだよ。どうせアレだろ? てめーらは作ってくれる恋人とかいねぇんだろ? アタシには2人も嫁がいるんだぞ? バーカバーカ。」

 

 : うっわ腹立つわー。

 : てか子供かよ。バーカバーカとか二十歳の女が言う言葉じゃねぇだろ。

 : というか二人も嫁がいるっておかしいよな。浮気症じゃねぇか? 

 : どっちが本命だよ。因みに俺は華音ちゃんを嫁にしたい。

 : ワイはおっぱい大きなマコちゃん派

 : メンヘラ気味のマコちゃん可愛い依存させたい。

 : ワイは匂いフェチだから華音ちゃん。

 : ここまで棗無し。そしてこれからも棗はない。

 

「うっせぇよ。アタシはビアンだから別に男にモテなくてもいいんだよ。あとどっちも本命だ。強いて言うなら華音が嫁でマコはアタシと華音の娘だ。」

 

 : 娘さんをください。お義母さん

 

「やらねぇよ。娘と嫁との3P親子丼はアタシの特権だぞ。」

 

 : コイツまじで頭イカれてんな。

 : 因みにワイはどうやら少数派だ。棗が好み。

 : マゾか?

 : ノーマルだと思う。てか棗って頭イカれてるけどカッコイイじゃん。

 : カッコイイか? てかもう頭イかれてる時点でなしだろ?

 

「ふん、わかるやつにはわかるんだよアタシのよさがな。しゃぁねぇ滅多に見せねぇが久しぶりにアレを見せてやんよ。アタシの自慢のアレをよ。」

 

 : え? なになに? おっぱい見せてくれるの?

 : 新参か? 棗の自慢と言ったら絶壁の胸……じゃなくてタトゥーだよ。

 : 始めてみた時ドン引きしたわ。だって淫紋だぜ? エロマンガかよ。

 

 棗はチェストリグを外し、タクティカルジャケットを脱ぎクロップドタンクトップ姿になるとその腹部と両腕に入れたタトゥーをカメラ代わりの眼球の前に晒した。


「ほらどうよ? すげぇだろ?」

 

 カメラの前に仁王立ちし腹部にいれた淫紋タトゥーをみせつけていると扉が開き中から出てきた華音が棗を見てため息を吐いた。

 

「なっちゃん、またタトゥー自慢? 私やマコちゃんはそこまで気にしないけど一般的な日本人はタトゥーは白い目で見るんだから自慢にならないよ?」

 

「安心しろアメリカでもタトゥーは中流階級以上はバカの印だと思ってるから。」

 

 棗の腹部には淫紋、左腕には蒼い薔薇とそこから伸びた茨が腕を絡め取り右の前腕内側には十字架、二の腕には祈りの手と呼ばれるタトゥがされ、胸元には蜘蛛の巣のタトゥが見え隠れしていた。

 

「あとは背中にでけぇゴライアススパイダーのタトゥと腰にハートとトライバル、内股にAve mundi spes mariaが彫られてるぜ。」

 

 : アベなにそれ?

 : アニメ主題歌から讃美歌になった曲知らねぇ? それのオリジナル。

 : ラテン語の讃美歌だね。

 

「お? 物知りが居るな。」

 

 : どの一節?

 : 多分棗のことだから O quam sancta,quam serena Quam begnimaのところか Os iusti meditabitur sapientimのところだろ?

  : いや、内股にワンポイントなら短くkyrie ignis divine eleisonじゃね?

 : おまいらソレアニメ主題歌の方。

 : O quam sancta,quam serena のところはあるだろ。

 : で結局何処だ?

 

「ま、有名だから知ってるやつ多いな。もちろん O quam sancta,Quam serena Quam begnima,Quam amoema esse virgo crediturだぞ。」

 

 : 棗が聖く静謐で慈しみ深いか?

 : 華音ちゃんとマコちゃんの二人のことだろ?

 

「ああ、アタシはそんなガラじゃねぇよ。なんとなくレズる時この文言見せたら百合っぽくね? って掘ったからとくに意味なんかねぇぞ?」

 

 : コイツ教養あるのかねぇのかどっちなんだよ。

 : ねぇだろ。ただアメリカ育ちだから讃美歌とか知ってたレベルだと思うぞ。テキサスならメキシコにも近いしラテン語の讃美歌も耳にするだろう。

 : 因みに棗はクソ音痴だったな。十八番だって話のライクアバージンが冒涜的な何かを呼び出す呪文に聞こえた。

 : カノンちゃんもまこちゃんも言葉失ってたもんなあん時。

 

「ちっ コイツラ何かとアタシを否定しやがるな。」

 

「音痴なのは事実だし仕方ないんじゃない? なっちゃんもう少し愛想良ければみんななっちゃんをチヤホヤしてくれると思うけどなぁ。なっちゃんてかなり美人だし。ね? マコちゃん。」

 

「う、うん。わ、私なんか胸が大きいだけのデ、デブだし……。 なっ、なっちゃんは鍛えて引き締まった身体で、せ、背も高い。いつも自信に満ちてて、かっ……格好イイ。」

 

 マコの言葉に棗は目を細め唇をぺろりと舐めると抱きつきおもむろにキスをし始め急に抱きしめられキスをされたマコが棗の腕の中でジタバタともがいていた。

 

「あー くっそ。マコは可愛いなぁ。 メンヘラでも根暗でも人見知りでもお前は最高にかわいいぞ。アタシがずっと守ってやるからな。怖いものは見なくていい。イヤなもんも嫌いなもんも全部見なくていいぜ。ずっとアタシだけを見てろ。」

 

 : 棗って結構やべーよな言ってること。

 : これお互い好きだからセーフだと棗からの一方通行だったらストーカーとか監禁とかそういうレベルになるだろ?

 : まぁ そういう気持ちなるのもわからなくもねぇけどなぁ。

 : ストーカー予備軍の方ですか?

 : ちげぇよ。ほら、まこちゃんて守ってあげたくなる系じゃん。

 : 守ってあげたくなるっていってもさっき普通にハンドガンでゴブリン撃ち殺してたからお前が守られる方になるんじゃね?

 : そういやぁ マコちゃんてああ見えてサバゲーにも参加してたしなぁ。

 : 体力や筋力は無いけど、根性はあるよね。ボブさんのトレーニングについて行ってたから。

 

「ほら、なっちゃん。マコちゃんが酸欠になりかけてるから。あとそろそろ御飯作らないと。なっちゃんは無駄に大食いなんだから。」

 

「おっとそんなわけで、今からはマコと華音のアウトドアクッキングの時間だぜ? アタシは料理は絶望的だから見てるだけだがな。」

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