第3話

  「おまたせー。なっちゃん、なっちゃんの荷物はどうするの? 全部持ち歩く?」

 

 扉を開け戻ってきた華音が紫煙を吐きながら待っていた棗に声をかけた。

 

「んー? まぁ念の為持っておく。ミリスコとか始末した奴の死体を埋めて証拠隠滅するのに使うかも知らねぇからな。」

 

「うーん。なっちゃん日本人なのにマフィアみたいな思考だよ。まぁ埋めないと腐乱死体から疫病発生しちゃうしこの世界だとゾンビなんか現れそうだしね。」

 

「ゾンビかぁ 関係ねぇがアメリカ人てゾンビ映画好きだよなぁ。たしか銃を人に向けて撃つってのが放送的にまずいって風潮があった時人間じゃないですゾンビですって切り抜けようとして放送しまくってから人気になったんだったか?」

 

「そうなの?」

 

「アタシを育ててくれた隣人のボブがそんなこと言ってたような言ってなかったような。どちらにしてもアタシたちの生まれてねぇ昔の話だからよくわからねぇな。」

 

「ボブさんねぇ。テキサスに遊びに行った時会ったけど凄腕の軍人さんには見えなかったよ。」

 

「そりゃアタシが10歳の時にゃもう退役してたしザ・アメリカ人て言う肥満体型にヒゲモジャになってしなぁ。だが海兵隊の特殊作戦群にいたんだからエリートだろ? アタシのスキルはボブから学んだものばかりだぜ?」

 

「むぅ、なっちゃんがボブオジサンラブ過ぎて妬きそう。」

 

「ははっ、アタシはビアンだぞ? ボブはおっさんじゃねぇか。ライクだがラブじゃねぇよ。さてと、銃を買ったが買い忘れてたものがあった。ほれ、華音。」

 

 棗がポケットから小さなパックを取り出すとソレを華音に放り投げる。

 

「あ、耳栓。」

 

「ああ、ちゃんとしたイヤーマフはそこそこの値段するから暫くはソイツで我慢してくれ。」

 

 発砲音というのは実際はかなり大きなものだ。

 耳を保護しなければあっという間に難聴になってしまうし、撃つたびに耳へ凄まじいダメージを与えてくる。

 イヤーマフ無しで撃っても平気だと思えるのは22口径くらいだろう。

 9mmですら耳がかなり痛くなるほどであり棗の今持っている12ゲージのショットガンなどは耳栓無しで撃ったらとんでもない目に遭うほどだった。

 

「な、なっちゃん。アレ。」

 

 先程から黙って周囲を警戒していたマコが声を上げ指を指した方向には、二足歩行で歩く小柄な矮躯の醜いモンスターが三匹ほどおりコチラを眺めていた。

 

「なんだありゃ? 原住民てやつか?」

 

「あ、あれは多分ゴブリンて奴だと思う。ファンタジゲームの雑魚モンスターの定番。」

 

 棗や華音と違いオタク向けコンテンツにも詳しいマコが答えると棗はにやりと凶悪な笑みを浮かべた。

 

「華音、マコ。ひと稼ぎできそうじゃァねぇか。マコはアタシたちの配信チャンネルで配信できるスキルだったよな? 異世界でゴブリンを撃ってみたって動画バズると思うか?」

 

「ど、どうだろ? わ、私達のチャンネルはもともと銃が好きな人しか見に来ないから受けるとは思うよ。」

 

「じゃぁさっさと能力を使って撮ろうぜ。」

 

「う、うん。ライブ配信しかできないけどいいのかな?」

 

「そうかパソコンねぇから編集とか出来ねぇのか。そもそもカメラで撮るわけでもねぇんだよな?」

 

「う、うん。どうやらコレで撮るみたい。」

 

 マコの手のひらにはバスケットボールより一回り小さな球体が浮かんでおりソレは巨大な眼球のような見た目をしていた。

 

「なんつうか、それ気持ちワリィな。もう撮り始めてんのか?」

 

「うん。でも今のところ視聴者0だよ。連休中だからみんなすぐには見れないのかな。」

 

「まぁ配信予告もしてねぇしな突発だ仕方ねぇ。」

 

 棗はカメラの変わりの眼球を浮かべるマコの前に華音と二人で立ち後ほどアーカイブを見るであろうチャンネルの登録者に向けあいさつをした。

 

「あー。緊急で動画を撮ってる超絶美少女シューター三人組ガンフリークシスターズの棗と」

 

「華音です。今日もマコちゃんはカメラマンしてます。」

 

 動画投稿をしていた時もマコは恥ずかしがるため裏方をすることが多く、あまり動画には登場しない。

 出番は少ないがマコの人気は二番目であり棗よりも人気があった。というよりも、このチャンネルのメインである棗はその性格と口調、そして日本人には受けないタトゥー塗れの身体で一番人気がない。

 とはいえアンチがいないのは棗がレズビアンであり、マコや華音と動画内でいちゃつくのと退役軍人仕込みの射撃スキルの高さ故だ。

 

「なんと今日アタシ達は、異世界転移ってやつで異世界に来てる。いや、そういう体でってやつじゃなくてガチでマジの奴。で、第一原住民ゴブリンさんに遭遇した。なんで異世界から配信できてるのかってのはアニメでよくありがちなチートスキルってやつ。マコが配信をできる能力で、華音が隠れ家を呼び出す能力、アタシは地球のものを買う能力ってやつだ。で、すくねぇ手持ちの現金てリソースでスプリングフィールド・アーモリーのXD mod3とスティーブンの320セキュリティーを買ったわけだが……。アタシらの配信で以前XD mod3をレンジで撃ったが今回は動かねぇペーパーターゲットじゃなくガチの肉の的に撃つ機会が来たってわけだわ。これからはスパチャとかしてくれると銃のバリエーションが増えるし弾もバカスカ撃てる。ていうか異世界でのアタシらの生命線なんでスパチャお願いだわ。」

 

「うんうん。じゃないとなっちゃんが涙目でゴブリンさんの汁まみれになって孕まされたりしちゃうかも。私もなっちゃんに孕まされたり孕ましたりしたいけどゴブリンは遠慮しておきたいなぁ。ちなみに私はP365とAR15が欲しいので三十万位もらえると嬉しいです。あ、久瀬グループの会長に孫が異世界で困ってるって伝えてねー。おじぃちゃーんスパチャしてー。」

 

「てなわけで、マコ。第一原住民さんのゴブリンを映してやれ。」

 

 そういい棗が親指でクイッとゴブリンを指差しカメラが動きゴブリンを映し出す。

 

 アニメなどと違い緑色の肌なんてこともなく黄土色した汚れた肌の色をした矮躯の醜いゴブリンが三匹カメラに映し出された。

 

 ピロンと電子音が鳴り響き、マコの目にはチャット欄が映し出される。

 

「こ、こんにちわー。 ◯◯さん。」

 

「お? リスナーが気がついたか?」

 

「う、うん。 え? 今気がついたけどもう30人も見てる。」

 

「まじか。よし華音さっそくあの人畜無害かどうか知らねぇがゴブリンさんに鉛の弾で挨拶をするぞ。まずはスプリングフィールド・アーモリーXD mod3 使用する弾はfiocchi 9mm 124グレインホローポイントだ。 50発で23ドル日本円換算だと大体3500円。一発70円くらいってところだ。距離はおおよそ20mってところか? 華音、マコ耳栓はつけたか?」


「うん。もちろん。じゃぁ胸に三発頭部に一発でいくよ。」


 ホルスターから銃を抜いた華音がアイソセレスタンスと呼ばれる最もポピュラーな射撃姿勢を取ると棗達に向かい歩いてきたゴブリンに向け発砲した。


 オプティックをつけていないハンドガンで初の実戦だったが、側に棗が控えているというのもあり落ち着いて狙った華音の銃弾はきちんと胸に三発吸い込まれていき最後に頭部に着弾した。


「なっちゃん、なんであのゴブリン全裸なの? なんかブラブラしてるんだけど?」


「流石にモンスターだからか股間を隠す知能もねぇみてぇだ。」


 電子音が立て続けになり引きマコの眼の前に高速でチャットが流れ始める。


「わわわっ チャットの文字が凄い!? あ、スパチャありがとうございます。ち、因みに私は……へ……ヘンリーのレバーアクションライフルや.410のレバーアクションショットガン、あとウ……ubeltiのスコフィールドがほしいです。ウ……ウェスタン好きの方は、わ……私宛にスパチャお願いします。」


「おいおいマコもおねだりし始めたぞ華音。てか、マコがこういう事言うの初めてじゃね? 驚いたわ。」


「だねぇ。ちなみになっちゃんはおねだりしないの?」


「ああ? アタシが媚びても無駄だろ? アタシの人気は華音やマコほどねぇ。まぁ言うだけならタダだから言っておくか。アタシはいつも言うようにテキサス育ちだし退役軍人に育てられてるからな。1911系が欲しい。ロックアイランドアーモリーのTAC ULTLA 10mmあたりだな。ライフルならM1A ショットガンやらベネリM4が欲しいぞ。ショットガンとアメリカンスピリッツな銃が好きなやつはアタシにスパチャすると良いぞ。」


 そう言いながら棗はショットガンをゴブリンに向けるとセーフティーを人差し指ではね上げ外してからトリガーを引いた。


 9mmよりも大きな発砲音とともにバックショットが放たれ9発の散弾が前方に散らばり一匹のゴブリンをボロ雑巾のように身体のあちこちを穿っていく。

 

「おっと銃の紹介と弾を言うのを忘れてた。コイツぁスティーブンの320セキュリティー たったの180ドル、二万七千円のショットガンだ。装弾数は5+1 チョークは絞ってねぇ。弾は12GAのウィンチェスタースーパーターゲットってシェルを使った。1 1/8オンス9ショット マズルベロシティは1145で威力は見ての通りだ。 これでアメリカのホームディフェンスでショットガンが使われる理由がわかったと思う。ゲームじゃねぇんだショットガンの威力はガチなんだわ。」

 

  ピロンと五万という高額なスパチャとともに棗向けのメッセージがマコの眼の前にながれる。

 

「わわっ 五万もスパチャありがとうございます。 なっちゃん、最近のゲームだとショットガンは最強武器になりがちなんだって。角待ちショットガンて言葉もあるらしいよ。」

 

「お、そうなのか? アタシはFPSってジャンルのゲームがあるってことは知ってるがゲームってのをやらなくてな。俄な知識しかねぇ。さて、残るゴブリンは一匹。そしてまだ発砲してないのはマコなんだがその目玉みてぇなやつ使ったまま銃撃てるか?」

 

「う、うん。多分出来るとおもう。」

 

「なら、マコのでけぇ胸が波打つ姿をリスナーに見せてやんな。」

 

「アタシは絶壁だし揺れるもんがねぇ。まぁケツはでけぇからケツ肉なら12.7mmとかを伏せ撃ちした時に震わせてやれるが。」

 

「なっちゃんのお尻大きいよねぇ。揉みごたえある。わたしなっちゃんのお尻大好き。あ、もちろんまこちゃんの大きなおっぱいも好きだよ。」

 

「お、おっぱい大きいを……れ、連呼しないで欲しい。はっ恥ずかしいよ。」

 

「まこ、でかいは正義だ。でかい乳はそれだけで癒やされるんだよ。マコみてぇな可愛い子ちゃんならなおさらな。自信もてマコはアタシより人気があるぞ。」

 

 チャット欄にはおっぱいおっぱいと言う文字が滝のように流れ始め、マコは顔を赤くし俯くがホルスターから銃を引き抜くと表情を引き締め銃を構えた。

 既に理解不能な攻撃を受け仲間を殺されたゴブリンは戦意消失しており呆然としていたがそんなゴブリンにマコは容赦なくトリガーを引いていく。

 一発撃つごとにリコイルで僅かに腕が上がりそれと同時に胸が揺れる。

 

 そしてカメラは的であるゴブリンではなくマコの胸をメインに撮影しておりチャット欄はスパチャと何故か感謝の言葉が滝のように流れていった。

 

「こりゃ マコが一番最初に欲しい銃手に入れれそうだな。アタシも早々に12.7mmでも買って尻肉を震わせるか?」

 

「胸もおしりも普通サイズの私はどうしよう? 脱ぐしか無いのかな?」

 

「ああ!? 華音の肌を見て良いのはアタシとマコだけだぞ。大丈夫だ華音。華音には抜群のスタイルとそのツラとくっせぇ脇の臭いがあるじゃねぇか。」

 

「いや、脇の臭いはマイナスでしょ……。なっちゃんとまこちゃんくらいだよ私の脇の臭いくさいくさい言いながら喜んで嗅いでくるの。」

 

「ばっかだなぁ、コイツラだって眼の前に居たら華音の脇喜んで嗅ぎまくるぞ。な?」

 

 そういうと大半のリスナーが臭いのはチョットと難色を示すが、何人かは五万という高額スパチャをしながら棗に同意していた。

 

「か、華音ちゃんリスナーさんも嗅ぎたいってスパチャしてるよ。良かったね。ワキガ系美少女ってジャンル確立したよ。」

 

「嫌だー。それ悪口だよね? 絶対悪口だよね?」

 

 そう言いながらも華音の表情は明るかった。

 棗たちと出会う前の華音ならば傷つき涙していたかも知れないが、棗たちと出会い臭いと喜びながら嗅ぎまくられたことにより華音も自分のワキガをあまり気にしなくなっている。それどころか夏場わざと厚着をして汗をかいたあとその脇を棗達に嗅がせに来るほどだ。

 

「まぁ 気にすんな。マコなんかメンヘラ系だしアタシなんかチンピラ系だろ? リスナーもあたしがタトゥー塗れだってしってるしな。」

 

「なっちゃんタトゥ凄いよね。ていうか、お腹のアレ淫紋てやつでしょ? よく知ってたね。」

 

「おう、淫紋はアメリカでも有名だからな。淫紋とアヘ顔はサブカルとして広く知られてるぞ。」

 

「さて、罪もない一般ゴブリンたちを襲い殺害したわけだが実はアタシら以外にも50人近い日本人がこの世界に一緒に転移してきている。アタシ達は山梨のキャンプ場から転移してきたんだがアタシらはブッシュクラフトしにいっててフル装備、ソイツらはグランピングなんてぬるいキャンプごっこでバーベキューの途中だったからな。モンスターの居る森の中をハーフパンツにサンダルなんて格好の奴ら移動するのも足手まといにしかならんと思って見捨ててきたがアタシら間違ってるか?」

 

 棗がそうきくと賛美両論のコメントが流れていく。

 

「いやそう言われてもモンスター居る世界だぜ? ソイツらだって何らかのチート能力は持ってるわけだ。アタシはともかく華音とマコはむしゃぶりつきたくなるような美人だし飢えた男たちと行動したかぁねぇじゃん。」

 

「まぁ銃があったから戦えるが、もし銃が買えなかったらアタシらなんか絶対に守ってやるからとかいわれて性奴隷扱いだろ? ま、そんなこといったら噛みちぎってやるけどな。」

 

「なっちゃんは噛みちぎるよりも先にナイフで刺しそうだけどね。なんか暗闇から手がニュって伸びてきてナイフでザクっみたいな?」

 

「アタシはアサシンでも特殊部隊でもねぇ。そんな技術持ってねぇよ。てなわけでおめぇらもいつ異世界に転移するかわからねぇから鍛えておけよ?」

 

 

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