第2話

「なんか用か? わりぃがアタシらはビアンだから男とはやらねぇし一緒に行動もしねぇぞ。というかどう見てもサバイバルするような格好じゃぁねぇあんたらはお荷物にしかならなそうだ。」

 

「テキサス育ちのなっちゃんみたいなサバイバル技能持ってる人はそんなに多くないじゃないかなぁ? あとどう考えても喧嘩売ってるようにしか聞こえないよ?」

 

 銃も手に入れ支度の終わった棗は下ろしていたバックパックを背負い立ち上がり、華音とマコもそれに続いた。

 

「さっきから言いたい放題だな。」

 

「気を悪くしたら謝る。アタシはテキサスで育ったからな日本人みたいな建前ってのは苦手なんだ。アメリカじゃぁこのくらいハッキリ言うのが普通だぜ? まぁなんだ。アタシから見たら足手まといのお荷物にしか見えないっては事実なんだ実際あんたらがレンジャー部隊並のサバイバル技術とか持ってるならアタシの眼が節穴だと笑っていればいいだろ? モンスターが居る世界だ日が暮れる前に行動したほうが良いんじゃァねぇか? あんたらテントもシュラフもねぇだろ?」

 

 棗たちとの距離はおおよそ5m、襲いかかってきた場合発砲するより先に組み伏せられる可能性のある距離だった。

 とはいえ、銃を持った人間に飛びかかるというのはアメリカ人ですら躊躇するほどだ。

 それに華音とマコはハンドガンをホルスターにしまっていたが、右手は既に腰の位置にあり、棗はショットガンのため既に手に持っている状態だ。

 

「日本人同士協力し合う気はないのか?」

 

「無いね。 協力ってのはお互いに補い合えるから協力っていうんだぜ? 荷物もねぇ技術もねぇあるのは性欲くらいの奴らに補ってもらうもんはコッチにゃあねぇよ。」

 

「あんたら以外は協力し合うつもりだ。そっちは三人こっちは50名近いんだぞ。」

 

「で? そんなかにモンスターの居る森の中を安全に歩く技術を持った人間は居るのか? まぁアタシらにもそんな技術はねぇがアタシはテキサスで森の中をライフル一つで狩りに出かけたこともある。野生動物程度ならなれてるし森の歩き方も警戒の仕方も知ってる。それにアタシに銃を教えてくれたおっさんはアメリカ海兵隊員だったしな。銃を使った戦闘技術ってのは知ってるつもりだ。」

 

「人数差はどうにもならないだろ?」

 

「ああ。そうだな。人数が多ければそんだけ必要の食料も多くなるがあんたら飯はどうするだ? アタシらもそんなに持ってるわけじゃねぇけどな。食料が尽きる前にドコか人里見つけなきゃなんねぇ。こんな問答している時間はねぇと思うんだがなぁ。」

 

 棗はそう気が長い方ではない。

 平均的な日本人からすれば短気に分類されるタイプであり、既に限界に近く今すぐにでも眼の前に居る男の胸に銃弾をぶち込みたいほどだった。

 

「あのー。そろそろなっちゃん短気なんで銃を撃ちそうだから諦めてもらっていいですか? それに、なっちゃんが言う通り日が暮れる前に行動したほうが良いと思いますよ? さっきからあそこの影を観察してましたけど多分今午後です。日没まで長くても6時間とかです。」

 

「お? 華音ちゃんと周り見てたなえらいぞ。あとでご褒美に脇を舐めてやるぞ。」

 

「それなっちゃんが舐めたいだけでしょ? 変態なんだから……。」

 

 華音は呆れながら、ホルスターから銃を引き抜きアクション映画で一躍有名になったC.A.Rと呼ばれるスタンスを取った。

 

「なっちゃん、私がこの人たちを警戒しておくから進もう。」

 

 湖の外周を歩いて移動するにはキャンパーたちに背を向けて移動しなければならなかった。

 

「だな。あんたらもアタシらと進む方向一緒にするなら20mは距離開けてくれ。近寄り過ぎたら容赦なく撃つぜ? 参考までに言うがハンドガンの有効射程距離は50m 届くだけでいいなら100mだって届くし近距離用と言われるショットガンでも50mは余裕で届く。死にたくねぇならアタシらに構ってねぇでそっちはそっちで協力しあってなんとかしな。マコ、マコはこのまま進んだら湖側を警戒しろアタシは森の方を警戒する。華音は後方とくにキャンパーたちを警戒してくれ。ソイツらも異能を貰ってんだなんか怪しげな行動したら警告無しで撃てよ?」

 

「うん。そういうわけだから少しでも怪しかったら撃たせてもらうよ? 撃たれたくなかったら怪しい行動はしないでね。既に警告してるから撃たれても文句言わないでよ?」

 

 棗も華音もマコも75リットルの大型のバックパックを背負いミリタリーラインのシューズにタクティカルパンツやカーゴパンツといった動きやすいパンツにタクティカルなジャケットや、シューター御用達のグローブなども装備している。

 そして棗に関してはバックバックの中には折りたたみ式の軍用スコップもあればタクティカルベルトのポーチにはメディカルキットからタクティカルライト、更には熊よけスプレーなどまではいっていた。

 流石に華音とマコはキャンプにタクティカルベルトやチェストリグなんかはつけてきてはいないがブッシュクラフトをしに来ていたためそれなりの装備に身を包んでいた。

 

 華音が後方を警戒しながら小一時間ほど歩きキャンパーたちとも十分に距離を開けたあと棗達は一度休憩を取っていた。

 

「華音、一度荷物の整理をしようぜ。すぐに使わねぇシュラフとかは華音の能力でしまっておいてもいいだろ。」

 

「そうだね、ブッシュクラフトに使うような道具類はなっちゃんのバックパックだし。私とマコちゃんのバックパックの中はシュラフや調理器具や食料だもんね。」

 

「ああ。今度はアタシらが周囲を警戒しとくから華音は能力で扉を出して荷物を仕分けてからしまっといてくれ。マコはカロリーバーや水くらいは少しだけ持っておいてくれ。」

 

 棗がショットガンを肩に担ぎキャンパーたちの方を向きちょうど高さの良さげな岩へ腰掛けマコが背を向けている方に立ち周囲を警戒しながらバックパックを下ろすと華音が扉を呼び出しマコのバックパックを持って扉に入っていく。

 

 扉の中に入った華音は玄関で靴を脱ぎ胸ポケットに入れたタクティカルライトで周囲を照らしながらバスルームとトイレの扉を開け中を確認していく。

 

「やっぱトイレットペーパーも何も無いよねぇ。」

 

 台所を抜け部屋の中に入るとマコのパックパックと背負っていた自分のバックパックを下ろしジッパーを開け中からLEDランタンを取り出して部屋の中央で灯し部屋の隅に探索中に不要だと思えるものを取り出し並べていく。

 

「まこちゃんと私の持ってきたものは調理器具や食料とかがメインだし殆ど探索には使わないかな。でも異世界かぁ……。なっちゃんには悪いけど私は歓迎かな。実家のしがらみ無くなっちゃんと一緒にいれるようになるんだし。」

 

 華音は所謂お嬢様というやつだった。久瀬グループの会長の孫であり、棗との関係もあまり家族によく思われてはいない。

 孫を溺愛する会長からはこっそりと棗を排除しようとする動きも何度か感じ取れていた。

 

 幸いにも華音がそれを察知し、棗の悪辣な知恵と暴力により切り抜けているが、本気を出された場合権力でどうとでもされてしまう。

 日本は法治国家だが、それでも財力という力はそれをある程度無視できることを華音は幼い頃から知っている。

 棗がモラルも品性も欠けた人物だと知っても付き合っているのは、棗がそれを全面に出し恥じた様子も見せないのに対し、親族が表では良い顔をしながら棗もゲロ以下と言うような行為を行っているからだった。

 

 少なくとも棗は自分から犯罪行為を行うような人物ではない。

 もちろんそれはリスク・リターンが合わないと理由もあるが棗は割と恋愛脳なのだ。

 いや、恋愛脳と言うには少し汚れすぎている。

 棗は華音とマコという二人と性欲に塗れた爛れた生活以外にあまり興味がない。

 

 そして華音もソレにどっぷりと浸かり楽しんでいた。

 

 つまるところ三人とも性欲猿なのだ。

 

「さてと、これでいいかな?」

 

 部屋の中央に置いたLEDランタンを手に取るとソレを玄関へともっていき靴箱に置くと華音の元へと扉を開け戻っていった。

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