美少女転校生は摩訶不思議!?

千央

美少女転校生は摩訶不思議!?

「なんでいっつも追っかけ回すんだよ!」

「うるせー!気に入らねーんだよ、お前!転校生と仲良くしやがってよぉ!」


 はぁっはぁっ!い、息が苦しい……!なんでこんな目に合わなきゃ……はあっ!ならないんだっ!


「生意気な!スピード、アーップ!五倍!」


 えっ!五倍!?そんな馬鹿な!そこまでのスピードが出せるなんて!肉体の限界を超えてくるというのか!?


「追いつかれ……ないね?ん?」

「……そんなに早く走れるかっ」


 自分でツッコミ入れちゃってるよ!?向こうもなんだか、死にそうなくらい息苦しそうにしてるし。ついでに顔も暑苦しい。そりゃそうだよ。いくら中二の走りでも五倍の速さなんて出ちゃったら、世界新記録を余裕で超えちゃうだろうし。もしかして、僕、馬鹿にされたのかな?それとも――


「それとも、馬鹿なのかな?」

「な、なんだとぉ!?よくもオレをコケにしやがったな!」


 あっ、しまった。つい本音がハッキリポロッと出ちゃった。追いかけてくるいじめっ子の跳ね上がった怒りのオーラを感じた僕は、懸命に足を前へと動かす。

 

「はぁっはぁっ!あ、あと少し……あと少しで家に……着くのに!」

「ふはははっ!ほれ、どうした?追いつくぞー!」


 悪者の典型みたいな台詞を吐きながら追い詰めてくるいじめっ子。くっ!ここまでか……!


「あれ?銀河ぎんが君じゃな~い?やっほ〜!なになに?何してるの~?」


 どこからともなく隣に現れた女の子。え?なっちゃん!?いつの間に!?


「おい、転校生!いまどっから来たんだ?」

「ねぇねぇ、何してるのってばぁ~。あ!分かっちゃった!もしかして、体鍛えてるんじゃない?銀河君ってば、カッコ良くて優しいのに、その上さらにストイックなのね!とってもス・テ・キッ!」

「なぁ、おいっ!どうやって現れたんだ!?」

「学校帰りにまで特訓してるだなんて、ほんとカッコイイな~」


 いじめっ子の再三の呼び掛けを無視し、まるで僕と二人っきりの世界にいるかのような彼女。ニコッと微笑んで手を振ってくるその姿の愛らしいこと!

 でもね、いま走ってるのは特訓じゃないんだよ?追いかけられてるこの状況、分かんなかったかな?あと、こんなに全力疾走してるのに、どうして涼しい顔してついてこられるの?しかも、笑顔でお喋りできるのっておかしくない?昼休みの時間じゃないんだけどな。


「全然、違うよ!?追っかけれてる最中なんだ!捕まったらギッタギタにされちゃうよ!」

「そうだったの?じゃあ、あいつを片付ければもっとゆっくりお話しできるのね?」


 そう言って、いじめっ子を迎え撃つかのように立ち止まる彼女。そして、リボンタイプの髪留めを着け直し、戦闘態勢のように構えた。


「えっ!……そんな無理だよ。あいつ、柔道やっててものすごく強いんだ!投げ飛ばされちゃうよ!?……でも、なっちゃんを置いて逃げるなんてヤダ!僕がなんとかするよ」


 立ち向かうのは正直、すっごく怖いけど、女の子の陰に隠れるなんて男のすることじゃないもんね。怖いけど。たまらなく怖いけど。


「やっさしいんだぁ!ありがとね。でも、大丈夫よ。やられる前に狩るっ!これは天……げふっごふっ!ぶぇ~っくしょい!!……え~と……前にいたところで教わったの」

「だ、大丈夫?いまものすっごくわざとらしい咳と、女の子が絶対やっちゃいけないようなおじさんっぽいくしゃみしてなかった!?ツッコまない方がいい!?」

「できればお願い」

「OK」


 とは言ったものの、ツッコミどころが満載だよ!狩るってなに!?どういう意味?それに、の続きはなんだろ?天国?まさかね。


「……お前らなぁ、オレを無視した上にイチャイチャしてんじゃねえ!」


 さっきよりさらに暑苦しい顔になってるし。顔も真っ赤になって怒ってる。もう面倒くさいなぁ。(心の中で)鬼って呼ぼ。


「イチャイチャなんてしてないってば!」

「してるわよ?」

「…………」

「…………」

「…………」


 しばし、三人とも無言の時。


「「えぇっ!」」


僕と鬼の声がキレイに重なる。お?珍しく気が合ったね。



「なっちゃん、いまなんて?」

「私と銀河君はと~ってもラブラブで、あっちっち~って言ったの」


 ……っ!?


「ちょ、ちょっとやめてよ。恥ずかしいから!第一、僕たちまだ付き合ってないでしょ!」

「あら~?って言ってくれたの?銀河君ってば、私のこと意識してくれてるのね。か~わいい!嬉しいわ。ありがとね!」


 なっちゃんって凄いな。どうしてこう恥ずかしげもなくそういうことが言えるんだろう?僕と同じ中二のはずなのに。


「だーかーらー!オレを無視するんじゃねー!!」


 いい加減、堪忍袋の緒が切れたのか、僕たちに向かって突進してくる鬼。


「銀河君、ちょっとだけ目をつむっててくれる?」

「え?で、でも……」

「お願い。ね?」

「う、うん」


 なんだか分かんないけど、言う通りにした方がいいって僕の心の声が全力で叫んでる。あぁ、もうすぐ鬼が突っ込んでくる!殴られるのかな。投げ飛ばされるのかな。どっちにしても痛そうだな……。

 そんなことを考えていると、突然、すぐ近くを凄い轟音を放つ何かが吹き抜けた。


「……っ!?」

「まだよ!まだ開けないでっ!」


 なっちゃんの叫ぶ声に、開け始めたまぶたを再び閉じる。一体、何が……?それからものの数秒で、もういいわよ~、と彼女の声。


「なっちゃん、いまどうしたの?いま何か通り過ぎて行かなかった?」


 目を開けるとそこにはいつもの通学路と彼女の笑顔があった。特に変わった様子は……あれ?鬼は……?


「ね、ねぇ、鬼は?さっきのあいつはどこに行ったの?」


 なぜか、鬼が影も形もいなくなっていた。なんで?どこ行ったんだろう?


「あ~……彼?私と銀河君の邪魔をしようとしたから、の」


 うふふっ、と可愛らしく微笑む彼女。


「それ、どういう意味?さっき、凄い音が通ってったよね?台風の風を圧縮したみたいなすごい風圧だったけど、あれは……?」

「大丈夫よ。心配しないで。。私、実は空手を習ってるの。それで必殺の『鬼殺し正拳突きMk-Ⅱマークツー』を放ったら、泣いちゃったのよね。きっと、その時の風圧じゃない?女の子に泣かされたのが恥ずかしかったんじゃないかしら?慌てて逃げてったわよ」


 すっごい早口でまくし立てるように話す彼女。


「そ、そうなの?いまの数秒でそんなことがあったんだ……なんだか情報量多いけど、とにかく助けてくれてありがとね。あと、空手の技ってMk-Ⅱって付くんだね」

「どういたしまして。ふふっ、良い所に気が付いたわね。それ、私が名前付けたのよ!一度ひとたび放てば、まるでの強烈な正拳突きってことなの!」


 そっち!?鬼を殺すんじゃなくて、技を放つ方が鬼ってこと!?


「そうなんだ……凄いね。Mk-Ⅱっていうのは……?」

「あぁ、それ?カッコイイでしょ?」

「……うん、そだね」


 僕は無難にそう答えた。目の前にいるとんでもない美少女は、とんでもない鬼なのかも知れないな。


「それじゃ、鬼退治は終わったし、早速、行きましょ?」

「え?どこに?」

「決まってるじゃない!を手に入れるのよっ。ね?」


◇◇◇


―― 天井 銀河てんじょう ぎんが

 僕のこと。今年、中学に入って早、一年と三ヶ月の二年生。家族は両親と妹。実は今の母さんはホントの母さんじゃないんだ。僕が幼稚園の時に病気で死んじゃったんだって。その後、父さんがいまの母さんと出会って一昨年、再婚した。その時の連れ子がいまの妹になったんだ。

 母さんも妹も血の繋がりはないけど、僕はちっとも気にしてないよ。だって、二人ともすごく優しいし、特に妹はすっごく可愛くて懐いてくれるしね。去年の春、仲が良かった従兄弟のお兄ちゃんが交通事故で死んじゃったんだけど、その時もすごく慰めてくれたんだ。すごく悲しかったけど、母さんが抱き締めてくれてさ。ちょっと恥ずかしかったけど、とっても温かかったな。


―― 天井 千春 てんじょう ちはる

 小学三年生の僕の妹。いまの母さんに似て、綺麗な亜麻色の髪が特徴的なんだ。一応、義が付くけど、ホントの妹の様に可愛いよ。ただ、体が弱くて病気がちなんだ。小さい頃から入退院を繰り返してるらしくて、いまも入院してる。早く良くなるといいな。それから、僕のことを『ぎんちゃん』って呼ぶのがまた可愛いんだ。

 

―― 栖多 奈都せいた なつ

 もうすぐ夏休みになるというのに、急遽、転校してきた同級生の女の子。黄金色に煌めく艶やかな髪、透き通った海を思わせる神秘的な色合いの碧い瞳、超が付く程の可愛らしい顔立ち。そして、素直で朗らかな性格。クラスの皆からは『なっちゃん』と呼ばれてる。

 彼女は、その神々しいまでの愛らしさと誰からも好かれる人懐っこさで、あっという間にクラスの人気者になってしまった。そして、その日の昼休みにはその噂は学年中に広がり、さらにその翌日には学校中に広まった。僅か二日間で全校生徒の人気をかっさらうという前代未聞の美少女だ。

 そんな彼女がなぜかやたらと僕にひっついてくる。隣の席だから話しかけやすいのは分かるけどさ。転校してきてから三週間、毎日、一緒に帰ろうとしなくてもいいと思うんだけどなぁ。まぁ、嬉しいけどさ。でも、やっぱりちょっと恥ずかしいや。


◇◇◇


 鬼がどこかに消え去ってから10分。僕たちは駅前の繁華街へとやってきた。ここは所狭しとお店が立ち並び、学生に人気のエリアなんだ。


「今日はまたあのアクセサリーショップに行くの?」

「ううん、今日はいいわ。それに、さっき言ったでしょ?きびだんごを手に入れるんだって」


 楽しげな笑顔で僕の手を引っ張り、ぐいぐいと人混みを進んでいくなっちゃん。


「ほら、着いたわ!ここよ」

「あ、ここは――」


 妹の千春が好きな和菓子屋さんだった。今度、お見舞いに行く時、持っていこうと思ってたんだよね。


「え?な、なんで……ここに?」

「妹さん、入院してるんでしょ?クラスの子に聞いちゃったの。それで、私もお見舞い行きたいな~って思って。ダメだったかな……?」


 気持ちが先走りすぎたのをちょっと後悔しているような、そんな表情で聞いてくる彼女。


「ううん、そんなことないよ!ありがとう!すっごく嬉しい。ちょうど明日にでも行こうと思ってたんだ」


 彼女の気持ちが素直に嬉しかった。千春は入院しがちなせいで友達があまりいない。なので、お見舞いに来るのは両親とたまに担任の先生。それ以外だと僕しかいなかった。なっちゃんが来てくれたら、女の子だしきっと喜んでくれると思うな。

 本当にありがとう、そうお礼を言うと照れた微笑みを返してくれた。そういえば、妹のことを誰から聞いたんだろう?……。


◇◇◇


「お金なら僕が出すのに……ごめんね?」

「ううん、いいの。私が出したかったんだから。あ、五階に着いたわよ。行きましょ」


 お見舞いの品の水ようかんをなっちゃんが買ってくれた。それはありがたいんだけど、どうして千春が好きなものを知ってるんだろう?いまだって僕、病室がどこか何も言ってないのにスタスタと行ってしまったし。まるで、。不思議な子だなぁ。


 千春のいる病室は四人部屋で、それぞれがカーテンで仕切られている。千春のベッドは窓際の右側だ。


「千春?来たよ。カーテン開けていい?」

「ぎんちゃん?いいよー!」


 明るい声が聞こえホッとする。毎回、来る度に苦しんでるんじゃないかって心配なんだ。カーテンを開け、妹とご対面。ピンク色の可愛らしいパジャマを着てベッドに腰かけていた。どうやら、本を読んでいたらしい。


「横になってなくて良かったの?」

「うん!全然、大丈夫だよー!」


 屈託のないにこやかな笑顔で応える千春。なんだか少し瘦せたような気がする。顔色もあまり良さそうじゃないし。ここのところ体調は安定してるみたいなんだけど、心配だな……。


「今日はね、友達を連れてきたよ。同じクラスの 栖多 奈都せいた なつさん」

「こんにちは、千春ちゃん。お兄さんのクラスメイトの奈都です。なっちゃんって呼んでね?」


 優しい声で挨拶するなっちゃんに、千春も元気に自己紹介をしていた。良かったぁ。仲良くなれそうな雰囲気でほんとに良かったよ。


「千春、何を熱心に読んでたの?」

「これ?『死神にはハイキックと裏拳、どっちが効く?』の新刊が出たんだよー!ママに昨日、買ってきてもらったの。ぎんちゃんも読む?」


 すっごいタイトルだな。しかも、新刊だって!?続編が出る程、人気なの?


「……僕はまた今度でいいかな」

「あら、面白そうじゃない?効くかどうか試してもらいたいものね」

「えっ?いまのどういう意味?」

「え……あ~……ほ、ほら、私って空手をやってるじゃない?だから、私ならどう避ければいいかなってちょっと思っただけよ」

「そうなんだ……」

「なっちゃん、空手やってるのー!?すごいすごい!」


 あれ?千春ってそんなに空手に興味あったっけ?


「興味あるの?なら、退院して元気になったら教えてあげるわ。まるで、大鎌で獲物を狩るような最強の蹴り技『死神の鎌デス・サイズ・卍 ・まんじ』をね!」


 ちょっ!なにそれ!?すっごく怖いんですけど!?


 その後も三人で仲良くお喋りし、お見舞いの水ようかんを美味しそうに食べる千春。すると、彼女がなっちゃんの顔をじっと見てこんなことを言い出した。


「ねぇ、なっちゃんって、わたしがよく見る夢に出てくる女の子じゃない?」


 ……?随分、不思議な事を言うなぁ。


「そうなの?千春、そんな夢見るんだ?」

「…………」

「うん!夢でね、いっつもその子と一緒に遊ぶの!絶対、なっちゃんだと思うんだけどなー」

「へ~!それは良かったね。なっちゃんと似てるなんて、凄い美人と知り合いなんだなぁ。羨ましいよ」

「…………」

「ぎんちゃんだって、なっちゃんと知り合いでしょ?すっごく可愛いじゃない!」

「いや~……それもそうだね!?」


 わざとおどけて見せると、千春はクスクスと笑ってくれた。隣のなっちゃんを見ると――


「…………」

「……なっちゃん?どうかした?」

「えっ?あ、う、ううん。なんでもないの。ほら!夢なんてあやふやなものだし、私ってよくいるタイプの顔だから似てても不思議じゃないわよ。あ、そうそう!私、用事があったんだった。今日はこれで帰るわね!じゃ、またね~!」


 そう早口でまくし立てると、まるで逃げるように去っていった。ポカ~ンとする僕たち。一体、どうしたんだろう?


「なっちゃん、どうしたの?」

「わかんない。でも、きっと急用だったんじゃないかな。また来てくれるように頼んでみるよ」

「うん、ありがとう!ぎんちゃん。そういえばね、夢の中で遊んで楽しいんだけど、その後、必ず夜中に目が覚めるの。それで、いつもじゃないんだけど、たまにベッドのそばにその女の子が立ってることがあるんだ……絶対になっちゃんだと思うんだけどな」


 そう言って、さっきまでなっちゃんが腰かけていたパイプ椅子の場所を指差す千春。


「怖くはないんだけど、何してるんだろう?っていつも思うの。その後、眠くなっちゃって寝ちゃうんだけどね。朝になるといつもいなくなってるよ」


 なんだろう?この病院はセキュリティが厳重で、部外者は簡単には入ってこれないはずなんだ。やっぱり、千春の夢なのかな?目が覚めた気になっててもまだ夢の続きってことなんじゃないかなぁ?


「そんなことがあるんだ?不思議だね。でも、それはやっぱり夢なんじゃない?夢の中で一緒に遊んだのがあんまり楽しいから――」

「ううん、そうじゃないよ。あれはなっちゃんだと思う。だって、夢の中の女の子も夜中に立ってる女の子も、なっちゃんがさっき着けてたのと同じ色のリボンの髪留めしてるもん」


◇◇◇


――数日後

 あれからなっちゃんは特に変わりはなく、いつも通りスキンシップ多めで接してくる。毎日、病院に通ってる母さんからは千春の容態は安定しているけど、こないだよりも顔色が良くないみたい、とのことだった。心配だな……。

 そんな中で一つだけ大きく変わったことがある。例のいじめっ子が鬼じゃなくなっていた。


「お疲れ様です!栖多せいたさん。天井てんじょう君!困ってることはありませんか?何でもしますよ?」

「う、うん。ありがとう。でも、いまは特にないかな」


 こんな調子ですっかり人が変わってしまったんだ。なっちゃんの正拳突きがよっぽど堪えたのかな?クラスの皆も気味悪がってるし。まぁ、いじめがなくなったのは有難いんだけどね。

 そんな変化があってから翌週の夏休みに入ったある日のこと。塾の帰りがいつもより遅くなっちゃって、僕は家までの道のりを急いで自転車を走らせていた。ところが、妹がいる病院への交差点に差し掛かった時、なぜかふらっと病院の方に向かったんだ。面会時間はとっくに過ぎてるのにね。自分でも不思議に思いながらそのまま病院の近くまで来た時、僕は奇妙なものを目の当たりにした。


「あれは……なっちゃん?何してるんだろう?……っ!?」


 なんで、なっちゃんが?と思ったその時、彼女がその手に何かを持っていることに気が付く。長い棒の先に大きく湾曲した刃のようなものがついた物体。あれはまさか、鎌!?僕にはそれがまるで、魂を狩る死神の大鎌のように見えた。


「死神……」


 そう呟いた途端、突如、頭の中にフラッシュバックする千春の言葉。


『なっちゃんって、わたしがよく見る夢に出てくる女の子じゃない?』

『夢でね、いっつもその子と一緒に遊ぶの!絶対、なっちゃんだと思うんだけどなー』

『たまにベッドのそばにその女の子が立ってることがあるんだ……絶対になっちゃんだと思うんだけどな』

『ううん、そうじゃないよ。あれはなっちゃんだと思う』


 まさか……まさか……!


『だって、夢の中の女の子も夜中に立ってる女の子も、なっちゃんがさっき着けてたのと同じ色のリボンの髪留めしてるもん』


 そして、最後に響く母さんの声。


『こないだよりも顔色が良くないみたい』


 なっちゃん!君は一体、誰なんだ!?そう叫ぼうとした瞬間、車のヘッドライトが向こうから辺りを照らし通り過ぎていく。あまりの眩しさに一瞬、瞼を閉じるもなんとかすぐに開け、視界を取り戻す。しかし――


「……っ!?いない!」


 どこに行ったんだ……?はっ!まさか……!?最悪の想像をした僕は自転車を乗り捨て、一目散に病院の入口へと走る。だけど、当然の様に扉は閉まっており、ビクともしない。この時間、開いてるのは……救急外来か!そう思い付くと、急いでそちら側に回った。おかしい。電気が全くついていない。いつも赤ランプは点いてるし守衛のおじさんだっているはずなのに!

 ダメ元で扉を叩く僕。すると――


「あれ?開いてる……」


 中に入ると誰の気配もなく、非常灯が寂しく点いているだけだった。こうしちゃいられない!疑問も怖さも全て吹っ飛ばし、目の前の階段を五階目指して駆け上がる。


「はぁっはぁっ!」


 息が苦しい!千春……千春!待ってろよ!すぐに行くからね!息も絶え絶えになんとか病室の前まで辿り着いた。なんだか嫌な予感がする。勢いよくベッドに駆け寄りカーテンを開けた僕が見たものは――


「千春、無事か!?……っ!?なんでここに!!」


 やはり、なっちゃんがいた。セーラー服に不釣り合いな大きな鎌を持ち、いまにも千春に襲い掛からんとする彼女。


「銀河君!?どうして……っ!?見られてたのね。私としたことが迂闊うかつだったわ。今日が決断の時よ!邪魔しないで!」

「妹に何をするっ!」


 大鎌を振り下ろそうとする彼女に無我夢中で飛び掛かる。しかし――


「な、なんてことを!!」


 一瞬だけ大鎌の方が早く千春の体に振り下ろされた。そんな……そんなぁ……!!千春!どうして!


「どうして殺す必要があるんだよ!どうして!答えろっ!奈都なつ!!」


 ありったけの憎悪を込めて叫ぶ。


「殺す?ちょっと銀河君、何言ってるの?千春ちゃんはこの通りよ?」


 えっ?涙を拭ってよく見てみると、なんと千春が呼吸をしている!?ていうか、すやすやと眠ってる!!月明りに照らされた彼女の顔色は、いままでよりも数段良くなっており血色が戻ってきていた。


「え?……え!?な、なんで……?」

「銀河君、私が死神で千春ちゃこの子んの魂を連れてっちゃうとか思っちゃったんじゃない?ひっど~っい!まぁ、死神ってところはあってるんだけどね」


 僕は混乱する頭で必死に分かろうとするも、中々、理解が追いつかない。それでも、なっちゃんが死神だということは辛うじて分かった。

 え?死神だったの?マジで!?


「死神って魂を狩るんじゃないの??」

「あぁ、それね。正解よ。でも、それじゃ半分ね。あのね、死神って魂を狩るだけじゃないのよ。、両方を司っているの」


 そうなの!?


「死は誰に対しても平等よ。例えそれが王様だろうと神様だろうとね。でも、生きることも同じなのよ。平等に与えられているの。大丈夫。間に合ったわ!にならずに済むから安心して。千春ちゃんはきっと、長生きできるわ」

「ほんとに!?」

「うん、本当よ。今夜にも迷子の魂になりそうだったから、本来の寿命まで生きられるようにこので肉体を健康にしただけよ」


 そう言うと彼女は大鎌のをコンコンと叩き、教室で見るいつもの可愛らしい笑顔でウィンクをした。それから、彼女は色々な事を教えてくれた。

 自分が天界という神様の世界からやってきたこと。代々、死神の家系なこと。神様は下界の星々に転生することで様々な能力を発現し成長すること。彼女もその転生の一環で日本に来たこと。また、それと同時に寿命で亡くなる人の魂が迷うことなく天界へ行けるように大鎌で導いていること。そして最後に、迷子の魂をなるべく減らすことも彼女の役割だと教えてくれた。


「ところで、迷子の魂ってなに?」


 そう尋ねると、彼女は優しい眼差しで千春を見つめ、その寝顔を慈しむ様に撫でながらこう答えた。


「原因は不明なんだけど、寿命が来るより前に体から魂が離れちゃうことよ。そうなるともう手遅れね。そのまま死んでしまうわ。千春ちゃんもそうなる可能性が高かったから、なんとか助けたかったの。それで、夢の中やベッドの側で魂が抜けないように見張ってたのよ」

「そうだったんだ……ありがとう。助けてくれて。さっきはごめん。知らなかったから、つい酷いこと叫んだりして」


 なっちゃんが死神だってのは驚いたけど、やっぱり優しいなっちゃんだったんだね。僕はなんて勘違いをしちゃったんだろう。


「ふふっ、いいのよ。誰だって死神が現れたらビックリするものね。仕方ないわ。でも――」


 少し寂しげに話す彼女。でも、すぐに目つきが妖しくなって――


「さっき、良いこともあったわよ?」

「え?なになに?」

「誰かさんが私のことことよ!ね?ぎ~んが!」


◇◇◇


 あれから千春は急激に元気を取り戻し、翌週の初めには退院した。どうなる事かと思ったけど、本当に良かったよ。これもなっちゃんのお陰だね!


「ねぇ、なっちゃん。そういえば、どうして千春が水ようかんを好きなことや、泊まってる病室の場所を知ってたの?」

「あら、そんなの簡単よ。日本に来る時に天界うえから丁度、視えたのよね。銀河が千春ちゃんのために水ようかんを買ってお見舞いに行く姿が。それを視て、私、あなたに興味持ったのよ?こんな妹想いの人なら恋人のことも大切にしてくれるかな~って」


 そう話す彼女はぎゅっと僕にくっついてくる。


「ちょっと!恥ずかしいったら……」

「あら、いいじゃない。いまはこんな気持ちの良い公園でデート中なのよ?しかも、。それから、もう!呼び捨てで呼ぶって約束でしょ?」

「そうだけど……あ!もう一つ聞きたいことがあったんだった」

「誤魔化したわね?ふふっ、ま、いいわ。なにが知りたいの?」

「空手を習ってるってどこで習ったの?あの鬼が敬語で接してくるなんてすごい威力だよね!?」

「天界である人に習ったの。とっても綺麗で優しくて料理も上手な人。それに、エレガント&押忍なの!」

「エレガント&押忍!?」


 どういう意味なんだろう?初めて聞く組み合わせだな。謎だらけだけど、嬉しそうに話す彼女を見てるとまぁいいかってなっちゃうのが不思議だよね。


奈都なつ?あのさ、いつまで僕と一緒にいてくれるの?その……いつか天界に帰らなきゃいけないなら……寂しいな」

「……っ!?嬉しい。そんな風に思ってくれるなんて。心配しないで。ずっとあなたと一緒にいるわ。ずっとよ?神もね、人と結婚できるんだから」

「ほんと!?ありがとう。すごく嬉しいよ」

「そのうち、銀河にも押忍の精神、教えてあげるわね?」


 可愛らしく微笑む僕のとっても大切な彼女。押忍の掛け声と共に拳を二度三度と繰り出すその様は、とてもカッコよくあでやかだった。

 でもね、風圧で目の前の木をなぎ倒すのはやめてほしいな。遠くからだんだんパトカーの音が近づいてきちゃってるからぁ!!

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