第21章 救援
天界 創世神殿-
「魔神デモニアまでもが淘汰された今、神は貴方と私だけになりましたが・・・マル
ドゥクス。これからどうするおつもりなのですか?」
マルドゥクスはその問いに答えず宙を見つめた。
「少なくとも、獣族と魔族からは新たな神を召し上げるべきではないでしょうか?
・・・特に今の魔族は統率が全く取れていないように見えます。この状態が続くよう
であれば、私はグリニア大陸に逃げて来た魔族を全て討ち滅ぼさなければならなく
なるでしょう。・・・同胞達への襲撃被害がもはや看過出来ないところにまで来ており
ます。」
「・・・うむ。状況は全て把握しておる。だがしかし、現状では魔族、獣族共に次なる
神の器は育っておらぬ。グリニア大陸の件は其方に一任するとしよう。然るべき対応
を取るがよい。但し、我が定めし理に背く事だけは許さぬ。努々忘れるな。」
「承知致しました。」
フェアリアが頷いて小さく溜息をついた。
「マルドゥクス。人神が贄でないと言うのなら・・・一度、人神ヒロをここ創世神殿に
召喚しては如何でしょうか?我等三神だけでも今後の治世について意見の一致を見て
おくべきかと。」
「・・・ヒロを正式に人間族の神として召し上げろと申すか。」
「はい。私は彼が五柱神の器を有していると考えます。それはマルドゥクス、貴方も
同じ見立てだと思っておりましたが・・・違うのですか?」
「確かに神としての資格は有しておろう。機も熟している。・・・だが、急いては事を
仕損じるというもの。もう暫し待とうと思う。」
-せっかくだ。極限まで熟れた実というものを喰うてみたい。
フェアリアはほくそ笑むマルドゥクスを静かに見つめた。
夏- ウィンダム王国 ギデオン島
「チーッス。」
「お、来たな。座り給え。何か飲むかい?」
司令官室に現れたヒロをカエラがソファーに座ったまま迎えた。
「大丈夫。さっき納品の時に経連支部でいっぱい飲んで来たから。お腹タプタプ。」
「そうか。じゃ甘玉でもどうだ。」
「あざまっす!」
ヒロが瓶から1つ摘まんで口に入れた。
「若夫婦は元気にしてるかい?」
「あ、うん!タツミもミヅキさんも超元気だよ!おしどり夫婦ってあんな夫婦の事を
言うんだろなって思う。なんかもう・・・ほんと息ピッタリ!」
ヒロが笑った。
「そうだな。のんびりしている旦那さんにしっかり者の奥さんで・・・互いが補い合っ
てる事を自覚しているのだろう。」
「だねえ。そして今は、もうネル無しじゃ生きていけない夫婦。の構図。」
「はは。思い浮かぶよ。」
カエラが笑う。
「・・・そうか。では、次はカイトとエレナだな。」
「うんだねー。2人共、忙しいなりに色々と話し合って結婚に向けて準備してるみた
いだし、来年には入籍出来たらいいなと思うけど・・・」
「騎士は早めに家庭を持った方が良いとカイトには言ってるんだがな。」
「そうなん?」
「うむ。守るべきものが出来ると人は強くなるというだろ?」
「うん。」
「責任感や献身的な愛情に基く精神的な強さ、そして自制心や自己犠牲の精神といっ
たものは、騎士にとって必要不可欠な資質だ。情操教育や精神修養によってその種の
道徳観や倫理観を育むにはどうしても時間がかかる。しかし、家庭を持ったり子供が
出来ると一日で変わる人間も多い。共に生きる事、人を愛する事、それらを学び続
けられる場である結婚生活は、騎士にとって最高の教育機関だと私は思っている。」
「なるほどね・・・。」
ヒロが頷いた。
「カエラさんは結婚しないの?」
「え?私か!?」
「いやだってサイモンさんとカエラさん、お互いに好-」
ヒロの前でカエラが顔を赤く染めて言葉に詰まっていた。何かを言わんとして必死
に手振りだけが先行している。
-しまった。・・・カエラさんガチで奥手だわ。
「あ、この話はまたにしよ!依頼!依頼の話聞かせて、カエラさん!」
「そ、そうだった!依頼の話をしなければ!!・・・コホンッ。」
カエラが咳払いをしながら深呼吸を繰り返した。
「今回は少し変わった内容の依頼になるんだ。」
「ほお?」
「ウィズダム王国を知っているかな?」
「名前は聞いた事がある、って程度かな。西の方にある国だっけ?」
「うむ。大陸の最東端に広がる歴史ある王国で、古くから我が国と交易を行ってる。
関係は非常に良好だ。我が国で王宮専属筆頭医療官に就いているアンという子が、
そのウィズダム王国出身でね。」
「医療官の・・・アン?・・・アン。どっかで聞いたような・・・」
「ん?王宮医務局に行った事があるのかい?」
-王宮の医務局?・・・あ、思い出した!アブル殺して医務室で目が覚めた時にすぐに
来てくれた子だ!
「あー、うん。王との接見で王都に行った時にその人と会ったかも。」
「そうだったか。彼女の叔父にあたる人物が、ウィズダム王国のラビアスという小さ
な魚村で村長をしているんだが、2日程前にアン宛に伝書が届いたそうなんだ。叔父
上が言うには、朝起きるとラビアス村のすぐ沖合に見えていた人口200人程の島が
一夜にして消えていたらしい。」
「へ?島が消えた?」
「うむ。島が忽然と消えた。そして、それ以降は毎日ラビアス村に訪れていた島の
魚売りや行商人達が姿を見せなくなったそうだ。漁師達が船を出して確かめに行って
も、やはり島はそっくり消えていたらしい。島民達を心配してすぐに領主に異変を
伝えに行ったそうなんだが、一向に信じてもらえずに追い返された挙句、ラビアスが
辺境の寒村だからか調査員を送る事さえもしてくれなかったらしい。無論、地方領主
が動かねば王国は動かない。そこで痺れを切らした村長が姪を頼って、遥々我々に
相談を持ち掛けて来たという流れだ。人神ホロ様に助けて頂きたい、消えた島と
島民を探して欲しい、とね。」
「ほーん。」
「この件はアン本人から相談を受けた医務局長によって、ヴェスタ王も知るところ
となっている。とはいえ、これは他国の異聞に過ぎない。我が国が率先して動く訳に
もいかないし、下手をすればウィズダム国王や怠惰な地方領主の面子を潰してしまう
可能性だってあるだろう。・・・そうなるとラビアス村の村長に怒りの矛先が向かいか
ねない。それだけは避けたいのだよ。・・・そこで、だ。依頼でラビアスに行くのでは
なく、表向きは偶然を装ってラビアス入りしてもらえないだろうか。人神様に国外
旅行を楽しんで来てもらいたい。」
「いいよ。場所分かる?」
「あ・・・待ってくれ。・・・む!そういえば依頼書から地図や地理的な情報が抜け落ち
ているな・・・。すまない。ラビアス村の場所は把握出来ていない。アンに直接聞いた
方が早いかもしれん。少し待っていてくれ!すぐに念話連絡-」
「あ、だったら俺が聞いてくるよ。で、そのままラビアスに飛ぶね。」
「そ、そうしてもらえると助かるが・・・申し訳ない、少年。」
「いや、全然!手抜き依頼書を作ってよこした王宮の奴が悪い!」
座ったまま敬礼したヒロの姿が消えた。
「おい坊主、なんで俺の机の上に座っている。」
「・・・・・・ハッ!いや、宗主神で飛んで来たもんで・・・」
「そうか。・・・で、なぜ机の上から動かないんだ?」
「あ・・・動いた方がいい?」
「俺は書類仕事中で猛烈に忙しい。ペンで刺すぞ。」
「冗談冗談。」
ヒロが笑いながら机から飛び降りた。
「アンの依頼か?」
「そそ!依頼先の村の場所を詳しく聞こうと思ってさ。」
「アンなら中央塔の医務局にいるはずだ。昼休憩に入る前に捕まえろ。奴等は昼休
みに入ると、飯を食いにすぐにどっか行っちまうからな。」
「ありがと、行って来やす!」
ヒロの姿が消えた。
そしてサイモンの机の上に座った状態で現れる。
太腿にペンが突き刺さった。
「アン先生、人神様の従者のヒロ殿が待合室に来られています。面会をご所望のよう
ですが-」
「え!もう来てくれたんだ!・・・すぐにお通しして下さい!」
「畏まりました。」
アンが手鏡を取り出して髪を素早く整え、姿勢を正した。
「チーッス。」
ヒロが医務室に入って来た。
「ども、お久しぶりっすー。」
「一度お会いしましたね!その後、体調はいかがですか?」
「絶好調っす!」
「良かった・・・。あの、今日は私の件で来て下さったんですよね?」
「うん。もし良かったらその叔父さんからの相談の伝書ってのを見せてもらえると
助かるんだけど。」
「是非!今ちょうど持っていますので!」
アンは机の引き出しを開け、折り畳んだ紙束を取り出してヒロの前に置いた。
長い文面をヒロが速読していく。
-やっぱ島が消えて人も消えたってか。村が漁船団を出して大捜索しても発見出来
ず・・・か。
「あざっした。」
あっという間に読み終えて伝書をアンに返した。
「消えたバミンガ島というのは、ラビアス村から目と鼻の距離なんです。もしも自然
災害や地殻の変動で島が消えたりしたのなら、村だって無事では済まないはず・・・と
思うんです。」
「ふむ。ラビアスって村はどの辺にあるんすか?」
「えっと・・・」
アンがまた机の引き出しを開けてゴソゴソしている。
そして大陸地図を取り出して机の上に広げた。
「ここがウィズダム王国。そしてラビアス村は・・・・・・この辺です。このぽっこりと
地形が突き出してるとこの根元の辺り。分かるかしら・・・。」
「うん。」
「そして・・・確かこの辺にバミンガ島がありました。ラビアス村のほんとすぐ沖合で
す。」
アンがペン先で場所を指し示した。
「・・・ふむふむ、分かった。」
ヒロが鈍く光る眼で空中を見つめていた。
「あの・・・ヒロ様?」
ーこれは・・・
ヒロが無言で立ち上がった。
「アンさん、」
「はい!」
「俺、現地に飛ぶわ。仕事頑張ってね!」
少年の姿が消えた。
「断絶結界を複数の幻術で覆って島ごと見えなくしてんのか・・・。これなら誰も近づ
けないし見えもしない。考えたな、こいつら。」
ヒロは空中に停止し、眼下の島に広がる濃霧が立ち込めた密林を眺めた。
-森林地帯に走竜8、渓谷に鎧竜5と幻竜7、山の頂上付近に聖竜3。・・・島北側の
魔窟の上層に楼鬼18、堕鬼23、下層に幻魔7、水魔が44。種類は雑多で王は
無し。・・・生き残りとか群れから逸れた個体で集まった集団が島に上陸、そのまま
居座ってるって感じだな・・・
ヒロの眼が鈍く光る。
-生存者は・・・まだ間に合う。
「待ってろよ。」
与奪神の姿が掻き消える。
次の瞬間、島の各地に点在していた竜達が忽然と姿を消し、同時に魔窟の入り口に
与奪神が降り立った。
「水魔が地下水路から海に逃げちまうと厄介だな。無難に・・・閉じ込めとくか。」
少年は指を鳴らしてから魔窟の闇の中に消えた。
「あれ?・・・なんだ、この感じ・・・・・・結界?」
「ん?どうした?」
「わ、分かんねえ!ただ・・・いや、この魔窟全体に・・・結界が張られた?」
「あん?この魔窟全体に結界だ?・・・何言ってんだお前?」
「いや、この感じは絶対に結界だ。まさか俺達・・・閉じ込められてるんじゃ・・・待っ
た!!う、嘘だろっ!!こんな事って-」
「分かった分かった。落ち着けって。・・・じゃあ、とりあえず上層に出て外を見に
行こうぜ。」
「急ごう。これは絶対に変だ!」
走り出した堕鬼達の姿が忽然と消えた。
「後は・・・下層にいる幻魔と水魔か。」
少年の姿がフッと消えた。
「なんか上、静かだな。」
「そういや・・・音が聞こえねーな。上層さん達は狩りにでも出たか?」
「いや、こんなに音が聞こえない事とかあるか?・・・静か過ぎるだろ。」
「あれ?・・・そういえば俺達以外の水魔も見掛けねえよな。みんなどこ行ったん
だ?」
「ちょっと待った!・・・探知に俺達3体しかかからんぞ!?」
「は?」
「そんな訳あるか。悪い冗談はやめろって。」
「いや、本当なんだ!・・・え?・・・おい!・・・おいっ!!お前等、どこに行った!!
さっきまで俺の目の前にいたのに・・・グゥエッ!!」
与奪神が片手で水魔の喉を締め上げつつ持ち上げた。
「お前で最後か。」
「グゥエェッッ・・・」
水魔の姿が一瞬で液状化し、ヒロの手を摺り抜けて地面に染み込んで逃げ出し
た。
「キモッ。」
-こ、このまま土中を移動して地下水路から海に逃げ込めば・・・っ
その時、見えない結界の壁が水魔の進路を阻んだ。
-な、なんだ、これ!?見えない・・・壁!?
その時、背後から光速で追って来た蒼い炎の矢が、水魔を貫いて浄化の炎で焼き
尽くした。
「おーい!ヒロって子が村長探してんぞー!」
「ノイルさーん、人神の従者様ってお人が、あんたを呼んでるってよ!」
「なんだと!?」
ノイルが驚いて窓の外を見た。
少年が赤子を腕に抱いて立っているのが見える。
「おい、村の皆を集めてくれ!大急ぎでだ!」
村の集会堂から白髪の老人が小走りで出て来た。
「あんたが村長さん?」
「そうです!私が村長のミツバ・ノイルです!あの、貴方様は・・・」
「人神の従者ヒロ。あんたの姪っ子さんに聞いて、この辺に「旅行」に来たんだ。
バミンガ島辺りで釣りでもしたいなーと思って。」
「・・・姪?はて?何の話でしょうか?姪は聖クリシュア王国に住んどります。この村
まで、どんなに急いでも半年以上かかる距離ですが。」
-姪に伝書鳥を出したのは4日前。こんなに早く人神様の使者がこの村を訪れる
はずが無い。事故か何かで伝書鳥が捕獲され、伝書が他人の手に渡ったか?王家
への不敬罪や反逆罪に問われる内容ではないはずだが・・・用心に越した事は無い。
「君は誰だ。悪戯はやめて頂きたい。」
続々と村民が集まって来る。
少年がスッと海の方を指差した。
すると、その先に忽然とバミンガ島が姿を現していた。
「お、おい!あれを見ろ!」
「え!?」
「島が戻って来たぞっ!!」
「本当だ!!見える!!どこ行ってたんだ!!」
村民が騒ぎ出した。
「俺と一緒に「旅行」で来ていた人神のホロ様が、今さっきバミンガ島にかかってた呪いを解いて下さったんだよ。」
「呪い!?」
「外部から完全に見えなくする悪質な呪い・・・結界と幻術だ。」
驚愕の表情で島を見つめていたノイル村長がヒロに視線を戻した。
「君は本当に人神の・・・」
「まあ信じられないならそれでもいいけど。」
村長と共に村民達がその場に一斉に跪いた。
「俺は神様じゃないから、そんな風に畏まるのはやめてもらっていい?ほら、皆立っ
て立って。」
おずおずと人々が立ち上がる。
ノイルが進み出て頭を下げた。
「疑って申し訳ありませんでした。失礼を侘びます。」
「いいっていいって。それよりもこの子なんだけど・・・」
「その赤子は?」
ノイルは少年が抱いていた女性用の着物に包まれた赤子を見つめた。
「島民の子供。ホロ様が島の魔窟で殺されていた女性のお腹から、取り上げて助けて
下さったんだ。この身包みは母親が着ていた着物らしい。この子が大きくなった時
に・・・生みの親の形見だって渡してあげて欲しいんだ。とりあえず誰かこの子に乳を
あげてくんねーかな。」
「それなら私が!」
抱いていた我が子を夫に託した女性が進み出て、ヒロから赤子を受け取った。
「それで島は・・・島の皆は!?」
「順を追って説明するね。まず、バミンガ島は、上陸して来た魔族達が断絶の結界
と複数の幻術を上手く使って、消えたように見せかけていただけなんだ。」
「魔族!?」
「魔族がいたんですか!?」
「いた。ホロ様が突入した時には、もう島の集落は3つ共魔族に襲われた後で、
生存者はこの子だけだった。島を襲った魔族は全てホロ様が討伐してくれてる。
それからこの子を俺に託して村で保護してもらえって。・・・ホロ様は島にかかって
た「呪い」を祓った後、急用で先に鏡の森に帰ってった。たぶん。」
「な、なんという・・・」
「集落が・・・全滅・・・」
「そんな・・・。」
ヒロの報告を聞き、村人の何人かが泣き崩れた。
「島民の遺体は全て、ナルパ集落の南側の丘に集めたって聞いてる。弔いたい人は
行ってあげて。もう危険は無いから。」
「何から何まで・・・本当にありがとうございます。私の妹夫婦を含め・・・島民もこれで
・・・安心して逝けるでしょう・・・。」
村長が肩を落とす。
「村長さん、今はあんたが悲しむ時じゃない。悲しんでる人を慰める時だ。あんた
の村民の為にも・・・今だけは歯を食いしばってくれ。まずは民を支えるんだ。」
ヒロがそっと村長の耳元で呟く。
「は・・・はい。」
村長が顔を上げ、そして両手を強く握り締めた。
「今から希望者を募ってバミンガ島に向かう!弔いだ!埋葬に必要な道具を持って
港に集まってくれ!船を持っている者は渡りの準備を頼む!マール、弔いに行く者達
を引率してくれ!あとは頼めるか!」
「分かりました!任せて下さい!」
「村に残る者は料理と酒の準備だ!足りない食材や酒は、私が今から買い付けて
来るから心配するな!今夜は偲びの宴。島民の魂を盛大に見送ってやろうじゃない
か!」
村長の声に村人達が頷き、一斉に動き出した。
哀しみを強引に捻じ伏せた老人が、強い眼差しで村民の動きを見守る。
「村長、これ。」
ヒロがセイン純銀貨を2枚渡した。
「こ、これは!?」
「ホロ様が人助けで必要な時に使えって渡されてた銀貨。1枚は今日の宴代に、もう
1枚は生き残ったあの赤子のために。」
「え!・・・いや・・・これは、」
「宴の費用をどうやって捻出しようかって必死に考えてたでしょ、今。・・・放っとい
たら村長さん、自分とこの家畜とか全部売っ払いそうで怖えーよ。」
ヒロが笑った。
村長は無言でヒロの手を両手で握り、頭を下げた。
そんな2人のもとに、赤子を抱いた女性が夫を連れて近づいて来た。
「ノイル村長、この子・・・私達が育ててもいいかな。一人も二人も一緒だしさ。・・・
乳をあげたら、なんだか情が移っちゃってねえ。」
女性が母親の眼差しで抱いていた赤子を見つめた。
妻の横に立つ夫が一歩進み出る。
「俺も嫁もバミンガ島の出身です。この子は・・・俺達に育てさせて下さい。村長、
どうかお願いします!」
そして深々と頭を下げる。
「アランとリーナなら安心だ。・・・分かった。この子を任せよう。よろしく頼む。」
村長は笑みを浮かべて頷き、そっと赤子の頬を撫でた。
「よかったぁ!」
「ありがとうございます!」
「アラン、リーナ、これを受け取りなさい。」
村長が夫に純銀貨を1枚渡した。
「なっ!?・・・え!?」
「これは人神ホロ様からの贈り物だ。この子の為に使ってやっておくれ。」
「い、いいんですか!?」
「だめだよ!こんな大金・・・」
「こんな寒村で子供一人育てる事がどれほど大変な事か、ホロ様も従者様もよく
ご存知だ。意地を張らず感謝して受け取りなさい。この子の為にな。」
村長の優しくも重い言葉に、2人は頭を深く下げて純銀貨を受け取った。
「従者様、ホロ様に純銀貨ありがとうございますって、くれぐれも伝えておくれ。
絶対だよ!」
「了解。ちゃんと伝えとく。」
「本当にありがとね。」
「本当にありがとうございます、従者様。それであの、もしよかったら・・・この子の
名付け親になって頂けませんか?」
アランが微笑む。
「え?俺が?」
「従者様に付けて頂けたら御利益があると思うんです。この子のこれからの幸せの
為にも。どうかお願いします!」
「お願いします!」
アランとリーナが揃って頭を下げた。
「う、うん。いいけど。・・・男の子だっけ?女の子?」
「女の子だよ。」
「じゃあ・・・・・・エリナ。人神の従者と剣聖の勇者カイトを顎で使う最恐の英雄、エレ
ナ女公爵の名前と、お母さんのリーナって名前を合わせてみたんだ。きっと強い子に
なる。」
-だが、エレナみたいにはなるなよ・・・
「エリナかぁ!・・・エリナ。エリナ。うん、良い名だ!!従者様、本当にありがとう
ございます!!」
アランが会心の笑みを見せて喜んだ。
「可愛い響きがこの子にピッタリだよ。・・・ほらエリナ。・・・私があんたのお母さんに
なるリーナだ。立派に育つんだよ。私達が絶対に守ってやるからね。」
リーナから優しく頬を擽られてホァァ・・・と欠伸をしたエリナを見て、夫のアラン
の目尻が下がった。
「アルト、見てごらん。お前の妹のエリナだよ。」
アランが自分が抱いていた息子に妹を見せてあげると、アルトがキャッキャと笑っ
た。
ディオン駐屯地 司令官室-
「そうか・・・。一つだけ確認しておきたいんだが、倒した竜は走竜、鎧竜、幻竜、
そして聖竜で間違いないな?」
「うん、竜はその4種で間違いないよー。」
「ふむ。」
「どうかしたの?」
「いや、・・・その竜種はどれもこの大陸には生息していない種なんだ。ここよりもっ
と寒冷地帯の大陸、例えば北のグリニア大陸などで繁殖している種でな。・・・ちょう
どウィズダム王国と海を挟んだその先にある大陸だ。」
「あ、そういや、楼鬼とか幻魔とか、初めて見る魔族も多かった・・・。」
「うむ。つまりバミンガ島を襲った魔族の群れは、我々を畏れて僻地へ逃げ込んだ
魔族ではなく、何らかの理由でグリニア大陸側から渡って来た魔族と見て間違いない
だろう。」
「魔神が殺された大陸にわざわざ来たのかー。勇気あるじゃん。」
「魔族は生存本能が強い種族。危険地帯に進出するにはそれ相当の理由があるはず
だ。・・・あと私が気になるのは、その魔族の群れに王が含まれていなかったという点
だな。」
「群れの生き残りとか、集団から逸れた個体が集まった即席の群れって感じがした。
直感だけど。」
「数や編成的に私もそう考える。ただし、竜は基本的に魔族の他部族と共闘、共存
などしない。つまり、それが求められる程に特別な、または過酷な環境に彼等はい
た、という事になる。」
「ふーむ・・・。」
「次に結界と幻術で巧妙に島を消したという点だが、魔族にそんな知恵を持つ者な
どそうはいない。古竜に次いで知性が高いと言われる聖竜を除けば、な。・・・恐らく
聖竜が幻竜や幻魔と組んで、手の込んだ偽装を島全体に施したんだろう。・・・だと
すると、彼等は何から必死に隠れようとしていたのか?という話になる。」
「確かに。んー・・・今、グリニア大陸を見てんだけど・・・」
「む?」
「ここって魔族が少ない大陸?」
「いや、逆だ。世界5大陸の中でも特に魔族が多く棲んでいる大陸だと聞く。グリ
ニア大陸から海を渡って来る商人や吟遊詩人の間では、魔神を産み落とした魔境大陸
なんて呼ばれているくらいだしな。実際、交易先のグリニアの国々から応援要請を
請け、アデン大陸からも魔族討伐の支援部隊を頻繁送り込んでいるぞ。」
「えー、そうなんだ。・・・でも、ざっと見た感じだけど・・・人間族と獣族はちらほら
いるけど、精霊族と・・・特に魔族はよく探さないと見つかんないくらい。・・・少ない
よ。」
「それはおかしい。うーむ、やはり何か異変が起きているとしか思えないんだが
・・・。」
カエラは眉間に皺を寄せ腕を組んだ。
「んー、やっぱいないね。魔族の死骸とか戦闘の痕跡とかが残ってる訳でもない
し・・・・・・ん?」
-いや、違う。これは・・・戦闘の痕跡が綺麗に消されてんだ。地形が変わるような
高威力、広範囲の攻撃を繰り返した後で、戦闘で破壊された大地や自然が・・・丁寧に
修復されてる。まるで自然界に対する配慮みたいな・・・
「どうかしたか?少年。」
「前言撤回。あっちこっちでかなり殺りあってたっぽい。ちょい神眼と神視で探って
みる。」
ヒロが突然目線を上げた。
「カエラさん、」
「どうした!?」
「俺、ちょっと出かけて来るわ。すぐに呼ぶから戦いの準備して待ってて。」
「え?」
人神の姿が消えた。
10分ほど前 グリニア大陸 バーヴェル魔境の中央草原-
「・・・さすがに・・・多いわね。」
肩で息をしながらフェアリアが呟いた。
大地に突き刺した神杖グランパスに寄りかかる。
グリニア大陸の魔族討伐を開始してから15日目。
特にこのバーヴェル魔境に足を踏み込んでからというもの、3日間に渡って途切れ
る事無く、魔鬼と闇鬼による波状攻撃を受けていた。
-何度殲滅を繰り返しても・・・無限かと思えるほどに魔鬼と闇鬼が湧いて来てしま
う。
「・・・キリが無いわね。」
最初の一週間は大陸の北側と西側で大量の魔族を駆逐しつつ、加えて戦闘で破壊
してしまった自然環境を全て完全回復させて来たフェアリアは、拭えぬ疲労感と共に
回復よりも消費が上回って来ている神力の残量を気にし出していた。
-ここは一度撤退して神力を回復したいところだけど・・・この魔鬼と闇鬼の大集団の
背後に気配を消した別の大集団が潜んでる。・・・恐らく同じ三鬼族の中でも最強の
部族、吸鬼・・・。
フェアリアが無数の光る風の刃を作り出し、急襲してきた魔鬼の集団を斬り刻んで
いく。
そして時間差で地面から湧きだして来た闇鬼の集団を、光の環で一匹残らず蒸発
させた。
-自然同化の法術でこの場から撤退するにしても・・・発動の瞬間に一瞬だけ無防備に
なってしまう。・・・恐らく吸鬼はその一瞬を狙っている。
魔鬼による新たな襲撃を察知して振り向いた精霊神は、足元の地下に沈んでいた
闇鬼が地面を激しく揺らした事により一瞬体勢を崩した。
闇鬼の奇襲攻撃への反応が僅かに遅れてしまい、精霊神の右肩に刀傷が走った。
「私に・・・触れるな!」
フェアリアの声に共鳴するかのように大気が大爆発し、眼前の魔鬼の集団が消し
飛んだ。
続けて精霊神の指先が宙で弧を描くと、生成された大量の風の刃が大爆発を免れ
た魔鬼達を斬り刻み、屠り尽くす。
肩で息をするようになっていた精霊神は、周囲を警戒しながら先程受けた刀傷に
治癒をかけた。
突然、風向きを読んだ闇鬼が風上に湧きだし、呪詛霧を撒き散らしてすぐに地面の
下に消えていく。
フェアリアが両手で三角を作ると、己を中心に驚異的な圧がかかり、瞬間的に
地面が押し潰されたように沈み込んで地下に隠れた闇鬼達を圧殺した。
風に乗り呪詛霧が漂って来る。
「こんな呪詛が私に通じるとでも思っているのですか?・・・いい加減、隠れている
者達も出て来たらどう!?」
祓う程のものではないと思っていた霧が、やけに粘りつく事にフェアリアは気付い
た。
-この呪詛・・・思ったよりも濃い。優先的に祓った方が・・・
次の瞬間、視界が大量の魔鬼で埋まった。
精霊神は呪詛の浄化よりも迫り来る魔鬼の大集団の処理を優先し、光る風の刃を
大量に生成して立ち向かう。
-何?神力が・・・急激に減って
フェアリアが異変に気付き後方に飛び退くものの、粘り気のある呪詛は体に纏わ
りついたままだった。
そして大量の魔鬼が素早く距離を詰め追撃して来る。
辛うじて光る風の刃で対応したものの、フェアリアは己の神力が今までよりも
早い速度で減りだした事に驚きと焦りを覚えた。
-神力が吸われてる?・・・この粘着する呪詛は・・・吸鬼達の遠隔攻撃なのね。
周囲にはフェアリアから距離を置いて取り巻くように無数の吸鬼が現れていた。
急速に重く感じる体を強いて強制解呪を唱えようとしたフェアリアに、新たな
魔鬼の大集団と闇鬼の大集団が結託して怒涛の攻撃を繰り出して来た。
-か、数が多過ぎる。総攻撃!?
フェアリアは両手を広げ、一瞬で自分の周りを光の防御膜で覆い、目前に迫った
大量の魔鬼と闇鬼の猛攻撃に備えた。
そして光の防御膜に飛び掛かって来た魔族達を押し留め、逆に押し込んで行く。
-このまま膠着しても意味が無い。・・・神力が減り続けるだけ私が不利。どこかで
攻めに転じないと・・・
フェアリアは冷静に周囲を見渡した。
-三鬼族の中でも吸鬼の数が異常に多い・・・。しかもどれも魔族の王を遥かに超える
存在になっている。・・・どれだけ・・・どれだけ精霊族を殺したらあんなに-
精霊神の眼に怒りの火が灯る。
「くっ、くぅっ・・・」
膠着状態だと理解した吸鬼達によって、一層激しく神力が吸われ出した。
そして精霊神の光の幕を突破しようと無数の魔鬼と闇鬼が斬撃を繰り出し、光幕が
激しく振動しだした。
-て・・・手詰まり・・・ね。私はもう・・・・・・ナフィア姉さん、残された精霊達をお願い
・・・
その時、壮絶な戦いの大地を、薄く濃密な神力の波動が瞬く間に駆け抜けて行っ
た。
-今の神力は・・・探知!?・・・・・・まさか、あの子-
精霊神が最後の気力を振り絞って天空を見上げた。
戦場の空気が変わった。空と大地を押し潰すかのような「圧」と、この世の終わ
りを予感させる「怒気」が渦巻く。
-来る。
その場に集う全ての者達の視線が、精霊神の光膜の前に忽然と現れて佇む少年
に向けられた。
「平伏せ、屑共。」
彼の者が放つ、この世のものとは思えない程の殺気と怒気に恐怖し、全ての魔族
がその場に跪いた。
その尋常ならざる「威厳」に魂核が摺り潰されそうな感覚に襲われ、心の底から
震えだす。
少年が振り返った。
「フェアリア。俺、あんま戦いの横殴りとか好きじゃねーんだけど、こいつら・・・
もらって良いかな?」
「・・・え?・・・・・・ええ。許可します。」
「ういっす!」
人神が視線を魔族達に戻すと、その隣にカエラが忽然と現れた。
フェアリアが驚きの眼で目の前に立つ女戦士の背を見つめる。
「ほお!こいつらが敵か、少年!」
「うん。フェアリアが譲ってくれるって。ほら見て、すっげー肥え太った吸鬼が無数
にいるし、熟練度上げに丁度良くね?」
「最高っ!最高だ!!ただしヒロ、その威嚇強制は解いてくれ!抵抗させた方が熟
練度が増える!それに嬲り殺しは性に合わん!」
「ういっす!あ、神楽かけとく?」
「いや大丈夫だ!差が付き過ぎてしまう!ベルフ、来い!激熱の狩りだぞ!!・・・
一匹たりとも逃すな!さあ、久々に2人で暴れるとしようかっ!!」
召還されたベルフが狂喜に震える。
「いざ、尋常に我等と勝負せよ!!!」
カエラとベルフの開戦の咆哮が草原に響き渡った。
「でも・・・」
少年は放心したように地面に座り込むフェアリアを見つめた。
「あんたは神力の容量は底なしだけど、回復力はそうでもねーんだから、戦い方を
少し考えた方がいいぞー。無茶だけはやめとけ。」
「わ・・・分かってますっ。・・・今回は色々と回復させたり大変で、仕方がなかった
の。」
頬を膨らませたフェアリアの頭上から美しい光の環が幾つも降りてきた。
「え?」
そして次々に美しい光の粒となって霧散していく。
「古代神聖術「神楽」。全ての回復力を爆上げしといた。1分もありゃー神力が完全
回復すっから。少しだけそのまま座ってな。」
治癒が途中だった肩の傷も一瞬で完治している。
「う、うそ!!・・・神力が・・・まさかこんな事って!?・・・・・・え、待って、信じられ
ない!!」
フェアリアは尋常ではない程の神力の急激な高まりに、思わず驚愕の声を上げた。
しかし、その声はカエラとベルフの興奮と狂喜の絶叫によって掻き消された。
「次ぃぃっ!!もっとかかって来いっ!!!ベルフ!そっちに逃げてったぞ!!!
ガーッハッハー!!」
「ゴォガアアアアアアア!!!」
ヒロが憐みの眼差しを地獄絵図と化している周囲に向けた。
「貴方、どうしてここに?・・・私の動向を監視していたの?」
「ん?いや、たまたまだよ。この大陸から逃げ出して来た魔族に、人間の集落が
襲われたんで、色々と調べてたらあんたを見かけた。それだけ。」
「・・・ご、ごめんなさい。その襲撃は・・・私のせいで起きたのだと思います。」
「いや、謝るのは俺の方だ。こいつらアデン大陸にいた魔族だろ?・・・だったら、
そもそもの原因はアデン大陸で魔族を狩りまくってた俺にある。面倒をかけてすま
ねえ。だけど・・・お前が無事で良かった。」
-やっぱりこの子は・・・どこまでも真っ直ぐで・・・どこまでも優しいのね。
心からの安堵を瞳に宿して微笑む少年の横顔を、フェアリアは静かに見つめた。
「・・・感謝します。人神ヒロ。」
フェアリアが立ち上がった。
「大丈夫か?」
「ええ、もう力が漲り溢れてしまって・・・大変。」
精霊神が照れ臭そうに微笑んだ。
「魔族の討伐、まだ続けるんだろ?」
「そうね。もう少しだけ。凶悪なのが残っているから。」
ヒロが指を鳴らすと、更にフェアリアの頭上から美しい光の環が降りて来た。
「回復力以外も全部爆上げしとくわ。効果は30日間ほどで消えるから。気を付け
ろよ。」
「・・・う、うそっ!?・・・こ、この力は何!?・・・こんなの・・・もう奇跡としか言いよ
うがない。」
フェアリアは自分の身に起きている力と能力の激変が信じられず、呆然としながら
自分の両手を見つめた。
盛大に巻き起こった血煙の中をカエラとベルフが肩を組み、最高の笑顔を見せな
がら帰って来た。
「あ、フェアリア、紹介しとくよ。こっちは俺の弟子で、聖クリシュナ王国騎士団
のカエラさん。隣はカエラさんの眷属で魔族のベルフ嬢。」
「お初目にかかる。アマンダ・カエラだ。ヒロ、こちらの可愛らしいお嬢さんは、
もしかして君の-・・・ん?・・・待った。先程とは違うこの濃厚な気配・・・」
カエラは目の前の美しい少女を真顔で見つめる。
「精霊神フェアリアと申します。」
「え。」
「!?っっ」
驚きの余りベルフは一礼をして召喚帰還で消え去り、カエラは一瞬どう立ち振る舞
おうか迷ったが、敵対的でない神に対しては礼を尽くすべきと考え、その場に跪い
た。
「実体化されているとは露知らず、大変失礼致しました。精霊神様。」
「構いません。お立ちなさい、騎士カエラ。」
「はっ!」
「あなたの武勇、しかとこの目に焼き付けました。」
「と、とんでもございません!つい気分が高揚してしまい、お見苦しいところ
を・・・」
カエラが背筋の伸びた敬礼を見せる。
「あら、人神と接する時とは随分違うのね。もっと砕けてもいいのですよ?」
「い、いえ!自分は不器用なところがありまして・・・っ!」
フェアリアがクスクスと笑う。
「今宵は貴方方に救われました。何のお返しも出来ませんが、感謝の気持ちを込め
て・・・人間族の女騎士カエラ。貴方に私の加護を授けます。・・・{この者に祝福と栄光
があらんことを}」
カエラの胸に美しい光の紋様が浮かび、そして余韻を残しながら消えていった。
「えっ!・・・・・・こ、光栄に存じます!!ありがとうございます、フェアリア様!!」
子供の様な笑顔を見せて喜ぶカエラを見てフェアリアが微笑んだ。
「んじゃあ、そろそろ撤収しますか。フェアリア、魔族の死骸は全部掃除しとくけ
ど、俺の権能じゃ、自然を元に戻して周るのはちょい手間だから、そっち関連は頼ん
じゃっていい?」
「勿論よ。後で入念に回復しておきます。・・・最後に人神ヒロ-」
フェアリアがそっとヒロに近づいた、
「私の命の恩人に心からの感謝を。」
少年の頬に優しく口づけをして精霊神の姿が消えた。
天界 創世神殿-
「やはりあの小娘、人神に絆されよったか。」
御座に座した創造神が静かに目を閉じた。
-今後、贄と精霊神が組まれては何かと厄介。・・・そろそろ回収するか。
マルドゥクスが宙を見つめた。
「出でよ、アブル。」
美しい鏡面の様な水面に波紋が広がり、その中心に神天使アブルが現れた。
「我が最愛の独り子アブルよ。気分はどうだ。」
アブルが跪く。
「我が父マルドゥクス。その御業、再創造によって無事復活を遂げる事が出来まし
た。「自我」と「意志」までも与えて頂き、心から感謝致します。力は完全に戻って
おります。」
「そうか。では汝に神命を与える。次の新月の晩、与奪神ヒロをここ創世神殿に
連れて参れ。」
「与奪神?・・・彼は・・・とうとう覇神の域に到ったのですか。」
「うむ。彼の者は紛ことなき覇神となった。・・・我はこのヒロなる者を正式に五柱神
に迎えるべきか否か、実際に会ってから裁定しようと思う。まずは平和裏に事を進め
て参れ。」
「御心のままに。」
フッとアブルの姿が消え、地面に綺麗な波紋を残した。
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