第10章 人狼
一か月後
クリシュナ王国騎士団 ディオン駐屯地 外部修練場-
カイトが豪快に吹き飛んでいく。
「魔剣士とは敵を二度斬る者なり。まずは「気」で敵の心を斬り、次に「刃」で
敵の躰を斬る。我が剣の道を極めし時、気のみで敵を斬り殺す事も容易くなろう。
これ即ち「殺気」という。」
黒光りする漆黒の鎧と大剣で完全武装した巨人の騎馬兵が、漆黒の巨大馬から
降りた。
そしてカイトの前に立ち塞がる。
「怒り、憎しみ、悲しみ、哀れみ。理由は問わぬ。あらゆるものを根源とし、何が
あろうと相手を斬り捨てる、この身が滅しようとも相手を滅す、という覇気を示せ。
それ無くして殺気は刃に宿らぬ。」
異様な黒剣の切っ先をカイトの鼻先に突きつける。
「立たぬのか?我が主よ。・・・勝てぬと思うな。敗れると思うな。剣士の刃は・・・
ただ敵を斬り伏せ、己が生きる為だけにある。敵を屠る為ならば、種族も、繋がり
も、使命も、誇りも、全てを捨て去ってみせよ。迷うな。恐れるな。立て。・・・
立って己が魂をここに示せ!常に敵に刃を向けよ!!」
「くっ・・・くっそおおおおお!!!」
「いっ・・・いてて・・・」
赤色の回復水に浸した布を顔や腕に巻いたカイトがヒロの横に寝転がった。
「だ、大丈夫かぁ?」
「ああ、大丈夫。・・・ギリいけた。」
「いけてねーだろ!?カイト、お前マジでやばかったぞ!?抽出でオルガを止め
ようかって本気で迷ったんだからな!」
「や、やめてくれよ・・・。」
カイトの右手が力なく空を切る。
「オルガは俺の・・・最高の剣の師匠なんだ・・・。」
「んっとに大丈夫かよ・・・。ってか、眷属を師匠にするとか、どえらい訓練方法を
思いついたな。」
「だろ?カエラ副指令の発案なんだ。それにこの修練所も副指令が一般立ち入り
禁止の勅令を出してくれてるから、人目を気にせずに存分にやれるんだよ。痛てて
っ・・・」
カイトの召喚眷属、暗黒騎士オルガが2人の背後に立って静かに待機している。
「赤水じゃ治癒に時間かかんだろ。俺が一気に完治させるわ。」
「いや、大丈夫。骨折とか内臓損傷とかヤバいのはすぐにオルガが治してくれるし、
軽い打撲とか切り傷程度なら赤水か自力で治す!それが修行ってもんだ。」
「む、むう・・・。」
「あー・・・でも血吐き過ぎて最近ふらつくんだわ・・・。」
「ふらつくんだわ、じゃねーよ、寝てろよお前。」
カイトが苦笑した。
「でも最初はさ、毎日100回以上は死にかけたんだぜ?・・・それが今じゃ半分くら
いにまで減ったんだから。」
「毎日50回も死にかけてるの、世界中探してもお前だけだぞ。」
「さっきみたいにマジで死にかける。でもさ、楽しくてたまんねーんだよな・・・。」
「うん。・・・え?楽しい?」
「剣術の稽古で熟練度の上がり方が半端なくて・・・さ。ヒロがくれた会得促進の祝福
のおかげだ。マジ感謝。」
カイトが深呼吸をした。
ヒロがカイトの横顔を見つめる。
「最近さ、たまにオルガの動きが・・・考えが見える時があるんだよ。・・・なんていう
か、動きの一つ一つ、剣の一振り一振りに意味があるってのが分かるっつーかさ。
・・・次の動きや攻撃へのつなぎだったり、駆け引きだったり、罠や策だったり・・・。
ほんともう色々なんだけど。」
「カイト、今お前すげー事言ってんぞ。」
「そうか?」
「オルガの熟練度知ってる?」
「知らねー。」
「エレナに一度見てもらえ。オルガは熟練度99万超え、第七類強種の中でもバリ
バリの最上位種だぞ。」
「はぁ!?マ、・・・マジかよ。」
「嘘ついてどーする。」
「・・・死ねるな。」
「よく生きてんな、お前。」
カイトが宙に向かって両手を伸ばす。
「ああ。・・・とりあえず今は・・・オルガの動きを盗んだり、ほんの少しでもあいつの
太刀筋の先を行くのが・・・最高に楽しい。」
その手が宙を掴む。
「最高の師匠に合わせてくれてありがとな。」
穏やかな表情で目を閉じるカイトの隣でヒロは「竜眼」と「予知予測」を使っ
た。
「カイトお前・・・」
「ん?」
「すげーな。」
ヒロが笑う。
「そっか?」
カイトも笑った。
-間違いなくカイトは強くなる。・・・カエラさんとオルガにはマジ感謝だな。
「あ、ヒロ。この事、エレナには言うなよ。」
「ん?」
「あいつ、仕事でディオンに来る度に俺んとこ遊びに来るからさ。こんなんバレた
ら心配してキレだすじゃん?」
「ああ、絶対言わねーよ。言ったらこっちにも飛び火すんだろ。勘弁してくれ。」
苦笑しながらヒロが立ち上がった。
「よし、んじゃ、俺はちょっと行って来るかなー・・・。」
「総司令に呼び出されてんだっけ?」
「うん、今日が初仕事。」
「そっか。ま、ヒロなら大丈夫だろうけど、気は抜くなよ!」
「おうよ。」
ヒロは腰に付いた葉っぱを払うと、カイトが差し出した拳に自分の拳をぶつけ
た。
「オルガ師匠、カイトを宜しく頼むっす。」
漆黒の眷属に深々と頭を下げて、ヒロは歩き出した。
総指令室-
「よく来たな。まあ座れ。」
総司令官のサイモンが高そうな革張り椅子から立ち上がると、ヒロの正面の
ソファーにドカッと腰を降ろした。
「調子はどうだ?抽出少年。」
「ん、絶好調っす。」
「そうか。」
サイモンが足を組んで葉巻入れを取り出す。
「坊主、仕事だ。・・・クリシュナ王国マイア領の北西に位置するサルージュの集落が
襲われた。二日前の話だ。」
総司令の声に隠せぬ怒りが込められている事に気が付いた。
「誰に?」
「犯人はサルージュの近く、ケフィの森に棲み着いている獣族の人狼部族。最近
急激に数が増えていて、森の方々に集落を作っては縄張りを広げてってるらしい。
・・・昨年の秋の報告では、3000頭を超えてるとの事だった。今なら下手したら
その倍はいるかもしれねえ。・・・そんなんだから、多分奴等の食いぶちも減ってん
だろ。近隣の人間の集落が襲われたのは今年に入って2度目だ。短期間にこれほど
大きな被害が続いたのは今回が初めてらしい。」
「集落の被害状況は?」
「全滅だ。」
サイモンの右手が持て余すように葉巻を弄っている。
「近隣の集落から通報を受け、最寄りのケフィ駐屯部隊から救助部隊が編成されて
即刻向かったんだが、既に集落は壊滅状態でひでえ有り様だった。辛うじて子供が
1人だけ奇跡的に命を取り留めている。・・・ただ、その子はもう歩けない。両目と
両足が食われていた。」
サイモンの声には抑え込んだ怒りが滲み出ていた。
「人狼ってのはな、獣族の中でも最強の部族って言われてんだ。人虎や牛吏ってのも
かなり強いが、人狼は凶暴さに加えて身体能力の高さが段違いなんだ。しかも繁殖力
が半端ねえからすぐに増えやがる。王国中央議会から「手に負えなくなる前に討て」とのお達しが出た。ご丁寧な事に、「討伐はお前に任せて観察報告しろ」と王様から
勅命のオマケ付きだ。」
-あんのクソジジイ・・・
「頼めるか、ヒロ。」
「勿論。躾けてくる。」
「ケフィは王都からそう遠く離れている訳じゃねえ。なもんで、王都の近衛騎士団
からアズマ隊長を含む精鋭2部隊、それとケフィ駐屯部隊から一個中隊がお前の
支援部隊、兼、監視役として派遣される。奴等はもう準備に入ってるから、ケフィ
駐屯地で合流してくれ。」
-アズマさんが来んのかー・・・。
「あー・・・でもさ、抽出で仲間に誤射しないようにするのって、けっこう手間なんだ
よねー。自分以外は全部敵、って方が断然殺りやすい。俺一人でケフィに飛んで速攻
で終わらせてくるよ。」
サイモンは無言のまま目の前の少年を見つめた。
「もしかして心配してる?」
「殺戮者の称号持ってるバケモンを心配するほど俺は暇じゃねえ。」
サイモンは苦笑して、初めて葉巻に火を点けた。
「いずれにせよ、支援部隊は動く。ただし、お前が瞬間移動して来るとは思っても
無えだろうから、準備が完全に整うまでにはまだ少し時間がかかるはずだ。・・・お前
が現地に飛んだ事をアズマに念話連絡を入れるのをちょい遅らせたとして、部隊が
慌てて準備を整えて森へ追いかけて来るまでの間、それがお前の自由時間になる。
まあ、いいとこ半日くらいじゃねーかな。」
「それだけあれば十分。あと、空間移動とか空間転移ってさ、知らない場所には飛べ
ないんだよねー。ケフィの森とサルージュの集落の場所を大体でいいから教えて。
遠視で見てから飛ぶ。」
サイモンが後頭部を掻き、宙を睨んだ。
「・・・サルージュは王都から北北西に6500ほど進んだ地点。大きな渓谷を越えた
先に広がるアバン平原の北端にある集落だ。軍馬で強行すりゃー王都から2日程で
着く距離だな。ケフィの森はそのすぐ南西、マグ川に沿って広がっている。」
サイモンが背もたれに体重を預けた
「サルージュは俺が生まれ育った場所でな。・・・川とか湖が眩しいくらいに綺麗で、
みんな馬鹿正直で、お人好しばっかで・・・・・・ほんとどこもかしこも賑やかで、笑い
声が聞こえて来て・・・そんな場所だ。」
「そっか。」
サイモンを見つめていたヒロは視線を外した。
「なら、先に集落の被害をこの目にしっかりと焼き付けてから・・・獣族のど真ん中に
飛ぶわ。」
「ああ。そうしてもらえると助かる。」
指令室から少年の姿が忽然と消えた。
サイモンが再び背もたれに体重を預けると、無言で宙を見つめる。
一度も吸われずに長くなった葉巻の灰が机上に落ちた。
ヒロは道端に目を向け、子供達が草花で編んだのであろう花冠を拾い上げた。
乾いた血が冠の大半を赤黒く染めている。
「何も出来なくて・・・ごめんな。」
少年は顔を上げ、ゆっくりと辺りを見渡した。
無残にも焼き焦げた住居群。そして破壊し尽くされた日常の残骸が視界に映る。
集落のいたる所で鳥や小動物が集まって、騒がしく何かを啄んでいた。
ヒロが近づくとそれらが一斉に逃げて行く。
酷い腐敗臭が鼻をついた。
-これが種族同士の戦い・・・か。
やり切れなさが胸を鷲掴みにする。
-襲い、奪い、殺し、犯し、食う。・・・大した理由なんて無い。腹が減ったから、
欲しかったから、憎いから、強くなりたいから。そんなどうでもいい理由でこの集落
の人達は地獄の様な最期を迎えた。・・・けど、それって-
「下郎が!」
あの魔狼王の言葉が胸を抉り、一抹の罪悪感が少年を襲う。
鏡の森の魔窟の大掃除は、ある意味で人狼族がしたケフィ襲撃と大差が無いので
はないか、との思いが脳裏を過ったからだった。
-いや、違うだろ。結果的に魔窟殲滅の選択は間違っていなかったはずだ。敵対種族
を放置すれば人間族に訪れる未来はこの光景なんだから。
無言で焼け焦げた柱を殴ると、死肉を啄んでいた鳥やネズミ達が驚いて一斉に逃げ
出していく。
-この世界は・・・簡単に共存出来るような状態なんかじゃない。だったら俺に出来る
事は―
「敵対には死を。和睦には命を。・・・だっけか。」
王都で耳にした歌劇の呼び込み係の口上に、少年は己が答えを被せる。
-これが創造神マルドゥクスが望んでいた世界なんだろうか?世界のあるべき姿
なんだろうか?・・・答えなんて誰にも分からない。ただ確実なのは、創造神は不平等
を許容し、争いが起きるような仕掛けを世界中にばら撒いているという事。
少年が宙を睨む。
-だったら、俺が全種族が共存出来る世界に強制的に造り変えてやんよ。敵対と
和睦、死と命。・・・その選択の先に俺の目指す世界はあるはずだから。
「・・・とりあえず人狼族。お前等は「敵」だ。」
ヒロの姿が掻き消えた。
ケフィの森、人狼族の南部集落-
森の景色に溶け込む様に、木と葉と蔓で組まれた円錐形の住居、「オグ」があちら
こちらに点在していた。典型的な人狼族の集落である。
この集落の族長ウルカが住むオグに、軽装防具に身を固めた守衛の人狼が顔を覗
かせた。
「ウルカ、ちょっといいか?探知光石がなんか変なんだ。」
「どういう事だ?ジル。」
「集落の外周、南側の小径に設置している探知光石なんだが、巡回中に見てたら、
たまに光がこう・・・微妙に揺いでいる様に見えたんだよ。ただし、周囲に敵影は無い
し、不審な音も匂いも無かった。念のためにすぐに索敵と察知で確認しても異常は
無いんだが・・・」
「なら、朝霧か何かで光が揺らいでいるように見えたのかもしれんな。」
「そういうのとは違うんだ。霧じゃなくて光自体が揺れてるっていうか・・・言葉に
するのが難しいんだけど。」
「おい、ジル。お前まだ昨日の酒が抜けてないんじゃないか?」
「ハハハ、それだろ。」
「違いねえ!」
ウルカのオグに集まっていた集落の副長達が笑う。
「違うって!まあいい。報告はしたからな。」
集落の守衛であるジルが不機嫌そうにオグから出て行った。
「オウガ、シド、ロジェ。民にしばらくの間、集落から出るなと伝えろ。」
「ん?長よ、ジルの話を気にしてるのか?」
「あいつは「森の番人」の称号を持つ精鋭の守衛だ。ジルがあれほど気にしているのなら、警戒はしておくべきだろう。それがただの取り越し苦労だったとしてもな。」
「分かった。北集落と東集落にも伝えるか?」
「・・・そうだな。探知光石に異常があった事は伝えてくれ。対応は各集落が考えれば
いい。」
「了解した。シド副長は北部集落、ロジェ副長は東部集落に伝令を頼む。俺はこの
集落の皆にウルカの指示があるまで外に出ないように言って回って来る。」
「分かった、兄弟。」
「任せろ。」
「すまないが3人共よろしく頼む。私は念の為、集落内を巡回しておくとしよう。」
4つの影が一斉にオグから散っていった。
「ウルカー!・・・おい、ウルカを見かけなかったか?」
「長ならさっき中央の監視櫓の方向に歩いてったぞ。」
「そうか。」
オウガが神速で集落の中を駆け抜ける。
-見つけた、ウルカの匂いだ。
匂いを追いつつ集落の中央に据えられた第三監視櫓に着くと、見張り台の最上部
に立つ長の姿を見つけた。
「ウルカーッ!ちょっといいかー!」
「今降りる!」
蔦を伝い監視櫓をスルスルと降りて来た長にオウガが急いで近づいていった。
「どうした、オウガ。」
「シドとロジェが外の集落に伝達に出たっきり戻って来ねえんだ。それに北部集落、東部集落共にやけに静かなのも気になる。音も匂いも風に乗って届いて来ねえ。しか
も今日は他の集落からの訪問者が皆無だ。・・・なんかおかしくねーか?」
「・・・天狼衆を呼べ。この集落の守りを固めさせろ。」
「分かった!」
勢いよく走り出したオウガの後ろ姿が、ウルカの眼前で忽然と消えた。
「な、なに!?今のは・・・おい、オウガ!!・・・・・・返事をしろオウガァッ!!どこに
いるっ!!!」
大声をあげていたウルカは、異常な殺気を感じて臨戦態勢に入った。
「何奴だ!!出て来い!!」
「オウガって・・・さっきのクッセぇ人狼のことか?」
いきなり背後から声が聞こえた。
驚いて振り向くと、人間族の少年が立っていた。
-い、いつの間に!?
ウルカは瞬時に後方に大きく飛び退いて距離をとった。
-なぜ人間族の子供が!?しかも我等の言語を話すとは・・・
「貴様、何者だ!!」
「キャンキャンうるせーぞ、クソ犬。」
少年が纏う異質な空気にウルカは気付いた。
「二度は言わぬぞ?・・・答えろ!オウガはどうした!」
「ん?あぁ、ほらよ。」
ウルカの頭上からバラバラになった人狼の死骸が落ちて来る。
瞬時に後方に飛び退くと、ウルカは死骸から漂ってくる臭いでそれがオウガである
事を悟った。
「貴様・・・仲間を・・・仲間をよくもっ・・・」
「んじゃー、今度は俺の質問に答えてもらおうか。2日前にサルージュの集落・・・森
の東側にある人間の里を襲ったのはお前らだな?」
-こ、こいつ、仕返しに来たというのか!?・・・人間族の刺客か!?
ウルカは何も答えず、目の前に立つ黒髪の少年の行動に即応出来る様、腰を低く
落として構えた。
しかし既に少年は前にはいなかった。
いきなりウルカの左から猛烈な下段回し蹴りが唸りを上げる。
「っ!?」
気が付くとウルカは両膝から下が吹き飛び、地面に突っ伏していた。
「な・・・に?」
遅れて来た激痛が全身を貫く。
「くうっっっ!!!」
視線の遥か先に己の脚だった肉塊が飛び散っているのが見えた。
「お前等、サルージュの集落を襲ったな?」
後頭部に撃ち降ろされた拳がウルカを地面にめり込ませる。
「ガハッッ・・・」
余りの衝撃に意識が飛びかけた。
「へー。頭だけは頑丈じゃん。」
再び恐ろしい衝撃が後頭部を襲う。
「グッハァッ!!」
-し、死ぬ・・・
本能的に体を丸め、頭を抱え打撃から身を守ろうとする。
-脚を癒せ・・・
同時に回復再生の派生能力を発動させた。
少年は大きく一歩を踏み込み、ウルカの頭部を蹴りあげた。そのままウルカは
背後の監視櫓に頭から突っ込んでいく。
櫓が倒壊し、瓦礫に埋もれたウルカの頭が鷲掴みにされ体が宙に浮く。
「グッ・・・ウウウ・・・」
メキメキと頭蓋骨が潰される異音が脳内に響いた。
「や、・・・めてくれ・・・」
「サルージュを襲ったな?」
「・・・お・・・襲っ・・・た。」
「そっかそっか。・・・で、どうだった?怯え逃げ惑う人間の姿は。泣き叫ぶ子供達の悲鳴は。内臓を食われながら犯された人間の涙は。どうだった?愛する我が子を食い
殺された人間の親達の絶叫は。・・・どうだったよ?なあ?」
「・・・」
少年の手が離れる。ウルカはドサリと地面に落ちた。
生れて初めて経験する圧倒的な力の差に、ウルカは成す術もなく地面に横たわ
る。
-脚・・・の再生が・・・始まった。しかしこのままでは・・・勝てない。
ウルカが改めて眼前の敵に視線を向けた時、ヒロは威格強制と威嚇でウルカの
精神を撃ち抜いた。
「ひ、ひぃっ」
人狼族の長は驚愕の表情で目を見開き、恐怖で全身が震え出した。
-こ、こいつ・・・人間では・・・ない・・・
汗が滝の様に流れ出し、魂核が擦り潰されるような感覚に襲われ、完全に息が
上がる。尚も少年が放つ尋常ではない圧力と恐怖に耐えきれず、ついに長はその場に
ひれ伏した。
「今日はさ、人間様に手を出したクソ犬共の躾に来たんだ。」
ヒロが指を鳴らした。
「よし。んじゃー、お前も味わってみるかー。この世の地獄ってやつを。なあ?」
その時、焦点の合わない目でふらつきながら、数頭の人狼がこちらに近づいて
来るのをウルカは目の端で捉えた。
その集団の中には自分の妻と息子の姿もある。
「お、お前達・・・逃げろ・・・」
「邪眼に加えて行動支配、精神支配、思考支配を使ってる。あいつらはもう俺の指示にしか従わねーぞ。」
「誰か、誰かいない・・・のかっ・・・誰かっ!」
「おいアホ犬。こんだけ騒いでんのに、あいつらしか集まって来ないとかどう考えて
もおかしいだろ。いい加減に気付けや。」
少年が片手を前に突き出すと、こちらに向かって来る集団の先頭にいた2頭の人狼
の姿が消えた。
-き、消えた!?こいつの祝福の能力か!!
未知の攻撃に震えるウルカの頭上から、バラバラになった人狼の死骸が降り注ぎ、
ウルカの体を打ちながら地面に散らばった。
「ケフィの森に巣食ってた3集落の人狼族は・・・こんな風に一匹残らず、俺が殺して
周った。皆、あの世でお前の事を待ってるってよ。」
「よっ・・・世迷言・・・を。」
「お前さー、目だけじゃなくて鼻とか耳とかも利くんだろ?気配とかで分かりそう
なもんなんだがー。今、この集落にお前を含めた6匹以外に生きてる人狼の反応が
あんのか?それとも小汚ねえ犬共の死骸を全部ここに積み上げなきゃ信じられねー
か?」
ヒロが足元に転がっていたオウガと呼ばれた人狼の頭部を踏み潰した。
ウルカは恐怖に抗いつつ、何度も「探知」を打って集落全体をくまなく探って
いく。
何度繰り返しても生存反応は自分と周りにいる人狼達のものしか見つからないで
いる。
「ま、まさか・・・ほ、本当にっ!?」
余りにも冷酷な人間族の少年の眼が、全てが事実であると告げていた。
「・・・クッ、クウウウッ!!!」
予想だにしなかった展開に、人狼王は両の手を握り締めながら怒りと苦悩の嗚咽
が口から漏れ出すものの、眼前に立つ人間の尋常ならざる威厳が、そして呪詛の様に
全身を蝕む恐怖心が言葉を飲み込ませ、己を地面に縛り付ける。
「ウグッ・・・クウウウウウ・・・」
ウルカが狂ったように地面に頭を激しく打ち付ける間も、5頭の人狼達はそれが
絶対の命令であるかのように、無言でウルカの背後に立っていた。
ゆっくりと近づいて来た少年が、人狼の長ウルカの片耳を掴み上げて頭を持ち上げ
ると、双眸を灼眼で覗き込む。
「やっぱりお前が人狼族の王か。へー・・・すげーな。熟練度で古竜王を抜いてる奴っ
て初めて見たんだけど。・・・胆力の数値も祝福も派生能力もかなりキテんねえー・・・。
どうりで回復とか再生も早いはずだ。それに称号と加護も半端ねーな。・・・おっ?
守護精霊と召喚眷属もすげーなおい。・・・え、なんだお前?どんだけ生きてんの?
確実に魂核は神級だろ。んー・・・とりあえず一切合切全部もらっとくわ。」
-もらう?もらうと言ったか?
「・・・な、なに!?」
-ど、どういう事・・・・・・だ!?
ウルカは一瞬にして全ての装備、祝福や派生能力、加護や称号、奴隷や眷属をも
含め、ありとあらゆるもの全てが眼前に立つ少年に奪われた事に気がついた。
「お・・・俺に、な、何をした・・・」
生命維持に関わる基礎的な力さえも根こそぎ奪われ、今やほんの僅かな胆力しか
残されていないウルカの体は、もはや威嚇強制の圧と重傷の傷に耐えられるはずも
なく、魂核に細かな亀裂が走り出すと共に全身が小刻みに痙攣しだした。
「ハッ・・・ハゥッ・・・グウッ・・・」
「ん?もう死にそうじゃん、お前。・・・あ、さすがに採り過ぎたか。」
蹲ったまま苦しそうに全身で息をするウルカの後頭部が踏みつけられる。
「ウグゥッッ・・・」
ウルカの残り少ない胆力が更に削られ、意識が飛びかけた。
「おっと、やべ。マジで殺しかけた。・・・仕方ねえな。ほら、お前等、つったって
ないで王様を立たせてやれよ。」
ヒロの命令に従い、人狼達がウルカの脇の下に肩を入れて無理やり立たせる。
「グゥアアア・・・ハァハァ・・・」
もはやそれだけでもウルカの体には重労働であり、遠のく意識を必死に手繰り
寄せる。
-く、・・・苦・・・しい・・・・・・魂核・・・が・・・もた・・・ない
人狼王の胆力が更に消費されていく。
ウルカは己の死を確信した。
「じゃあ本題に移るとするか。おい、人狼王。今からこの3匹に・・・2日前にお前等
がサルージュの人間族にした事をそのまんま、お前の嫁と息子で再現してもらうって
のはどうよ?」
「な・・・ん・・・・・・だと?・・・やめっ、・・・・・・やめて・・・くれっ-」
「やれ。」
次の瞬間、ウルカの周りが一瞬で地獄絵図と化した。
泣き叫ぶ子供の髪と服が引き千切られ、その子供を守ろうとしたウルカの妻が
豪快に殴り倒された。そして鋭利な爪先が妻の顔面を切り裂こうとした、まさにその
時、ウルカが人狼達の下半身に必死にしがみついた。
「やっ・・・めっ・・・やめてっ・・・くれ!頼む・・・っ。頼むぅっっ!!」
-おいおい、こいつまだ動けんのか・・・。瀕死のくせして家族だけは守るってか?
・・・なんだ、こいつ。人間と一緒じゃねーか。
人狼達は微塵も容赦の無い動きでウルカを引き剥がし、最後の一撃となる強烈な
爪攻撃を再びウルカの妻に向けた。
「やっ・・・やめ・・・て」
「待て。」
少年の声が響く。
2頭の人狼達は素直に従い、その場で崩れる様に地面に座り込むも、攻撃を止め
きれなかった1頭の人狼は、一瞬で地上から姿を消した。
「も・・・う、やめて・・・くれ・・・。殺して・・・くれ・・・。代わりに・・・お・・・俺を殺し・・・」
「黙れクソ野郎。今のお前と同じ気持ちだったんだよ、サルージュの人達はな。
なのにお前は、お前等は最後まで止めなかったよなぁ?全員を嬲り殺しにしたじゃ
ねーか。お前とお前の家族だけ赦されるとか、どう考えても不公平だろ。」
「赦して・・・くれ。この子だけっ、だけは・・・します。・・・お願い、します。」
ヒロは思わず空を仰ぎ見る。
-見てるか、マルドゥクス。これがお前が造った「世界」だ。満足か?
「お願い・・・します。お願い・・・ですか・・・ら。」
妻と子供ににじり寄って覆い被さり、必死に家族を守ろうとするウルカの姿が、
なぜかタツミと被って見えてしまう。
ウルカの胸元で守られている子供の泣き声がヒロの胸に突き刺さり、鋭い痛みを
加えてきた。
-こいつらはマジで最低の屑だけど・・・大事な根っこの部分は俺達人間と変わんねえ
んだ。何も・・・何も変わんねえ・・・。
ヒロは深く息を吸い、そして胸の中に溜め込んだ空気と共に、怒りと憎しみ全て
吐き出した。
「くそがあああぁっ!!!」
ウルカの顔面に向けてヒロの手刀が一閃する。
人狼王は顔面に受けた衝撃で永久に双眸から光が失われた事を察しながらも、
それでも我が子を守ろうと必死に抱き締めた。
「仕方ねえ。・・・俺もお前の仲間いっぱい殺したし。これで痛み分けだ。お前の両目
は再生も出来ねえように「真滅」の祝福で潰した。死ぬまでその暗闇の中で生きて
いくって事で、 今回だけは見逃してやんよ。」
その言葉を聞き、人狼王は緊張の糸が切れたかのように脱力し嗚咽を漏らす。
「あり・・・ありがとう・・・ござい・・・ます・・・ほんと・・・に・・・あ・・・」
「礼を言う前にいい加減に学べや、おっさん。この世界はな、やったらやられんだ
よ。・・・お前らの先祖はそれが分かったから、他種族と棲み分けようとして辺境の森
に引き籠ったんだろが。そんな事も忘れて好き勝手に暴れようとするバカ共を止め
るのが、あんた等「王」の役割なんじゃねーのか?」
ヒロはもどかしそうに髪をかきあげた。
「聞け、人狼王。これは最後の警告だ。俺達人間族との共存を望まない奴は敵だ。
敵は一切容赦しねえ。お前らはやり過ぎた。・・・忘れんなよ?今後、お前等みたいな
獣族は問答無用で皆殺しにする。」
もはや気力も果て、言葉を発する事も出来ず、ウルカはただ少年の言葉に小さく
頷き返すだけで精一杯であった。
そして急速に弱まっていく胆力と魂核を感じつつ、最後に我が子の温もりを覚えて
逝こうとその手に触れる。
「そろそろ限界っぽいな。・・・チッ、しゃーない。特別にちょっとだけ返してやるよ。えーと・・・王の称号と・・・怯えて戦闘に出て来なかった守護精霊の・・・氷命樹の大精霊
ヴァルハラ。とりあえずこれで死なねーだろ。」
ヒロの掌がウルカの頭上で光る。
刹那、現れたヴァルハラが尽きかけている王の胆力を慌てて回復させていく。
「意識がまだあるんなら覚えとけ。こんなクソったれな世界は俺が造り変えてやる。大人しくしてるって約束が出来るんなら、特別に見せてやるよ。・・・五大種族が互い
を認め、互いに支え合う世界ってやつをな。」
少年が踵を返す。
「・・・じゃあな。「僥倖の人狼王」。」
少年の姿が霧が晴れてゆくが如く淡く消え去った。
「何か言葉をかけた後、ヒロ殿の姿が消えました。戦闘不能状態の5頭を残し、敵
人狼は全て殲滅済み。作戦は完了した模様。「遠視」終了します。」
「ヒロ殿の撤退後、人狼の集落で目立った動きは無し。人狼5頭中、1頭は瀕死、
2頭が重症、残り2頭は放心状態・・・いや、今・・・倒れている人狼達の介抱に動きだ
したようです。・・・人狼討伐作戦終了と判断。「観察」終了します。」
「ヒロ殿のディオン駐屯地への帰還を確認。ケファの森から瞬間移動したものと
思われます。」
「そうか。ならば「察知」も終了してよし。・・・ディオン駐屯地から至急の念話通達
のおかげで、ヒロ殿の監視がギリギリ間に合って良かった。・・・サイモン殿には感謝
せねばなるまい。」
そう言うとアズマは手を組み、小さく息をついた。
ケフィ駐屯地の統合作戦室-
緊急掃討部隊の責任者達が集う戦略会議室に、「遠視」「観察」「察知」の祝福を
持つ騎士達で構成された情報収集班が招集され、全員でヒロの動きを逐一追い続け
たところであった。
「では・・・何か意見がある者はいるかな?」
静まり返る室内でアズマが両手を広げ、苦笑しながら尋ねる。
「自分は・・・起きた事がいまだ信じられません。」
「一瞬で獣族最強種の大集落が消えていくなんて。・・・余りにも圧倒的過ぎる。」
「あの悪名高き人狼の王がまるで子供扱いとは・・・」
「まさに人外・・・。もはや神にも等しい力かと。」
再び会議室内に沈黙が流れる。
「まあ、今は彼が我々の敵でなかった事を喜ぶとしよう。・・・では情報収集班の3名
で今回の討伐状況と分析を文書に纏め、3時間以内に私に提出するように。」
「はっ!」
「はっ!」
「はっ!」
「また、ここにいる者は此度の一件、そしてヒロ殿に関し、どんな些細な情報も漏洩しないよう細心の注意を払って欲しい。現在、これらの情報は最高度の国家機密事項
である。この指示に背き、他言する者が現れれば、理由はどうあれ重大内規違反者と
して極刑を科す。全員、心に留め置くように。・・・では、これにて解散とする。」
全員が一斉に立ち上がりアズマに対して敬礼をした。
アズマも立ち上がって敬礼を返し、会議室を後にする。
-・・・やはりあの少年は次元が違い過ぎる。早急に王宮へ報告をせねばなるまい。
自然と歩く速度が上がった。
「おっ、もう帰って来たか、少年。」
「あれ?カエラさん。チーッス。」
「ほお、少しは男の面構えになってきたな。」
「そ、そうかな。・・・え?俺、老けた?」
「いや全然。可愛いままだぞ。」
「なんだそりゃ。・・・んと、サイモンのおっさんは?いないの?」
「先程、王宮から急ぎの念話連絡が届いてな。総司令が今対応中だ。代わりに私が
君からの報告を受けるよう言付かっている。」
「なるほ、了解ッス。」
「ケフィの討伐はどうだった?」
「森に巣食ってた獣族は全部掃除して来たよー。人狼族が3つの大きな集落に別れて
集団生活をしてて、子供も入れると全部で2万匹近くいたかな。あとは・・・各集落に
巨狼族ってのがウロチョロしてたくらい。部族としては同系統っぽいから友好部族
なのかもね。」
「ふ、ふむ。しかし人狼族2万頭は・・・多いな。」
「そう?とりあえず今回は、中央集落にいた人狼王とその家族を含めた5匹を除いて、全部駆除済み。その5匹は改心したっぽいから・・・祝福から何から全部奪って
半殺しにして泳がせてる。・・・少しだけ様子を見てみようかなーって思ってさ。」
「ほう。」
「でも、やっぱ躾けが必要だってなったら容赦なく殺しに行くけどね。5匹にもそう
伝えてある。」
「そうか。まあ、無力化してそれだけ脅しとけば問題は無いだろ。しかし・・・改めて
君には驚かされたよ。獣族の中で最強最悪の戦闘部族を殲滅するか・・・。」
「サイモンのおっさんもそんなこと言ってたねー。」
「戦ったご感想は?」
「んー、確かに強いとは思った。肉弾戦なら竜族とか三鬼族よりも遥かに上だね。
個々が強いのに、それでいて集団戦に特化してるって感じ。人狼王は古竜王よりも
熟練度高かったし、加護とか称号とか、眷属とかもバケモンじみてたよ。」
「ふむふむ。・・・他に気付いた事は?」
「個人主義と独断志向が根付いている魔族とは違って、家族内や部族内の結束が固く
て仲間意識が強いと思った。集団行動が重視されてるからか、集落での集団生活も
秩序だってる感じがしたし・・・。そういう意味では人間族に近い生活文化だと思う。あ、そうそう。人狼族がさ、あまり見かけない鉱石を加工して道具代わりに使ってた
んだよね。」
「道具?」
「これ。」
ヒロはポケットから小石を取り出して机上に置いた。
「あいつら探知光石って呼んでたっけ。光水晶を含んでる発光性のキア鋼石に大陸
フクロウの眼の網膜を被せてる。周辺の光量や輝度の変化に敏感に反応して石の光り
方が変わる仕様っぽい。最初、よく分かってなくてさ・・・気配を断つのが遅れて潜入
がバレかけるし。ちょいビビった。」
「ああ、これは人狼が集落を守るのによく使う侵入者探知道具だな。原始的な造り
ではあるが、使い勝手が良い。ただし天候の変化、気温や湿度の変化に弱くて、それに伴う誤作動がかなり多い代物だ。しかも劣化が早い。その点、我々が開発してい
る散布型の探知砂や、設置型の探知糸や探知石の方が何百倍も優秀だ。」
「ほおー!」
「それで抽出はどうだった?何か収穫はあったかい?」
「あ、えっと・・・どうだっけ。」
ヒロは抽出状況を確認した。
抽出管理始動
抽出により
人狼の頭部19834 人狼の胴体19834 人狼の肢79336
巨狼王の頭部1 巨狼王の胴体1 巨狼王の肢4
巨狼の頭部1211 巨狼の胴体1211 巨狼の肢4844
召喚眷属各種の頭部2431 召喚眷属各種の胴体2431
喚眷属各種の肢2679
特級力石3898 最上級力石2903 上級力石689 中級力石263
下級力石121 血結石3895
獣剣ダンリア1 獣槍デシタル1 獣槍ギミト1 獣弓サーヴァス
獣弓レイヴァン1 獣斧ウェンリア1 魔剣ダンテ1 霊斧ビッシュ1
大呪斧イオ1 命葬の宝槍ギリア1 狼牙剣バジュリ1 黒牙拳刃1
斬月槍1589 空牙斧846 獣魔の樹杖6 咆哮の血杖ダリア77
破壊の鋼爪1176
雅天の盾1 四獣の大盾1
獣装バラバ1 獣装サイリアス1 獣装ガルディア1 霊装ロベスタ1
霊装カジュラ1 霊装バジュラ1 魔装ドイル1
ロザリオの軽装防具229 上弦月の軽装防具467 月光の軽装防具5876
暗黒夜のローブ1 新月のローブ857
神無のマント255 獣牙のマント343
獣手甲・黒牙拳幻1 獣脚甲・黒牙脚幻1 獣兜エルファ1 銀鉄爪の小手1
鋼空の胸当て1 乱風の小手122 疾風の小手122
ライラスの首輪1 メルデスの首輪1 大黄昏の首輪1 鬼腫の腕輪2
殺牙の指輪1
死殺の指輪1 支配の精霊王の指輪5 無限狩りの耳飾り1 赤沼の耳飾り1
剣1557 槍1054 斧1884 弓879 弩843 杖34
棍棒754 盾3463
重装備443 軽装備479 ローブ139 マント1093
装飾具10384
土の宝珠987 水の宝珠2098 風の宝珠1362 光の宝珠2098
闇の宝珠439 血の宝珠519 誓約の宝珠779
命の光珠2695 時の光珠495 宝石15537
回復王アマリの護符965 蜜露の護符3679 大森林の護符4786
月の精霊ラウの護符979
薬草ボロニ1367 薬草シルフォ4098 薬水バーリア3651
ヴァースの実3287 アスの実24 サラサの実2543 アクシュの実475
ナシカの種2654 サバロンティアの種1874 ガナの種8
アヴェル草2329 ガル草367 光のセリュ草2987
アザリアの魔草1388 ウェリの魔草786
水の入った革袋5956 ランタン21 トーチ296 松明678
光鋼石89 発光石378
土の封印結晶3698 風の封印結晶465 水の封印結晶13739
月の封印結晶5586 力の封印結晶4909 火の封印結晶6692
光の封印結晶4988
土水晶石2021 風水晶石3734 水水晶石448 光水晶石829
を獲得
一次抽出
熟練度 臨界抽出に昇華
胆力 臨界抽出中
魔力 臨界抽出中
霊力 38790
を獲得
二次抽出
祝福:
身体強化を獲得 臨界抽出中
能力強化を獲得 臨界抽出中
能力増幅を獲得 臨界抽出中
精神強化を獲得 臨界抽出中
耐性強化を獲得 臨界抽出中
生命強化を獲得 臨界抽出中
生命増幅を獲得 臨界抽出中
魔法力強化を獲得 臨界抽出中
魔法力増幅を獲得 臨界抽出中
感覚強化を獲得 最上級へ昇華
知覚強化を獲得 最上級へ昇華
嗅覚強化を獲得 臨界抽出へ昇華
視野拡大を獲得 最上級へ昇華
自己回復を獲得 臨界抽出中
治癒促進を獲得 最上級へ昇華
完全回復を獲得 最上級へ昇華
身体修復を獲得 臨界抽出中
生命再生を獲得 臨界抽出中
絶対防御を獲得 臨界抽出中
精神防御を獲得 臨界抽出中
物理防御を獲得 臨界抽出中
魔法防御を獲得 臨界抽出中
思考加速を獲得 臨界抽出へ昇華
体得加速を獲得 臨界抽出へ昇華
会得促進を獲得 臨界抽出へ昇華
徒手空拳を獲得 臨界抽出へ昇華
神速を獲得 臨界抽出中
密視を獲得 臨界抽出中
探知を獲得 臨界抽出中
察知を獲得 臨界抽出中
感知を獲得 最上級へ昇華
鑑定を獲得 最上級へ昇華
予測予知を獲得 臨界抽出へ昇華
星詠みを獲得 最上級へ昇華
剣術を獲得 臨界抽出中
槍術を獲得 臨界抽出へ昇華
弓術を獲得 臨界抽出へ昇華
格闘術を獲得 臨界抽出へ昇華
暗殺術を獲得 臨界抽出へ昇華
召喚術を獲得 臨界抽出へ昇華
錬金術を獲得 臨界抽出へ昇華
錬成術を獲得 臨界抽出へ昇華
封印術を獲得 臨界抽出中
結界術を獲得 臨界抽出へ昇華
泳術を獲得 臨界抽出へ昇華
刺突を獲得 最上級へ昇華
牙突を獲得 最上級へ昇華
舞闘を獲得 最上級へ昇華
武心無双を獲得 最上級へ昇華
剛力粉砕を獲得 最上級へ昇華
滅脚乱武を獲得 最上級へ昇華
滅祈斬を獲得 最上級へ昇華
斬牙を獲得 最上級へ昇華
斬爪を獲得 最上級へ昇華
無限滅斬を獲得 最上級へ昇華
麻痺を獲得 臨界抽出へ昇華
混乱を獲得 臨界抽出へ昇華
威嚇を獲得 臨界抽出へ昇華
覇気を獲得 臨界抽出へ昇華
捕獲を獲得 最上級へ昇華
狩猟を獲得 臨界抽出へ昇華
採取を獲得 臨界抽出へ昇華
飼育を獲得 最上級へ昇華
思考阻害を獲得 臨界抽出へ昇華
奇襲攪乱を獲得 臨界抽出へ昇華
咆哮攪乱を獲得 臨界抽出へ昇華
精神支配を獲得 臨界抽出中
思考支配を獲得 臨界抽出中
行動支配を獲得 臨界抽出中
言語理解を獲得 最上級へ昇華
調律調整を獲得 臨界抽出中
暗視を獲得 臨界抽出中
完全視を獲得 最上級へ昇華
魅了を獲得 最上級へ昇華
魅惑を獲得 最上級へ昇華
誘惑を獲得 最上級へ昇華
蠱惑を獲得 最上級へ昇華
恩寵を獲得 最上級へ昇華
寵愛を獲得 最上級へ昇華
索敵を獲得 臨界抽出へ昇華
解毒を獲得 臨界抽出へ昇華
解呪を獲得 臨界抽出へ昇華
透化を獲得 臨界抽出へ昇華
消音を獲得 臨界抽出へ昇華
無音を獲得 臨界抽出へ昇華
消気を獲得 臨界抽出へ昇華
消臭を獲得 最上級へ昇華
浄化を獲得 臨界抽出へ昇華
隠形を獲得 臨界抽出へ昇華
獣眼を獲得 臨界抽出に昇華
操蟲を獲得 臨界抽出に昇華
闇属性魔法を獲得 臨界抽出中
無属性魔法を獲得 臨界抽出中
火属性魔法を獲得 臨界抽出中
風属性魔法を獲得 臨界抽出へ昇華
土属性魔法を獲得 臨界抽出へ昇華
水属性魔法を獲得 臨界抽出へ昇華
聖属性魔法を獲得 最上級へ昇華
隷属化を獲得 臨界抽出に昇華
眷属化を獲得 臨界抽出中
加護付与を獲得 臨界抽出に昇華
派生能力: 1074276 を獲得
三次抽出
称号 巨狼王 斬月狼 戦狼 幻狼 怒りの咆哮
闇夜の破牙 永夜の雫 大老獣 獣騎王
四聖獣の牙 四聖獣の爪 四聖獣の鬣
四聖獣の髭
森の番人 森の守護者 森の守り人
英雄老狼 憤怒の狼王 斬首の大刃
太古の雷鳴 暗殺餓狼 滅火の咆哮 瞬視
巨斬鬼 暗殺の覇獣 黒炎の裁き 慟哭の鳴声
聡き白狼
加護 創造神 獣神 人狼王 斬月王 巨狼王
死爪獣王 金牙仙 銀爪仙 カヴァッサ
支配の精霊王 白月 滅士 月の雫
月の精霊ラウ 錬金王ヴェガ
守護精霊 アスピリアの大精霊アグ 月の精霊ラウ
黄金精霊スヴァリア 不滅の霊盾エンリル
月桂双樹の精霊デルフィア
封印樹の大精霊ビブリア
召還眷属 大狼王リーディア 餓狼王リヴァ 巨狼王バリ
殲滅の魔牙ベルフ 蒼の大精霊ライド
賢獣ロドル
魔狐3905 風鼬5274
誓約奴隷 魔族1487 獣族464 精霊族6256
人間族957
効果 祝福強化各種 能力強化各種 身体強化各種
精神強化各種 胆力強化各種 魔力強化各種
霊力強化各種 耐久力強化各種 感覚強化各種
興奮 狂暴化 狂乱 速度向上 士気向上
を獲得
同種・同系統の祝福、派生能力を統合済み
同種・同系統の効果を統合済み
称号 「超越者」「虚無を齎す者」「血の報復者」「深淵なる殺意」「獣殺し」
「狩猟王」「闢滅王」「慈愛の王」「寛容なる支配者」
派生能力 「注入操作」
を獲得
「あー・・・、うん。大漁大漁!今回も売れそうな物多いかもー。」
「そうか、それは良かった。」
カエラが笑い、甘玉を口に放り込んだ。
「あ。・・・うんー。」
ヒロは生返事を返しながら、今回抽出した装備と召喚眷属に注目していた。
「さて、では詳しい討伐報告を取るから、記録官を呼ん-」
「あ、ごめ。ちょい待ってもらっていい?」
「ん?うむ。」
尚もヒロは抽出の記録を見ながら思案している。
そしてカエラを遠目に見つめた。
「・・・やっぱりだ。」
「ん?なんの事かな?」
「カエラさんの祝福って格闘術だよね。」
「私はそうだが。」
「怖いくらいに条件がピッタリはまってんだよなー・・・。」
「条件?」
「カエラさんの熟練度って169じゃんね?」
「う、うむ。」
「今さ、格闘術とか体術の祝福持ち限定の熟練度200から使える・・・かなり良い
感じの装備があるんだよ。別の着用条件で「偉大なる王の加護」ってのも必要なんだ
けど、前にカエラさんにあげた「真祖の加護」ってあるじゃん?真祖ってさ、魔族の
最上位種に位置する吸鬼族の「王」を指している言葉なんだよ。」
「いやいや、待ってくれ。200から使えると言ったが、私の熟練度帯になると、
たった1上げるのにも数年はかかるものなんだ。それに名前付き装備というものは、
簡単に買える額なんかじゃ-」
「カエラさん。」
ヒロが真剣な眼差しでカエラを見つめた。
「カエラさんは本気で強くなりたい?」
「も、勿論だとも。」
「人生をかけて強さを追求するって誓える?」
カエラは思わずヒロを見つめ返した。
「ああ。力が無ければ何も守れないからな。国防の騎士として私は強さをどこまでも
追求する。それが私の使命であり生き方だ。」
「了解。なら、こうしよう。」
ヒロがカエラに最上級の祝福「会得促進」、そして召喚眷属の「殲滅の魔牙ベルフ」を注入した。
「え?・・・ほあっっ!?」
「眷属を利用した訓練方法を考案してカイトに教えたの、カエラさんなんでしょ。
それに駐屯地内で官舎群から離れた場所の修練場を貸し切りにしてくれてるのも
カエラさんだって聞いた。・・・あいつさ、短期間でほんと強くなってたんだ。それだ
けじゃなくて剣士としての「伸びしろ」も凄い事になってた。ほんとありがとね、
カエラさん。これはそのお礼。」
「い、いや、しかしこれはっ・・・!!」
「カエラさんもカイトと同じように眷属と訓練すればいいじゃん。このベルフって
子は、格闘術に特化した熟練度117万超えのバッキバキの魔族の戦士なんだ。
あの人狼王が最後の切り札として隠し持ってたくらいの・・・超ド級の眷属。」
「ひゃっ、ひゃっ・・・117万???」
「カイト見てたら分かるっしょ?その会得促進があれば200なんかすぐだから。
俺の「予測予知」で確認してみても・・・ベルフとの模擬戦を気合い入れてやれば、
カエラさんなら200まで一週間もかかんないよ。さっき言ってた「数年」間も
あったら・・・カエラさんなら熟練度6桁に届くね。」
「はぁ?今6桁と言ったか???」
「まー、騙されたと思ってやってみて。・・・で、熟練度が200に上がったらこれを
使ってね。」
ヒロは「獣装:ガルディア」と「獣手甲:黒牙拳幻」と「獣脚甲:黒牙脚幻」を
注入で取り出した。
「これってさ、今のカエラさん以上の適合者は世界に存在しないって断言出来るくら
い、ピッタリの装備なんだ。お金なんかいらない。そんな事よりこの装備は絶対に
カエラさんが使うべき。」
「な、な、なっ・・・・・・」
カエラが装備を凝視して取り乱す。
「あ、ちゃんと説明した方が良さげだね。まず、この獣装ガルディアは雌科用、人間
族だと女性用で、格闘術系の祝福持ちしか装備出来ない近接格闘専用軽装防具なん
だ。かつ、さっき言った通り熟練度200超えで使えるお手頃感に加えて、偉大なる
王の加護持ち限定縛りとか・・・もうこれ、カエラさん専用ですって言ってるようなも
んでしょ。」
「とっ・・・、とは言ってもだなっ・・・」
「特徴としては、この獣装ガルティアは筋力強化と身体能力強化を合わせた「狂身
強化」の効果がマジで半端ないんだよ。名前付き装備の中でも間違いなく最強の
部類に入る。で、この装備が持ってる残り2つの効果、「装備強化」と「装備共振」
との相性がめちゃくちゃ良いんだよね。色んな効果を装備側で倍々に跳ね上がてか
ら、本人の体と精神に負担を掛けずに適用させる感じ。」
ヒロが獣装ガルディアの胴をポンと叩いた。
「で、次はこの「黒牙拳幻」っていう手甲と「黒牙脚幻」っていう脚甲ね。これは
対になってて、防具の上から重ねて装着する形式の近接格闘武器、獣器なんだ。何が
凄いかって言うと、この装備が使用者の熟練度と共に成長する「同時伸長」っていう
祝福が付与されてること。つまり、今後の伸び代が無い人が使うとただの高品質な
ガラクタ装備なんだけど、カエラさんみたいに今後4桁、5桁と進んで行く人が使う
と、そこら辺の名前付きの装備どころか、神器並みの超高性能装備に化ける逸品なん
だよ!どう?完全にカエラさん向きの装備っしょ!・・・ただし、この獣器を装備する
には、神の加護と王の称号ってのが必要でね・・・」
ヒロの掌が仄かに光り、カエラに「獣神」の加護と「巨狼王」の称号を注入す
る。
「ふぁ!?・・・獣神!!??」
「そそ。よし、これで大丈夫。装備条件は全て達成してる。」
ヒロが自分の抽出状況を改めて注視する。
「あとさー、格闘術を昇華させていく上で人間族が越えないといけない最大の「壁」って分かる?」
「す、すまない・・・ちょっと待ってくれ。・・・情報が処理しきれなくて冷静になれない
のだが-」
興奮と嬉しさを隠しきれないカエラの様子にヒロがクスリと笑った。
「う、うむ。すまない。」
カエラが深呼吸を繰り返す。
「人間族にとっての壁か・・・まあ、一般論で言うなら、体の「強靭さ」だな・・・。どれ
だけ強い突きや蹴りを打てても、自分の拳や脚、躰の方が耐えられなければ使えな
いままだからな。実際問題、体術や格闘術が昇華して上級や最上級になると、人間族
は勿論、魔族の大半も体の方が耐えられなくなる。熟練度獲得による心身強化の
補正効果でも追い付かない程の衝撃や反動が体にかかって来るからな。・・・だから
現状、格闘術は種族特性として頑強な体を持っている獣族、強靭さに特化した一部の
魔族向けの祝福になっていると言っても過言じゃない。」
「うんだねー。だからその対策として人間族は名前付きの防具や装身具による被撃
耐性や身体強化や硬度補助、衝撃緩和、衝撃吸収系の祝福効果の付与に活路を見出
そうとしてきた・・・だよね?」
「うむ、その通りだ。」
「でもね、それじゃダメなんだよ。」
ヒロがカエラを見つめた。
「人間族の場合、どんだけ頑張っても格闘系の祝福の昇華って中級止まりになるで
しょ?上級に手が届いた人物って、多分人類史上一人もいないよね。だから分から
なくて当然なんだけど、実際は上級や最上級の格闘系の祝福に耐えられる名前付き
装備なんてこの世に存在しないんだよ。それこそ神装や神器くらいじゃないとまず
無理。獣族や魔族で上級以上の体術や格闘術の祝福持ちが、装備らしい装備を着け
ずに身一つで戦ってる理由がこれなんだ。」
「そ、そう・・・だったのか・・・」
「その代わりと言っちゃーなんだけど、奴等は心身の強靭さ、頑強さという種族特性
や派生能力に胡坐をかく事無く、守護精霊や加護、称号の獲得に固執して、心身を
更にガッチガチに強化、硬化する事に躍起になってる。そうしないと彼等と言えども
上級や最上級の格闘系の祝福を全力で使う事が出来ない。体がぶっ壊れちゃう。」
「なんと・・・」
「なもんで、これから上を目指すカエラさんとしては、2つの問題に直面してるって
考えて。まず一つ目は心身の強靭化と頑強化。これはさっき渡した「獣神」の加護と
「巨狼王」の称号に加えて、心身強化、心身強靭化、防御力、耐性力、耐久力、再生
治癒力向上に鬼特化してるこの3つが必要になる。」
ヒロがカエラに「不死鬼」「永夜の雫」の称号、そして「カヴァッサ」の加護を
注入した。
「うわっっ・・・!!」
「これで数値は・・・うん、最上級の格闘術だろうが何だろうが余裕で耐えられる
はず。もう気兼ねなく暴れてもろて。で、カエラさんが直面してる問題の2つ目。
心身が耐えられても獣装ガルディアと黒牙拳幻、黒牙脚幻が耐えられない。」
「あ・・・」
「なので、超絶優秀なこの子の出番。」
続けて守護精霊の「不滅の霊盾エンリル」を注入した。
「エンリルも人狼王ウルカが持ってた超ド級の守護精霊なんだ。ウルカ自身も最上級
の徒手空拳の祝福に自分の装備が耐えられるように、エンリルを使役してたんだよ。
この子は装備強化に鬼特化してる特殊個体なんだ。なんで、戦闘前に必ずこの子から
加護をもらう事を忘れないでね。加護の効果は、装備の強靭化、頑強化、不朽化、
自力再生力で、装備の損傷と劣化を完璧に防いでくれる。ただし加護は期限性で
効果時間は一時間も持たないんだよ。戦闘が長引く時は加護の掛け直しが必須に
なる。これは忘れると装備が即逝くから気を付けてね。・・・って事で、これで装備の
問題も無くなった!・・・うん、カッチカチだわ!これなら第七類強種から最上級の
物理攻撃、法術攻撃を食らっても余裕で弾くっしょ。今のカエラさんに攻撃が通る
のって、もう五柱神くらいじゃね?・・・てか、これ・・・思ったよりも凄い事になってて
笑える。うん、完璧。」
ヒロは改めてカエラと装備を遠目に眺めて満足そうに頷いた。
「注意して欲しいのは、「獣神」の加護と「巨狼王」の称号についてる身体能力強化
と攻撃力強化は、熟練度が上がるにつれて激ヤバ効果に変わってくるって事。それに
この手甲と脚甲も育って来ると攻撃威力が狂ったように上がって来るから、カエラ
さんの格闘術が上級に昇華する熟練度4桁になる直前辺りから、特訓中にベルフを
殺さないように気を付けて。」
「き・・・君という奴は・・・な、なぜこんなにも・・・」
「あ、ちゃんと相手を見て色々渡してるからね。前に保護院で言われたカエラさんの
言葉は、ちゃんとここに刻んでる!」
ヒロは自分の胸を軽く叩いた。
「最初にも言ったけど、ほんとカイトが世話になってるし、こんなカエラさん向きの
超装備を持ってるのに、他人の手に渡るとか意味分かんないって。カエラさんには
ずっとカイトの目標であり続けて欲しいんだ。」
カエラはヒロを抱き締めて泣き出した。
ヒロの全身が死を予感させる軋み方をした。
10分後-
ヒロの前にはカエラが呼んだアザリアという名の駐屯部隊の記録官が、目を閉じて姿勢を正して座っていた。
「じゃ、私と君の会話音声による報告をアザリアが全て「記憶」する。君は出来事
を時系列順に、かつ正確に報告してくれ。まあ、どこまで君に通用するか分からない
が、彼は派生能力で「判別」と「識別」も持っている。故に誇張とかそういった類の
ものも一切無しで頼みたい。」
「はーい。」
「まあ、君は嘘が下手だから、そこまで警戒する必要も無いのだがな。」
「え?俺、嘘なんかついた事ないっすよ?」
「じゃ、報告を始めてくれ。」
「はい。」
丁度その時、舌打ちをしながらサイモンが総司令室に帰って来た。
「チッ・・・あのクソ叔父貴・・・・・・っと、早えーな、本当にもう戻って来たのか坊主。
ああ、かまわん。カエラもアザリアも座れ。」
「はっ!」
「はっ!」
素早く立ち上がって敬礼をしていた2人が再びソファーに腰を下ろした。
「チーッス。戻りッス。」
「どうだ、狼共は殺ったか?」
「ちゃんと躾けて来たよ。2万匹は問答無用で殺処分。改心した5匹のみ、徹底的
に痛めつけてから一切合切奪って死刑執行を猶予中。」
「そうか。・・・ご苦労だったな。」
サイモンが全ての感情を押し殺した目でカエラの隣にドッカっと腰を下ろした。
「あー、坊主。最初に言っておく。王からの伝言だ。」
「はい?」
「月末までに、俺と一緒に王城まで謁見しに来い、だってよ。」
「なんで!」
「分からん!ただ、向こうさんはケフィでお前が無双した事を全部知ってやがった。アズマが大慌てで観察班を準備して、王宮に実況報告したのか・・・もしくはお前に
人狼殲滅の命を出してから、王宮がずっと遠視で現場を監視してたか、そのどっちか
だろうな。予想以上に圧倒的な殲滅劇を見ちまったもんだから、本人と雇用主に
褒賞を出してやろうじゃないか・・・ってとこだろ。」
「はぁ?」
「はぁ・・・。」
ヒロとサイモンが同時にソファーから少しズリ落ちた。
「あぁー、めんどくせぇー・・・。」
「行ったとこじゃんかぁー・・・。」
-あぁ、そうか。同じ系統だったか・・・この2人。
カエラが溜め息をついた。
「じゃ、今日は経連支部にエレナを迎えに行かないとだから、そろそろ行くねー。」
「おう。謁見の日時が決まれば連絡する。たぶん今週末だ。」
「へい・・・。」
総指令室からヒロの姿が消えた瞬間、経連ディオン支部本舎の正面玄関前の植木
の裏に忽然とその姿を現した。
本舎内に入って行くと、すぐに受付のイサラから声をかけられた。
「あらヒロ君、久しぶりね!今日はエレナさんのお迎えかな?」
「うん。用事でディオンに来たから一緒に帰ろかなーって思って。今日は忙しい?」
「そうでもないわよ。そろそろエレナ主任も降りて来る頃じゃないかしら。」
-ん?今、主任って言った?
「そっか。じゃ、待ってんねー。」
受付の横の高そうな待合ソファーにボフンッと体を沈める。
「あ、そうだ。イサラさん、ホロの爺っちゃんが今度納品したいって言ってたよ。」
「え!?納品っていつっ!?」
「週末に駐屯騎士団のサイモンさんと王都に行くらしいから、その前後じゃないか
なぁー。」
「ヒロ君、納品量とか分かる!?」
「前回の王都納品分よりは少ないかも。でも、獣族2万体くらい仕留めたって言って
たような・・・。」
「え、2ま・・・ちょっ、大変っ!!支部長に連絡を入れなきゃ!!」
イサラが慌てて緊急報告用の連絡用紙を取り出して、筆を走らせる。
そうこうしている間にエレナが数人を引き連れて階段を降りて来た。
「では、鑑定結果は査定部に回しておいて下さい。あとライトさん、来週の鑑定予約
分の確認と準備だけお願いしておきますね。」
「了解です!」
「分かりました!」
エレナの指示を受けた2人が、敬礼をする勢いで返事をする。
人類初の「奇跡の存在」と噂される最上級の鑑定の祝福を持つエレナは、研修生
でありながらディオン経連支部査定局の筆頭主任に任命されており、もはや局の中
で欠かす事の出来ない中心人物となっていた。
部下達に見送られる中、颯爽と歩いて来るエレナの姿は、少女でありながら往年
の幹部たる風格を漂わせてさえいる。
「あ、エレナ主任、ヒロ君がお待ちですよ!」
イサラが受付から声をかけた。
「え?はい!」
エレナがヒロに気付いて駆け寄って来た。
「どうしたの、ヒロ。」
「俺も今日はこっちに用事があったからさ。晩御飯の食材買って帰ろ。」
「あ、うん。でもその前にカイトの部屋に寄りたいんだけど、いい?」
「お、いいじゃん!いこいこ!!」
「今日は色々あって、お昼休みにカイトのとこ行けなかったのよ。あの子、ほんと
部屋を片付けるって事を知らないから。定期的に見回らないとね。」
「まあー、カイトは面倒臭がりだからなぁー。・・・てか、カイトも仕事終わって部屋
に戻って来てるといいんだけど。ちょい待って。見てみる。」
ヒロが探知をかける。
「お、ちょうど帰って来てるとこだった!今、寮の正面玄関口を通過中!」
「そ、そうなんだ。」
エレナが少し嬉しそうに俯いた。
「あの・・・エレナ主任。」
イサラがエレナに近づき小声で呼び止める。
「今週末なんですが、特別出勤になると思います。ホロ様が大量に納品をされたい
との事で・・・」
エレナが完全に感情が消えた目でヒロを見つめた。
「おぉ!あがれあがれ!よく来たなーっ!」
カイトが2人の突然の訪問に驚きつつ、嬉しそうに笑顔を見せる。
「あー、やっぱり部屋汚してる!ちゃんと片付けなさいって、いつも言ってるで
しょ!・・・ほんとにもう!」
部屋に入ったエレナが、いそいそと脱ぎ散らかしたカイトの服を拾い上げ始め
た。
「ご、ごめん。でもエレナ、毎回ありがとな!掃除とか洗濯とかすっげー助かって
ます!」
「まあ・・・それくらいはするけど。」
照れているのか、エレナはカイトの方を見ることなく衣類を手早く洗濯用の籠に
集めて回った。
ヒロとカイトも手伝って、部屋があっという間に片付いていく。
「私、お茶を淹れてくるね。カイトはその机の上を拭いておいて。ヒロはそろそろ
窓閉めて。」
「へい。」
「了解!あ、騎士団でもらったお菓子とか棚の上に置いてるから!」
「はーい。」
綺麗になった部屋でエレナが淹れてくれた茶を皆で飲む。
「はああ・・・うめえ。」
カイトが一息ついてから話し出した。
「で、エレナはどうよ?仕事はもう慣れた?」
「んー。鑑定作業と事務処理は慣れたけど、管理業務とか監督作業はやる事が多くて
大変って感じかな。・・・でもすごく楽しいよ。やりがいはすっごくある。・・・天職かも
しれない。」
「カイト、エレナって責任者を任されてんだぜ。さっき迎えに行った時、「主任」っ
て呼ばれててさ、なんか周りの大人達に指示とか出してたし。俺、びっくりしたも
ん。」
「すっげーな!!」
「そ、そんな事ないわよ。最上級の鑑定能力が評価されただけ。全部ヒロのおかげ
よ。」
「俺もほんとヒロには感謝してるんだ!ありがとうな!!」
「おう、どんどん感謝してくれー。」
「なあ聞いてくれよ。俺さ、昨日で剣術の熟練度が50超えたんだ!!」
「え?もう50!?す、すごいじゃない!」
「ヒロがくれた最上級の会得促進って祝福がマジで半端無いんだよ。やればやるほど
訓練が自分の中に染み込んでくるっていうか・・・で、気が付いたら熟練度がものすごいことになってるって感じ。」
「そんなにすごい祝福だったんだ!」
「でも、そういう意味じゃエレナだって十分凄いんだぞ。噂で聞いたんだけど、鑑定の最上級が確認されたのって過去300年間で2例のみ。しかもどちらも他種族の
最上位種の王、つまり第7類強種なんだって!」
「へ?へー・・・。そうなんだ。」
「なもんだから、鑑定は最上級まで昇華させるのに最低でも6桁以上の熟練度が
必要だって考えられてるんだって。」
「はい?6桁!?」
「果てしねーだろ?」
「私、昨日自分を鑑定したら熟練度は5だったんだけど・・・。」
「普通はそうなんだよ。そもそも俺達人間族が最上級の祝福を持ってる事自体が奇跡
で、ほんとマジですっげー事なんだから!」
「・・・そ、そうよね。」
「おぅ、どんどん感謝していいぞー。」
「あざまっす!」
「ありがとっ!」
「うむうむー。」
「とりあえず俺は剣技を鍛えないとだー。剣技とか剣術の祝福って、中級になると
単騎でも戦線維持が可能になるらしいんだよ。だから今、中級に昇華する熟練度
150を目指せって、騎士団が特別修練課程ってのを組んでくれてさ。カエラ副指令
の監督下で猛特訓してるんだ!」
「ふむー。」
「無理とかしてない?」
「全然!俺もエレナと一緒。今は訓練と任務がっすっげー楽しい!」
「そっか。」
カイトの充実した笑みを見て、エレナも嬉しそうに笑った。
「でも帰ってきたら湯浴みしてすぐ寝る毎日だからさー、やっぱ部屋が汚れちゃっ
て・・・。」
「それを言い訳にしたらダメよ。祝福をくれたヒロと訓練してくれてるカエラさんに
も失礼になるでしょ。」
「そっか。そうだな。・・・分かった。ちゃんとする。」
カイトが頭を搔いた。
「頑張れよー。やっぱ掃除とか整理整頓は大事だぞ。割とマジで。」
「そういう生活力ってヒロは高いのよね。・・・意外と。」
「意外じゃねーし!ま、とりあえずそんな面倒臭がりのカイトが熟練度150超え
を目指して頑張ってるんだから・・・これやるよ。」
ヒロが魔剣ダンテを取り出してテーブルの上に置いた。
「うぉ!!な、なにこの剣!?イカツッ!!」
「「自己修復」と「反芻成長」の祝福が付いてるんだ。この組み合わせが最高でさ、簡単に言うと・・・刃毀れしたり刀身が折れても数時間放っときゃ勝手に治る。で、
そうやって治せば治す程に修復能力や修復速度が上がっていくんだ。同時に研ぎが
進んで切れ味が増すし、硬度や強度、耐久性なんかも上がっていく。だから長く使え
ば使う程に業物になるって感じだな。手入れとかが一切不要だから面倒臭がりの
カイト向けだろ?ただし、備条件がそこそこ厳しくてさ・・・「神」の加護と、「王」の称号を所有していないと使えないんだって。だからこれもやるよー。」
「ん、え?」
ヒロが問答無用で「魔神の加護」と称号「憤怒の狼王」を注入した。
「ちょ、ヒロ・・・何これ!?ヤッバ!!!まじか??」
「うむ。・・・あ、あとさー、さっき獣族を大量に殺してきたんだけど、そいつらの王
がすっげーもん持ってたんだ。これエレナにやるよ。」
エレナに「支配の精霊王の加護」を注入する。
「ちょっ、いきなりなに!?・・・加護??」
エレナが目を皿のようにして黙り込んだ。
「もう分かったと思うけど、その加護には統率、指揮、聡明、慧敏、分析、鑑定、
信頼、信用、洗脳、掌握、懐柔、寵愛の12の祝福の下級効果があるんだ。経連で
上司になるんだったら絶対に必要でしょ。・・・それで、これ。」
「支配の聖霊王の指輪」を注入で取り出してエレナの前に置く。
「エレナは鑑定で見たら分かると思うけど、これが今注入した加護と対になってる
「支配の精霊王の指輪」。この指輪の唯一の装備条件は、さっきあげた「支配の精霊
王の加護」の保有なんだ。指輪には加護と同じ12種類の祝福の下級効果が付与さ
れてて、両方揃うと相乗作用が発動する仕掛け。つまり、効果が全て上級、一部は
最上級に跳ね上がる。指輪の着け外しで効果を調節出来るんだよ。・・・マジで超凄く
ね?」
エレナは目を皿のようにしたまま指輪をガン見した。
「で、気付いた?効果の中に「鑑定」があんだろ。」
「あ・・・ほんとだっ!自分が持ってる祝福と被るとどうなるの?」
「指輪を着けてから自分を鑑定してみ?」
「あ、うん。」
エレナが指輪を着けて自分自身を鑑定した瞬間、脳内にいつもの文字が走った。
名前 エレナ
熟練度 5
生命力 43465938
祝福 算術:下級
鑑定:臨界抽出中
加護 支配の精霊王 闇の大精霊ヴォ―ド 不死女帝アデリア
守護精霊 闇の大精霊ヴォ―ド
召喚眷属 不死女帝アデリア
装備 木綿の上着 白麻の衣 白麻の腰紐 綿の下着 皮の靴
カルアの花の髪留め 支配の精霊王の指輪
状態 良好 興奮
「えっ?」
-・・・臨界抽出中って何!?
「ん?何が見えたんだ?」
「な・・・内緒!詳しくは教えません!女の子の秘密だから!」
「そ、そっか。」
頭を掻くカイトを見てヒロが苦笑する。
-臨界・・・そうだ、鑑定の祝福を鑑定してみたら何か分かるかも・・・。
一分後、唖然としたエレナがヒロを見つめた。
「これで支部どころか国だって回せるだろ。頑張れ主任さん。」
「な・・・何これ!?本当にす・・・凄いんだけど!!こんなに私達に渡していいの!?」
「ほんとだよ!ヒロは大丈夫なのかよ?」
「俺が称号とか加護とか装備を持ってても意味無いから。どの効果も祝福でとっくに
限界突破してて、面倒な事にならないように心身調律とか調律調整って祝福とかで
抑え込んでるくらいだし。」
「そ、そっか。ならいいんだが・・・。本当にありがとうな、ヒロ。」
「絶対・・・絶対大事にする。」
「うむ。」
「俺、魔神の加護と王の称号ですっげーことになってんだけど・・・今。」
「わ、私も・・・。」
自然とカイトとエレナの視線が合い、照れ臭そうに笑い合う。
「うーむ・・・今なら俺、カエラさん超えれるんじゃねーかな。いや、マジで。」
「カエラさんって前に保護院に来た副指令さんよね?」
「そそ!あの人、保護院でヒロから称号もらってから、強さがますますバケモン
じみてきてさ。もうカエラさんが人類最強なんじゃねーか?って思う。」
「あ、言ってなかったけど、カエラさんは今、カイト以上にヤバいことになってん
ぞ。あの人、明日から本物のバケモンになるからな。絶対に反抗すんなよ。」
「ぇ?」
「何かやったわね?」
「え?・・・いや、やって・・・ないかも。・・・多分やってない。」
「ヒロ、お前嘘下手過ぎだっつーの。」
「ほんとにもう・・・」
壮大な夕焼けから夜空へ移り変わる空の下、カイトの部屋は楽しそうな笑い声に
溢れていた。
その夜-
「・・・ハッ!」
タツミが寝床から飛び起きた。
-今の夢は・・・何だったんだ。
鼓動が強く早く胸を打っていた。
-予知夢っぽかったが・・・
ヒロとネルが寝ている部屋の扉を見つめる。
-いや・・・さすがにありえないか。・・・うん、ありえない。寝直そう。
タツミは再びベッドに寝転がった。
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