コール
しとえ
コール
返事をしてはいけないよ、
あの向こうに連れ去られてしまうから。
ばかばかしい迷信だと思った。
精霊が連れ去ってしまう。そんなことは子供のおとぎ話だ、親が子供を危険から遠ざけるための。だが危険とは一体何なのだ……
窓を開けて寝てはいけない、夜中に声を出してはいけない、声を出して返事が帰ってきたからと言ってまた返事をしてはいけない。
子供の頃祖母にそう言われた。
連れ去られてしまうらしい。何にかと聞いたが結局はよくわからない。
でこぼこ道を走る。
携帯の受信音が鳴った。
俺は鞄から取り出そうと手を伸ばす。
誰からかかってきたかを確認しないで電話に出た。
ひどくノイズが入っていて 音声が聞き取れない。
「もしもし、もしもし……」
相手が何を言っているのか聞き取れないままそう繰り返す。
俺は携帯を切った。
一体誰からだったのだろう?
まあいい後で確認すれば……
久々に田舎にやってきたのだ。
子供の頃、祖父母の家に遊びに来て以来だろうか。
俺の住む家の郊外とは違って、めったに人に会うこともない。そもそも こんな田舎にやってきたのは祖父母が亡くなって、その土地の売却のためだった。
荒れ放題になった時はもう二束三文にしかならないだろうが、それでも自分の目で確認しておく必要はあった。
家は 取り壊さなくてはならない。
家を取り壊して土地を売ればプラマイゼロだろう。
人が手入れをしなくなった森というのは嫌な気配がする。
荒れ果てた土地を見た時 そう感じた。
もはや人間の手を離れ来放題、魑魅魍魎のすみかと化しているのだ。明日にはここを離れるわけだから。
夜中にまた携帯が鳴る。
……何なんだ 一体誰なんだ。
出てもやはり誰だか声がわからない。ひどいノイズだ。
こんな田舎だからだろうか。
翌朝また電話。
一体誰からなんだ…
そこで奇妙なことに気がつく。
田舎の家には電気がない。
充電できていないのに電話だけがなる。
出てはいけない、頭の中で警告音が鳴り響く。
出てはいけない、急いでこの田舎から立ち去らねば……
そう思って車を走らせるが一体どこを通ればここから出られるのだ。
ナビが表示されない。
道を走らせているはずなのにまた村の中に戻ってきてしまう。
一体どうなってるんだ?
早くここを出ねば……
また電話の着信音が鳴る。
出てはいけない!
早くここから出て行かなくては
着信音が鳴り続ける。
出てはいけない………
出てはいけない……
出てはいけない…
出ては……………
「変ね。お父さんに電話するのにいくら電話しても繋がらないの」
「おばあちゃんの田舎に行くって言ってなかった?」
「……うん、でもそこはもうダムの底なの……」
コール しとえ @sitoe
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