第13話:SNSって無限大

「千秋くんの母親ってまだ国内にいるっすかね」

「さぁ、どうだろう。あの人の行動力は国を飛び出してもおかしくないからな」


 平日の夜。パソコンで溢れた飛鳥の部屋で4つのモニタが光を放っている。


「SNSって偉大っすよね。大半は玉石混交、掃き溜めに鶴、ほとんどが無価値、無価値通り越して誤謬ごびゅうの害のあるコンテンツですがぁ」

「ヘイトスピーチかな?」

「でも、掃き溜めに眠る宝石はかなり光輝いてるっす。だからやめられないっすよ」


 飛鳥はパチパチとキーボードを叩きモニタをこちらに向けてくる。

 これは5年前の投稿か。内容はシンプルでどこかのパーティー会場の写真とともに「Celebration」の一言が添えられていた。


「これともう1つ」


 続いて違うモニタに表示されたSNSの投稿。これは7年前か。3人の女性が写った写真。顔を出している投稿者を挟むように顔がスタンプで隠れている2人の女性がいる。添えられたコメントは日本国旗、イギリス国旗、オーストラリア国旗の絵文字と「BFF」の一言。


「この2つの投稿から何かわかったのか?」

「1つ目投稿の写真に赤いドレスの女性の背中が写ってるっす。スリットの入ってるやつ」

「あぁ、小さ写っているこれか」

「そうっす。それと下半身が見切れて見えないっすけど2つ目の投稿の左の女性のドレスが同じモノだってわかったっす」

「どうやって」


 どうしてわかったんだ。そう思ってたら、飛鳥がスマホをこちらに投げてきた。表示されているのはSNSのZの「画像の物当てクイズbot」と「世界の場所当てbot」という名前のアカウント。


「この2つは私が運営しているアカウントなんすけど、ここに画像を投げたら特定できたっす」

「なんて他力な解決方法」

「女子高生は自由時間が限られてますからねー」


 すごい現代的な特定方法だが、これは便利だ。聞いた話によると、他にも色々な特定アカウントを運営しているようだが、今は触れないでおこう。


「この画像は母とどういう関係があるんだ?」

「そうっすね。話すと長いんで、順番に行きますね。まず、千秋くんから聞いた話から察するに、おそらくお父さんを殺したのは計画的な犯行だったと思ったんす。だから海外に逃げるならその時にはもう逃げる手筈が済んでいたと思うんすよ」

「まぁそうだな」

「で、警察の追跡はお父さんの殺人後に強盗に入ったとされる個人経営のドレスショップまででした」

「ふむ」

「でもこの強盗はブラフの可能性が高いと思ったっす」


 どう言うことだ。俺の母は強盗はしていないと言うことか?


「これはその個人経営店のSNSアカウントなんすけど、千秋くんのお母さんが強盗に入った直後に移転し、名前を変えてさらにセキュリティの強化って言って大規模なリフォームをしてるっす。この店って、開業する時と移転、リフォームする時のお金の流れが不自然なんすよ。どこからか援助を受けてるようにしか見えないっす。当時、販売実績もそこまで伸びてないので、どうやって資金を捻出しているのかわからないっす」

「なんか読めてきたぞ」

「そこでロマンス詐欺をして莫大な金を得た千秋くんのお母さんの出番っす。お金と引き換えに強盗されたを嘘をつくことで、お母さんの居場所の特定を遅らせてると考えれば色々納得するっす」

「なるほど」


 用意周到の母ならやりかねないな。


「それで、最初の写真のドレスがこの店のだったのか?」

「そうっす! そしてどうやらこの写真の女性は海外でもいきなりセレブに近づいた日本人で時期的に千秋くんのお母さんが逃亡してからいきなり現れたっすね」

「なら、名前とかも簡単に調べられそうだけど?」

「名前は調べられてるっす。エリカ・シノサワ。日本で有数のジュエリーショップの一人娘で、京都大学の学生で、フィリピン大学ディリマン校に語学留学してるっす」


 母親と肩書きが全然違うんですがこれは一体。


「京都大学でフィリピン大学に留学したシノサワエリカさんは存在しないんす。それに京都大学の留学は最長1年っす」

「偽装してるのか」

「そうっすね。そして、シノサワは銀座のジュエリーショップの運営をしている篠沢さんなのでしょうけど、娘にエリカさんはいないし、実在する娘もこの時点では6歳っす。あと、篠沢さんは個人経営店でドレスも買ってません」

「だろうな」


 全部嘘じゃねーか。でも母は英語も話せるし、こういうことやっても不思議じゃない。


「でもまぁ、この写真に写っている人がお母さんって言うにはまだ情報が足りないっす。個人経営のドレスショップとのつながりがあるってだけなので、実際にドレスショップを突撃してみるしかなさそうっす。そしてもし関係があるようだったらこの画像の場所とこのSNSの投稿者をあたってみるのがよさそうっす」

「ありがとう。よくここまで調べてくれたね」

「へへ」


 でもそうか。逃げるために強盗と詐欺をやったのか、腑に落ちてきたぞ。

 元々違和感はあったんだ。あの人は必要なこと以外はしない合理的な人だから、「強盗」というのにはどこか引っかかっていた。


「ここからSNSやネットでも色々調べてみるっすけど。偽名でフィリピンに飛ばれてるので、追加の情報はもう少し時間がかかりそうっすけど」

「気長に待ってるよ」

「そうしてください」


 椅子に座った飛鳥が体を反らして伸びをする。天井を見上げる飛鳥と立っている俺の目がばっちり合った。

 なんとなく目が逸らせない空気が俺達の間で生まれて、我慢比べのように見つめ合う。


「なんすか」

「……」

「なんすかぁ! なんか言ってくださいよ」


 特に言いたいことはないため「髪の毛多いな」などと思いながら誤魔化すように飛鳥の頭を撫でる。いつもの飛鳥だったら何か言ってきそうなものだが、今は何も言わず黙って撫でられていた。


「なんか最近素直になったね」

「……愛情表現は素直に享受することにしたっす」

「まずそこからだよね。愛の感覚はわかってきた?」

「撫でられたら気持ちがいいってくらいっすね」

「今念を送ってるよ。愛してるって。伝わる?」

「……え、そんなスピリチュアルなんすか?」

「ふっ、心が満たされて恋しくなるだろう?」

「……ちょっとよくわからないっす」


 すさみきった飛鳥の心にも少し余裕が出てきたのかもしれない。

 このまま「愛情表現」という形あるもの以外にも感覚として愛をわかるようになって欲しいものだ。


「飛鳥は今やりたいものとかあるか?」

「デートしたいっす。ブックカフェ巡りとか、美術館とか遊園地とか博物館とか映画館とか水族館とか動物園とか」

「いっぱい行くか。これから土日は確実に空けとくから」

「紬ちゃんを呼んでもいいっすよ」

「あの子は勉強に力入れたいだろうから、様子見て時々誘ってみるか」


 くふふっと未来を想像して笑う彼女が可愛くてしょうがない。飛鳥こんな可愛い奴と距離を取るって相当意思が固くないとできないだろう。家族の決断も重いものだったのだろうと勝手に想像する。


「なんすか。抱きしめてきて、寂しくなったっすか」

「んー。そうかも」

「なら少しの間だけ抱きしめられてるっす」


 あぁ、俺がこいつの親だったらなぁ。



    ◇



「そろそろベッドもう1つ買おうか?」


 寝支度を整え、飛鳥への読み聞かせも終えて、ふと思ったことを口に出してみる。


「このままでいいっすよ。あったかいっす」

「夏は暑いぞー」

「心があったかいんす」

「え?」


 ──それ、愛じゃね?


「俺がいないと夜寂しいか?」

「2人でいる方がいいっすね」

「その心の温かさ、他で感じることないか?」

「んー、ないっすねぇ……はっ! もしや、これが愛っすか!」

「そうかもな」

「これが愛なら嬉しいっすね。あったかくて、きゅっとして、離し難いっす」


 もうそれ、愛ですよ。離し難いってのも恋しい感情ですよ。

 なんだ。わかってるじゃないか。安心した。やっぱり教えてもらわなくても本能で残ってるんだ。


 でも、寝る時寂しいってかなり幼い頃に感じる恋しさだよな。俺も幼稚園児の時とか寂しくて親の布団に潜り込んだりしたぞ。

 なんなら、夜に読み聞かせしてるんだからいよいよ幼稚園児に見えてきた。


「飛鳥は、幼稚園児なんだね」

「……え、今いい話する流れだったっすよね」

「天才児だ」

「おぉ? 悪い気はしないっすね」

「何があっても守ってやるからな」

「ずっと腕の中にいたいっす」


 俺達はお互いの寂しさを埋め合うようにゆっくり意識を沈めていった。


「……パパ」


 微睡の中で聞いたこの言葉だけは明日に持っていこうと決意を固めて。

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2026年1月13日 08:00
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ロマンス的なサムシング 四喜 慶 @yoshipiro

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