第11話:俺が保護者っす。いや、本当に。
この日がやってきた。飛鳥の三者面談の日が。
俺は再び飛鳥の高校の正門をくぐる。学習棟3階で待ち合わせているのだが、そこに行くまでに女子高生に何回も話しかけられて時間が奪われていく。
街中でもこんなに声かけられないぞ。女子高生の好奇心恐るべし。
「あ、千秋くん。時間ギリギリっすね」
「学校に着いたときにはまだ余裕あったんだけどね」
こいつ、なんかいつもより表情が明るいな。ツーサイドアップの銀髪がパタパタしてる。
「なんか楽しそうだな」
「千秋くんがここにいるのがおかしくてテンションが上がってるっす。千秋くんが保護者って知ったら担任の先生泡吹くんじゃないかなぁってちょっと期待してるっす」
「そうならないことを祈ってるよ」
泡吹いたら三者面談どころじゃないからね。
楽しそうにピョコピョコしてる飛鳥の後について担任の先生が待っている教室へ移動した。いざ出陣。
「先生! 保護者連れてきたっす!」
「こんにちは、いつも飛鳥がお世話になっております」
「こんにちは──ん? 保護者?」
首傾げてるなぁ。まぁ俺と飛鳥って3歳差だからぱっと見同級生と思われてもおかしくない。
「千秋くん、彼の家に住んでるので保護者っす」
「……飛鳥の忙しい親に言われて面倒見ています。黛千秋です」
「は、はぁ。担任の
渋い顔をしたおっさん先生の額に深い皺が刻まれる。納得いってないけど、信じないと話が進まないから無理矢理納得している感じだ。
飛鳥の後も他の生徒の面談があるから挨拶に時間がかけられないのだろう。
「じゃあ、早速、面談を始めさせていただきます」
「お願いします」
樋口先生が取り出したのは3枚の紙。1枚は過去の学校での成績。2枚目は模試の成績。3枚目は進路希望調査の紙。
「如月飛鳥さんはですね。勉学の方はいうことないですね。学内でもトップの成績を維持しています。授業中も真面目にノートをとっていて、先生方からの印象もいいです」
先生。ノートに書いてるのは授業の内容じゃないと思います。この前見たら未解決の殺人事件をノートにまとめて推理してました。
「模試の成績もですね。全国で飛び抜けてよくてですね、進路に困ることはないと思います」
模試の成績を見ると全国順位は2位。飛鳥に勝つ奴がいるってあまり考えたくないけど、どんな変人なんだろう。
大学の合格判定には有名な理系大学がずらりと並んでおり、どれもA判定。本当に優秀なのが見てとれる。
「問題は進路希望調査の方でして……」
「お前何やったんだ?」
「素直に書いたっす」
出された紙を見ると進路希望は第1希望から第5希望まで記入する欄があるにも関わらず、飛鳥は「理系、探偵に向いてる学部学科」と5つ書いて提出している。
「先生が、記入した大学について調べてくれるっていってたんでお任せしたっす」
「お前なぁ、先生をそんな便利コンテンツみたいに使わないであげてよ。他の子の調べ物もあるし。探偵って必須科目もないし」
「海外は資格試験があるっす」
「ここ日本な」
なぜ全国2位さんは探偵のことのなるとこんな馬鹿になるんだ。
「先生、できれば入試難易度とかを調べたかったのだけど、まさか大学から調べることになるとは思ってなかったよ」
ほら、先生泣きそうじゃん。
「飛鳥はどういうの学びたいとかあるの?」
「うーん。心理学とか使いそうっすよね」
「「ん?」」
思わず俺と樋口先生は顔を見合わせる。心理学というのは俺が通っている慶応の文学部の心理学専攻に存在する。つまり──
「飛鳥、お前文系にいくの?」
「行かないっすよ? 私リケジョなんで」
「心理学ってほとんど文系だぞ」
「えぇぇえ! なんで! 心理学とか学んだら科捜研とか科学警察研究所とかの就職目指せるのになんで文系なんすか!」
なんでその知識あって文系理系の知識はないんだよ。
「え、じゃあ、千秋くんのところあるんすか?」
「あるよ。俺専攻じゃないけど」
「えー! いいなぁ!」
「あのぅ、保護者の黛さんは今何されてる方なんですか?」
「慶応の文学部に通ってる3年生です」
樋口先生の額の皺がもう1つ追加された。大変ですね、こいつの進路担当。
ちなみに俺は哲学を専攻している。理由は自分探しがしたかったからである。高校生の時は自分のことについて悩みに悩みまくってたからなぁ。
「犯罪心理学とかもあるらしいぞ」
「おー、そういうのっすよ。そういうの」
自分で調べろよ。
スマホで検索すると、人間環境大学、関西国際大学、駿河台大学大学院とかが当てはまるらしい。
「遠いっすね」
「まぁ、通うとしたら1人暮らしだろうな」
「えー、千秋くん、愛してくれるって約束してくれたのにぃ」
「……黛さん?」
「いや、あの、先生? もちろん
先生、黙って睨まないで。インモラルな関係じゃないんで安心してください。
樋口先生の額の皺がもう1つ追加された。
「まぁ、如月は文系も得意だし、心理学のために文系行ってもいいんじゃないか?」
「まぁ、視野に入れてみるという意味では俺も賛成かな」
「……まぁ、そうっすけど。先生、一応なんすけど、心理学のある大学知りたいっす」
数多くの生徒を導いてきた進学校の先生の知識は侮れないもので、心理学を学べる大学が数多く列挙された。
「国立は私の条件に合いそうなのないっすね」
「あっても遠いか」
「私立は上智大学とか日本大学とかっすか」
「近場だとそんなもんだね。どう? 気に入りそう?」
「うーん。気に入るっすか」
「想像できるかだね。この場所に行って学びながら探偵もして。楽しく夢を追えそうか」
俺の言葉を受けて飛鳥はウンウン唸り出す。その表情は真剣そのものだ。
樋口先生も進路の話が順調に進んできて嬉しいのか額の皺が1本消えた。
「ねー、千秋くんはどう思いますか?」
「本当に俺の意見聞いていいの?」
「聞きたいっす」
樋口先生、ごめんなさい。話を振り出しに戻します。
「飛鳥は理系の大学でいいと思うよ。もちろん心理学が探偵の役に立ちそうってのもわかるし、その大学のオープンキャンパス行けばやっぱり心理学がいいっていうかもしれないけど。この前のオープンキャンパスの時は生き生きしてたし、何より理系の勉強をやっている自分の方が想像しやすいんでしょ?」
「おぉ!」
「何より、今のままでも飛鳥は他人の気持ちがわかる子だし、たくさんの事件を解決できてるでしょ。なら違う知識をつけた方が最強になると思わない?」
「そうっすよね! やっぱり、私もそう思ってたんす。嬉しいなぁ。千秋くんにそう思われてて」
ピコピコ跳ねる銀髪。ズシャァと額に刻まれる深い皺。白紙に戻った進路希望調査。早く帰りたい俺。無駄になった15分。迫る終了時間。ズシャァと額に刻まれる深い皺。
「まだ、オープンキャンパス行ってないところあるから時間ある時行こうな」
「了解っす」
飛鳥には探偵に関係なくとも好きなものを見つけて欲しいものだ。
だから樋口先生、あと2回の三者面談よろしくお願いします。
「私に合ってる大学、あるといいなぁ」
「俺も考えるから、いっぱい調べてみような。調べるの得意だろ?」
「そういえばそうっすね。私、先生に投げて自分で考えてなかったっす」
「なんでさ」
「先生の方が詳しいと思って」
「間違ってはないな」
心理学が文系だって知らないくらいだし。
ほとんど俺と飛鳥の会話で予定の20分が終了し、三者面談が終了する。
「えー、最後に何か言いたいことありますか?」
「近場で、理系で、面白そうな学部が合ったら教えて欲しいっす」
「わ、わかりました」
これ、俺も何か言った方がいいのだろうか。先生は学校の業務上のタスクがあるから胃を痛めてるんだろうけど、俺の場合、飛鳥は目標の大学が決まればもう大学受験終了のようなものだと思っているから、あまり心配してないんだよな。
「樋口先生」
「なんでしょう。黛さん」
「人生は徒然草、徒然なるままに。なるようになりますよ」
「「?」」
どうだろう。文学部哲学専攻っぽいこと言えたのではないだろうか。
飛鳥も先生も首を傾げているが。きっとこの言葉の深さに溺れているのだろう。ゆっくり浸って欲しいものだ。
◇
「人生は徒然草。徒然なるままに。いい言葉っすね」
「でしょ。気ままに、暇に任せて、力を抜いて行こうぜってね」
徒然なるままに。生きれたらいいなぁ。
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