エピローグ「未来へ続く道」

 数年後。

 ヴァレンティス王国は、アシュレイ王とフィン王配の統治の下、かつてない繁栄を迎えていた。

 医療制度は改革され、身分に関係なく誰もが治療を受けられるようになり、国民の笑顔が増えた。


 王宮の庭園を、一人の小さな男の子が走っていく。

 燃えるような赤髪と、透き通るような榛色の瞳を持つ少年だ。


「待ってよ、兄上!」


 その後ろを、栗色の髪の女の子が追いかける。

 アシュレイとフィンの間に生まれた、双子の子供たちだ。


「こらこら、転ぶよ」


 フィンが優しく声をかけると、子供たちはアシュレイの足元に飛び込んだ。


「父上! 今日は剣の稽古をしてくれるって約束だろ?」


「ああ、そうだったな。だがその前に、母上の作ったおやつを食べてからだ」


 アシュレイは子供たちを軽々と抱き上げ、フィンにウィンクをした。

 フィンはバスケットから焼き菓子を取り出し、家族に配る。

 平和で、ありふれた、しかし何よりも尊い日常。


 アシュレイは子供たちが遊ぶ姿を眺めながら、隣に座るフィンの肩を抱いた。


「あの嵐の日、君に出会えて本当によかった」


「私もです。あなたが私を見つけてくれて、愛してくれて……私の世界は変わりました」


 フィンはアシュレイの肩に頭を預けた。

 過去の痛みも、別れの辛さも、すべてはこの幸せにたどり着くための試練だったのかもしれない。

 二人の手には、しっかりと刻まれた絆と、未来への希望が握られている。


 風が吹き抜け、薬草園の香りを運んできた。

 それは、二人の愛の始まりの香りであり、これからも続いていく幸福の香りだった。

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森で助けた記憶喪失の青年は、実は敵国の王子様だった!? 身分に引き裂かれた運命の番が、王宮の陰謀を乗り越え再会するまで 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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