第12話「再会の庭」

 王への解毒治療は成功した。

 フィンの作った特効薬により、王は一命を取り留め、意識を取り戻した。

 王宮内は安堵と歓喜に包まれたが、フィンはその喧騒を抜け出し、中庭のベンチに座っていた。

 役目は終わった。

 アシュレイは国を救い、王としての地位を確固たるものにした。

 自分はもう、ここを去るべきだろう。


「……また、逃げるつもりか?」


 背後から声がした。

 振り返ると、正装を乱したままのアシュレイが立っていた。

 息を切らせている。

 きっと、走って探してくれたのだ。


「殿下……」


「アッシュだ。君の前では、ただのアッシュでいさせてくれ」


 彼はフィンの隣に座り、その手を強く握りしめた。

 森で暮らしていた時と同じ、温かくて大きな手。


「なぜ、ここへ?」


「あなたが、苦しんでいると思ったから。……それに、会いたかった」


「フィン」


 アシュレイはフィンを抱きしめた。

 王宮の庭で、人目もはばからずに。


「俺は、君を忘れたことなんて一瞬もなかった。毎日、君のことを考えていた。この国を綺麗にして、君を迎えに行くことだけを目標に生きてきたんだ」


「でも、私はオメガで、平民で……」


「そんなものは関係ない!」


 アシュレイは強い口調で遮った。


「君がいなければ、俺も父上も助からなかった。君は俺の命の恩人であり、この国の恩人だ。誰が文句を言える?」


 アシュレイはフィンの瞳を覗き込んだ。


「それに、俺の魂が言っている。君こそが、俺の運命の番だと」


 その言葉に、フィンの瞳から涙が溢れ出した。

 ずっと不安だった。

 ずっと怖かった。

 でも、今は確信できる。

 この腕の中こそが、自分の帰るべき場所なのだと。


「アッシュ……大好きです。ずっと、ずっと」


「ああ、俺もだ。愛している、フィン」


 二人の唇が重なった。

 それは森での口づけよりも深く、そして甘い、誓いの口づけだった。

 月光が二人を照らし、祝福するように風が木々を揺らした。


 ***


 数日後、アシュレイは王位継承の式典で、国民の前で高らかに宣言した。

 公爵家の陰謀のすべてと、それを阻止した一人の薬師の功績を。

 そして、その薬師こそが、自分の生涯の伴侶であると。


 身分差を懸念する声もあったが、フィンが奇病の特効薬を広め、多くの民を救った事実は、それらの声を封じ込めるのに十分だった。

 何より、二人の寄り添う姿があまりに幸せそうで、誰もがその愛を認めざるを得なかったのだ。

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