第11話「断罪と真実」

 王の寝所は、重苦しい空気に満ちていた。

 ベッドの傍らには、やつれた顔のアシュレイが座っていた。

 数ヶ月前よりも痩せ、目の下には隈ができている。

 その姿を見た瞬間、フィンの胸が張り裂けそうになった。


「失礼します。ガランド薬師長の代理で参りました」


 フィンは極力、声を震わせないように努めた。

 アシュレイがゆっくりと振り向く。

 その瞳が、フィンを捉えた瞬間、大きく見開かれた。


「……フィン?」


 幻覚を見ているのではないかという、すがるような声。


「はい、殿下。フィンです」


 フィンは毅然として答えた。

 今は感傷に浸っている場合ではない。

 フィンは王の元へ歩み寄り、脈を取り、瞳孔を確認した。


「……これは、病ではありません。毒です」


 その言葉に、室内にいた医師団や側近たちがざわめいた。


「毒だと! 馬鹿な、食事の毒見は完璧に行っている!」


「遅効性の毒です。少しずつ、体に蓄積させていくタイプの……この香りは、『トリカブト』と『忘却草』の混合毒でしょう」


 フィンは断言した。

 森で暮らしていたからこそ分かる、微かな植物の毒の香り。


「解毒剤を作れますか?」


「はい、直ちに」


 アシュレイの問いに、フィンは力強く頷いた。

 その時、扉が勢いよく開かれた。

 バルザック公爵と近衛兵たちがなだれ込んでくる。


「殿下! その怪しい薬師を捕らえなさい! 陛下に毒を盛ったのはそいつに違いありません!」


 公爵が指差し、叫ぶ。

 あからさまな濡れ衣だ。

 しかし、アシュレイは静かに立ち上がった。

 その顔には、もはや迷いも疲れもなかった。


「……白々しいぞ、バルザック公」


「な、何を……」


「貴様が裏で『忘却草』を大量に買い付けていた証拠は、すでに押さえてある」


 アシュレイが合図を送ると、ゼノン率いる騎士団が、公爵の私兵を取り押さえた状態で現れた。

 さらに、公爵の執事が縛り上げられ、連れてこられる。


「すべて、吐かせた。父上に毒を盛り、俺を暗殺しようとしたことも、すべてな」


「お、おのれ……!」


 公爵は剣を抜こうとしたが、瞬時にゼノンによって取り押さえられた。

 王宮内に潜んでいた公爵派の貴族たちも、次々と拘束されていく。

 アシュレイが水面下で進めていた調査が、ついに実を結んだのだ。


「連れて行け」


 冷徹な声と共に、公爵は引きずられていった。

 静寂が戻った部屋で、アシュレイは肩で息をした。

 長い戦いが終わった。

 そして、彼はゆっくりとフィンの方へ向き直った。


「フィン……」


 その目には、抑えきれない涙が溜まっていた。

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