エピローグ「伝説は終わらない」

 あれから、五年が経った。

 俺、相川慧は、相変わらずリーブの街でアイカワ商会の主と、アイカワギルドのマスターを続けている。

 この五年間で、街はさらに発展した。アイカワギルドは大陸一の冒険者組織となり、アイカワ商会のポーションは遠い異国とまで取引されるようになった。

 俺自身は、『錬金聖』なんてちょっと大げさな二つ名で呼ばれるようになっている。正直、あまり居心地は良くない。


「師匠! またぼーっとして! 王都からのお客さまがお待ちですよ!」

 すっかり大人びたエマに、そう言って叱られた。彼女は今やアイカワ商会のナンバーツーとして、商売のほとんどを切り盛りしてくれている。俺なんかより、よっぽど商才があるんじゃないだろうか。


「おう、慧。たまには休んだらどうだ? お前さんがいなくても、もうここは大丈夫だぜ」

 白髪がすっかり増えたゴードンさんが、豪快に笑う。彼は、ギルドの若者たちの指導役として今も元気に活躍してくれている。

 執務室の窓から外を見ると、活気あふれる街並みが広がっていた。たくさんの人々が笑い、生活している。この光景を守れたことが、俺の何よりの誇りだ。

 そういえば、ダリオはどうしているだろうか。

 彼はギルドを失った後、一介の冒険者として再出発したと聞いている。かつての仲間たちに頭を下げ、パーティーの末席に加えてもらい地道に依頼をこなしているらしい。

 一度だけ、街で偶然すれ違ったことがある。彼は俺に気づくと気まずそうに顔を伏せて、足早に去っていった。もう、彼と俺の道が交わることはないだろう。それでいい。

 俺は、穏やかで豊かな理想のスローライフを手に入れた。

 美味しいものを食べて、信頼できる仲間たちと笑い合う。時には、領主のアルフォード卿と酒を酌み交わし、街の未来について語り合う。

 これ以上、何を望むというのか。

 ……だが。

 心の奥底で、何かが疼くのを俺は自覚していた。

 それは、かつて研究者だった頃からずっと俺の中にあり続けたもの。

 未知なるものへの、尽きることのない探究心。


「……見つけちゃったんだよな、また」

 俺は誰に言うでもなく、そうつぶやいた。

 先日、ゴードンさんが討伐した新種の魔獣の素材を【神眼鑑定】した時、とんでもない隠し効果を見つけてしまったのだ。


【深淵竜の逆鱗:時空を歪めるほどの強大な魔力を持つ。古代の禁忌とされる『賢者の石』の主材料となる】

 賢者の石。

 錬金術師が追い求める、究極の至宝。


『まさか、この世界に実在したなんて……』

 その鑑定結果を見た瞬間、俺の中の探求者の血が沸騰するのを感じた。


「師匠? どうかしたんですか?」

 俺の様子に気づいたエマが、不思議そうに首を傾げる。

 俺は、悪戯っ子のような笑みを浮かべて彼女に言った。


「なあ、エマ。ちょっと、長旅に出ないか?」


「え?」


「まだ誰も見たことがない、伝説のアイテムを作る旅にだ」

 俺の言葉に、エマは一瞬きょとんとしたが、すぐに全てを察したように嬉しそうに微笑んだ。


「もう、師匠はしょうがないですね! もちろん、お供しますよ!」

 追放から始まった俺の物語は、一度ハッピーエンドを迎えた。

 だが、伝説はまだ終わらない。

 賢者の石、そして、その先に待つ未知なる発見へ。

 俺、相川慧の冒険は、これからも続いていく。この、広大で魅力的な異世界を、気の合う仲間たちと共に。

 そう、どこまでも。

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ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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