報告書2 奇妙な小魚

 他の研究チームから奇妙な報告が上がった。淡水にすむ小魚であるヨシノボリの一種を観察していたところ、虫などの普通の餌をほとんど摂取していない雌の個体が見つかったらしいのだ。他の雄の魚(ヨシノボリに限らない)が魚卵に放精する際に以近寄って、放たれた精細胞を飲み込むのが主な栄養源だという。よくそんな奇行をしている個体を発見できたものだ。地道な観察の継続に深く敬意を表す。


 そのヨシノボリを採取・飼育してみたが、餌を一切やらずとも一か月以上すいすい動いている。ただし、さすがに二か月はもたないようであった。様々な餌を与えてみたが食いつかず、魚の精子の他には「花粉」や「ミルク」を与えた時のみ明確に反応があり、それらを余さず飲み込んだ。

 私はふと思いつき、同僚の男性に「人間の精子にも反応するのか見てみたい」と言ってみた。同僚は嫌そうな顔をして、「女子が男に向かってそういうことを気軽に言うもんじゃない」と拒否し、実験に協力してくれなかった。

 だが教授に頼んでみたところ、快く承諾してくれた。教授が私の目の前でそれをヨシノボリに注いだところ、ヨシノボリ達は水槽の底から上ってきて、教授が注いだ精細胞を飲み込んだ。


 死骸を解剖してみると、体内の構造が明らかにヨシノボリとは異なる。最も特徴的なのは卵巣。まったく卵巣らしい形をしていないのである。それは生体器官というより、べっとりとしたペースト状の物体を詰め込まれたようだった。消費期限が切れて溶けたウニの卵巣なら少し似ているか。

 卵巣の位置にあったペーストを採取して顕微鏡で観察してみると、それは白血球のように遊走する細胞の塊だった。しかも細胞一つひとつが動き回っている。私は死骸を解剖したはずなのに、卵巣だけが生き残っている。こんな卵巣を持つ生物は未だかつて見たことが無い。

 消化器系も異常だ。食物を消化するための胃袋や栄養を吸収するための小腸がほとんど未発達なのである。膵臓が極めて小さく、胆嚢は存在していない。生涯に数度、何らかの生物の精細胞を摂取するだけでずっと動き回っていられるようだ。

 なんだこの生物は?摂取カロリーが消費カロリーを大きく下回っている。いったいどんな原理でエネルギーを得ているんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

労働用人造淫魔ホムンキュバス ~もし現代社会でサキュバスを量産して労働奴隷にしたらどうなるか?タイパとコスパを追求しすぎた代償~ タマリリス @Tamalilis

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画