第6話

これは、異能管理センター最高意思決定機関、『審判室』の論理的評価記録である。

​脅威対象:東雲冬弥(実験体01)の存在論的評価

​結論として、東雲冬弥は、「世界の物語の整合性を否定する、予測不能な変数」である。

​彼の異能バグ・エディターの根源的脅威は、その破壊力ではない。我々が最も危険視するのは、彼が「デリート」という最終的な論理の実行を拒否し、「最小限の改竄(エディット)」という最も非効率な手段を選び続けている点だ。

​彼は自らの力を「不完全なバグ」として忌避し、その暴力を抑え込んでいる。しかし、その結果、彼は破壊というシンプルな結末を選ばず、世界の設定に対する「代替案」を提示し続けている。これは、世界の物語を創造し、論理的な秩序を維持してきた我々の存在そのものを、根底から否定する行為である。

​事例として、彼は広島ゲンゴ(瞬間硬化)の異能を破壊せず、「発動条件:三秒間の意識集中」という非論理的な時間の概念を強制的に上書きした。これは、彼が物理的な衝突を避け、世界のルールにおける「隙間」を突く行為だ。この評価から、彼の行動原理は「世界の安定」ではなく、「他者の物語の保存」という、極めて感情的で非論理的なバグに汚染されていると断定する。

​彼は今、初期型感染者たちが集う裏社会という名の「矛盾の集合体」に潜伏している。

​反乱分子(初期型感染者)の脅威の変質

​初期型感染者は、本来、自己矛盾という内部バグを抱えるため、時間が経てば自壊する「無害なゴミデータ」でしかなかった。だが、東雲冬弥の介入により、その脅威の性質は致命的に変質した。

​東雲冬弥は、自らの力を恐れるあまり、初期型たちのバグを「デリート」せず、「制御可能で効率的な設定」へと書き換えている。これは、我々が排除対象としたデータ群を、反秩序的な論理体系として再構築していることに他ならない。

​主要な初期型感染者の脅威レベルは、以下の通り変質している。

​宇都宮ヒカリ: 存在希釈による消滅の運命から、「存在の確定」という物語を上書きされ、東雲の感情的な制御コアとして機能する。デリートの決定を難化させる情緒変数となっている。

​和歌山アヤメ: 欲望の醜い具現化と自己嫌悪のバグに対し、幻影の「色彩:透明」化という倫理的保存が施された。彼女は東雲の行動を「倫理的管理者」として肯定し、初期型コミュニティへの依存を深めている。

​札幌キョウコ: 確率の暴走による世界崩壊の重圧を、確率フィールドの「範囲制限」による局地化で止められた。彼女は東雲の論理の正確性を絶対的に信奉する狂信的戦力となっている。

​那覇セナ 他: 自己矛盾という内部バグを持ちながらも、東雲による最小限の改竄で「生存の物語」を強制され、「バグの巣窟」は孤立した矛盾ではなく、「安定した反乱勢力」として機能し始めている。

​審判室の最終決定

​我々の目的は、世界の物語の論理的な整合性の維持である。東雲冬弥の存在は、その根幹を揺るがす。

​彼の感情的で不完全な行動原理は、いずれ世界を混沌に導くだろう。彼の行動を許すことは、我々の秩序という「物語」が、非論理的な偶然に敗北することを意味する。

​故に、彼の行動原理(最小限の改竄)そのものを封じる、最も絶対的で、最も論理的な「物語の執行者」を投入する。

​執行部隊の役割は以下の通りである。

​伊達マサミ(因果連鎖): 冬弥が生み出す「非論理的な偶然」を、絶対的な論理で強制的に確定させる。

​イリーニャ・マーリン(語りの継承者): 冬弥の新しい設定を、古代の普遍的な物語(神話)のルールで上書きし、固定化する。

​ルーカス・エルナンデス(語りの炎使い): 冬弥の能力の根源である「感情の制御(リミッター)」を炎で炙り出し、暴走を強制する。

​エリオニール・グレイシャ(語りの沈黙者): 冬弥の改竄の起点となる言葉(設定ミス)」を、空間ごと沈黙させる。

​我々の物語の結末は一つ、論理による秩序の回復だ。反乱分子は、完全なデリートをもって、世界の物語から消去されなければならない。

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